世界には年間を通じて尋常ではない量の雨が降る場所が存在する。本記事では「国別の平均降水量ランキング」と「地点別の多雨エリア8選」を紹介し、なぜ特定の地域で極端に雨が多くなるのか、その気象メカニズムと多雨エリアを持つ代表的な国の水問題をサステナビリティの観点から解説する。

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World Bank データが発表する2022年の「世界の年間降水量 国別比較統計・ランキング」から上位20までをランキングで紹介する。(※1※2)
| 順位 | 国名 | 年間降水量(単位:mm/年) |
|---|---|---|
| 1 | コロンビア | 3,240 |
| 2 | サントメ・プリンシペ | 3,200 |
| 3 | パプアニューギニア | 3,142 |
| 4 | ソロモン諸島 | 3,028 |
| 5 | パナマ | 2,928 |
| 6 | コスタリカ | 2,926 |
| 7 | サモア | 2,880 |
| 8 | マレーシア | 2,875 |
| 9 | ブルネイ | 2,722 |
| 10 | インドネシア | 2,702 |
| 11 | バングラデシュ | 2,666 |
| 12 | フィジー | 2,592 |
| 13 | シエラレオネ | 2,526 |
| 14 | シンガポール | 2,497 |
| 15 | リベリア | 2,391 |
| 16 | ガイアナ | 2,387 |
| 17 | グレナダ | 2,350 |
| 18 | フィリピン | 2,348 |
| 19 | スリナム | 2,331 |
| 20 | セーシェル | 2,330 |
| 48 | 日本 | 1,668 |
| 87 | インド | 1,083 |
| 141 | オーストラリア | 534 |
ランキングから、パプアニューギニアやソロモン諸島などの島嶼(とうしょ)国やコロンビアや中央アメリカの一部など熱帯雨林国が上位にみられる。これらは、海からの湿った空気が山に当たって強い上昇を起こす地形効果や、熱帯収束帯、モンスーンなどの影響で大量の降水が継続的に供給されることが原因だ。
ただし、国別平均は国土の面積配分や山地・乾燥帯の有無で大きく影響される。先に挙げた多雨の条件に該当する国のなかでも、国内地域間の差によって平均が低く出ることでランキング下位に位置する国もある。
例えばインドは面積が広く地域差が大きいため、世界的に降水量の多いエリアを複数持つもののランキングは87位と低い。オーストラリアも世界的にトップクラスの多雨エリアを持つが、国内の大部分を乾燥帯が占めるため国別ランキングでは141位だ。「国別平均」はあくまで参考指標であり、国の一部が極端に多雨でも国全体の順位は下がることがある。
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地球上の降水分布は均一ではなく、局所的に高い降水量を示す地域がある。国別の平均値だけでは地域内部の偏在が隠れてしまうため、地点別データで見るとどうなのか。地上観測、衛星再解析、長期平均の期間などの観測方法によって数値が異なってくるため、ここではランキングではなく常に上位にランクインする8箇所を紹介する。
コロンビアの太平洋側に位置するチョコ県にある街。アンデス山脈と太平洋の間に位置しており、山岳化した地形と湿った海風がぶつかることで大量の雨を降らせる。常に多雨で、熱帯雨林に近い植生が広がっているのが特徴だ。年間平均降水量8,000~13,000 mmを記録し、過去に12,700 mmを超える降水量があったとされている。(※3※4※5)
マウシンラムはインド北東部のメガラヤ州にある集落。ベンガル湾からの湿ったモンスーンが山脈に当たり大量の降雨を生成することで知られる。しばしば「世界一雨が降る場所」と称されており、最大降水量(年間平均)11,872 mmを記録。(※6)ギネス世界記録にも記されている。(※7)
ハワイ・カウアイ島の中央にそびえる、標高約1570メートルの山。急峻な崖が海からの湿った空気を急速に上昇させ、雲をつくるため年間降水量が非常に多い。この山頂に降る大量の雨が恵みとなり、島には緑が溢れることから、カウアイ島は「ガーデン・アイランド」とも呼ばれている。(※8)最大降水量(年間平均)は11,684 mm。(※6)
マウシンラムと同じインド・メガラヤ州にある町で、伝統的に高降水量の記録が多数ある。過去には1860年8月~1861年7月の12ヶ月で降水量26,461mmを記録し、1861年7月の月降水量では9,360mmの世界記録を有する。(※9)
