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病気や障がいを抱える兄弟姉妹を持つ「きょうだい児」。近年徐々に認知されてきているが、まだまだ理解はおよんでおらず、十分な支援が行き届いていないのが現状だ。本記事では、障がいのある本人や親ではない、きょうだい児ならではの悩みや問題を紹介。支援の実態についても解説する。
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きょうだい児とは、病気や障がいを抱える兄弟姉妹のいる子どものこと。障がいには、身体障がいや知的障がい、発達障がいなどが含まれる。
きょうだい児は、障がい者と近くで向き合う家族として、悩みや問題を抱えるケースが多い。近年、障がい者本人の支援とは別に、きょうだい児を社会全体で支えていくための仕組みづくりが急がれている。
「きょうだい」は、かつては、「兄弟」と漢字で表記されるのが一般的だった。ほかにも「兄妹」「姉妹」「姉弟」は、すべて「きょうだい」だ。昨今は、限定的な組み合わせの表現を避けるために、あえて開かれることも多い。それに伴い、きょうだい児もひらがなで表記されている。
昨今、ヤングケアラーが社会問題となっている。ヤングケアラーとは、本来大人が担う家事や家族のケアを日常的に行っている子どもを指した言葉。親の代わりに幼いきょうだいの世話をしたり、家族の介護をしたりなどが実例だ。責任や制限による、心身への過重な負担が問題視されている。
きょうだい児には、必ずしも、直接的な世話やサポートが発生するわけではない。しかし、親の役割を担っていたり、親の家事やきょうだいの介助を担っていたりする場合は、きょうだい児であり、ヤングケアラーだ。
日本のきょうだい児の実態は、把握されていないのが現状。(※1)しかし、さまざまなデータから、660万人以上と推定されることが多い。
「令和5年版障害者白書」によると、日本の障がい者の概数は、身体障がい者が436 万人、知的障がい者が109 万4千人、精神障がい者が 614 万8千人。国民の約9.2%が何かしらの障がいを抱えているとされる。障害者白書は毎年公表されているが、障がい者は増加傾向。(※2)このデータからも、きょうだい児が一定数存在することは、想像に難くない。
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きょうだい児であることを肯定的に受け止めている人がいる一方で、きょうだい児ならではの悩みを抱えている人は多い。さらに、悩みの種類は、成長とともに変わってくる。
以下では、きょうだい児が抱える悩みの一例を、「幼児期」「学齢期(小学生・中学生)」「青年期・成人期」にわけて紹介する。
幼児期は、きょうだい児であることを当たり前としてとらえる傾向にあり、本人が悩みを自覚していないケースも多い。
しかし、障がいのある子が家庭の中心になりがちで、優先度の差を感じることも。かまってもらえない寂しさや、置いてけぼり感を抱えることも多い。家族でレジャーや観光などに出かけることが少ない傾向にあり、我慢を強いられるシーンも多い。親の大変さを近くで見ていることで、無理をしていい子を演じるようになることも。
きょうだい児に関するアンケート調査によると、小学生の頃にきょうだい児であることで悩んだことがあるとの回答は53.3%、対して、悩んだことはないとの回答は43.6%だった。小学生頃になると、約半数程度がきょうだい児であることで何かしらの悩みを抱えているという結果だ。悩みとしてもっとも多かったのは、「社会の人の発言や行動への困惑」。次いで「障がいのある兄弟姉妹の行動への対処」、「障がいを理由としたいじめ・からかい」。(※3)いじめや差別に発展しやすいのは、小学生の頃だ。
この頃になると、障がいのあるきょうだいを恥ずかしく思う気持ちや、隠したいという感情も芽生えてくる。その気持ちへの罪悪感や、きょうだいへの嫉妬心……さまざまな気持ちを違和感として自覚するようになる。
中学生になると、きょうだい児であることに対して、自分なりの考えを持つ子どもが増えてくる。家族のことを知り、責任感にかられる子がいる一方で、「自分は何のために生まれたの?」「誰に相談すればいいのかわからない」などの孤独感を抱えるケースも。将来への不安が出てくるのもこの頃だ。
