世界初のゼロカーボンシャンプーを開発したことで知られる台湾発のヘアケアブランド「O’right(オーライト)」が、ELEMINISTと共同イベントを開催した。オーライトのCEO自らが北極に出向いて行った気候変動の現状に関する紹介から、今後の美容業界にもたらす変化について語った。
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2023年2月21日、台湾発のヘアケアブランド「O’right(オーライト)」とELEMINISTによる共同イベント「O’right×ELEMINIST 2nd Green Summit」を開催した。
会場には、オーライトが美容業界全体での気候変動に対する取り組みを呼びかける「グリーンプロジェクト」に賛同するサロンの美容師や、サステナブルなアクションを積極的におこなっているELEMINISTの読者コミュニティ、ELEMINIST Followersが来場。台湾コーヒーが振る舞われるなか、和やかな雰囲気で進行した。
初めに、台湾から来日したオーライトの創業者でCEOのスティーブン・コー氏が登壇。まず、ゼロカーボン達成を目指したきっかけやこれまでの同社の取り組みについて紹介した。
2002年に創業し、2006年にグリーンブランドに向けてリブランドしたオーライト。そのきっかけは、温暖化に対する取り組みのための国際条約「京都議定書」にさかのぼるという。
当時スティーブン氏は、想像以上のスピードで進んでいる気候変動に対して脅威を感じ、「自分自身に何ができるのか? 他の人と一緒に何ができるのか?」と考えたという。そこから、「人に、社会に、環境にいいブランドをつくりたい」と思い至り、さまざまな取り組みを始めてきたそうだ。
オーライト創業者でCEOのスティーブン・コー氏。
例えば、「できる限り石油由来の原料を使わずに、自然由来の原料を使うこと」「通常使い捨てで焼却されるプラスチックを、PCRプラスチック(Post-Consumer Recycled)にすること」などで、カーボンの排出量を削減。
さらに、産業におけるカーボン排出の割合が一番高いのは電力であることから、オーライトの自社工場では、太陽光発電や風力発電の設備を設置。2022年に100%の電力グリーン化に成功し、カーボン排出量をゼロにした。これらのさまざまな取り組みをおこなうことで、16年をかけて、工場・オフィス、製品においても、カーボンの排出ゼロという偉業を成し遂げたのだ。
スティーブン氏の地球環境に対する危機感や取り組みへの熱い想いは、参加者の多くの胸に響いたはずだ。
スティーブン氏が例として挙げたのは、オーライトが開発した世界初のゼロカーボンシャンプー。このシャンプー1本(400mL)を使うことで、私たちの生活で排出する11㎏分のCO2を減らせるという。これは1本の木が20年間で吸収する炭素量に相当する。つまり、オーライトのゼロカーボンシャンプーを使うことで、炭素排出を削減する取り組みに貢献できることになる。
続いてスティーブン氏が紹介したのが、地球温暖化や気候変動の現状について知るため、自ら2022年に訪れた北極のグリーンランドについて。
“温暖化の進行がもっとも早い地”であるグリーンランドでは、たくさんの流氷が海上を南下し、氷冠(氷の塊)には穴が開いて通常見えるべきではない海水が見えるという。氷河が溶けて崩れていく様子など、スティーブン氏が実際に目の当たりにした厳しい現実を、写真と動画で紹介した。
「グリーンランドの氷河がすべて溶けたとき、世界の海面が7.4メートルも上昇する。もし、そうなったら全世界に悲劇をもたらす」と、恐ろしい事実を伝え、気候変動がもたらす全世界への被害を憂惧した。
オーライトが台湾のメディアとともに作成した動画「Melting Greenland」では、氷河がミシミシと音を立てながら崩れていく生々しい様子や、雨が降ること自体珍しいグリーンランドで、2021年に史上初の大雨が降ったことなど、気候変動がもたらしている変化を伝えた。
動画内で専門家は「炭素の排出がすべての原因であるという事実から逃れることはできない」と警鐘を鳴らす。「私たちは、唯一問題解決ができる世代」「誰かがやってくれるのを待つだけではダメ」など、動画を通じて専門家たちからの警告やアドバイスが届けられた。
質疑応答の時間には、オーライトの取り組みや考えなどに関して、さまざまな質問が挙がった。
それまでスティーブン氏の持つおおらかな雰囲気に包まれていた会場だが、放映後は、一人ひとりが気候変動の深刻さや危機を改めて感じたことで、少し厳かな空気へと変化した。
