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ヤングケアラーとは、日常的に大人が担うべき家事や家族の世話をしている子どものこと。お手伝いの範疇を超えた負担により、子どもとしての日常生活を犠牲にしているケースが問題視されている。ヤングケアラーの現状をふまえつつ、日本が抱える課題やヤングケアラーに必要な支援などについて探る。
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ヤングケアラーとは、家族にケアを必要とする人がいる場合に、本来は大人が行うようなケアの責任を引き受けている18歳未満の子どものことを指す。
ヤングケアラーは食事の準備や掃除、洗濯、きょうだいの世話、見守りや感情面のサポート、病気や障がいのある家族のケアなど、多岐にわたる家族のケアを行う。そのため勉強や部活・友人との時間など、本来享受できるはずの「子どもとしての時間」を犠牲にしているケースが少なくない。
日本の平均世帯人数は1953年時点で5.00人だったのに対し、2019年には2.39人まで減少している。(※1)また、共働き世帯は1980年時点で614万世帯だったのに対し、2020年には1,240万世帯に増加している。(※2)こういった家族形態の変化や高齢化率の上昇によるケアを必要とする人の増加が、ヤングケアラーの誕生に起因しているとされる。
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2022年の調査では、"世話をしている家族が「いる」"と回答したのは小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%という結果となった。中学2年生の約17人に1人、全日制の高校生の約24人に1人という数字だ。(※3・4)
家族の世話をする頻度は、ほぼ毎日と答えたのが小学6年生で52.9%、中学2年生で45.1%、全日制高校2年生で47.6%といずれも約半数にのぼる。(※1)
地方自治体を対象とした調査では、ヤングケアラーという概念自体は約77%の自治体が認知していたが、「家庭内のことで問題が表に出にくい」「ヤングケアラーという問題について認知していない家庭がある」などの理由を挙げ、実態を把握しきれていない現状を懸念する声も見られた。(※5)実際のヤングケアラーの数は把握されているよりも多い可能性が高い。
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ヤングケアラーには、さまざまな役割がある。具体的にどのような責任や負担があるのだろうか。いわゆる"お手伝い"である家事や兄弟の世話も、その範疇を超えた量や責任を背負わされると、本来子どもが享受すべき日常に支障をきたす。
障害や病気のある家族やきょうだいがいるヤングケアラーは、家族の介護を担う。肉体労働による身体的なストレスだけでなく、家族の世話によるストレスを感じてしまうため、疲弊することがある。
親に代わりきょうだいの世話や見守りもする。とくに幼いきょうだいは、少しでも目を離すと危険な状態に陥るため、家庭内では常に気を配らなければならない。
掃除や洗濯、料理などの家事全般は毎日欠かすことのできない作業だ。"お手伝い"の範疇を超えた作業量は、学業や友人関係にあてる時間を制限してしまう。
アルコールやギャンブル、薬物などの依存症や精神疾患を罹患している家族がいるヤングケアラーは、感情面で家族をサポートしなければならない。幼いヤングケアラーは、依存症や精神疾患の知識が乏しいため、何をすべきかわかからず、ストレスを抱えることがある。
貧しい家庭のヤングケアラーは、家族を養うためにアルバイトなどをしなければならない。学業と労働の両立を強いられるため、身体的な疲労が溜まりやすい。
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ヤングケアラーは、さまざまな悩みや課題を抱えている。それらはどのようなものだろうか。
ヤングケアラーは、家族のために時間を割いているため、自分の時間が取れない。趣味にいそしんだり、友人と楽しい思い出をつくったりできないため、充実感や幸福感が失われる。
ヤングケアラーは、自由に使える時間が限られるため、学校以外で勉強する時間が取れない。また遅刻や早退・欠席の頻度が増えると成績にも影響する。さらに自分の行動を限定し、自分の可能性を狭めてしまうことで、就職活動時に自分のやりたいことやいままで積み重ねてきたものをアピールできなくなる。
ヤングケアラーは、家庭内での負担が大きいためストレスが溜まりやすい。また教師や友人などとコミュニケーションを取れる時間も限られているため、周りの人間と信頼関係を築きにくい。その結果、ストレスを感じていても誰にも共有できず、孤独感を感じてしまう。
