世界の水問題とは? 現状や原因、日本の取り組みについて解説

落ちてくる水を手で受けるイメージ

Photo by Austin Kehmeier

世界では、水紛争や水需要の増加など、さまざまな水にまつわる問題が起きている。それらの大半は、水不足によって引き起こった問題だ。本記事では、水問題の現状や水不足の原因を解説。世界や日本の水不足問題解決への取り組みついても言及する。

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2023.09.26
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世界の「水」を取り巻く現状

安全な水が手に入りやすい日本では、“水の問題”と聞いてもイメージしにくいかもしれない。しかし世界では、水を取り巻くさまざまな問題が起きている。

水をめぐる紛争や対立

世界各国では、河川の上流地域での過剰取水や、上流地域での汚染物質排出による水質汚濁の問題、水の所有権の問題など、さまざまな要因によって水紛争が起きている。(※1)

アフリカでは2011年から開始したエチオピアのダム建設をきっかけに、エチオピア、エジプト、スーダンがナイル川をめぐって対立。ナイル川は、アフリカ大陸の北東部を流れる世界最長の大河であり、水需要をナイル川に依存している国も少なくない。
エジプトもそのひとつで、ダム建設に懸念を示し、ダムの貯水によりエジプトが深刻な水不足になることから、貯水を長期間で行うように要求するなど、スーダンとともに交渉を行なってきた。

しかし、2020年7月の貯水から1年後の2021年7月、エチオピアは再び貯水を開始。これにエジプトは反対の声明を出し、争いの禍根となった。
アフリカ以外でも、アメリカとメキシコもコロラド川の水の過剰利用と汚染をめぐり争うなど、世界中で水をめぐる紛争や対立が起きている。

水の需要が増加

日本では、少子高齢化による人口減少が懸念されているが、世界規模で見ると人口は年々増加している。

国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2023」によると、2023年の世界人口は80億4500万人で、初めて80億人に到達したそうだ(※2)。人口が増えるということは、水を使う人が増えるということ。つまり、年々水の需要が増加しているといえる。

地球温暖化による気候変動

地球温暖化による気候変動は、各地で大雨や干ばつといった異常気象を引き起こし、水の利用可能量に大きな影響をおよぼしている。

実際にインドでは、降水量が減少したことや、モンスーンの時期が変化したことで、水不足がさらに深刻化。主要都市でも、湖や河川の枯渇が始まっているのに加えて、すでに農村地帯では、畑への散水や家畜の飲料水確保がむずかしい状態になっているそうだ。
そのほか多くの国で、国家レベルの干ばつや洪水などの災害が発生し、たくさんの人や動植物が影響を受けている。

水不足問題で引き起こされる問題

世界の多くの地域では、水不足が深刻化している。ここからは、水不足で引き起こされる問題について紹介していく。

病気の蔓延

水不足は、多くの子どもの命を奪っている。

ユニセフ・WHOが発表した、報告書「家庭の水と衛生の前進2000~2022年:ジェンダーに焦点を当てて(※3)」によると、2022年時点で世界の人口の73%にあたる約58億人が安全に管理された飲み水を、そして18%にあたる約15億人が、基本的な飲み水を利用できている。しかし、9%の約7億300万人もの人が、限定的な飲み水や改善されていない水源、地表水を利用せざるを得ない状況だという(※4)。

安心して飲める水がない水不足の地域では、池や川、野ざらしの井戸など飲用に適さない水源に頼るしかない。泥や細菌、家畜の糞尿などが混ざった危険な水を飲まざるを得ず、とくに抵抗力の弱い子どもは、下痢や寄生虫による病気、慢性的な結膜炎を引き起こしてしまう。このように病気が蔓延することで、子どもをはじめとする多くの人々が命を落としているのだ。

食糧不足

水不足は世界的な食糧問題を引き起こすことも懸念されている。農業用水が不足するほか、温暖化による異常気象で干ばつが起き、作物の生産量が減少してしまう。

これは発展途上国に限った話ではなく、一部の先進国にも影響が出ている。近年、アメリカやロシア、オーストラリアといった穀物主要生産国でも、干ばつによる穀物生産への被害が報告されているのだ。

さらに、年々増えている世界の人口は、2050年には約97億3,000万人になると予測されており、水はもちろん今後多くの食糧が求められる。にもかかわらず、水不足がさらに深刻化してしまうと需要と供給がさらに合わなくなり、世界的な食糧問題が引き起こされる危険性がある。

子どもの教育機会損失

水不足の地域では、遠く離れた場所まで水を汲みに行く必要がある。この水汲みは、多くの家庭で、家事や労働ができない子ども、主に女の子の役割であることが多いそうだ。

家と水資源の距離はさまざまだが、炎天下の中、5リットルの水を求め毎日8時間を費やす子どももいるという(※5)。過酷な上に危険であることは言うまでもないが、この水汲みによって多くの子どもたちが学校へ行けていないことも問題だ。

子どもの頃に教育を受けられなかったことで、大人になっても十分な賃金を得られる仕事に就くことができず、貧困から抜け出すことができない人もたくさんいる。

水不足の原因とは

多くの問題を引き起こす水不足の原因は何なのだろうか。さまざまな理由が考えられるが、ここでは代表的なものを見ていこう。

気候変動

水不足の原因を語る上で、避けては通れないのが、地球温暖化による気候変動だ。

温暖化によって気温が上昇すると、海水面の温度が上昇し、大気中の水蒸気量が増える。水蒸気量が増加すると、世界平均で降水量も増加。しかしこれは世界に均等に降り注ぐのではなく、熱帯や高緯度では増え、亜熱帯では減るという(※6)。

