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SDGsの言葉が人々の間に浸透し、環境問題に取り組む企業や商品がずっと増えてきた昨今。環境、社会、価値などさまざまな分野で、大きな変化を遂げてきた。そんな3年間について、環境・フード・ファッション・美容など各業界の最前線を見てきた第一人者に、どのような変化があったのか聞いた。さらに、これからの3年間で私たちが行うべきことに目を向けよう。(敬称略)
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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ELEMINISTがローンチした2020年5月は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染がまさに拡大しはじめた時期。それから3年の月日が流れ、環境、社会、地域、そして私たちの暮らしに関するさまざまなことで、大きな変化が生まれた。
この3年にあった主なできごと<社会>
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(2020年~)
・東京オリンピック・パラリンピック開催(2021年7~8月)
・ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月~)
この3年にあった主なできごと<環境>
・レジ袋有料化(2020年7月~)
・菅首相による脱炭素宣言(2020年10月)
・COP26開催(2021年10~11月)
・プラスチック新法施行(2022年4月~)
・COP27開催(2022年11月)
SDGsの言葉が広く浸透し、またコロナ禍をきっかけに生活スタイルや価値観が変わった人も多いだろう。
そんな3年間について、それぞれの業界を見てきた第一人者はどんな変化を感じているのだろう。
江守正多/東京大学未来ビジョン研究センター教授、国立環境研究所上級主席研究員、気候科学者。IPCC第5次・第6次評価報告書主執筆者。
「菅総理による脱炭素宣言があったのが2020年10月。この3年間の大きな変化といえば、企業や自治体にとって脱炭素を目指すことが新しい常識になったということが言えるでしょう。
今後は、世界的な脱炭素化の動きはさらに本格化し、各国が再エネ比率やEV比率を競うようにして上げていき、日本もその流れに逆らうことはできないでしょう」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「脱炭素化の必要性を理解し、脱炭素化を推し進める政策を支持する人が増えてほしいと思います。ただし、脱炭素の政策には原発やメガソーラーなど論争的な点もあるので、できればそれらについて考え、ご自身の意見を持って議論に参加してほしいと思います」
鈴木紳介/Sustainable Brands Japan(SB-Japan),Country Director、博展執行役員 CSuO(最高サステナビリティ責任者)。2016年にSB-Japanを創設し、2017年から毎年SB国際会議を開催。イベント業界におけるサステナビリティの実践と定着にも力を入れ、各種セミナーで講師も務める。
「サステナブル・ブランド ジャパンで行っている調査で、生活者のSDGsへの認知度は、3年前は58.1%でしたが、最新の調査では89.0%とほとんどの人が知っている状態になりました。企業もサステナビリティに関する取り組みを強化し始めてきたと感じます。また、廃棄物やCO2排出量を減らす取り組みを推進する企業がここ1〜2年で増えてきました」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「SDGsの認知度は高まりましたが、内容まで知っている人は2割程度のまま。2030年のSDGsの目標達成には、企業やブランドがSDGsに配慮した製品やサービスを生み出し、生活者を認知からさらなる行動変容のフェーズへと導いていくことが求められていると考えます。私たち生活者は、そのような取り組みを推進してしているブランドの製品を購入して応援することで、よりよい方向に社会を変えていくことができると思います」
杉山絵美/FOOD LOSS BANK 共同創業者・取締役。
「コロナ禍を機にフードロスに対する世の中の関心がより深くなったと思います。ロス食材の有効活用について考える飲食店、加工業者が増え、家庭でもフードロス削減に取り組む方が増えたと思います。ブルガリ、ラルフローレン、アルマーニなどのラグジュアリーブランドはいち早くフードロス削減の課題に取り組みはじめました」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「企業だけでなく、家庭でのフードロス削減の取り組みがより重要になってくると思います。フードロス削減は一人ひとりのちょっとした努力や意識の変化で大きな効果が生まれます。家庭では、買いすぎない、つくりすぎない、余らせないことが大切。外食の際には、頼みすぎない、食べ残さないこと。未来に向けて、まずひとりでもできることを始めてみることが大切だと思います」