スティーブン氏は「みなさんと一緒にがんばって、よりよい時代をつくりたい。それぞれの専門分野で力を尽くし、SDGsの開発目標13『気候変動に具体的な対策を』に向けて、一緒にがんばっていきましょう」と笑顔で呼びかけた。
スティーブン氏の登壇に続いて行ったのは、エシカルアドバイザーで『ELEMINIST』にも携わってきた中川原圭子氏と美容専門誌『CYAN』創刊編集⻑の鈴木暁氏によるトークショーだ。「ELEMINISTを知っている人―?」「CYANを知っている人―?」「SDGsの意味がなんとなくわかる人―?」など、カジュアルな質問からスタート。2人が醸し出すやわらかい雰囲気が会場を包み込んだ。
エシカルアドバイザーの中川原圭子氏。エシカルの意味から、気候変動について自分事として考えられる言葉として「「アース・オーバーシュート・デー」について紹介した。
SDGsの概要を説明した上で、話題は中川原氏の肩書きにもある「エシカル」という言葉の意味へ。「SDGsやサステナブルを選択するときに、人の倫理観に則った選択ができるということ」なのだと中川原氏が解説した。さらに「言葉を知っているというのももちろん大切なことですが、エシカルという気持ちや人の倫理観に寄り添った選択ができる、ということが何より大事だと思う」と語った。
次に2人は、環境問題や気候変動を身近に感じられる言葉として、「アース・オーバーシュート・デー」について紹介した。これは、1年で生み出される地球の生き物や微生物、植物といった、生きている資源(=生物資源)を、人間が活動していくなかで使い切ってしまう日のこと。
『CYAN』創刊編集⻑の鈴木暁氏。美容業界に精通しており、業界全体でサステナブルな取り組みが進んでいることを実感しているという。
2022年の世界のアース・オーバーシュート・デーは、なんと7月28日。さらに衝撃的なのは、日本のアース・オーバーシュート・デーが5月6日であることだ。「日本での1年間の生活は、地球2.4個分の資源がないとできないということ。日本で生活する者として目を逸らすことができない、深刻な問題とわかりますよね」と中川原氏。
中川原氏は、スティーブン氏の視察について触れながら「グリーンランドに行くことは難しいかもしれないけれど、日本で資源を使い切っている日が5月6日だと思い出すことは、いますぐできるアクション。そう思い出すことで、環境問題を自分事として考えてもらえたら」と、まずは気候変動について自分事化することが大切だと、改めて伝えた。
仮にCO2の排出量を半分に減らした場合、アースオーバーシュートデーは3か月延びるそう。しかし、延びる期間はわずか3か月でしかない。「こう考えると2030年にSDGsの目標を達成できるのかな?という思いになってしまいますよね」という中川原さんの言葉を聞き、来場者たちは大きく頷いていた。
しかし、この現実に落胆するのではなく、一人ひとりが行動していくことが大切だ。鈴木氏は、カフェでの自身の経験を共有した。コーヒーをマグカップ注文したところ、店員さんから「ありがとうございます」と感謝されたといい、「みんながハッピーになっていくのが気持ちいい」と話した。
中川原氏は「まさにそれは“エンジョイの輪を広げたい”という、ELEMINISTが大切にしていること」と話す。「私だけが我慢している、頑張っている」という状況では共感が生まれないことを、中川原氏自身も経験してきたそう。「楽しい」「嬉しい」「かわいい」「使いやすい」「心地いい」といった、“エンジョイする気持ち”を大事にすることで輪が広がっていくと伝えた。
「オーライト」のシャンプーは、ゼロカーボンに加えて、ヴィーガン、クルエルティフリーなどを実現している。
次に、話題は近年の美容業界の変化について。鈴木氏が、さまざまなコスメブランドがサステナブルラインを出したり、パッケージをリサイクル可能な素材に変更したり、ヴィーガン処方にしたり……といった、美容業界に起こっている変化の例を挙げた。続けて「ブランドが変化していくことによって、ユーザーの環境問題に対する意識も変わっていくことは自然」と話す。
サロンの選び方にもその影響はおよび、「エシカルという共通言語で話せる美容師さんがいるのは、私のようにエシカルやサステナブルを軸に選択する人が増えるなかで、必ず武器になると思う」と中川原氏はいう。
鈴木氏も「サステナブルやエシカル、ヴィーガンを求めるカスタマーは確実に増えていく」と同意。オーライトを通じてサステナブルやヴィーガンなどについて学んでいけるようなサロンの環境づくりのほか、製品を通じてエシカルな会話をするなど、来場者に提案した。
最後に鈴木氏は「一人ひとりにできることがきっとひとつでもあると思うので、それを実践していけば自然と社会は明るく切り開いていけるのではないか」と、ポジティブな思いを会場に広めた。それを受けて中川原氏は「まさに“エンジョイの輪が広がっていく”ということですね」と、締めくくった。
