低炭素社会実現へ 「スコープ3」の意味・算出方法・開示例とは

街中に敷設された線路を走る路面電車

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温室効果ガス削減に向けて、注目度が高まっている「スコープ3」。具体的に何を意味し、どのように算出されるのか解説する。スコープ3排出量開示に向けた動きが加速しているいまだからこそ、企業の情報開示事例にも注目してみよう。

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2022.05.25

スコープ3とは?

スコープ3とは、低炭素社会の実現に向けて、注目されているキーワードである。具体的には、「自社の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量」を示すものだ。たとえば、原材料を運ぶための輸送や従業員の通勤、事業活動によって生み出された製品の使用や廃棄などが挙げられる。

低炭素社会を実現するためには、あらゆる方面からの包括的な取り組みが求められる。単一の企業が、社内で取り組みを行うだけでは不十分だ。このような流れのなかで策定されたのが「GHGプロトコル」である。Green House Gas(GHG)、つまり温室効果ガスの排出量に関する、国際的な基準として使われているものだ。

GHGプロトコルとの関係性

GHGプロトコルの特徴は、サプライチェーン全体のCO2排出量に注目し、基準を明らかにした点である。「自社が直接排出するCO2排出量(スコープ1)」や「事業活動に関連したエネルギー使用に伴うCO2排出量(スコープ2)」に加えて、新たに「その他の排出量(スコープ3)」という枠組みを設けた。現在では、スコープ1、スコープ2はもちろん、スコープ3までを把握・開示し、GHG削減に向けた取り組みを行う企業が増えてきている

ちなみに、GHGプロトコルを策定した団体は、「GHGプロトコルイニシアチブ」である。世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界環境経済人協議会(WBCSD)が共催している団体だ。数多くの企業はもちろん、政府機関やNGOなど、幅広い団体が所属している。(※1)

サプライチェーン排出量とは

GHGプロトコルを理解する上で、重要なキーワードが「サプライチェーン排出量」である。排出量を単一の企業内のみで考えるのではなく、サプライチェーン全体で捉える考え方をサプライチェーン排出量と言う。サプライチェーン排出量は、以下の式で求められる。

サプライチェーン排出量=スコープ1+スコープ2+スコープ3

サプライチェーン排出量を開示する上で、算定のポイントとなるのがスコープ3である。自社ではなくサプライチェーン内の他社の排出量までを総合的に把握する必要があるため、算出方法が複雑で難しいという特徴がある。

スコープ3の算出方法とその特徴

スコープ3の算出は、「スコープ3基準」に基づいて行われる。基準には、15の報告カテゴリが用意されており、それぞれについて「活動量」「排出原単位」「排出係数」からCO2排出量を求める仕組みだ。

「排出係数」とは、活動量からGHG排出量データへと換算するための係数のこと。ライフサイクル排出係数やcradle-to-gate 排出係数(上流排出係数)、燃焼排出係数といった種類のなかから、用途に合ったものを選択して使う。

スコープ3の算出方法は、一つではない。複数の算出方法のなかから、排出量の相対的大きさや企業の事業目標、データ品質などに基づいて、適切な方法を選択することが望ましい。また対象によっては、複数を組み合わせての使用も可能である。(※2)

スコープ3基準の15のカテゴリ分類

ここでは、スコープ3基準の15カテゴリを具体的にまとめよう。
各カテゴリと該当する活動例は、以下のとおりである。

1 購入した製品・サービス → 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
2 資本財 → 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
3 スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー活動 → 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)
調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等)
4 輸送、配送(上流) → 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
5 事業から出る廃棄物 → 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送、処理
6 出張 → 従業員の出張
7 雇用者の通勤 → 従業員の通勤
8 リース資産(上流) → 自社が賃借しているリース資産の稼働
(算定・報告・公表制度では、スコープ1、2に計上するため、該当なしのケースが大半)
9 輸送、配送(下流) → 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
10 販売した製品の加工 → 事業者による中間製品の加工
11 販売した製品の使用 → 使用者による製品の使用
12 販売した製品の廃棄 → 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理
13 リース資産(下流) → 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
14 フランチャイズ → 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のスコープ1、2に該当する活動
15 投資 → 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
その他(任意) → 従業員や消費者の日常生活