青年期や成人期には、自分の意思をどの程度優先していいのかに、悩むようになる。自身の行動がきょうだいや家族にどう影響をおよぼすかを考えてしまうと、自分らしい人生を送りづらい。障がいのあるきょうだいを含めた人生設計を描いてしまうのも、きょうだい児ならではの悩みといえる。
具体的な問題については、以下の見出しで、もう少し深掘りしていく。
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きょうだい児が抱える問題は、家庭環境や状況によって異なる。なかには、きょうだい児であることによる影響を感じない人もいるかもしれない。しかし、多くのきょうだい児が、さまざまな課題を抱え、葛藤とともに生きている。以下では、きょうだい児が抱えがちな問題について見ていこう。
きょうだい児の認知や、障がいを抱える人への理解が少しずつ進んでいるとはいえ、まだまだだ。家族で出かけるだけで好奇の目で見られたり、他人から心ない言葉を投げられたりといったことで傷つくきょうだい児は多い。きょうだい児というだけで、いじめの対象になるケースも。
学生生活において、きょうだいの障がいの話を友人にするかどうかの調査で、しないと回答した人の理由としては、「理解してもらえない」「かわいそうだと思われたくない」などが挙げられた。(※4)直接的な差別を受けたわけではないものの、過去の社会的障壁から、心を閉ざしてしまうこともあるだろう。
また、「きょうだいなんだからケアをすることが当然」という考え方も偏見といえる。過度な期待によるプレッシャーを抱えてしまうのもきょうだい児あるあるだ。
きょうだい児ゆえに、人間関係に影響がでる場合もある。障がいについて理解のある相手との付き合いを求め、人間関係を狭めてしまうのが一例だ。学生生活だけでなく、結婚や就職、友人関係など、影響はさまざま。相手や相手の家族の理解が得られずに、恋人関係や結婚が破談になるケースもある。
きょうだい児であることにより、進学や就職に影響があると考える人は多い。「親に負担をかけないように進学を諦めた」「安定した職業を選んだ」など、きょうだいや家族の生活と自身の人生を両立させようとするからだ。きょうだいのケアをするために、実家や施設の側での生活を選択する人も。
また、習い事ができなかったり、なかなか旅行に行けなかったりと、経験の機会の差を感じるきょうだい児も多い。
きょうだい児は、最終的に、親よりもきょうだいと長く関わることになる。誰がどのような形で関わっていくのかは、きょうだい児にとって大きな問題だ。「自分がどうにかしなければ」と抱え込む人も多く、不安感や孤独感につながる。
きょうだい児は、自分の意思できょうだい児になったわけではない。社会全体で負担を減らしていく仕組みづくりが求められる。
親もきょうだい児も、将来への不安を抱える傾向にある。心身の疲労が蓄積されると、家庭内の不和につながる。自身の不調を招くことも多い。
近年、きょうだい児と、アダルト・チルドレンとの関連が注目されている。アダルト・チルドレンは、自己否定感などから生きづらさを抱えている人のこと。機能不全の家庭で育った子どもが陥る傾向にあり、きょうだい児を取り巻く環境と重なりやすい。
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ここまで、きょうだい児が抱える悩みや問題について紹介してきたが、支援にはどのようなものがあるのだろうか。
支援はまだまだ手薄なのが現状で、公的な支援も目立たない。しかし、きょうだい児の悩みに寄り添う支援団体や政府主導の活動も出てきている。
きょうだい児同士の交流の場を提供する団体が増えてきている。具体的には、コミュニティの運営やオフラインイベントの開催、レクリエーションの実施などだ。(※5)似たような境遇のきょうだい児同士での交流は、人生における大きな支えになり得る。誰にも言えなかった悩みを打ち明けることで、苦しみから解放されるケースもあるだろう。以下に活動を行う団体を紹介する。