b-exの福井敏浩代表取締役社⻑。オーライトのスティーブン氏との出会いから、会社全体で気候変動などに対する取り組みを始めたそうだ。
イベントの最後に、持続可能な社会を目指し、オーライトと資本業務提携を結んだ株式会社b-exの福井敏浩代表取締役社⻑が登場。現在の取り組みや今後の展望について語った。
以前はそれほどSDGsに対して知識がなかったという福井社長は、「スティーブンさんとの出会いをきっかけに、会社全体で気候変動に取り組むようになった」と話す。2年前にはSDGsプロジェクトを立ち上げ、製品づくりの基準を明確にし、「SDGs宣言」という形でホームページにも掲載。また、2023年はSDGsレポートも作成したという。
今後の展望として、“継続は力なり”という言葉のように、SDGsの推進プロジェクトを引き続き進めていくことを伝えた。さらに、2022年より立ち上げた「グリーンプロジェクト」において「サロン様の現状をグリーンスコアとしてまとめて、上位をグリーンパートナーサロンとさせていただく」と発表。そのほか、テラサイクル社と提携してボトルの回収ボックスを展開することや、全社でエコ検定の合格者を増やすことなどを紹介した。
今回の「2nd Green Summit」の様子をまとめたイラスト。
いま地球で起きている気候変動の現状に目を向け、自分たちができることについて改めて考えるよう呼びかけた、今回のイベント。参加した美容師やELEMINIST followersからは、さまざまな声が寄せられた。
「調べれば調べるほど世界の状況と自分の無力さに、何ができるのかわからなくなっていました。オーライトさんを知ることで、美容師として取り組んで何かを発信できるようになれれば、いままでより子どもたちに何かを残すことに参加できるのではないかと感じています」
「さらにパワーアップしているオーライトさんとスティーブンさんから勉強させていただきました。私一人でもできること、私たちにもできること、私の会社にもできること、まだまだたくさんあると実感できました」
「どのお話もすてきでしたが、とくにグリーンランドの映像はインパクトがありました。映像の美しさと環境問題の大きさが対比されていて、本能的に考えさせられた時間でした」
「改めてオーライトの商品の良さ、つくる会社の良さなどを知ることができました!この商品を取り扱えることをより嬉しく思いますし、よりいろんな方に試してもらいたいと強く思いました! ELEMINISTさんの『楽しむこと、楽しんで選択していくこと』にすごく共感しました!」
会場では、「オーライト」のシャンプーなどを手にする参加者の姿も見られた。
「まだまだ環境に対して世界が意識を向けていなかった時代から、ずっとSDGsについて取り組んでいることに驚きました。またCEO自らグリーンランドで地球温暖化を目にして、それをビデオにまとめるというのも、とても感動した」(@haluchnさん)
「長年かけてさまざまなサステナビリティを実現している点が本当にすごいと思いました。世界中のパートナーに消毒液を無料で送ったというエピソードにも、すてきな人柄や社風を感じました」(@x829xxさん)
「地球環境について、CEO自ら危機感をもちリーダーシップをとりながら商品をつくっていることに感動しました。まずは自分自身が楽しめる方法で、エシカルを続ける、何かを選択する際オーガニック・エシカルと検索してみる、友人間で輪を広げていくなど、自分ができることを続けていきたいと思います」(@tsukiyogaさん)
気候変動に対する現実を伝え、炭素排出を減らす取り組みなどを私たちが本気で取り組まなければならないという熱い想いに加え、スティーブン氏本人から話しを聞けたことが、意義のあるものだったようだ。
スティーブン氏が実際に訪れて確認したグリーンランドの様子がパネルで展示された。
今回のイベント来場者はおよそ30人。スタッフなど関係者を含めても50〜60人ほどの、コンパクトなイベントであった。しかし、このサイズ感だからこそ、登壇者の思いや考えがストレートに届き、来場者が受け取ったインパクトは大きかっただろう。
何より、登壇者一人ひとりが自ら行動してきたことで、ここまで共感の輪を広げているという事実。そこに、大きな希望や勇気を与えられた来場者は少なくなかったはずだ。
取材・執筆/永原彩代 企画・編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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