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自動車の排気ガスは人体や環境に影響を及ぼすことから、世界各国で問題視されており、さまざまな規制が敷かれている。この排気ガスはどのような成分がふくまれており、どのくらいの排出量があるのだろうか。また、各国の排気ガスの規制や対策も解説する。
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自動車はガソリンや軽油を燃料としている。この燃料がシリンダー内で空気と混ざり、混合ガスとなる。混合ガスに点火すると爆発が起こり、それが自動車を走らせるエネルギーとなる。混合ガスが燃えることで、二酸化炭素や炭化水素、窒素酸化物、一酸化炭素などがふくまれた排気ガスが発生する。
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そもそも排気ガスには、さまざまな成分が含まれている。それぞれの成分がどのように発生するのか、環境や人体にどのような影響を及ぼすのかを解説する。
一酸化炭素は、炭素が不完全燃焼を起こした際に排出される有害物質である。温室効果ガスであるメタンの寿命を伸ばす性質があるのが特徴だ。人体では血液中のヘモグロビンと結合して、酸素を運搬する機能を阻害して中毒症状を起こし、最悪の場合には死にいたる。ガソリン・LPG車で乗用車の場合、規制値は1.15となっている。(※1)
炭化水素は、燃料を構成する炭素と水素が不完全燃焼により結合したものである。排出された炭化水素は大気中で紫外線と反応を起こし、光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントを生成する。光化学オキシダントは人間の目やのどの粘膜を刺激し、呼吸障害を引き起こす。植物は立ち枯れが起こる。
窒素酸化物は、物が高い温度で燃えた際に、空気中の窒素と酸素が結びついて発生する一酸化窒素や二酸化窒素などを指す。一酸化窒素は温室効果が高く、二酸化窒素はオゾン層を破壊する。また、光化学スモッグや酸性雨の原因となる。ガソリン・LPG車で乗用車の場合、規制値は0.05となっている。(※1)
二酸化炭素は、内燃機関で燃料と酸素の混合気が完全燃焼した際に生成される。二酸化炭素は温室効果ガスのひとつで、地球の平均気温を上げる性質がある。大気中濃度が3~4%を超えるとめまいや頭痛を起こし、7%を超えると二酸化炭素中毒となって、最悪の場合死にいたる。
粒子状物質は、マイクロメートル単位の大きさの微粒子で内燃機関で発生する。粒子状物質には、ディーゼル排気微粒子(DPM、またはDEP)や、粒径10ミクロン以下の浮遊粒子状物質(SPM)がある。ディーゼル車が排出する黒煙の原因物質であり、発がん性が疑われている。ガソリン・LPG車の乗用車の場合、粒子状物質の排出規制値は0.005 g/kmとなっている。(※1)
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自動車の排気ガスが問題となっている理由を説明する。
自動車の排気ガスには、一酸化炭素や窒素酸化物、二酸化炭素、粒子状物質といった化学物質(汚染物質)が含まれている。これらが大気中に放出されると、人間や生物に害のある物質に変化し、大気汚染を引き起こす原因となる。
自動車の排気ガスには二酸化炭素がふくまれており、大量に排出される。この二酸化炭素は温室効果ガスのひとつで、地球の平均気温を上げる性質があるとされる。そのため、自動車の排気ガスが地球温暖化の要因となる。
気象庁によると、2023年の世界の平均気温の偏差は、1991〜2020年の30年平均値から+0.54℃となっており、1891年の統計開始以降もっとも高い値となっている。世界の平均気温の上昇は、大気中の温室効果ガスの増加が原因のひとつとされている。(※2)
自動車の排気ガスに含まれている汚染物質は、大気中で硝酸や硫酸といった強い酸性をもった物質に変わる。これらの物質が大気中で雨に溶け込むと酸性雨となる。また汚染物質が大気中で紫外線と反応を起こすと、光化学オキシダントを生成する。光化学オキシダントは、光化学スモッグの原因となる。
自動車の排気ガスはさまざまな健康被害をもたらす。なかでもディーゼルエンジンの排出ガスは、世界保健機構(WHO)傘下の国際がん研究機構により、発がん性がある物質に分類されている(※3)
自動車の排気ガスが、酸性雨や光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントを生成することにより、植物や生態系にも影響がある。酸性雨は河川や湖沼、土壌を酸性化させ、生態系のバランスを崩してしまう。光化学オキシダントは植物の立ち枯れを起こし、光化学スモッグは植物の成長を抑制するなどの被害をもたらす。
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自動車による二酸化炭素排出量はどのくらいなのか。世界全体と日本国内の排出量を紹介する。
世界全体の輸送部門における二酸化炭素排出量は、年間約80億トンとなっている。なかでも乗用車・小型商用車(バン)の排出量は、運輸部門のCO2排出量の約48%を占め、排出量がもっとも多い。(※4)
日本国内における2022年度の輸送部門の二酸化炭素排出量は、1億9180万トン。日本の二酸化炭素排出量は全体で10億3,700万トンであり、輸送部門のみで18.5%を占める。
そのうち自家用車は8609万トン、営業用貨物車は4142万トン、自家用貨物車は3150万トン。これら自動車全体の排出量は運輸部門の85.8%を占め、航空や海運、鉄道に比べ圧倒的に多い。(※5)
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自動車による排気ガスを減らすため、各国が行っている規制や対策を紹介する。