カメルーンの西海岸近く、カメルーン山麓に位置する。大西洋からの湿った空気の流入と山岳地形により多雨地域となっている。最大降水量(年間平均)は10,287mm。(※6)アフリカ大陸でもっとも降水量が多い場所とされている。
コロンビアの太平洋側に位置するチョコ県にある街で、Lloró(ジョロ・ロロ)に近い。太平洋沿岸に近く、赤道付近の湿潤気候と海風の影響で年間降水量が高い。最大降水量(年間平均)は8,991.6mm。(※6)
オーストラリア・クイーンズランド州の山岳地帯で、太平洋からの湿潤風と地形の組み合わせで大量の降雨があるのが特徴だ。最大降水量(年間平均)は8,034.02mm。(※6)
カナダのバンクーバー島にある面積15.45平方キロメートルのヘンダーソン湖。北米でもっとも雨量の多い湖だ。1997年には8,997.1mmという記録的な降水量を記録した。(※10)
ランキング上位の国や降雨量の多い地域にみられる多雨の原因は、大きく4つの自然条件の組み合わせで起こる。
①温かく湿った空気が常に供給される(熱帯モンスーン・熱帯雨林気候)
多雨地域は多くが熱帯にある。熱帯では気温が高く、海から大量の水蒸気が発生する。その水蒸気が赤道付近の強い上昇気流によって上昇し、上空で冷やされて凝結し雨雲が発生するメカニズムだ。
②モンスーン(季節風)の存在
モンスーンとは、季節ごとに風向きが大きく変わる風のこと。大陸と海洋の温度差から生じる。夏に海から陸へ湿った風が吹き、その湿った風が山にぶつかることで上昇気流が発生、集中的な豪雨につながる。
③風が山にぶつかる「地形性降雨」
山脈の風上側(風が当たる側)は雨が極端に多くなる。海から湿った風が吹くと山にぶつかり強制的に上昇、空気が冷えて水蒸気が雨になり落ちる。風下(山の反対側)は逆に乾燥する。
④熱帯収束帯(ITCZ)が長期間停滞する
熱帯収束帯(ITCZ)とは、北半球と南半球の貿易風がぶつかり、強い上昇気流が発生する帯のこと。年間を通じて雨雲が発生しやすく、赤道近くの「熱帯雨林気候」の主要な降雨源だ。
このように地形と大気循環が重なると降雨量が劇的に増え、同じ気候帯内でも局所的に年間数千ミリメートルの差が生じる。
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大量の降水は森林や湿地という生態系を育むとともに、人々の生活に欠かせない水資源をもたらしてくれる。しかし、それには適切な管理や有効的な活用が必要不可欠だ。ときには洪水や土砂災害などのリスクが恩恵を上回ってしまうこともある。
ここでは降雨量が多い国ランキング1位のコロンビアと、世界的な多雨地域をもつインドが抱える水問題についてみていこう。
世界トップの多雨エリアを持つインド。降雨量だけ目にすると水資源に恵まれているように思えるが、慢性的な水不足や大規模な洪水、水質汚染による安全な水へのアクセス難など多様な水問題を抱えている。
インドはモンスーン(雨季)に非常に多くの降雨を受ける地域がある一方で、乾季には著しい水不足に悩まされる二相性の気候構造を持っている。雨季に集中する降水量と、それ以外の季節での渇水のギャップが大きいため、水供給が季節的に不安定という問題を抱えている。(※11)
地球温暖化の影響でモンスーンのパターンが不安定になり、豪雨や洪水とともに、逆に干ばつの発生頻度も増していると報告されている。これにより、従来の降水パターンに基づいた水管理が困難になっている。(※12)
インドでは急激な都市化や人口増加、インフラの未整備・老朽化が水供給の大きな制約となっている。洪水を防ぐ能力が不十分な排水網や貯水施設の不足、地下水への過度な依存などが挙げられる(※13)。
また、政府の政策策定機関、インド行政委員会(NITI Aayog)が 2018年に発表した統計によると、インド全土で約 6 億人(全人口の半分)が深刻な水不足に直面しているという。また、飲料水へのアクセスが不十分であることが原因で、毎年約 20 万人の命が失われている(※14)。
インド行政委員会の報告書によると、インドの水の約7割が汚染されているという。その原因として、下水整備が進んでいないことから、廃水の3分の2が下水処理場ではなく、池や地下水などに直接流入し、汚染を拡大させているそうだ(※15)。
また、インドでは人口の約8割が地下水を飲料水として利用しているが、3分の1の地域で地下水に含まれるフッ化物や鉄、塩分、ヒ素が基準値を超えている。多くの人が飲料に適さない状態の水を日常的に接種しているのだ。(※16)
国別の降水量ランキングで1位のコロンビア。国全体の降雨量は豊富だが、それらの水資源は人々に恩恵を与えているのか。コロンビアが抱える水問題を見ていこう。
