Photo by Vitolda Klein on Unsplash
子どもが一人でも安心して食事をとれる場所「こども食堂」。全国に多く存在し、年々増加傾向にある。誰もが気軽にアクセスできる居場所として、さまざまな役割が期待されている取り組みだ。本記事では、こども食堂の役割や現状、事例などを紹介。こども食堂の始め方や支援方法についても解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
Photo by fikri nyzar on Unsplash
こども食堂とは、事情を抱える子どもを含め、さまざまな子どもが一人で入れる食堂のこと。食事は無料や少額で提供される。子どもへの食事の提供のみならず、重要な役割を担う地域拠点として国や自治体も期待を寄せている。
こども食堂を広げるための活動をしている「こども食堂ネットワーク」によると、「こどもが1人でも利用でき、地域の方たちが無料あるいは少額で食事を提供する場所」というのが運営者の共通認識。(※1)
しかし、こども食堂のスタイルは、実にさまざま。運営者の自主性に頼っていることもあり、運営方針にはばらつきがある。さらに、支援が必要な人を広く受け入れる性質上、多様性が重視されているのも事実。食事の提供にとどまらない取り組みを行っているこども食堂も多い。
こども食堂の始まりは、2012年に東京都大田区の八百屋さんが始めた取り組みとされている。経営者が、知り合いの学校の先生から、「給食以外はバナナ一本」という状況で過ごしている子どもの存在を聞いたことがきっかけだった。
貧困家庭の子どもや、子ども専用にするつもりはなかったが、子どもだけで入れる場所が地域に少なかったことから、一人で来てもいいというメッセージを伝えるために「こども食堂」という名前をつけた。
その後、こども食堂は全国に広まっているが、多くのこども食堂は第一号店と同じく、来店者を限定しないスタイルで運営されている。(※2)
こども食堂は、あくまで民間による自主的な取り組みであり、行政の規格は現状ない。必要な資格もなく、誰でも開くことができる。NPOが手がけているケースも存在するが、地域住民同士で仲間を募って始めることも可能だ。
こども食堂によって違いはあるものの、利用対象は、すべての子どもや家庭であることが多い。令和2年度の厚生労働省の調査によると、78.4%が参加条件をつけていない。さらに、62.7%に、高齢者が参加している。(※3)
「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の理事長である湯浅氏は、こども食堂のさまざまな事情を考慮する前提で、基本的には「誰でも行っていい」という見解を述べている。誰も行かなくなってしまうと、本当に支援を必要とする人も行きにくくなるケースがあるという。(※4)
広く開放されていることが多いとはいえ、事情により、利用者を限定しているこども食堂が存在することは頭に入れておきたい。訪れる際は、条件をきちんと確認しておこう。
Photo by Annie Spratt on Unsplash
こども食堂が担う役割は、食事の提供にとどまらない。以下では、主な役割について具体的に解説する。
まずは、食事の提供だ。食事を満足に摂るのが難しい人に、栄養バランスが取れた食事を提供することで、健康をサポートする。ふだん一人で食事を摂ることが多い人にとっては、孤食ではない特別な食事になるだろう。
こども食堂には、地域の居場所としての役割もあり、コミュニティの形成にも寄与している。子どもたちのコミュニケーションの場を創出するのはもちろん、地域住民が相互に交流することも期待できる。子育て中の親の拠り所やボランティアをしたい高齢者の活躍の場を創出することにもつながるだろう。
また、運営側は、こども食堂の活動を継続することで、地域のさまざまな人との接点ができる。こども食堂は、地域のコミュニティ形成に大いに貢献する場所なのだ。
配食や宅食時に、さまざまな相談窓口の周知を行っているこども食堂も存在する。こうすることで、何らかのサポートが必要な子どもや家庭が支援に辿りつきやすくなる。関係機関と連携を図ることで、より適切な支援につなげられる可能性がある。
