動きだしたファッション産業【ELEMINIST3周年企画】

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ELEMINISTがローンチしたのは2020年5月。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大をきっかけに、私たちの生活は大きく変化し、本当に大切なものに気づいたり見つめ直したりと価値観も変わっていった。そんな社会の変化とともに、地球を取り巻く環境も大きく動きだしている。ファッション産業ではどんな変化があったのだろうか。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2023.05.25
SOCIETY
学び

エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

アパレルメーカーに社会的責任が求められるように

ラナ・プラザ崩落事故

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ラナ・プラザ崩壊事故では、縫製工場で働く1100人以上もの労働者の命が奪われた。ずさんな安全管理が原因で、安全管理低賃金かつ劣悪な労働環境だったことも明るみになった。

ファッション産業が変革を求められる契機はこれまでに何度もあった。1997年の「ナイキ」の児童労働発覚や2013年のバングラディッシュ・ダッカ近郊で起きたラナ・プラザ崩壊事故などだ。18年には、「バーバリー」が42億円相当の売れ残り品を焼却処分したとBBCが報じ、そのたびにファッション産業は、大バッシングに合い、社会的責任を果たすよう求められてきた。同年3月には、国連がファッション産業は環境負荷が高く、環境に対する緊急事態に陥っていると指摘し軌道修正を求めた。多方面から改善を求められ、サプライチェーン(供給網)の改善をはじめとした取り組みが着実に広がっている。

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欧米を中心に進む法規制

とくにここ数年でファッション産業は急速に変化している。大きな要因には欧米を中心に進む法規制がある。たとえばEUの規制はあらゆる産業におよぶが、ファッション産業に目を向けると、さまざまな法案が登場し、成立・施行に向けて進んでいることがわかる。その内容は廃棄物規制やリサイクルに対応したもの、製品の耐久性やエネルギー使用、原材料調達から製造工程までの環境フットプリントなどの情報を報告させることを義務付けるもの、「環境にやさしい」「生分解性」などの混乱を招く言葉を規制し、グリーンウォッシングを防ぐもの、児童労働や奴隷労働などを規制するものなど、多岐にわたる。EUでビジネスする企業は、これらの新規制を避けては通れない。対応できなければ、ビジネスを縮小せざるを得なくなるだろう。

こうしたことが要因で、適量生産などの在庫ロスに向けた取り組みや、製造工程での環境負荷の低減、エシカルな調達やものづくり、トレーサビリティの担保、リサイクル素材の活用、循環型社会実現に向けた仕組みづくり、新素材開発などが急ピッチで進んでいる。なかでもこの3年で大きく進展したのは素材だ。長年の開発を経た新素材が実際に製品になり、私たち生活者も購入できるようになった。また、リサイクル素材の活用も拡大した。ここでは身近に感じられる素材の変化に注目してみたい。

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想像を超える新素材やリサイクル素材の登場

動物由来素材を使用しないマッシュルームレザー

“マッシュルームレザー”や“人工タンパク質素材”などの新素材をニュースで目にした人も多いのではないだろうか。他方、店頭ではペットボトルや漁網などの廃棄物を再生したリサイクル素材を活用した製品が増えている。

“マッシュルームレザー”は、キノコの菌糸を培養して生産するレザー風の素材だ。いまもっとも注目を集める新素材の一つで多くのスタートアップ企業が開発を進める。理由は、動物の権利を保護、飼料用牧草地の不用、温室効果ガス排出量の大幅削減、製造期間の大幅短縮など。「ステラ マッカートニー」や「バレンシアガ」といったラグジュアリーブランドや「土屋鞄製作所」などが、新興企業と協働して製品化に成功、少量ながら販売を始めている。