家事や介護などをしているヤングケアラーは、身体的疲労が溜まりやすい傾向がある。またストレスなどにより睡眠の質が低下すると、集中力が失われたり情緒が不安定になったりする。
ヤングケアラーは、将来に役立つ勉強や体験をする機会が少ないことで、未来への希望が持てなくなることも。また学業が疎かになり成績が思うように伸びず、自分に自信が持てなくなる。さらに、家族を世話しなければならない状態が一生続くのではないかという不安に駆られることもある。
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ヤングケアラーという言葉を聞いたことがある人は52.1%存在しているが、その内22.3%は意味を理解していない(※1)。ヤングケアラーの認知度の低さは、ヤングケアラーの存在が表面化しにくい理由のひとつである。ヤングケアラーを抱える家庭の大人が認識していないケースもある。そして家庭内の極めてプライベートな事柄のため、表にでにくいという特徴もある。
また、世話をしている家族がいると回答した人は、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%いるのにもかかわらず、自分がヤングケアラーにあてはまると回答した人は、中学2年生で1.8%、全日制高校2年生で2.3%で、世話をしている家族がいると回答した人の半分以下だった。(※1)
このように、本人にヤングケアラーとしての自覚がないことも多い。そのため、家族の世話について相談したことがないと回答した人の割合が、小学6年生は76.1%、中学2年生は67.7%、全日制高校2年生で64.2%という結果になった(※1)。
周りだけでなく本人にヤングケアラーへの認識が薄いことも、問題が表面化しにくい理由のひとつである。
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ヤングケアラーの判断基準のひとつは、家族の世話に費やす時間だ。ヤングケアラーが家族の世話に費やす平均は、平日1日あたり小学6年生は2.9時間、中学2年生で4.0時間、全日制高校2年生で3.8時間だ。
また家族の世話が原因で遅刻や早退・欠席が増えたり、孤立したりするなど、学業や友人関係に悪影響が出た場合もヤングケアラーであると判断すべきである。
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ヤングケアラーには、多面的な支援が欠かせない。一例として、ヤングケアラーの存在と状況を理解することがある。学校や地域社会でヤングケアラーに対する理解を深めることで、適切なサポートを提供できる。
また、心理的支援としてカウンセリングや相談窓口の設置も有効である。学業に遅れが出ないよう、教育機関での個別支援も欠かせない。さらに、家事や介護の負担を軽減するために、家族に対する福祉サービスやサポートの充実も求められる。
ヤングケアラー支援の具体例として、「こども家庭庁」ではヤングケアラーに関する特設サイトを設置し、全国の相談窓口の検索が可能だ。ヤングケアラーの早期発見と理解促進のため、教育関係者への啓蒙活動も行っている。「一般社団法人ヤングケアラー協会」では、ピアサポートやLINE相談窓口、オンラインコミュニティの運営も行う。そのほか、自治体では相談窓口を設置しているところも多い。
このように社会全体でヤングケアラーを支える環境を整えることが、ヤングケアラーの健全な成長と未来を支える鍵となる。
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日本においてヤングケアラーという言葉が認知されるようになったのは最近のこと。しかし、少子高齢化が進む日本において、今後ますます対応が必要な問題となっていくだろう。1人でも多くの人がヤングケアラーという言葉と意味を知り、子どもが発信する小さなSOSをキャッチできることが求められる。
ヤングケアラーである子ども自身は、その境遇が当たり前だと認識し、正しく助けを求められないことも多い。適切な支援へとつなげてくれる大人が1人でも多くいる社会が、ヤングケアラーを救うことになる。
※1 ヤングケアラーとその家族の支援|厚生労働省
※2 図表1ー1-3 共働き等世帯数の年次推移|厚生労働省
※3 ヤングケアラーのこと|こども家庭庁
※4ヤングケアラー 国がまとめた4つの支援策って?|NHK
※5 ヤングケアラーの実態に関する研究報告書|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
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