虐待をはじめとする表に出てきにくい問題を未然に防いだり、早期に発見したりという役割も期待されている。(※5)
本来のこども食堂の活動にとどまらず、教育やイベント開催など、プラスαの取り組みを行う所も。食事の前後に遊びの場を提供したり、食事づくりや後片付けを通して食育の場を創出したり、ユニークな取り組みを行うこども食堂も多い。
こども食堂は年々増加傾向だ。それに伴い、課題に直面しているこども食堂も増えている。以下では、こども食堂の現状について見ていこう。
2024年8月現在、東京都におけるこども食堂は914か所にのぼる。(※6)2012年に1か所目の取り組みが始まったことを考えると、急速に増えているのが現状だ。
さらに、むすびえの調査によると、2023年度におけるこども食堂の数は、全国に9,132か所。2022年度から1,769か所増加しており、2018年度に調査を開始して以来、もっとも多いという結果だった。全国の公立中学校とほぼ同数に達しており、いかに子どもの居場所として重宝されているかがわかる。(※7)
人口比に換算すると、沖縄、鳥取、高知、滋賀、山口など、地方での広まりが強い。(※8)
こども食堂の課題はさまざまあるが、一番は、来てほしい人に参加してもらえないことが挙げられる。主とした活動目的に、生活困窮家庭の子どもへの居場所づくりを据えている運営者が多いなか、主とした対象者への支援の難しさを実感しているケースは多い。
ほかにも、運営費やスタッフの確保、資金不足、行政や学校からの理解不足、食中毒のリスクなど、課題は多岐にわたる。(※9)相談窓口がない・わからないなども問題視されがちだ。
こども食堂は、運営スタイルが規格化されていないため、運営者の特性を生かした取り組みが全国各地で行われている。以下では、具体的な事例を紹介する。
「ファミマこども食堂」は、コンビニエンスストアであるファミリーマートによって、全国で開催されているこども食堂。2019年4月から、方針に賛同する全国の店舗で開催されている。2020年3月には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、休止を余儀なくされたが、2023年5月に再開された。
ファミマの店舗のイートインスペースを活用し、食事の提供を行っている。子どもによるレジ打ちや商品陳列など、お仕事体験を行っている店舗も。参加者同士の交流の場として、コミュニケーションの活性化にも寄与している。(※10)
「VOLTERS KITCHEN」は、プロバスケットチーム「熊本ヴォルターズ」が2022年10月から運営しているこども食堂。複数の協賛企業が協力しており、子どもから高齢者まで、世代や国籍を問わず、すべての人を受け入れている。
2023-24シーズンには、9回開催。880人が利用した。また、VOLTERS KITCHENでは、今後来店する子ども1人分の食事代を無料にできる「みらいチケット」制度を導入。シーズン中にのべ341人が購入し、子どもを無料招待できている。
ホームゲーム会場でフードドライブを行ったこともある。集まった食品は、「熊本県子ども食堂ネットワーク」を通じて、県内のこども食堂へ届けられた。
これはまさに、県内屈指の人気スポーツチームならではの集客力や発信力を生かした取り組みだ。熊本ヴォルターズのファンも、そうでない人も一堂に会し、地域交流を深めている。(※11)
「みんなの食堂 羽生の杜」は、森の再生と共生社会を実現するために活動しているNPO法人「羽生の杜」が主催するこども食堂。自然豊かな森を拠点に、さまざまな人が集うコミュニティを運営するなかで、こども食堂の取り組みは2019年にスタート。当初は、子どもだけが利用の対象だったが、現在は地域住民みんなの居場所として開かれている。
野外での食事やザリガニ取りなど、森のなかならではの活動も多い。ほかにも、元教員や元予備校の講師などによる学習支援など、多様な活動が行われている。ボランティアスタッフや協力企業によるサポートや、助成金などの活用により、充実した内容での開催が実現している。(※12・13)
Photo by Syd Wachs on Unsplash
繰り返しになるが、こども食堂は自主的な活動であり、誰でも開催できる。ここからは、東京都が公開している「子供食堂スタートブック」に沿って、こども食堂を始めたいと思ったときのポイントを紹介する。(※14)
