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こども大綱とは、これから日本を担う子どもたちのための政府の基本方針のことである。子どもを取り巻く環境は各家庭で多様であり、一人ひとりを支えられるような仕組みづくりが求められている。この記事では、こども大綱がなぜいま注目されているのか、子ども達の状況を踏まえ解説する。
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こども大綱とは、子どもたちの健全な成長と幸福を社会全体で支えるために策定された、日本政府による基本方針である。この施策は、「こども基本法」に基づきこども家庭庁が主導となって策定されており、こども政策を総合的に推進するための指針となっている。(※1)
「こども基本法」は、日本国憲法と児童の権利条約に基づき、すべての子どもが心身ともに健やかに成長し、幸せな生活を送れる社会の実現を目指して制定された法律である。令和4年6月に成立し、令和5年4月に施行された。(※2)
日本の未来を担う子どもたちの権利を保障し、社会全体でその成長を支えるために必要な基本理念を定めたもので、こども大綱は「こども基本法」に基づいて定められた指針である。
こども大綱は、これまで個別に運用されていた子ども関連の法律を一元化し、統合的な子ども政策を実現するために策定された。「こども基本法」第九条を基に、「少子化社会対策基本法」、「子ども・若者育成支援推進法」、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」などが包括されている。(※3)
「こどもまんなか社会」とは、すべての子どもや若者が心身ともに健やかに成長し、社会の中で幸福に生活できる社会を目指す日本政府の掲げるビジョンだ。子どもたちの視点を尊重し、多様な価値観を受け入れ、健全な心身を育むことに重点を置いている。「こどもまんなか社会」という理想を具現化するための政策が、「こども基本法」やこども大綱である。(※4)
こども大綱の目的は、子どもが自立した個人として健やかに成長し、社会において幸福な生活を送るための環境を整えることである。少子化や子どもと密接に関わる社会問題を背景に、多様な家庭環境や一人ひとりの子どもの状況に応じた支援を推進することが求められている。こども大綱によって、子どもの権利保護、育成支援、教育機会の確保など、社会全体で子どもたちを支える仕組みの強化を目指している。
こども未来戦略は、こども大綱と似たテーマを扱っており、主に少子化対策や子育て支援に焦点を当てている。(※5)
一方のこども大綱は、子どもの権利や成長支援をより包括的にカバーしている点が特徴だ。
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こども大綱は、以下の6つの柱を基本方針として掲げている。
1.子どもの権利保障と人格尊重
2.子どもや若者、子育て当事者の視点を尊重
3.ライフステージに応じた切れ目ない支援
4.良好な成育環境の確保と貧困・格差の解消
5.若い世代の生活基盤の安定と多様な価値観の尊重
6.社会全体での支援と自己実現の促進
これらの方針に基づいて、すべての子どもや若者がどのような状況においても尊厳を持って生活できるよう、社会全体で支える仕組みを整えることを目指している。(※6)(※7)
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こども大綱では、子どもの幸福や成長に関する、12の数値目標が掲げられている。ここでは、その中からとくに注目すべき5つの目標を紹介し、それぞれの現状と目指すべき方向性について解説する。また、本章で紹介する目標と現状のデータは『こども大綱(本文)別紙1「「こどもまんなか社会」の実現に向けた数値目標」』より引用している。(※6)
この項目では目標を70%に設定しているが、現状はわずか15.7%に留まっている。社会全体で子どもを中心に考える文化や環境が十分に構築されていないことを示している。これを改善するには、政策の充実と並行して社会的な意識変革が求められる。
目標は70%で、現状は60.8%だ。満足度を向上させるためには、よりよい教育や家庭支援の充実が重要である。とくに、生活の安定と心の支援を図ることが重要視されている。
自己肯定感に関わるこの項目は、目標が70%で現状は60.0%だ。子ども一人ひとりの個性を尊重し、自信を持てるような社会を築くことが求められている。
目標は70%で、現状は51.5%だ。社会生活や日常生活への適応力は、学校での集団生活や家庭で育まれる。より充実した環境の構築が求められている。
目標は70%で、現状は20.3%と低い水準にある。これは、子どもたちの声を政策に反映させることが不十分であることを表している。
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こども大綱には3つの重要事項が定められている。(※6)それぞれを詳しく紹介する。
こども大綱では、子どもが成長する過程をライフステージに分け、それを横断して支える施策が示されている。具体的には、すべての子どもが権利の主体であることを社会全体で共有し、多様な遊びや体験の機会を提供することが求められている。また、子どもの貧困対策や障害児支援なども重要視されている。
ライフステージに応じた具体的な支援が、こども大綱には示されている。例えば、妊娠期から幼児期までのシームレスな医療支援、学童期・思春期における心のケア、青年期における就労支援や経済的基盤の提供が支援される。
