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環境にやさしい社会の実現のために、排気ガスを出すガソリン車を規制し電気自動車(EV)に移行する動きが世界で広がっている。電気自動車の二酸化炭素排出量はガソリン車に比べて少ないのだろうか。電気自動車の環境負荷の実情や課題点も踏まえて解説する。
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電気自動車とは、バッテリーに蓄えられた電気でモーターを駆動させる自動車だ。走行中に二酸化炭素を排出しないため、環境にやさしい自動車として注目されている。また電気自動車は、電気を動力に変換する効率が9割を超えており、エネルギー効率が高いのも特徴のひとつである(※1)。さらに減速時に電気を回生することも可能で、エネルギーを無駄なく利用する。
一般的に日本では電気自動車のことを「EV」と呼ぶが、「Electric Vehicle」の略であり、電気を動力にして動く車両全般を指す言葉だ。バッテリーの電気だけを使ってモーターで走る車は「BEV(Battery Electric Vehicle)」となる。
電気自動車(BEV)は完全に電気で駆動する車両で、バッテリーに蓄えられた電気でモーターを動かす。一方、ハイブリッド車(HV)は、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせて動作する。走行時には電気とガソリン両方の動力源を使うが、低速や停止時には電気モーターのみで駆動する。
プラグインハイブリッド車(PHEV)は、HVに充電機能を追加したもので、外部電源からバッテリーを充電できる。また、電気モードとハイブリッドモードの両方で走行する。短距離なら電気のみで走行し、長距離ではエンジンが作動する。
燃料電池車(FCV)は水素を燃料として使用し、燃料電池で発電してモーターを駆動させる。水素と酸素の化学反応で電気を生成し、排出されるのは水のみのため、環境にやさしいとされている。
このように、「EV」のなかでも「BEV」、「HV」、「PHEV」、「FCV」はそれぞれ異なるエネルギー源と駆動方式を持ち、使用目的やインフラの整備状況に応じて選択される。
世界の新車販売台数に占める電気自動車全体の割合は、2023年時点で18%。ヨーロッパ諸国で普及が進んでおり、ノルウェーは93%、アイスランドは71%だ(※2)。
また中国では、安価なモデルや超急速充電対応車、長距離走行可能な電気自動車などの開発が進められている。
日本における2023年度の新車販売台数に占める電気自動車の割合は3.6%と、他国と比較すると低い傾向にある。しかし2021年に1.2%であったものが2022年には2.8%と増加。今後も販売台数の向上が期待されている。(※2)
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日本で電気自動車の導入が進んでいるが、その背景には何があるのだろうか。
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを宣言した(※3)。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から植林や森林管理による吸収量を差し引き、実質的にゼロにすることを意味する。吸収量には限界があるため、カーボンニュートラルの達成には排出量の削減が欠かせない。
日本における二酸化炭素排出量のうち、5分の1に相当する17.7%は運輸部門からだ。そのうち鉄道や飛行機、船を除く自動車全体が約88%を占める。自動車による二酸化炭素排出への対策を講じることは、カーボンニュートラルの達成に大きく貢献する。(※4)。
電気自動車の購入時には、国と自治体からの補助金が利用できる。2024年時点で国からの補助金は上限85万円。さらに自治体によって補助金が加算される。東京都では45万円の補助金制度がある。なお、購入する電気自動車の条件に応じて補助金額は異なるため、購入時には販売店などで詳細を確認するといいだろう。
さらに、排出ガス性能や燃費性能が高いエコカーに対して自動車税や自動車重量税が軽減される「エコカー減税」もある。このような補助金や減税などの優遇も、電気自動車の導入を促進している。
電気自動車用の充電スポットの普及も進んでいる。販売開始当初は見かけることも少なかったが、いまでは自動車販売店やサービスエリア、大型スーパー、コンビニなどに設置された充電スタンドを目にする機会も増えた。2021年2月時点で全国に30,000基の充電器が設置されており、そのうち7,950基が急速充電器、21,700基が普通充電器だ。日本政府は、2030年までに急速充電器を4倍の3万基に増やす予定だ。
また、充電スポットを簡単に見つけられるアプリなどの開発も進んでいる。電気自動車を利用するための環境が整備されていることも、電気自動車の導入を促進している。
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電気自動車のメリットには、どんなものがあるのだろうか。
電気自動車は、走行中に二酸化炭素や有害な排気ガスを排出しないため、大気汚染を減少させ、地球温暖化の防止に貢献する。また電気を動力源とするため、再生可能エネルギーの利用も可能だ。エネルギー効率が高く、減速時に電力を回生する機能もあり、全体として環境負荷が少ない。
電気自動車はモーターで駆動するため、走行中の騒音が非常に少ない。そのため都市部や住宅街での騒音公害が軽減され、より快適な生活環境が提供される。また静かな走行は、運転者にとってもリラックスした運転体験を提供する。