近藤勝宏/パタゴニア プロビジョンズ・ディレクター。
「新型コロナの影響で自炊する人が増えると同時に、自身の健康や免疫力の向上という意味で食への関心が高まりをみせました。その後、食が健康だけでなく環境への影響があることへの認知も少しずつ高まっています。また家庭菜園もふくめて生活のなかに農を取り入れ、土に触れる機会を増やしている人が増えているように感じます」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「直面している気候危機は人間の問題であり、これを解決する鍵は科学や技術ではなく、人々の思いやりにあると感じています。食の選択をふくむ、一人ひとりのすべての行動が世界とつながっていることを意識し、思いやりや共生の心を持ちながら生きていくことが大切であると思います」
廣田悠子/Office for Sustainable Fashion代表。ファッション業界紙WWDJAPAN記者として海外コレクション、百貨店などを12年間担当し、2018年にサステナビリティ分野を新設。2021年6月に独立。WWDJAPANコントリビューティング・エディター、アパレル企業のアドバイザーを務める。
「ポリエステルやナイロンの再資源化・再生や、ヴァージン素材からリサイクル素材への切り替えが進んでいます。ただし、使用中にマイクロプラスチックが放出され続けるといった抜本的な解決にはなっていません。
他方、コットンなどのセルロース繊維を再生する技術開発が活発化しており、実装のフェーズに入りました。 キノコの菌糸からレザー風素材をつくる技術など、新素材開発も進んでいます。素材に関する規制は今後さらに厳しくなると考えられ、サステナブル素材の開発は加速し、複雑化していくでしょう」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「リサイクル可能なものは回収拠点に持ち込むなどして、ごみの量を減らすこと。またYouTubeなどで確認して、修理する力を身につけることも大切。自力で修理できないものはプロの力を借りるといいでしょう。また動物の肉の食べる量を減らすことも考えていいのではないでしょうか」
根岸由香里/Ron Herman事業部長 兼ディレクター。文化服装学院スタイリスト科卒業。2008年、ロンハーマン立ち上げ時にサザビーリーグへ。バイヤーを経て、2016年にリトルリーグカンパニー執行役員兼ロンハーマン事業部事業部長兼ウィメンズディレクターに就任。
「Ron Hermanでは2年前にサステナビリティビジョンを発表し、現在事業全体の大きなシフトチェンジを行っています。会社のシフトチェンジに賛同し、チームメンバーが積極的に学び、各セクションで何を行うべきかを自ら考え行動し、それが自走できるようになったことは大きな変化であり進化だと思います。
そのなかで店舗のメンバー主導で電力の削減を本格的に行ったり、多くの店舗でのごみ拾い活動が根づいたり、ここには書ききれない沢山の変化がありました。そんな我々の変化を見て感じてくださったお客様も確実に変化しているのを感じます。『変わっていかなくてはいけない』と思い、一歩を踏み出す企業や人たちが増えました」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「この先の未来が大きく変わる重要な3年になると思うので、他人任せにするのではなく、いかに企業や個人が自らを変えてアクションを起こしていけるかが、いままで以上に重要だと思います。そして何よりそれを楽しく、みんなでつながりながら行っていくことが、多くの笑顔を生むと感じています」
改正菜摘/ZOZO コミュニケーションデザイン室サステナビリティ推進ブロック ブロック長。
「リサイクル素材や天然繊維など、サステナブルな素材を使用したアイテムが増えただけでなく、デザイン性が高く、手に取りやすい価格の商品も多くなった印象です。ここ3年で、ファッションのサステナビリティはより加速したように思います」
これまでの3年は、それぞれの企業が持続可能な社会のために、自社やステークホルダーにとってどのような行動が必要なのか考え、動き出す期間だったかと思います。これからの3年は、互いに手を取り、ファッション業界や地球のために行動を起こすフェーズに向かう必要があると感じます。それぞれの強みやノウハウを共有することで、新たなビジネスや取り組み方法が生まれ、サステナビリティをよりスピード感を持って取り組むことができると思われます」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「差し迫る気候危機への対応は、引き続き迅速に取り組むべきであると考えています。また、女性活躍や性的マイノリティへの理解促進、次世代支援など、その他サステナビリティへの取り組みについても明確な数値目標を掲げ、社会全体で取り組んでいく必要があります。そのためには、ステークホルダーの関心や意識、状況について考えるだけでなく、対話を通して解決に取り組んでいくことが重要だと考えています」
