お笑い芸人マシンガンズとごみ清掃員を兼業し、現在“ごみ清掃芸人”として活動中の滝沢秀一さん。書籍の出版やメディア出演、SNSなどを通して人々のごみ意識を変えるべく日々さまざまな活動をされている滝沢さんに、知っているようで案外知らないごみの出し方や減らし方について伺いました。
堂坂由香
エディター
慶應義塾大学文学部卒業後、宝島社、世界文化社にて女性誌の雑誌編集者として紙媒体の編集に携わる。制作会社を経て2021年独立。コロナ禍でのライフスタイルの変化により、エシカル、サステナブル…
ELEMINISTでは5月30日のごみゼロの日に向けて5月を「ごみゼロ月間」とし、毎週さまざまな角度からごみというテーマを掘り下げています。今回お話を伺ったのは、芸人活動と並行して約10年ごみ清掃員としてごみ収集のお仕事をされている、お笑いコンビ「マシンガンズ」滝沢秀一さん。ごみ関連の本や漫画は累計15万部を売り上げ、2020年からは環境省のサステナビリティ広報大使に任命されるなど、エンターテイメントの力を通してごみ問題の周知活動をされている滝沢さんに、私たちの生活と密接に関わっていながら実は知らないことの多い、ごみ清掃のお仕事内容からお話を聞いてみました。
—街中でごみ収集車や清掃員の方を見かけることはあっても、実際どんな作業をされているのか知らない人も多いかと思うのですが、滝沢さんは一日にどれくらいの量を回収されているのでしょうか?
周る箇所の数は地域によって違いますが、大体一日で10〜12トンぐらいのごみを回収しています。パッカー車って一台で最大2トンくらいのごみを回収できるんですけど、それを午前中に4台分、午後に2台分回収します。なんとなく午前中に回収して終わりというイメージがあるかもしれませんが、実は午後も回収しています。パッカー車がいっぱいになったら清掃工場の“ごみピット”という置き場所に排出して、また次の回収先に向かう、という作業を繰り返す感じです。また回収できないものを見分け、シールを貼っておくことも仕事のひとつ。可燃ごみであれば作業員は大体二人チームで回収することが多いと思います。
—エリアによってごみの出し方にも違いがあると伺いました。
そうですね、例えばここのマンションはみんなすごく行儀のいい人が住んでるんだなとか、ごみ集積所を見るとどういう人が住んでいるのかがわかりますよ。それから昔から由緒正しい高級住宅街、いわゆる本当の金持ちエリアでは、なぜか一般的な住宅街に比べてびっくりするほどごみの量が極端に少ないんです。ごみの出し方もすごくきれいで。使い捨てるようなものがあまり出てこなかったりするので、ごみを観察しているとお金の使い方の違いや生活の仕方が透けて見えます。
ちなみにいろんな人に聞いてるんですけど、ごみって何種類あると思いますか?
—7〜8種類くらいでしょうか……?
意外とみなさん7種類とか8種類とか答えられるんですけど、実はごみって「可燃ごみ」と「不燃ごみ」の2種類しかないんです。それ以外、例えばペットボトルとか古紙とかは何かというと、これらは「資源」と言われるもので、ごみ清掃の世界では「資源ごみ」って言うと怒られるんです。資源はごみじゃないってことなんです。
「この資源は何にリサイクルされるのかについて、自治体がもっとわかりやすく示してくれるようになると、きっといまより分別しやすくなりますよね」
—なんとなく「これで合ってるのかな?」と思いながらごみ出しをしている人も多いかと思います。滝沢さんが日々ごみ回収をするなかで、よく間違われているごみの出し方についていくつか教えてください。
大前提としてごみの出し方はそれぞれの地域や自治体のルールにしたがってほしいのですが、香水の瓶は中身を布などに吸わせて不燃ごみで出してください。中身を吸わせた布は可燃ごみになります。マニキュアの瓶の中身は出しづらいと思いますが、新聞などに塗って乾かしてから出しましょう。ちなみに化粧水の瓶は資源として出して大丈夫なところが多いですが、エリアによっては飲料系の瓶以外は集めない場合もあるので、必ず調べてから出すようにしてください。
回収していて一番危険なのがモバイルバッテリー。パッケージがプラスチックのものが多いので可燃ごみとして捨てちゃう人が多いんですが、モバイルバッテリーや電子タバコ、ワイヤレスイヤホンのようなリチウム電池が使われているものは基本的に回収できません。販売店に回収の相談をするか、区役所や市役所などに置いてある回収ボックスに入れるなどしてください。買うときに捨て方まで考えることも大事ですよね。