スコープ3基準および基本ガイドラインでは、「輸送」は任意算定対象である。基本的には算定対象外だが、算定してもいい。(※3)

3企業の開示例

カーボンネガティブ実現に向けて、具体的な取り組みを行う企業は増加傾向にある。各社のスコープ3に対する具体的な対応方法や、開示例を紹介しよう。

大和ハウス工業株式会社

大和ハウス工業株式会社では、「サステナビリティレポート2021」において、スコープ1、2、3GHG排出量を開示している。2020年度の割合は、以下のとおりである。

スコープ10.8%
スコープ20.4%
スコープ398.8%

バリューチェーンGHG排出量の大半を占めるスコープ3の内訳は、以下にまとめる。

購入した製品・サービス21.4%
資本財0.5%
スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー活動0.2%
輸送、配送(上流)0.3%
事業から出る廃棄物0.6%
出張0.02%
雇用者の通勤0.05%
リース資産(上流)0.02%
輸送、配送(下流)該当なし
10販売した製品の加工該当なし
11販売した製品の使用62.6%
12販売した製品の廃棄13.0%
13リース資産(下流)0.03%
14フランチャイズ該当なし
15投資該当なし

スコープ3のなかでも、「購入した製品・サービス」「販売した製品の使用」の割合が非常に高い点が明らかになった。(※4)

コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社

コカ・コーラ社製品の製造や輸送、販売、回収、リサイクルまでを担当するコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社。2020年度のサプライチェーン排出量算定結果は以下のとおりである。

スコープ1 10%
スコープ28%
スコープ382%

スコープ3の内訳は以下のとおりだ。

購入した製品・サービス53%
資本財1%
スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー活動2%
輸送、配送(上流)6%
事業から出る廃棄物1%
出張0%
雇用者の通勤0%
リース資産(上流)該当なし
輸送、配送(下流)該当なし
10販売した製品の加工該当なし
11販売した製品の使用該当なし
12販売した製品の廃棄2%
13リース資産(下流)17%
14フランチャイズ該当なし
15投資該当なし

同社では、排出量の見える化によって今後取り組むべき課題が明らかになったこと、またステークホルダーとの情報共有に役立つ点などを、算定・開示のメリットとして挙げている。(※5)

YKK AP株式会社

YKK AP株式会社は、窓やドア、ビルのファサードといった、建築用プロダクツの設計から製造、施工、販売までを行う会社である。2020年度のサプライチェーン排出量算定結果は、以下のように開示している。

スコープ1 4.6%
スコープ211.4%
スコープ384.0%

スコープ3の内訳は以下のとおりだ。

購入した製品・サービス74.2%
資本財4.9%
スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー活動1.4%
輸送、配送(上流)1.6%
事業から出る廃棄物0.1%
出張0.1%
雇用者の通勤0.7%
リース資産(上流)該当なし
輸送、配送(下流)0.1%
10販売した製品の加工0.6%
11販売した製品の使用該当なし
12販売した製品の廃棄0.3%
13リース資産(下流)該当なし
14フランチャイズ該当なし
15投資該当なし

YKK AP株式会社では、「算定結果を社会環境報告書で公表し、お客様からの情報開示要求に応える」としている。また、算定結果をもとに断熱性の高い窓が持つ環境負荷低減効果を明らかにし、アピールにつなげる狙いもある。(※6)

温室効果ガス削減に向けて「スコープ3」にも注目を

各企業が開示したデータを見ても、サプライチェーン全体の排出量において、スコープ3が占める割合は非常に高いことがわかる。単一の企業だけで排出量を見るのではなく、製品やサービスの流れ全体で、排出量をどう削減していくのかが今後の鍵と言えるだろう。

GHGプロトコルでスコープ3までを含めて数値を算定・開示することは、企業や個人の意識改革につながるはずだ。削減対象がより明確になる点も、非常に大きなメリットと言える。長期的な視野で環境負荷削減戦略や事業戦略を考える上で、策定のヒントとして活用できるだろう。

※掲載している情報は、2022年5月25日時点のものです。

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