子育てを行う保護者への支援も、こども大綱には含まれる。経済的負担の軽減や地域における子育て支援、家庭教育支援が具体的な要項だ。また共働き・共育ての推進や男性の家事・育児への参画促進も含まれる。さらにひとり親家庭への支援も拡充され、子育てをしやすい社会の実現に向けた取り組みが進められている。
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こども大綱の実現には、財源確保が最大の課題である。主な政策を実現するには、年間3兆円台半ばの予算が必要と試算されているが、厳しい財政事情の中でこれを捻出するのは難しい。(※8)
政府は医療保険などから支援金を徴収する制度を検討しているが、追加負担を抑えつつ効果的な施策を展開できるかが問われている。また男性の育児休業促進や障害のある子どもへの支援など、掲げられた目標や各家庭で異なる状況に対してどのように実効性のある形で実施するかが今後の大きな課題である。
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なぜこども大綱が定められたのか、その背景にある社会的な課題を見ていこう。
日本では年々少子化が深刻化している。2022年の出生数は77万747人で、前年から約4万人減少した。出生率(人口千対)も6.3と低迷しており、とくに若年層の出生数が減少している。この傾向は今後の社会保障制度や経済の安定に大きな影響を与える可能性が高く、政府は緊急の対策を求められている。(※9)
いじめの認知件数は増加しており、2021年度には68万1,948件が報告された。これは前年度比で約10.8%増加しており、1,000人当たりの認知件数も53.3件に上昇している。いじめの増加は子どもや若者にとって生きづらさを強め、精神的な負担が大きくなっている。こうした背景から、こども大綱では子どもたちの心理的支援やいじめ対策が重視されている。(※10)
日本では7人に1人の子どもが相対的貧困の状態にある。2019年の子どもの貧困率は13.5%と高く、OECD加盟国のなかでも低い水準だ。この貧困状態は子どもたちの教育や生活環境に悪影響を及ぼし、社会的孤立や将来の貧困の連鎖を招く。こうした課題を解決するために、こども大綱は子どもの貧困対策を優先事項として位置づけ、具体的な支援策を進めている。(※11)
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ここでは、こども大綱に盛り込まれる具体的な施策例と、それらに関連する予算規模について解説する。
子どもやその家庭の経済的負担を軽減するため、さまざまな施策が展開されている。例えば、妊娠・出産に際して10万円相当の給付が行われるほか、出産育児一時金も50万円に引き上げられている。また児童手当は高校生まで拡大され、所得制限の撤廃と第3子以降への増額(3万円)が実施されている。(※8)
すべての子どもとその家庭が必要なサポートを受けられるよう、産前・産後ケアの拡充や「こども誰でも通園制度」が導入される。この制度では、親の就労有無にかかわらず保育所に通える仕組みが整備される予定である。(※12)
夫婦ともに、キャリアを諦めることなく育児に専念できる環境づくりが進められている。今後は、両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、28日間を上限に給付率が引き上げられて手取り収入が実質的に10割となる施策が予定されている。また2歳未満の子どもを持つ親が時短勤務をする場合、新たな給付制度も検討されている。(※8)
これらの施策を実現するためには、年間3兆円以上の予算が必要とされている。政府はこの財源を確保するため、医療保険を通じて幅広い世代や企業から新たな支援金を徴収する制度を検討している。また医療や介護の歳出改革を進めることで、国民に新たな負担が生じないように配慮する方針だ。さらに子育て世帯では、受け取る給付が拠出を上回るように設計されている。この財源確保策は2024年末にかけて具体化し、来年の通常国会で法案提出を目指す動きが進む見通しである。(※8)
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子どもを取り巻く複雑な課題に対応するため、従来の縦割り行政を超えた統合的な政策を行うための枠組みがこども大綱である。少子化対策や若者への支援を包括的に進めることで、希望ある未来をこどもたちに提示することが大切だ。具体的な政策には財源の確保が必要だが、私たち一人ひとりが子どもたちが置かれている環境を理解することも、大綱の実現につながるだろう。
※1 こども大綱の推進|こども家庭庁
※2 こども基本法|こども家庭庁
※3こども基本法説明資料|内閣官房
※4政策|こども家庭庁
※5こども未来戦略とは|こども家庭庁
※6こども大綱(本文)|こども家庭庁
※7こども大綱 説明資料|こども家庭庁
※8 解説「こども大綱」って何?どう具体化するの?|NHK政治マガジン
※9令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 |厚生労働省
※10令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
※11 子どもの貧困対策|日本財団
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