岸紅子/NPO法人日本ホリスティックビューティ協会代表理事、環境省アンバサダー。女性のセルフケアの普及に努め「ウェルネスを通じて人と地球の美しい循環を叶える」を目標に、楽しめる循環アクションを提言。
「SDGsという言葉が世の中に浸透し、エコバッグが市民権を得てきました。その一方で、SDGsの名のもとに販売されるモノやサービスが増えているように思えます。また、多少でもエコ素材が使われていれば、それが免罪符となって大量生産が是となっていたりすることも気になります」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「インフォデミックやウクライナとロシアの戦争など、この3年は人災とも言える混迷の中にいた気がします。そこでの学びを経て、自分で調べたり考えたりする大切さや、より本質的なものへのニーズが高まるといいなと思います。ワクワクにしたがって生きること、そして環境活動も楽しんですることがいいのではないでしょうか」
鈴木暁/美容専門紙『CYAN』初代編集長、ELEMINIST Beauty Director、STUDIO LONGY CEO。美容室・化粧品会社の顧問などを務める。
「3年ほど前は、サステナブルというワードや、サステナブルなサービスやプロダクツを介したコミュニケーションは、"何となく”や"仕方なく”といった感じで受け入れられている感じでした。しかし今では、その"何となく”がそれぞれのライフスタイルに少しづつ定着し出し、とくに若い世代を中心に、協力しながら自分たちで明るい未来を切り開いていこうというムードが高まっているように感じます。
食品の添加物や産地を確認することが当たり前になったように、化粧品においても成分やブランドの取り組みについて調べた上で購入する流れが生まれ出していると感じています」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「サステナブルな意識が日本で定着するまで少し時間がかかりました。しかしながら、一過性の盛り上がりではなく、徐々に意識の高まりが広がっていったことなどから、文化として定着していくのではないかと考えています。一人ひとりが、できるときに、できることを、できる範囲で、ワンアクションだけでもサステナブルな取り組みを生活に取り入れることが大切ですね」
山田健/サントリーホールディングス サステナビリティ推進グループ チーフスペシャリスト。同社の森林保全活動プロジェクト「天然水の森」を2000年に企画立案。全国にある12,000haの「天然水の森」で研究・整備活動を推進している。
「サントリーでは『天然水の森』と名づけた森林整備活動を行っています。水源涵養力*の高い森林をつくっていくには、生物多様性の保全が必要不可欠です。この3年は、病虫害や自然災害の拡大などによって、生物多様性の危機がさらに高まったと感じます。増加した鹿が地表の植物を食い尽くし、それらに依存している虫や鳥、動物たちが次々に姿を消していることも懸念されます。
しかし、2022年に開催されたCOP15で、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全を目指す『30by30(サーティ・バイ・サーティ)』が目標として掲げられました。生物多様性の保全と再生に向けた世の中の意識が、急速に高まっていると感じています」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「生物多様性の保全・回復は、今からならまだ間に合うかもしれませんが、3年後から始めていては間に合わないかもしれません。さまざまな企業や人々の意識が変わることで、生物多様性保全に向けた活動が急速に増えてくれることを期待しています。そして個人レベルでは、環境に対する学びや意識を高め、さまざまなな活動の良し悪しを見極める目を持ち、企業の環境活動を監視していただくことも重要なのではないかと考えています」
*涵養(かんよう):森林が水資源を蓄え、育み、守っている働き
酒井里奈/ファーメンステーション代表取締役。国内および外資金融機関、ベンチャー企業でM&Aや経営企画などに従事。独自の発酵技術を活用し、未利用資源を機能性のある素材や製品にする事業に取り組み、サーキュラーエコノミーの実現を目指すテクノロジースタートアップの経営に取り組む。
「私たちは、フードウェイストや規格外食品などをアップサイクルして活用した商品をお届けしていますが、商品の背景や製品そのものを取り巻く背景などに興味・関心を持ってくださる方が増えています。とくにここ1、2年の変化は顕著です。ここ数年だけでも、リンゴの搾りかす、規格外のバナナ、桃、ブドウ、ワインの搾りかす、規格外のアメや、炊飯米、パンの耳などを活用した製品化をおこなってきました。
また弊社はB Corpを取得しているのですが、B Corpに関するお問い合わせも増えていますし、B Corpの考え方に賛同する方が増えていると思います」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「サステナブル、アップサイクル、サーキュラーエコノミーの推進といった流れは一時的なものではなく、 今後は当たり前になると考えています。 また、環境だけではなく、地域やジェンダーなどさまざまな社会課題の解決にプラスのインパクトを与えることができるような事業、プロダクトへの関心が高まるのではないかと思っていますし、そういう世の中にしていきたいと思っています。
