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社会的養護とは、支援を必要とする子どもや家庭を社会的に支える仕組みのこと。虐待や経済的な理由によって、保護者のもとで暮らせない子どもたちがいる。そんな子どもを公的に養育することを指している。本記事では、社会的養護の理念や形態、現状や課題などをわかりやすく解説する。
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社会的養護とは、何らかの理由で保護者のもとで暮らせない子どもを社会的に養育すること。こども家庭庁によると、「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」と定義されている。(※1)
社会的養護の基本理念は、「こどもの最善の利益のために」と「社会全体でこどもを育む」の2つ。さらに、原理として以下の6つが定められている。(※2)
・家庭養育と個別化
・発達の保障と自立支援
・回復をめざした支援
・家族との連携・協働
・継続的支援と連携アプローチ
・ライフサイクルを見通した支援
社会的養護のあり方は、時代とともに移り変わっている。一人ひとりの子どもを細やかに支援し育むために、ハード・ソフトの両方を変革することが求められており、よりよい基盤づくりを行うべく、支援体制の強化や見直しが行われてきた。
社会的養護の対象となるのは、死別や放棄などにより保護者のいない児童や、保護者に監護させるのが適当ではない児童。後者の理由は、虐待や生活困窮、保護者の病気や障がいなど、さまざまだ。
また、子どもたちだけでなく、困難を抱える家庭も、社会的養護の対象とされる。
社会的養護の役割は、養育の場としての機能や子どもの保護・回復。ほかにも、貧困や虐待の世代間連鎖を防ぐためにも大きな役割を果たす。誰も取り残さない社会を実現するためにも欠かせない仕組みである。
社会的養護は、かつては、親がいない、あるいは、親が育てられない子どものための施策だった。しかし、現在では、子どもにとどまらず、対象が広がっている。心の傷に苦しむ子ども、障がいのある子ども、困難を抱える母子など、より広い対象への支援を担っている。(※3)
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社会的養護の形態は主に、「施設養護」と「家庭養護」の2つに分類される。以下では、それぞれの形態について、どのようなものなのかを紹介する。
施設養護は、何らかの施設のなかで子どもを養育する方法。一部、施設でありながら、家庭的な養育環境をつくり出す小規模化の取り組みを「家庭的養護」として分けることもある。いずれにせよ、家庭的な雰囲気で養育することが推進されている。
児童養護施設は、保護者のいない子どもや保護者と暮らせない子どもを養育する施設。定員が多い傾向にあり、施設によって数十人から100人程度まで幅広い。生活環境の提供や家庭環境の調整、生活指導、学習指導など、さまざまな機能を持つ。
乳児院は、保護者の養育が困難な乳幼児を対象とした施設。基本的な養育機能のほか、被虐待児や病児など、専門的な養育機能を持っている。地域における育児相談や、子育て支援の一環でのショートステイを受け入れている施設も存在する。
母子生活支援施設は、DV被害や貧困、何らかの理由で離婚ができないなど、困難を抱える母子の生活を支援するための施設。
以前は、生活に困窮する母子に住居を提供するための施設だったことから「母子寮」と呼ばれていたが、1997年に児童福祉法が改正されたことにより、役割が広がった。
ほかにも、さまざまな事情に対応するための児童福祉施設が存在する。「情緒障害児短期治療施設」では、心理的・精神的問題を抱える子どもを対象に、心理治療を行う。「児童自立支援施設」では、生活指導が必要な子どもに指導を行い、自立を支援する。
「自立援助ホーム」は、義務教育を終え、児童養護施設を退所した人に対して、引き続き支援を行う事業である。
グループホームとは、児童養護施設や乳児院を小規模化し、一軒家や地域施設で養育を行う形態を指す。定員を6人に絞ることで、きめ細やかなケアが可能となる。施設養護のなかでも、家庭的な養育環境を提供する家庭的養護に分類される。
家庭養護は、養育が必要な子どもを家庭に迎え入れて育てる方法。子どもは、親子のような深い関係のある、家庭と同様の環境に身を置くことができる。
里親制度は、保護者の代わりに里親として家庭内で子どもを養育する制度。期限は18歳になるまで、もしくは、実親の元へ復帰できるまで。一時的に迎え入れて、養育するのが特徴だ。
ファミリーホームでは、養育経験や実績のある大人が複数人の子どもを家庭に迎え入れて養育する。子どもの数は、5〜6人。子ども同士も交流しながら、基本的な生活習慣を身につけていく。