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人工タンパク質素材

“人工タンパク質素材”は、山形県発バイオベンチャーのスパイバーなどが開発。石油由来の素材やカシミアなどの環境負荷が高い繊維に替わる素材として世界中から注目を集める。少量生産は始まっていたが、スパイバーはタイに建設した工場で先駆けて量産化のフェーズに入った。早くからスパイバーに出資していたゴールドウインは2023-24年秋冬物から、「ザ・ノースフェイス」「ザ・ノースフェイス パープルレーベル」「ゴールドウイン」「ウールリッチ」「ナナミカ」の5ブランドで、人工タンパク質素材“ブリュード・プロテイン”を使ったアイテムの販売を開始する。今後“人工タンパク質素材”を用いた製品を店頭で目にする機会は増えるだろう。

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リサイクルポリエステル、リサイクルナイロン

リサイクル素材の主流は廃棄ペットボトルを再生したリサイクルポリエステルだ。環境保全の先進企業として知られるパタゴニアが1990年代からリサイクルポリエステルを用いた製品を販売しているが、他のブランドに広く浸透することはなかった。しかし、ここ数年で有力ブランドは、ヴァージン素材からリサイクル素材への切り替えを急ピッチで進め、多くのブランドが追随する。そして、ペットボトルはさらに踏み込んだ活用法が開発されている。

アディダスは、海洋環境保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャン(以下、パーレイ)とパートナーシップを結び、ペットボトルをはじめとした海洋プラスチックごみをアップサイクルした“パーレイ・オーシャン・プラスチック”を用いた製品を販売している。15年にパーレイからのアプローチがきっかけで協働が始まり、海洋ごみを活用した靴の生産数は年々増え、22年には約2700万足にまで拡大。現在は、「ディオール」などのブランドも“パーレイ・オーシャン・プラスチック”を用いたアイテムを販売する。

使い終わった漁網からナイロンを再生する技術を開発した企業も注目を集める。「プラダ」や「グッチ」、「スピード」や「H&M」などさまざまなブランドにリサイクルナイロン“エコニール”を提供するイタリアのアクアフィルや、パタゴニアが出資するアメリカのブレオなどだ。いずれも見た目や手触りは従来の繊維となんら変わらない。むしろ言及されて初めてそれが新素材やリサイクル素材だと気づく。こうした環境への負荷を低減する新素材やリサイクル技術を開発する企業には多くの投資が集まり、素材革命が起こりつつある。

回収ボックスから始まるリユース・再資源化

ReMUJI

無印良品の「ReMUJI」。無印良品で扱う衣料品全般(下着を除く)・タオル・シーツ・カバー類を回収し、着用可能な衣料品は染め直しなどを経て再販している。

新素材開発や製造工程の見直しとともに重視されているのが、リユースや再資源化だ。世界中でリセール市場が拡大しており、ラグジュアリーからファストまで、さまざまなファッションブランドがリセール企業と組んで自社ブランドの再販を始めている。「H&M」は自社ブランド以外の再販も行う。

再販・再資源化に向けては、日本でも回収ボックスを設置する店舗が増えている。回収された衣服の多くは、状態を確認してクリーニング後に再販されたり、リペアや染め直しを経て再販される。染め直して再販する「無印良品」の「ReMUJI」などがそうだ。

回収した素材を新たな素材へ−ケミカルリサイクル

再販が難しいほどダメージのある衣服は、ポリエステルやナイロン、あるいはコットンなどのセルロース繊維の単一素材であれば、ケミカルリサイクル( 使用済みの資源を化学反応により組成変換した後にリサイクルすること)することで繊維の品質を損なうことなく新たな糸に再生することができるようになった。ちなみに古くからある技術、反毛によりウールやコットンは、繊維の強度は弱まるが綿状にして糸に再生することができる。

とくにこの数年で大きく進んだのはコットンだ。パタゴニアは22年、フィンランドのスタートアップ企業インフィニテッドファイバーと組んでコットン製品の循環を実現した。コットンのケミカルリサイクルは多くの企業が技術開発に取り組んではいたが、ポリエステルやナイロンに比べて難易度が高く実用化までは至っていなかったという背景がある。インフィニテッドファイバーは、コットンなどのセルロース系繊維の使用済み繊維を原料に再生した新しいリサイクル繊維“インフィナ”を開発していた。「ザラ」を擁するインディテックスやパタゴニアから投資を受けて急進し、このほど両ブランドから製品が発売するに至った。パタゴニアは“インフィナ”を用いたTシャツの販売を始めると同時に、ダメージが大きいコットン古着を回収して一定量を集め、インフィニテッドファイバーに送るスキームを確立。コットン古着を“インフィナ”の原料として活用することで循環するTシャツを提案した。ちなみに“インフィナ”は柔らかく丈夫で肌触りはコットンの風合いを持つ。