電気自動車は電気で走行するため、走行距離が長いほどガソリン車に比べてエネルギーコストが低くなる可能性がある。
災害時や停電時にバッテリーから電力を取り出し、家庭用電源として使用することができる。資源エネルギー庁も推奨しており、電動車から電気を取り出す方法を紹介している。2019年に千葉県で起きた台風被害による停電時には、自動車メーカーが電動車を派遣し、携帯電話の充電やエアコン、冷蔵庫、洗濯機、夜間照明、地下水汲み上げポンプなどへの電力供給をおこなった。(※5)
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電気自動車は二酸化炭素を排出しないという点で環境負荷が低いとされているが、本当に二酸化炭素を排出しないのか。走行時以外での環境負荷が論じられている点にも着目してみていこう。
電気自動車は、バッテリーに蓄えた電気をモーターで直接駆動するため、走行時に二酸化炭素を排出しない。エネルギーの供給源が再生可能エネルギーや低炭素電源であれば、走行中に排出されるのは電気のみであり、燃焼に伴う二酸化炭素やその他の有害物質が発生しない。
電気自動車は、充電ポイントからの電気の供給により駆動する。充電スポットから供給される電気が化石燃料を使用して発電されたものである場合、二酸化炭素が発生していることになる。なお、再生可能エネルギー(風力や太陽光など)で発電された電力を使用するならば、二酸化炭素排出はほぼゼロである。
電気自動車に使われるバッテリーには、リチウムやニッケル、コバルトといったレアメタル(希少鉱物)や銅が使われている。それらの材料の採掘や精製、加工の過程における水質や土壌汚染、労働問題が指摘されている。また、蓄電池の負極に用いられているグラファイト(黒鉛)という素材は、高温の炉で長時間加熱されて生産されるため、それに伴う二酸化炭素の排出量も問題視されているのだ。
さらに電気自動車に使われるリチウムイオン電池の寿命は一般的に8年ほどとされているが、日々の充電方法や走行によって劣化が早くなる場合もある。リチウムイオン電池は環境に負荷を与える材料が含まれているため、破棄の段階でも慎重な対応が求められる。
走行時の二酸化炭素排出がほぼゼロに抑えられることは、電気自動車の最大の魅力であるが、製造時の二酸化炭素排出の問題と破棄時の環境負荷を考慮しなければならない。
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2020年にヨーロッパにおいてガソリン車と電気自動車の温室効果ガス排出量を比較したデータによると、走行時のみでは電気自動車はガソリン車に比べて約40分の1(電気自動車はほぼ排出ゼロ)、燃料精製を加えると約4分の1の排出量となった。(※6)
さらに、そこに製造や破棄などのLCA(製品のライフサイクル全体)を含めると、乗用車1台当たりの温室効果ガス排出量はガソリン車で60.3tCO2e、電気自動車で29.8tCO2eと約2分の1になる。排出量の差が縮小するのだ。なお、これは車両寿命の225,000kmを走行したと仮定しての数値。(※6)
また日本の自動車メーカー「トヨタ」が燃料電池車「MIRAI」の温室効果ガスの排出について算出したデータでは、製造時はガソリン車よりも環境負荷が高いが、約2万キロ走行した時点でガソリン車よりも優位になると示した。ドイツの自動車メーカー「フォルクスワーゲン」も同様の試算を出している。(※6)
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カーボンニュートラルの達成に向けて貢献が期待される電気自動車だが、まだ課題は残されている。より"エコ"なものにするためには、何をすべきなのだろうか。
製造時と充電時のエネルギーを再生可能エネルギーにすることで、電気自動車の環境負荷を大幅に低減できる。再生可能エネルギーを利用すると、二酸化炭素の排出がほとんどない。そのため、ライフサイクル全体での環境負荷が大幅に削減される。
製造工程の技術改良により二酸化炭素を減らすことは、電気自動車の環境負荷を低減させる。一例として、リチウムイオン電池の製造においては、省エネルギー化や再生可能エネルギーを導入したり、材料をリサイクルしたりすることで、エネルギー消費と排出量を削減できる。また、生産プロセス全体での効率化や廃棄物の削減も重要である。
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電気自動車は、ガソリン車に比べてCO2排出が少ないとされており、大気汚染や温暖化の抑止に寄与する。今後の技術開発によって、そのメリットはますます増えていくだろう。補助金や減税によって自動車の導入が促進されているいまだからこそ、地球の環境を守るために電気自動車の家庭での導入を検討してみてはいかがだろうか。
※1 電気自動車とは?|日産自動車
※2 Global EV Data Explorer|IEA
※3 カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省
※4 自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?|資源エネルギー庁
※5 災害時には電動車が命綱に!?xEVの非常用電源としての活用法|資源エネルギー庁
※6自動車による排出量のバウンダリに係る論点について|環境省
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