こども食堂は、複数人によって立ち上げられるケースが多い。一緒に考えられる仲間がいると心強いだろう。まずは、メンバー同士で、開催の目的を話し合いたい。居場所づくりや交流会の開催、学習支援など、どのような範囲のサポートを行うのか、共通認識を持っておくことが大切だ。
そうすることで、自ずと利用対象が決まってくる。このタイミングで、開始時期や開催頻度、開催場所(公民館、飲食店、居宅、寺院など)の検討も始めておこう。
こども食堂に関する助成金はさまざまあるが、補助の対象や内容は自治体によって異なる。開催場所の自治体に問い合わせるようにしたい。
国の支援としては、「こどもの未来応援基金」があり、毎年度実施されている。東京都では、「子供食堂推進事業」や「子供の居場所創設事業」によって、開催資金や諸経費の補助が行われている。
開催方法によっては、保健所での手続きが必要な場合がある。地域の保健所に相談しておくのが安心だ。また、必要に応じて、ボランティア保険や行事保険への加入を検討しよう。自治体や社会福祉協議会に相談できる。
こども食堂の開催周知にあたっては、チラシのポスティングや自治会を通じての広報が行われる。なかには、学校でリーフレットが配布されるケースもある。利用促進だけでなく、地域住民からの理解を得ることも重要だ。
開催の段取りが整ったら、さらに細かなことを決めていく。食事のメニューや準備方法を詰めるほか、衛生管理について把握しておくことも重要だ。子どもや保護者との接し方、必要な支援につなげる方法も押さえておこう。
Photo by Erwan Hesry on Unsplash
こども食堂を開催するハードルは高く、なかなか簡単なことではない。しかし、個人単位でできる支援も存在する。以下で具体的に紹介する。
食材や運営費の支援を必要としているこども食堂は多い。何が必要かどうかは、各こども食堂のホームページやSNSのほか、「こども食堂ネットワーク」などのサイトからも確認できる。寄付をしたい場合は、こども食堂の運営者に直接問い合わせてみてほしい。
こども食堂を運営する際には、調理スタッフだけでなく、配膳をする人や子どもたちの遊び相手など、さまざまなスタッフが必要。人手不足に悩んでいるこども食堂も多いものだ。寄付同様、まずはこども食堂に問い合わせてみよう。
大人がお金を支払って食事をし、利益が発生した場合、こども食堂の運営費に充てられる。また、寄付とはまた違う独自のシステムによって、こどもの料金を負担できるケースもある。
SNSや口コミによって情報を拡散することが、広報につながるケースもあるだろう。本当に支援が必要な人に正しく情報が伝わるように、正確な情報を発信しよう。
こども食堂が全国各地に広がりを見せ、社会のインフラ的存在になりつつある。食事の提供だけでなく、地域コミュニティの形成の役割を果たすこども食堂に救われている人も多い。
SDGsの前提には「誰一人取り残さない」があるが、さまざまな人の拠り所になるこども食堂は、まさにその理念に沿っている。持続可能な社会を実現するためにも、まずは地域のこども食堂の取り組みを知ることから始めてみてはいかがだろうか。
※1 こども食堂のつくり方講座|こども食堂ネットワーク
※2 こども食堂の過去・現在・未来 P1〜2|湯浅 誠
※3・8 居場所づくりから考える地域づくり P1|湯浅 誠
※4 子ども食堂、私は行っていいの?|NHK
※5 子供食堂|東京都福祉局
※6 都内における子供食堂の実施状況 P1|東京都福祉局
※7 【確定値】2023年度のこども食堂数は「9,132箇所」。公立中学校数とほぼ並ぶ ~2023年度こども食堂全国箇所数発表~|全国こども食堂支援センター・むすびえ
※9 子ども食堂と地域の連携状況 P1|農林水産省
※10 ファミマこども食堂|FamilyMart
※11 2024-25シーズン 子ども食堂『VOLTERS KITCHEN』|KUMAMOTO VOLTERS
※12 こどもの居場所づくり事例集 P12|こども応援ネットワーク埼玉
※13 8月前半の「みんなの食堂」|特定非営利活動法人 羽生の杜
※14 子供食堂スタートブック|東京都
ELEMINIST Recommends