みなさんには『サステナブルって言ってるけど、本当にそうなの?』『どうやってるの? その結果、何がおきているの?』といったことにも関心を持っていただき、つくる人、使う人、買う人、といった垣根を超えて、一緒に循環する世の中をつくっていきたいと思っています!」
鳥居希/バリューブックス取締役 いい会社探求。モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)に15年間勤務後、古本の買取販売のバリューブックスへ入社。
「バリューブックスより2022年6月に、B Corpの認証取得の手引きとなる『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』を刊行し、イベントや勉強会を開いています。さまざまな業種、職種の方が関心を持ってくださり、B Corp認証の取得を進めている企業や取得を検討している企業など、なんらかの形でB Corpムーブメントに参加する方たちが増えていると感じます。また、自らがムーブメントの一部になって行動する姿もあちこちで拝見します」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「わたしたちが行うべきことは、常に変わっていくと思うので、計画を変更することを恐れずに進めることも大事。そして、ほどよく休息をとること必要ですね。
これからの3年間では、会社の利益と社会・環境のベネフィットを、より良い形で追求する企業が増え、それを求める市民も増えていくと思います。それで、いま世の中にある問題がすっかり解決しているとは思いませんが、解決の兆しを見せていてほしいと思います」
福田圭祐/認定NPO法人グリーンバード理事長。17歳からごみ拾い活動に参加。 広告代理店を退職し、2016年にNPOの世界へ。2019年に代表・理事長に就任。 クリエィティブとアイデアで団体の新たな可能性に日々挑戦中。
「私たちのごみ拾い活動には子どもから大人まで、世代や立場の垣根を越えて、さまざまな人が参加しています。そのなかでも、近年は若い世代の参加者が増えています。学校の授業だけでなくTVやYouTube、SNSを通じて環境問題に触れる機会が増え、行動にうつす人が増えているのを感じます。
参加理由に『環境活動に貢献したい』という人もいますが、それ以上に聞こえてくるのが『新たな人との出会い、居場所探し』といった声。コロナ渦でリアルな人との関わりが減った中、ごみ拾いが人と人をつなぐコミュニケーションツールの役割を担っていると感じます」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「一方的に環境問題の現状を押しつけたり強制したりするのではなく、どうすれば前向きに行動してもらえるか。街をきれいにしながら人とも出会えるなど、参加することに付加価値を得られるかが重要だと思います。
頑張りすぎず楽しむ。ゆるく始める。そんな小さな一歩の積み重ねが、いずれ社会を変えられると信じています。その選択肢の一つが誰でも気軽に参加できるごみ拾いであり、私たちはその機会をこれからも一人でも多くの人に提供していきたいです」
東光弘/TERRA、ソーラーシェアリング総合研究所、市民エネルギーちば代表取締役。2011年より地域再生型の再エネ活動に専念。ソーラーシェアリングに特化した自社発電所事業(約6MW)など各種環境プロデュース等を務める。2021年5月、海外事業や異業種との協業のためTERRAを設立。
「グローバル企業や上場企業のトップクラスから、お問い合わせをいただくケースが急増しています。自然生態系も意識した形での再生可能エネルギーへの転換へ向け、さまざまな企業の取り組みが加速しているのを如実に実感しています。数年前には考えられないほど、自分のスケジュール表が著名な方との打合せで埋まっています」
これからの3年間でわたしたちが行うべきことは?
「すべての人類が、一秒ごとに自分たちの知らない世界に進んでいます。この変化を、幼虫から蛹、成虫に至る大変態と捉えています。一旦ぐちゃぐちゃになったあと飛翔するイメージです。次の世界を完全にイメージして、議論ではなく、すべての人が実行できる最大限の行動に終始することが大切なのではないかと思っています」
サステナブル業界のほか、フード、ファッション、美容など、さまざまな業界から聞こえたのが「この3年は大きな変化があった」ということだ。人々の生活スタイルが変わり、それとともに価値観が変わった人もいるだろう。
では、これからの3年はどんな変化をもたらすだろう? それは、私たち自身の考えや行動にかかっているのかもしれない。大切な地球を守るために、私たちにできること・やるべきことは何だろう。改めて、一人ひとり考えてみてはどうだろう。
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