Photo by Bolt Threads
マッシュルームレザーの代表格といえば、Bolt Threads(ボルドスレッズ)が開発する素材「Mylo(マイロ)」が有名だ。これまで数々のブランドと共同開発を行い、2022年には土屋鞄製造所と新素材モデルを発表した。そんな同社創業者でCEOのダン・ウィドマイヤーに話を聞いた。
田原美穂 (タバルミホ)
サステナビリティコンサルタント / クロスボーダーマーケター
NY在住。Sustainable Journey 代表。 大学卒業後、投資アナリストとしてロンドンで勤務後、日本にて外資系ファッションブランドでマーケティングやEcommerceに15年…
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Photo by Bolt Threads
Bolt Threadsの創業者ダン・ウィドマイヤー氏。
きのこの菌によって構成される根のような糸状の組織(菌糸体)を原料に、動物由来のレザー代替素材として生まれたのが、マッシュルームレザーだ。環境負荷の削減や動物愛護の観点から注目されている。そんなマッシュルームレザーの開発を手がけているのが、アメリカのBolt Threads(ボルトスレッズ)だ。同社は、マッシュルームレザーブームの火付け役となった新素材「Mylo(マイロ)」を開発している。
Q. 現在さまざまな植物由来のレザー、もしくはMylo(マイロ)と同様にキノコの菌糸体を使った素材が世界中で開発されています。Mylo(マイロ)は、それらと比較して何が一番優れているのでしょうか?
「Mylo(マイロ)は、ソフトでしなやかな素材です。そのため、今回共同開発した土屋鞄製造所や、これまでのデザイナーとのコラボレーションで実証されたように、ラグジュアリ―ブランドやデザイナーたちが求める美しさと性能を兼ね備えています。
キノコの細胞壁を構成する要素がコラーゲンのような働きをし、菌糸の繊維質が動物性レザーに極めて近い風合いを生み出すため、従来のレザーに近いスポンジ感や温かみを持つのです」(ダン・ウィドマイヤーCEO)
Photo by Bolt Threads
Q. Mylo(マイロ)は素晴らしい素材ですが、今後解決していくべき課題はありますか?
「私たちが直面している最大の課題のひとつは、高い品質を保ちながら、世界的な需要に対応するために規模を拡大することです。Mylo(マイロ)を大規模に生産するためには、従来の動物由来レザーに負けない価格で大量に生産できる、責任あるサプライチェーンを一から構築する必要があります。
その過程で、開発プロセスの最適化、廃棄物の削減、加工時間の短縮、水と化学物質のリサイクルなど、効率的なプロセスを実現することにより、素材そのものだけではなく、サプライチェーン全体での環境への影響低減を目指しています」
Photo by Bolt Threads
Q. 生産規模の問題が解決され、より多くの企業がMylo(マイロ)を購入できるようになるのは、いつ頃になるでしょうか?
「現在、Mylo(マイロ)はカーフレザー(生後6か月以内の仔牛からとれる高級牛革)と同等の価格で販売しています。そして需要に応じて生産規模を拡大しながら、年々価格を下げ、通常のレザーと同等の価格になるよう取り組んでいます。
また、ヨーロッパに新しい生産施設をつくり供給量を増やすことで、近い将来にさらに多くのブランドとコラボレーションしてユニークな製品を発売できるようにする予定です。
将来的には、アパレルやアクセサリーに限らず、自動車や椅子張りなど、従来のレザーに代わる革新的な素材を取り入れたいと考えているさまざまな業界のデザイナーやブランドが、Mylo(マイロ)を入手できるようにしたいと考えています。」
Photo by 土屋鞄製造所
ボルトスレッズと土屋鞄製造所の共同開発で生まれた新素材モデル。
BoltThreads(ボルドスレッズ)では、Mylo(マイロ)の供給量がまだ限定的であるため、素材を提供しているはアディダス、ケリング、ルルレモン、ステラマッカートニーのような企業に限られる。
上の4社は、消費者向けにボルドスレッズのバイオマテリアル共同開発契約を行っているため、Mylo(マイロ)のプレミアムアクセス権を得てきた形だ。2021年4月には、アディダスのフットウェア「STAN SMITH Mylo(スタンスミス マイロ)」、同年7月にはルルレモンよりMylo(マイロ)を使ったヨガマットなどが発表された。
そんななか2022年6月、ランドセルやバッグなどの革製品で知られる日本の土屋鞄製造所がボルトスレッズと資本業務提携し、新素材モデルを発表した。これまでパートナーシップを結んだグローバル企業と比べて小規模な土屋鞄製造所が、Mylo(マイロ)の共同開発にこぎつけたことは、「日本初マッシュルームレザー商品発売」以上の意味がある。
日本企業が、他国で開発が進んでいるサステナブル技術を持った企業とパートナーシップを締結する際や、共同商品開発を実現するうえで、非常に参考になる取り組みだ。土屋鞄製造所との資本業務提携に至った理由について、ウッドマイヤー氏は次のように話している。
Q. なぜ土屋鞄製造所とパートナーシップを結んだのでしょうか?
「土屋鞄のモノづくりには、日本の豊かで歴史あるクラフトマンシップの精神が宿っていて、インスピレーションを受けました。今回のパートナーシップにより、高度な技術を持つ職人のモノづくりと、よりよい未来を創るためのイノベーションがかけ合わさり、美しいマイロコレクションを創る扉が開かれました」
Photo by Bolt Threads
サステナブルな次世代素材の開発を行う非営利団体マテリアル・イノベーション・イニシアチブのレポートによると、2015年以降に次世代素材に投じられた資金は総額23億ドルとなり、2021年の投資額は2020年の2倍以上になっている。この次世代素材を開発する企業全95社うち、半数は植物由来の素材をベースにした開発を行っているのが現状だ。
Q. このような市場環境の中、Mylo(マイロ)が未来で担う役割について教えてください。
「ラボ(研究室)から生まれた革新的な素材と、魅力的なデザインを融合させることが、より持続可能なファッション業界を実現する方法の一つだと考えています。またそうすることで、従来の素材でつくられた商品を選ぶのではなく、新しい素材の商品を選ぶように、消費者の行動を変える後押しとなるはずです。
昨今は、環境に配慮したファッションを創るために、多額の投資を行っている大小さまざまなブランドを目にするようになりました。今後、テキスタイルやレザーの代替素材は、より重要な役割を担うことになるでしょう」
Photo by Bolt Threads
Q. 牛革の代わりにMylo(マイロ)の製品を購入すると、どのくらい環境問題への対応に貢献できるのでしょうか?
「Mylo(マイロ)はバイオベースで再生可能な、ビーガンの認定を受けた素材です。持続可能な製造プロセスを通じて生産を行い、グリーンケミストリー(有害物質の使用や発生を削減もしくは削除するプロセスや化学製品を設計すること)の原則で加工・仕上げを行っています。
私たちは、環境への影響を最小限に抑えるために、インパクトアセスメント(影響評価)を活用しながら、サプライチェーン全体の最適化を実行してる最中です。この成果を公表できる日を、私たちも心待ちにしています」
次世代素材の可能性はまだ扉が開いたばかり。土屋鞄製造所の伝統的技術やデザイン性と、BoltThreads(ボルトスレッズ)のイノベーションの融合のように、商品としての魅力、そして環境や社会にとってよりいいものづくりというブランドストーリーが組み合わさったときに、消費者は心を惹かれ、心地よくサステナブル消費をしていくのだろう。
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