日本や中国、インド、東南アジア、アフリカ、南米などで強い雨の頻度が上がり、洪水が発生することも。一方で、弱い雨の頻度は減り、干ばつの日数が増えてしまうそう。温暖化が進み気候変動が起きることで、水不足はさらに深刻化していくのだ。

産業の発展

工業や農業にも多くの水が使用されている。こうした産業の発展により、水の使用量が増えたことも水不足の原因のひとつである。
さらに産業の発展によって生活レベルが上がり、生活用水の使用量が増えたことも水不足を深刻化させている(※7)。

開発による水源破壊

限りある水資源が、きちんと守られていないことも水不足を引き起こしている。都市化による開発が進むことで、森林が伐採され、水を貯蓄する機能を持つ森がなくなってしまうなど、水源が破壊されているのだ。

世界の水不足問題解決に向けた取り組み

深刻化する水不足に対して、世界では解決に向けてさまざまな取り組みが行われている。

ユニセフによる取り組み

世界中のすべての子どもたちの命と権利を守るために、世界190カ国の地域で活動しているユニセフ。

水不足の地域にも清潔な水を届けられるよう、井戸などの給水設備を作成している。さらに衛生的な生活が送れるようにトイレを設置したり、正しい手洗いのやり方を広めるといった活動を実施(※4)。

安全な水や衛生面だけでなく、子どもたちの健やかな成長や、教育を受け、明るい未来に進んでいく機会もサポートしている。

ウォーターエイドによる取り組み

ウォーターエイドは、1981年にイギリスで設立され、約40年間にわたって、水と衛生分野に特化して活動してきた国際NGOである。

2021年時点で世界34カ国に拠点を置き、アジアやアフリカ、中南米など計26か国で、水と衛生に関わるプロジェクトを実施。
それぞれの土地で問題の根本的な原因を探り、それぞれに合った方法で、すべての人が清潔な水と適切なトイレを利用できるよう活動している(※8)。

支援のための寄付

井戸や給水設備、トイレ、手洗い施設などの設置には、設置する人員や必要な機械などを含め、多くの資金が必要だ。

ユニセフやNGO・NPOでは、そうした膨大な資金の寄付を募っている。寄付が集まることで、一箇所でも多くの水不足地域のサポートをすることができ、多くの人の命を救える助けとなれるのだ。

たとえその場に行って設置することはできなくても、資金をサポートすることで、水不足解決に向けた取り組みに参加することができる。

日本の水不足問題解決に向けた取り組み

日本でも、水不足問題解決に向けて取り組みを行なっている。政府によるものや、企業によるものなど、いくつかの事例を見ていこう。

アジア水環境改善モデル事業

環境省では、平成23年度から「アジア水環境改善モデル事業」を実施。

これは、アジア地域の水環境を改善していくことを目的として、アジア地域において日本の企業が持つ優れた水処理技術のビジネス展開を促進していく取り組みのこと(※9)。

日本の水環境は世界的に見てもいい状態であり、技術力の高さは世界からも認められている。他国へのビジネス進出という形で企業支援をすることで、水環境がよくないとされる国や地域の改善支援を行う狙いがある。

日本の水技術を世界に伝える

国際協力機構(JICA)は、先進国の支援により水インフラが整備されても、途上国内にインフラを維持管理する技術がなく、設備を持続できないといった問題に着目。水資源の安定的な供給を目指し、途上国の自立を促す能力構築を支援している(※10)。

たとえば、地方自治体や水道局、民間企業などから、水のスペシャリストをアドバイザーとして毎年途上国に派遣。それぞれの地域の水道事業の発展段階、課題に合わせて幅広い指導を行なっているのだ。そのほか政府開発援助(ODA)では、日本に研修員を受け入れて教育を行っている。

日本企業による取り組み

水問題に取り組んでいる日本企業も多く存在している。

日本コカ・コーラ株式会社では、日本各地の水資源保全を守る活動「い・ろ・は・すの森活」プロジェクトを実施。これは「い・ろ・は・す」の売上の一部を、日本各地で水資源の保全を行っている自治体・非営利活動法人(NPO)に寄付するというもの。そのほか製造においても、水の使用量の削減や排水管理を徹底するなど、水資源保護に取り組んでいる(※11)。

サントリーホールディングス株式会社では、「全世界の自社工場における水使用を半減させる」「主要な原料農作物の持続可能な水使用を実現する」など、水の持続可能性や気候変動対策などに向けて水の目標を設定。そのほか、森林所有者・地域住民などと連携した森林整備なども行なっている(※12)。

水不足問題解決のため積極的に行動を

安全な水を手に入れやすい日本では、水不足問題は自分ごととして考えるのがむずしいかもしれない。しかし、危機的状況ではないからこそ、水不足に苦しんでいる人のため、そして地球の未来のため、積極的に行動するべきではないだろうか。

ユニセフなどの団体に寄付することはもちろん、まずは世界で起きている水不足問題を知り、水を大切に使うことや汚染しないことなど、できることから始めてみよう。

※掲載している情報は、2023年9月26日時点のものです。

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