最近は電子タバコの事故が多いです。その場で火が出ず、30〜40分後に出火する可能性があるので一番危険なんです。ごみ置き場に置いたら終わりではなくて、それを誰かが回収するってことまで考えてもらえたらと思います。
スプレーやライターは中身を使い切ってから、ほかの不燃ごみとは分けて出してください。スプレーは爆発したりするのでとても危険。他のものと一緒にせず、スプレーだけでまとめて出してほしいです。中身を使い切れば、最近は穴を開けなくても大丈夫です。
プラスチックの歯ブラシを不燃ごみで出す人も結構多いんですが、プラスチックは20年くらい前から可燃ごみとして回収できるようになりました。昔と比べてごみ焼却炉の性能が上がり、いまは850℃以上で燃やしているのでダイオキシンが発生しにくくなったからです。それから保冷剤も不燃ごみで出されることが多いんですが、保冷剤は可燃です。ときどき保冷剤の中身を出して排水溝に流しちゃう人がいるんですけど、保冷剤の中身は吸水ポリマーというおむつと同じ素材で、水を吸収して排水溝が詰まってしまうので、中身を出さずに可燃ごみとして捨てたほうがいいと思います。
—無印良品など、保冷剤を回収しリユースする取り組みを行なっている企業もあるため、捨てる前に「これって資源になるかな?」と考えてみることも大切ですよね。
そうですね、使い捨てカイロも回収して資源として活用している団体があるので、できるだけごみとして捨てない方法を考えていきたいですよね。どうしても捨てる場合は、中身が鉄なので不燃ごみとして回収する地域が多いと思います。
また、ボールペンやベルトのような何種類かの素材が混ざっているものは基本的に9割ルールで考えて大丈夫。ボールペンやベルトも可燃ごみになります、もちろん地域によりますが。そう考えると不燃ごみって意外と少ないんですよ、僕も半年に1回くらいしか出さないです。
それからみなさん間違いやすいのがシャンプーや漂白剤の容器、卵パックなど。ペットボトル資源に入れられがちですが、プラスチック資源です。間違って入っているものは実は清掃員が手作業で分けています。ちなみに基本的に資源はきれいなものでないとリサイクルできないので、お弁当容器など汚れが取れないものは資源ではなくごみとして出してください。汚れたものが混ざっていると一緒に入っているものもリサイクルできなくなってしまいます。
紙は匂いがついていると資源にできないので、洗剤や石鹸の箱などは可燃ごみに。紙は次の新しい製品に変わるときに匂いがついちゃってると売り物にならないんです。それから土は捨てられません。レンガも捨てられないので、ガーデニングをやる人は困りますよね。ホームセンターで回収してくれるところが結構ありますよ。公園に捨てると不法投棄になるので捨てないでくださいね。
滝沢さんも昔は何も考えずにペットボトルの水を自販機で買っていたそう。「水にお金かけなくていいって思ってるので、いまはマイボトルをいつも持ち歩いていますよ」
—滝沢さんはツイッターでもごみを減らすさまざまなアイディアを発信されていますが、具体的にごみを減らすためにできることを教えてください。
まず最初にやることは、可燃ごみの中から資源と呼ばれるものを取り出します。資源なのに可燃ごみとして一番捨てられやすいのが紙。紙って無意識のうちに相当捨ててるんですよね。そういう紙類を抜いて雑紙として出すわけです。雑紙というのはチラシやカレンダー、お菓子の箱、トイレットペーパーの芯とかで、古紙の日に出す雑誌の仲間になります。これらを集めるだけでも可燃ごみってだいぶ減るんですよ。燃やしてしまうと灰になってしまいますが、資源として出すと、再び紙として生まれ変わります。
次にやることがプラスチックの分別。プラスチック資源って地域によっては回収していない場合もあるんですが、真剣に集めると結構な量になりませんか? 実は家庭から出るごみの66%は容器か包装なんです。そのうちの8割がプラスチックなので、これらをちゃんと集めてプラスチック資源として出せば、可燃ごみはだいぶ減るんですよ。燃やさなくて済むんです。