特別養子縁組とは、子どもを引き取る制度。引き取った子どもは、一時的に迎え入れる形ではなく、戸籍上の実の子どもとなる。
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社会的養護にはさまざまな形態があるが、現状はどう機能しているのだろうか。以下では、日本の現状や世界との比較を解説する。
2023年現在、里親委託や施設入所などにより、養育の対象になっている子どもは約42,000人。要保護児童数は、2000年以降4万人台で推移しており、ほぼ横ばいの状態が続いている。(※4)
社会的養護が必要な状況に至る事情はさまざまだが、主要なものに保護者からの虐待がある。2020年度の児童虐待における相談対応件数は207,660件。そのうち、一時保護に至ったのは27,310件、施設入所などの対応に至ったのは4,421件だった。
全国の児童相談所における虐待に関する相談件数は、近年急激に増加している。児童虐待防止法が2000年に施行されたが、1999年度に比べて2020年度には約18倍に増加。(※4)支援を強化するために、社会的養護の質・量、両方を整えることが求められている。
社会的養護の形態別に見てみると、里親やファミリーホームへの委託児童数は年々増加傾向にある。一方で、児童養護施設、乳児院に入所している児童数は減少傾向。さらには、児童養護施設、乳児院の施設数は増加傾向だ。(※4)これは、子どもをより家庭に近い環境で養育する「家庭養育優先原則」に基づいた結果といえる。児童養護施設の小規模化や分散化が推進されているのだ。(※5)
しかし、2020年度時点で、要保護児童数の半数以上にあたる23,008人が児童養護施設に入所しているのが現状。里親に委託されているのは6,080人にとどまる。「家庭養育優先原則」に基づいた取り組みが推進されているとはいえ、家庭養護の割合は著しく低い。(※6)
日本では里親の割合が低い現状があるが、世界では、里親による委託が社会的養護の主流になっている国もある。2018年前後の状況をまとめたデータによると、要保護児童に占める里親委託児童の割合は、オーストラリアが92.3%、カナダが85.9%、アメリカが81.6%。対する日本は、19.7%である。(※7)日本における里親委託数は増えつつあるが、世界的に見ると、浸透しきれていない現状がある。
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社会的養護における課題は多く、形態によっても課題は異なる。ここでは、社会的養護における共通の課題として一般的に挙げられるものを紹介する。
子どもによって養育環境の差が大きい点が課題とされている。施設養護か家庭養護かだけでなく、施設の運営の質や施設職員の専門性の有無などによっても養育環境に差が出てしまう。
社会的養護の形態や施設のあり方に関しては、これまでにたびたび見直しが行われてきた。今後は、地域施設が連携し、ネットワーク化していくことが求められている。児童養護施設からより家庭的な環境へ、精神的に不安定になっている子を専門施設へ、など、場合によっては場所を変えて養育することも考えられる。地域施設が連携をとることで、施設退所後のサポートも充実するだろう。
社会的養護を推進するにあたり、子どもの基本的人権を護ることが重視されている。児童福祉施設においては「児童福祉施設は、入所している者の人権に十分配慮するとともに、一人一人の人格を尊重して、その運営を行わなければならない」旨が規定されている。(※8)
虐待の防止やプライバシーへの配慮はもちろんのこと、いかに子どもの気持ちに寄り添い、意見を汲み上げるかなどの取り組みをより一層推進する必要がある。
これまでも、それぞれの課題に対応する形で、ガイドラインの策定や指針の作成、基準の見直しなどが行われてきた。
現在、課題を解決し、中長期的に社会的養護を充実させていくために掲げられているのが「ハード・ソフトの変革」だ。より家庭的な雰囲気での養育の推進や専門的ケアの充実、施設機能の分散化などが行われている。
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社会的養護下で暮らしている子どもは、その後社会に出るにあたって自立を求められる。しかし、頼れる存在がいないことで、困難を強いられるケースも多い。以下では、そのような若者への支援を紹介する。
2024年4月から、改正児童福祉法に基づき、都道府県知事と各指定都市において、社会的養護下にいる子どもたちの退所後の支援を義務付けることとなった。この動きの一環として創設された事業が「社会的養護自立支援拠点事業」「休日夜間緊急支援事業」「社会的養護自立支援実態把握事業」の3つ。支援格差を是正し、確実に支援を届けるために始まった、新しい取り組みだ。(※9)