アメリカの環境保護庁(EPA)は、2023年4月に乗用車と小型トラックを含むライトビークル(LDV)と中型車(MDV)の2027~2032年モデルを対象とした、温室効果ガスと大気汚染物質の排出基準に関する規制案「2027年モデル以降のLDVとMDVに対する複数の汚染物質排出基準」を発表した。(※6)
これは2027年から自動車の排気ガスの基準を段階的に規制し、2032年には乗用車と小型商用車の二酸化炭素排出量を、2026年と比べて56%削減するとする案だ。これにより、電気自動車の普及を加速させるねらいがあると見られる。
EUには、排気ガスなどに対する「Euro 7(ユーロ7)」という次期規制案がある。この規制では、排気ガスの基準値が厳しくなるのに加え、排気ガス以外のタイヤやブレーキが摩耗した際に排出する粉じんも規制の対象となる。また、2035年に欧州域内で二酸化炭素を排出する乗用車と小型商用車の販売が禁止される。
中国では2023年7月から自動車排出ガス基準の「国6B」が実施されている。この基準は、実際の走行を想定した排ガス試験などで、窒素酸化物や粒子状物質、揮発性有機化合物の排出量が規制に適合していない車両の生産・輸入・販売を禁止するものだ。
また、電気自動車の普及拡大の政策として、購入時の補助金支給と購入税免除などを行っていた。EV充電インフラの拡充や、2027年までにすべての新車販売に占める電気自動車などの新エネルギー車の比率を45%に高める目標を掲げている。
インドには「BS6(Bharat Stage 6)」という排ガス規制がある。これは、窒素酸化物排出量をガソリン車で60mg/km以下、ディーゼル車で80mg/km以下に抑える規制だ。インドの大気汚染は深刻な問題となっており、さらに規制が厳しくなることが予想される。
日本における排気ガス排出対策を紹介しよう。
「グリーン成長戦略」とは、政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことを受けて策定された、経済と環境の好循環を生み出す成長戦略である。産業政策・エネルギー政策の両面から成長が期待される14の重要分野のなかに自動車があり、2035年までに、乗用車は新車販売で電動車100%の実現を目指す。商用車の小型車は、新車販売で2030年までに電動車20~30%、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指すというもの。また、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置するといった目標も設定している。(※7)
自動車NOx・PM法とは、一定の自動車に関して、より窒素酸化物や粒子状物質の排出量を抑制することを目的に定められた法律だ。具体的には車種規制を行い、トラック・バスなど(ディーゼル車、ガソリン車、LPG車)と、ディーゼル乗用車に関して特別の窒素酸化物排出基準および粒子状物質排出基準に適合する、排出量がより少ない車を使う規制である。この車種規制は、大気汚染の厳しい対策地域に適用される。(※8)
オフロード法とは、公道を走行しないバックホウ、フォークリフト、ブルドーザー等のオフロード車の排出ガスを規制する法律である。施行された平成18年4月1日以降につくられた新型車は、排出ガス基準を満たす基準適合表示を付したものでなければ、国内で使用できない。(※9)
CEV補助金は、電気自動車や燃料電池車などのクリーンエネルギー車を購入すると、国から補助金がもらえる制度だ。EV車の普及を促進し、自動車の排出ガス排出量を低減することを目的としている。(※10)
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自動車の排気ガスは、私たち個人でも減らすことができる。その対策を紹介する。
近くへ移動する場合には、自動車を使わず、徒歩や自転車を活用しよう。一人ひとりが自動車を使う機会を減らせば、排気ガスを減らすことにつながる。
移動距離が長い場合には、公共交通機関を利用しよう。鉄道やバスなどを利用することで、二酸化炭素排出量が減らせ、それが地球温暖化防止につながる。
新しい自動車を購入する際に、電気自動車を選択するのもひとつの方法だ。電気自動車の原動力は、鉛、ニッケル水素、リチウムイオンなどの蓄電池にたくわえた電気で、これによりモーターを動かす。ガソリンを使わないため排気ガスも出ず、エンジンが搭載されていないため走行時の音が静かなのもメリットだ。
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自動車の排気ガスは環境や人体への影響があり、各国で規制がかかっている。私たちにできることは、排気ガスを排出する自動車をなるべく使わず、燃料消費量やCO2排出量を減らす「エコドライブ」を心がけることだ。こうした一人ひとりの心がけが、大気汚染や地球温暖化防止につながる。今日からさっそく、できることからはじめよう。
※1 排出ガス|日本自動車工業会
※2 世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2023年)|気象庁
※3 IARC:ディーゼルエンジン排ガスの発がん性|中央労働災害防止協会
※4 2022年 運輸部門における世界の二酸化炭素(CO₂)排出量の内訳|statista
※5 運輸部門における二酸化炭素排出量|国土交通省
※6米環境保護庁が自動車排ガスの新規制案を発表、2032年までに2026年比56%の削減を要求|JETRO
自動車・蓄電池産業|経済産業省
※7 自動車NOx・PM法の車種規制について|環境省
※8 特定特殊自動車排出ガス規制法|環境省
※9 クリーンエネルギー自動車導入促進補助金|経済産業省
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