それからスーパーに設置してあるトレーや牛乳パックの回収ボックスをぜひ活用してほしいです。トレーをプラスチック資源として出すと、ほかのプラスチックと混ざるためトレーに変わらない可能性が大きいんですよね。なのでトレーはトレーで集めるほうがいいんです。牛乳パックも同様で、例えば古紙のなかに牛乳パックが入っていると、結局リサイクルされずにごみになっちゃうんです。でもスーパーの回収ボックスに持っていくと確実にリサイクルされて、牛乳パック6枚でトイレットペーパー1ロールになります。
雑紙とプラスチックを資源に分けるだけでだいぶごみの量は減ると思いますが、生ごみも結構多いんですよ。生ごみのほとんどは水分なので、乾燥させるだけでだいぶ量が減ります。僕は生ごみはコンポストをしていますが、冬のあいだは分解がなかなか進まずコンポストが難しかったりするので、そんなときは魚などを干す網で生ごみを乾かしてから捨てています。冬だったら虫も寄ってこないし、腐ったりもしません。
以上の3点を実践すれば、ごみは相当減ると思います。
あとは服について。みんな新しい服をばんばん捨てるんですよ、アウターとかもワンシーズンでどんどん捨てられています。これを見ていて僕はやだなと思ったので洋服レンタルに変えました。仕事柄同じ服ばかり着るわけにもいかないので、汚いって言われないように(笑)。いま僕が使っているレンタルサービスは、毎月3枚のトップスと1枚のズボンでコーディネートしてくれて、ひと月8,000円くらい。洋服って部屋の中で結構スペースとりませんか? このサービスを使うようになってから、部屋にスペースが生まれる上に次の月には別の洋服が届くので結構心地いいですよ。
「誰が回収してるかよくわからないから、みんなごみを出したら終わりという感覚になっているのかもしれません」
ごみの問題についてはマニアックな人たちが内輪で小さく盛り上がるよりも、“にわか”な人が増えたほうがいいと思っています。にわか大歓迎です。一人が100歩進むよりも100人が一歩進んだほうが社会的にはいいことだと思うので、自分自身もあまり先に進みすぎないように心がけています。
大それたことじゃなくても、やれることでいいと思うんですよね、みんなが。僕なんかはごみを減らすことはゲーム感覚でやってるので、やっぱり楽しいんですよ。好きなこと、いいと思っていることを発信することが大事で、自分が楽しんでやっていることを発信してそれを見てもらって、真似したいなとか機会があったらやってみたいな、と思ってもらえればいいんです。
太田プロ(滝沢さんが所属している事務所)のみんながごみの分別を真似してくれるようになったのは、たぶん僕がごみ清掃員になったから。「もしかしたら滝沢が自分たちのごみを回収するかもしれない」と感じて分別するようになってくれた。実際、後輩の家のごみを回収したことは何度もありますよ。
なので一番大事なのは、顔が見える社会をつくることだと思っています。誰が回収してるかよくわからないから、何も考えずに包丁をそのまま袋に入れてごみに出す、みたいなことが起こるんだと思います。“ごみを出したその先に人がいる”っていうことがわかれば、もっと協力してくれることもあるだろうし。
これはごみの問題だけじゃなくていろんなことに当てはまると思っていて、食品ロスの問題にしても、例えば自分の子どもが育てた野菜だったらたぶん捨てないけれど、誰がつくった野菜かわからないから簡単に捨ててしまう。つくり手の顔が見えるものを買うようにするだけでも、消費の仕方が変わってくると思います。そしてそういう買い方をしていると、そもそもごみってそんなに出なくなるんじゃないかと思います。
滝沢秀一/お笑いコンビ「マシンガンズ」として「THE MANZAI」で認定漫才師に選ばれるなどコンビとしての実績をあげつつ、2012年からごみ清掃員の仕事を始める。ゴミ収集中の体験や気づきを発信したツイッターが人気を集め、エッセイ『このゴミは収集できません』(白夜書房)、漫画『ゴミ清掃員の日常」(講談社)、『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(太田出版)など、ごみに関する著書を多数出版。2020年には環境省「サステナビリティ広報大使」に就任し、同12月、消費者庁「食品ロス削減推進大賞」の委員長賞を受賞。
撮影/岡田ナツ子 イラスト/nanamy 取材・執筆・編集/堂坂由香(ELEMINIST編集部)
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