「社会的養護自立支援拠点事業」では、これまで公的支援につながらなかった若者の孤立もカバーする。支援につなげるための居場所を開設し、滞在先の提供や相談・助言などを通して、自立に結びつける。
「休日夜間緊急支援事業」は、緊急で一時避難が必要な人を受け入れ、居場所を提供する。必要な支援に確実につなげることが目的だ。
「社会的養護自立支援実態把握事業」では、困難を抱えながらも支援につながらなかった子どもや若者に自立支援が行き届くよう、環境整備を推進するために調査を実施する。
国や自治体主導の取り組みが進められているとはいえ、支援を必要とする子どもや若者すべてに支援が行き届くのは難しい。そのための制度や施設は整いきれていないのが現状だ。
NPOや民間団体には、公的支援がカバーしきれない部分を補う役割がある。居場所の提供や相談支援、就労支援や契約・手続き同行など、問題解決に導くためのより細やかなサポートを行っている団体が多い。(※10)
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最後に、社会的養護下の子どもに対して、個人でできる支援方法を紹介する。
寄付や必要な物資の支援は、支援団体が活動を継続するために重要だ。子どもたちを支えるために活動している主な団体は以下。公式ホームページから寄付できるため、チェックしてみてほしい。
・認定NPO法人ブリッジフォースマイル
親を頼れない子どもたちの巣立ちを支援。社会的養護下で暮らす子どもたちが18歳で巣立ち、社会に出た後の困難をサポートしている。
・NPO法人日本こども支援協会
里親が養育に専念できる環境を整える活動を行っている。里親がつながり、支え合うネットワークをつくり、里親を支援している。社会的養護の啓発活動も行っている。
・認定NPO法人フローレンス
「こどもたちのために、日本を変える」を掲げて活動。子ども、子育て領域における支援活動を広げながら、社会課題の解決を行っている。
支援団体や施設が募集するボランティアに参加することで、社会的養護下の子どもを直接支援できる。子どもたちのサポートやイベント運営など、活動内容は多岐にわたる。
困難を抱える子どもたちを相手にするため、事前研修の受講や条件が伴う場合もある。興味本位ではなく、責任をもって参加することが求められる。
養育制度を知り、学ぶことも支援につながる。もしかすると、知ったうえで、里親に応募したり、ファミリーホームを開設したりという選択肢が出てくるかもしれない。
子どもを引き取るのには責任が伴う。里親になるのには厳しい条件があり、ファミリーホームの開設には経験や実績が必要だ。よく調べたうえで、児童相談所や支援団体に相談を。
社会的養護とは、支援を必要とする子どもを社会全体で育むことだ。決して簡単なことではなく、政府による指針は、時代とともにアップデートされている。
社会的養護は大事だが、社会的養護の充実がゴールではない。さまざまな課題をクリアにし、すべての子どもが生きやすい社会を目指すことが本質ではないだろうか。そのためには、私たちにできることも必ずあるはずだ。まずは制度を知るところから始めたい。
※1 社会的養護|こども家庭庁
※2 社会的養育の推進に向けて P2|こども家庭庁支援局家庭福祉課
※3 社会的養護の課題と将来像(概要)P1|児童養護施設等の社会的養護の課題に関する検討委員会・社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会とりまとめ概要
※4・6 社会的養育の推進に向けて P5〜9|こども家庭庁支援局家庭福祉課
※5 社会的養育の推進に向けて P13|厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課
※7令和2年度先駆的ケア策定・検証調査事業 乳幼児の里親委託推進等に関する調査研究報告書 P111|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
※8 社会的養護の課題と将来像(概要)P20|児童養護施設等の社会的養護の課題に関する検討委員会・社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会とりまとめ概要
※9 社会的養護自立支援拠点事業等の実施について|こども家庭庁支援局長
※10 社会的養護自立支援拠点事業がはじまりました|NPO法人ブリッジフォースマイル
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