「きょうだい支援を広める会」は、2004年から活動を続ける支援団体。疾患や障がいのある子どものきょうだいの支援を広める目的で活動している。アメリカのきょうだい児支援プログラム「シブショップ」を広めるほか、オンライン交流会や情報発信を行っている。
今後は、超高齢化社会ならではの「シニアきょうだい支援」に関する情報発信も行う予定。生涯続く悩みに寄り添うためのプログラムを提供している。(※6)
「Sibkoto」は、きょうだい児が孤独を抱えないために立ち上げられた情報サイト。障がいのある子どもや親にスポットが当てられがちななかで、きょうだい児ならではの悩みを浮き彫りにし、きょうだい児同士の拠り所になるべくつくられた。
名称は、兄弟姉妹を意味する「Sibling(シブリング)」と、「コト(事・言葉)」をかけ合わせて考案。自身がきょうだい児である共同運営者たちの想いが込められている。(※7)
NPO法人「しぶたね」では、病気や障がいのある子どものきょうだいを「きょうだいさん」と呼び、社会へ広める活動を行っている。きょうだい児同士がオンラインでつながれる機会の提供やワークショップのほか、支援者向けの研修や講演など、活動は多岐にわたる。
4月10日の「きょうだいの日(シブリングデー)」の啓発も積極的に行っている。(※8)
北海道地域において、きょうだい支援を実施する「北海道きょうだいの会」。茶話会や学習会イベントのほか、きょうだい関連のことで悩んでいる人を対象とした相談支援も行っている。司法書士をはじめとする専門家の紹介も実施。ニーズに合わせて、さまざまな形で相談を受け付けている。(※9)
支援団体のほか、公的な支援も始まっている。厚生労働省では、2015年から「きょうだい児を含む患者・家族の相互交流事業」を実施。事業の実施主体は各自治体。任意事業のため、実施している自治体は限られている。2021年度からは、政府から専門家を派遣し、事業の立ち上げをサポートしている。(※1)
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認知が広がってきているとはいえ、まだまだ「きょうだい児」が浸透しているとはいい難い。私たちができることは、何よりも、きょうだい児について知ることだ。過去にどんな悩みを抱えてきて、いまはどんな悩みがあり、そして今後は、どんなことが課題になるのか。
支援の輪を広げるためにも、一人でも多くの人が、正しく理解することが重要。目の前に悩みを抱えているきょうだい児がいる場合は、話に耳を傾けることも忘れないようにしたい。
病気や障がいを抱える人のケアは、まだまだ家族頼みになっている。「きょうだい児は兄弟姉妹のケアをして当たり前」、意図せずそう考えてしまってはいないだろうか?
SDGsの目標3は、「すべての人に健康と福祉を」。地球上のすべての人の健康や幸せな生活を願っての目標だ。すべての人にはもちろん、障がいのある人も、きょうだい児も含まれる。本来、誰もが自分らしい人生を送っていいはずだ。そのためには、私たちや社会が変わる必要がある。いま一度、誰もが生きやすい未来のことを考えてみよう。
※1・10 きょうだい児(病児・障がい児の兄弟姉妹)に支援を|公明党
※2 令和4年度障害者施策の概況(令和5年版障害者白書)|内閣府
※3 障害のある人のきょうだいへの調査報告書 P32|財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金
※4 きょうだいの文化的・生活実態調査(日本)の報告 P6|東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 READ 東京大学大学院経済学研究科 READ 河村真千子
※5 きょうだい児支援取組事例集|令和3年 厚生労働科学研究費補助金 小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の発展に資する研究
※6 概要および目的|きょうだい支援を広める会
※7 Sibkotoについて|Sibkoto
※8 活動内容|NPO法人 しぶたね
※9北海道きょうだいの会 P62|きょうだい支援団体取組事例集(令和元年度)
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