コロンビアは地形が複雑で、熱帯からアンデス山地まで多様な気候帯を持つ。豪雨や集中降水が起きやすいため、河川洪水、土砂災害、地すべりといった自然災害リスクが高い。2025年6月下旬には数日間にわたる大雨がコロンビアを襲い、広範囲にわたる洪水、河川の氾濫、多数の土砂崩れが発生した(※17)。
また、気候変動による影響も懸念される。2025年8月にはコロンビア東部、アマゾン地域等の広い地域で洪水が発生。ビチャーダ県では県都プエルト・カレーニョの約50%が水没し、県全体で1万5000人以上が被災した(※18)。
コロンビアの水の全流出量は世界平均の6倍、ラテンアメリカ平均の3倍もあり、国土全体の74%をカバーしている計算になる。しかし、人口の80%が居住するマグダレナ・カウカ地域およびカリブ地域の水の供給量は、全体のわずか21%だ。
また、気候変動の影響により、首都ボゴタをはじめ、エルニーニョ現象の影響で干ばつが続き甚大な水不足を引き起こす問題も発生している。コロンビア環境省の報告によると、1153万人の住民が居住する市町村では、乾季に水不足となる(※19)。
コロンビア農村部では、約3人に1人が適切なトイレを使えず、4人に1人が清潔な水を飲むことができない。汚水が原因で下痢による5歳未満の子どもの死亡例が少なくないという状況だ(※20)
世界の降水量ランキングで用いられる国別平均は、あくまで参考指標のひとつ。国土の面積配分や山地・乾燥帯の有無で大きく影響されること、国の一部が極端に多雨でも国全体の順位は下がる場合があること、さらには降水量の多い国でも水資源が潤沢であるとは限らないことにも注意したい。
紹介したインドもコロンビアも、多雨という一見“恵み“の面を持ちつつも、気候変動と人口増加により水リスクが複雑化している。雨季・乾季など季節性の強い変動、極端降雨、洪水・干ばつの頻度増加は、貯水や排水などの水管理の設計を再考させる必要がある。
両国とも水や土地やその他の関連資源の調整を図りながら開発・管理していく統合水資源管理(IWRM)と気候適応策が鍵となる。これらを整備し、そこに住む人々が安心して水とともに暮らしていくためには、行政や国際機関による協力が不可だ。(※21)
※1平均降水量(mm/年)|WORLD BANK GROUP
※2 世界の年間降水量 国別ランキング|GLOBAL NOTE
※3 Lloró(地球上で最も雨の多い地域)の存在について:低層ジェットによる海洋・陸地・大気の相互作用の強化|天体物理学データシステム(ADS)
※4 雨水を使ってファンドレイズ? コロンビアの”世界一湿った場所”で行われたコカ・コーラと住民の挑戦|トジョウエンジン
※5 コロンビア,チョコ地方でのアグロフォレストリー見本林造成|高屋敷元木
※6 世界の気象と気候の極端現象アーカイブ|世界気象機関
※7 世界一湿った場所、インド・マウシンラムの暮らし|AFP BBnews
※8 ワイアレアレ山 神秘に満ちた美しさを持つ、カウアイ島でもっとも高い聖なる山。|KAUAI100%
※9 チェラプンジ滞在記 村田文絵|公益社団法人 日本気象学会
※10 KNOWBC.com
※11 インドにおける水資源開発による洪水と干ばつの管理|WMO
※12 インドの水危機:気候変動が事態を悪化させている|GENVISS
※13 India’s Water Crisis: Why Climate-Resilient Governance is Urgent|ORF
※14 インドの水不足と気候変動対策~水不足問題の解決策としてのインパクト投資の広がりと水資源把握のための空間情報技術の利用可能性~|国際航業株式会社
※15 「史上最悪の水危機」 インドで6億人が水不足に直面、毎年20万人が汚染で死亡|産経新聞
※16 【活動レポート・ブログ】インド:7年後には人口の4割が安全な飲料水を得られなくなる|WaterAid
※17 Growing exposure and uncertain rainfall trends highlight the critical need for climate resilience in Colombia and Venezuela|World Weather Attribution
※18 南米コロンビアで何が起こっているのか?|UNHCR
※19 コロンビア環境省、国家水資源調査書2014を発表|水ビジネス・ジャーナル
※20 アンデス山脈やカリブの海、遺跡が点在するジャングルで知られるコロンビアは、世界で最も生物多様性に富む国の1つです。しかし、すべての人が水を使えるわけではなく、それはいまだ解決されていない問題となっています。|water Aid
※21 水資源に関する国際的な取組|国土交通省
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