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「サステナビリティ2026問題」とは、サステナビリティ情報の開示義務化の本格適用にあたり、企業側の認知が不足していることを指す。本記事では、金融庁によるこの制度がいつから始まるのか?なぜ行われるのか?さらに、項目や基準などをわかりやすく解説する。

ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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これまでは、企業のサステナビリティ関連情報の開示は任意であり限定的だった。だが、金融庁・金融審議会は2024年2月、「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」 を設置。以来、サステナビリティ情報の開示のあり方について審議を重ねてきた。そして決まったのが、企業に求められるサステナビリティ情報開示の義務化だ。
このサステナビリティ情報の開示が求められるのは、プライム市場上場企業。サステナビリティ基準委員会が公表した「サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)」にそって、時価総額の大きな企業から、段階的に義務化がすすめられる。金融庁のロードマップ(※1)によると、義務化が始まるのは以下のとおり。
・時価総額3兆円以上(68社):2027年3月期
・時価総額1兆円以上(171社):2028年3月期
・時価総額5000億円以上(284社):2029年3月期
時価総額5000億円未満の企業については、「義務がない」というわけではなく、今後の動向によって検討される可能性がある。
サステナビリティ情報の開示方法は、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」を新設する。
ちなみに、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定めたサステナビリティ情報開示の基準は「ISSB基準」と呼ばれ、世界共通の国際的な基準と認識されている。SSBJ基準は、ISSB基準と整合性を図るかたちで開発された。
「サステナビリティ2026問題」とは、このサステナビリティ情報の開示義務化にあたり、多くの企業で認知が進んでいない現状について問題視して生まれた言葉だ。サステナビリティ情報開示のためには、関連のデータや情報を収集し、集計するといったプロセスが必要だが、その準備が不十分である企業が多いと言われている。
なぜ「2026年問題」と言われるか?それは、時価総額3兆円以上の企業は、2026年度(2027年3月期)から義務化が始まるから。つまり、その前年にあたる2025年度中には、データ収集体制や内部統制の構築を完了させておかなければならないということだ。
だが、これまでは各企業で任意であったサステナビリティ情報の開示が、法律として義務化されることで、社会全体にとっても企業にとっても大きな転換点となると考えられる。
これまで、企業の価値は売上や利益といった財務諸表だけで判断されてきた。しかし、気候変動や人権問題などが事業継続に大きな影響を与える現代において、財務諸表だけでは「その企業が5年、10年先も生き残れるか」を判断することは難しくなっている。
投資家が、企業のサステナビリティに関する取り組みについて関心を高めており、世界ではESG投資がますますの重視されているのも、そのためだ。
つまり、サステナビリティに関する取り組みについて透明性を高めて、企業同士を共通のモノサシで比較し、投資家が客観的に「その企業がいかに持続可能なビジネスモデルであるか」を比較できる環境を整えることが、このサステナビリティ情報開示義務化の目的だ。
サステナビリティ情報の開示は、有価証券報告書で行う。有価証券報告書の「事業の状況」に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目を新設する。また、既存の「従業員の状況等」と「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目をより充実させる。(※2)
有価証券報告書 第一部企業情報
第1 企業の概況
・従業員の状況 等
→「女性管理職比率」、「男性育児休 業取得率」及び「男女間賃金格差」を開示する
第2 事業の状況
・経営方針、経営環境及び対処すべき課題 等
・サステナビリティに関する考え方及び取組(★項目を新設する)
・事業等のリスク
・経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況の分析 等
第3 設備の状況
第4 提出会社の状況
・コーポレート・ガバナンスの状況(「取締役会等の活動状況」などを開示する)
第5 経理の状況
・連結財務諸表、財務諸表 等
有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目を新設し、以下の4つの項目で開示する必要がある。
取締役会や委員会等のサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対するガバナンス体制について明記する。
人材育成方針や社内環境整備方針を明記するほか、各企業が識別したリスクとその機会について明記し、それに対処する取り組みについても明記する。
サステナビリティ関連のリスクと機会を識別・評価・管理するためのプロセスについて明記する。
人材育成方針や社内環境整備方針に関する指標の内容を明記。さらに当該指標による目標と実績も明記する。さらに、GHG排出量の削減目標と実績値といった、サステナビリティ関連のリスクおよび機会の実績を評価・管理するために用いる情報も明記する。
サステナビリティ情報開示の環境が整いつつあるなか、企業では、どのような手順で、どのように情報を開示するべきか悩むことも多いだろう。サステナビリティ情報開示に向けて、企業側の視点での課題をいくつか紹介する。
もっとも高いハードルとなるのが、自社のみならずサプライチェーン全体を対象としたデータ収集だ。スコープ3(Scope3)とは、自社の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量を示す。原材料の調達から輸送、製品の使用・廃棄に至るまでの温室効果ガス排出量を把握する必要があり、そのためには 国内外の会社や取引先から、一貫したフォーマットで、かつ有価証券報告書の締切に間に合うタイミングでデータを回収する体制を構築しなければならない。
有価証券報告書にサステナビリティ情報を載せるということは、財務情報と同等のガバナンスが求められることを意味する。つまり、サステナビリティ関連のリスクと機会を、取締役会がどのように監視し、経営戦略に反映させているかを具体的に記述する必要がある。さらに、 経営企画、財務、法務、製造、人事など、全社的なプロジェクトチームを立ち上げ、意思決定プロセスを明確化する必要がある。
開示されるデータや情報が正しいかどうかは、企業の評価にも直結しかねない問題だ。信頼性のあるデータや情報を開示するためには、第三者機関によるチェックが行われていることが望ましい。データの転記ミスや計算ミスを防ぐためのITシステムの導入や、業務プロセスの標準化(内部統制)も必要だろう。
「サステナビリティ2026問題」は、単なる規制対応の枠を超え、日本企業が世界の投資家と同じ言語で対話するための大きな転換点となる。SSBJ基準による開示義務化は、これまで「非財務」とされてきた情報を、企業の将来価値を決定づける「財務情報」と同等の重みへと昇華させた。
2026年以降、有価証券報告書は「本当に応援すべき企業」や「持続可能な就職先」を正しく見極めるための、もっとも信頼できる羅針盤になると期待できる。企業も個人も、この新しい世界共通のルールを理解することが、よりいい未来を選択するための第一歩となるだろう。
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