他方、再資源化に向けては大きな課題がある。衣類の多くは複数の素材でつくられているが、混合素材の再資源化は非常に難しい。繊維の分離技術の開発は世界中で行われてはいるが、実用化まではもう少し時間がかかるだろう。そもそも、分離してケミカルリサイクルするとなると、使用エネルギー量が増えるだろうし、国内にリサイクルプラントがない場合は、プラントがある場所への輸送が必要になる。輸送のコストや環境フットプリントなど、再資源化への課題は山積みだ。

そして、循環型デザイン実現のためには産業構造自体を変える必要もある。回収から再資源化までのコストや新技術開発のコストを売価に吸収する必要も出てくるかもしれない。消費者は値上げを受け止める必要があるし、企業は値上げの理由をしっかりと伝える必要が出てくるだろう。

私たちの行動が大きな変化を生む

ユナイテッドリペアセンター

Photo by Barbara Kieboom

2022年パタゴニアはオランダ・アムステルダムにリペアセンターを新設した。自社製品だけではなく、賛同し加盟する他ブランドの製品の修理も受け付けている。修理しながら一着の服を長く着るということが定着し始めている。

ファッション産業は法規制が厳しくなることで今後もその変化は速まるだろう。しかし、産業の変化を待つだけでは間に合わない。私たち生活者一人ひとりの“捨てない”ための行動が地球への負担を大幅に削減できる。

そのためには、まずは買う量を減らすこと。購入が必要なときは新品だけではなく、ユーズドアイテムも検討することが大切だ。購入するときは、その製品のリペアやメンテナンスに関する情報やサービスが提供されているか、または何らかのサポートが受けられるかを確認したい。理想は、自身でも修理可能なデザインになっているもの。修理のしやすいデザインに関しては、有力ブランドが取り組み始めている。

洗濯方法もポイントになる。環境負荷の低い方法で製品を洗濯できるか、洗濯表示を確認したい。洗濯を繰り返しても変形したり脱色したりすることがないかどうかなど口コミ情報をチェックするのもいいだろう。また、極端な流行りのデザインで来年には着られなくなりそうな製品は避けたい。

そして、購入したあとに大切なのは丁寧に洗濯すること。製品表示で推奨される方法に加え、繊維を傷めないように洗濯バッグに入れるなどして洗濯して干す。洗剤の種類や成分もよく確認したい。色落ちしづらい洗剤を用いることで長持ちにつながる。また、排水による環境負荷低減のために合成洗剤や合成柔軟剤は使わないことも大切だ。ポリエステルなどの合成繊維は洗濯時にマイクロプラスチックが流出するため、流出を低減する洗濯バッグを利用したい。また、素材によっては、洗濯は必要なく天日干しする方が効果的な場合もある。洗濯の回数を少なくする努力も大切だ。

サイズアウトしたり、趣味が変わって着なくなってもごみ箱に入れず、染め直しやリセール、シェアを検討したい。そしてぼろぼろになった衣服はリサイクルのために回収拠点に持ち込む。
消費者ではなく、“循環者”という感覚を持ってみるのもいいかもしれない。

yuko hirota

廣田悠子/Office for Sustainable Fashion代表。ファッション業界紙WWDJAPAN記者として海外コレクション、百貨店などを12年間担当し、2018年にサステナビリティ分野を新設。2021年6月に独立。WWDJAPANコントリビューティング・エディター、アパレル企業のアドバイザーを務める。

※掲載している情報は、2023年5月25日時点のものです。

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