日本の「気候正義」が三角関係現象を巻き起こす⁈ 映画『ふつうの子ども』

ふつうの⼦ども

Photo by ©2025「ふつうの⼦ども」製作委員会

Movie Column いまいちばん観たい映画

同じ小学4年生のクラスに、グレタ・トゥーンベリさながらの同級生が現れたら……?「気候危機が大問題!」と言い放つ彼女に惹かれ、何がなんだかよくわからないながら彼女が言う「大人が悪い!」という共通認識のもと、暴走する三角関係と正義を描いた呉美保監督と高田亮脚本の完全オリジナルストーリーの映画が全国で公開中。

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2025.10.11

もしも日本の小学校にグレタさんがいたら……?

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Photo by ©2025「ふつうの⼦ども」製作委員会

主人公は全員10才の小学4年生。学校で出された「私の毎日」というお題で日記を書くという宿題に対し、グレタ風に大人を敵視した発表をする三宅心愛(瑠璃)と、そんな心愛に惹かれた上田唯士(嶋田鉄太)。距離を縮めようと心愛に近づく唯士の間に、イタズラ好きで奔放だが、なぜか人気のある橋本陽斗(味元耀大)がちょっかいを出し始めると、「気候危機」は思わぬ三角関係という新たな問題を引き起こす。

言うまでもないが、心愛のモチーフは、2018年にスウェーデン議会前で、「気候のための学校ストライキ」を掲げて座り込みを始め、一躍有名になったグレタ・トゥーンベリ。同年には国連気候変動会議で“How Dare You !(ありえない!)”と言い放ち、大人たちの無責任さを猛烈に非難した映像が世界中に拡散され、現在の世界的な気候正義運動を牽引したあのグレタだ。

脇を固める子ども演者たちの味がこれまたいい。心愛のように美しく知的で自立した(ように見える)女の子を仲間外れにしようとする女の子3人組、ふだんは仲がいいのに不穏な空気を察するとしれっと離れていく男子友達、唯士が心愛に絶賛片思い中なのを知りながら、何があってもそばにいて一途に思い続ける女の子……。演技しているとは信じられないほど、それぞれのキャラクターをナチュラルにこなし、何なら笑いを誘ってくる。

“ありのままの子どもを描きたい”という欲が炸裂した大人たちの念願の作品づくり

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Photo by ©2025「ふつうの⼦ども」製作委員会

「もしグレタが小学校の同じクラスにいたら?」「その子のことを好きな男の子がいたら?」。そんな突拍子もないがユニークな発想を思いついたのはプロデューサーの菅野和佳奈氏だ。そして呉美保監督と脚本家の高田亮氏に本作の映画制作を持ちかけた。二人ともそれぞれ「ありのままの子どもを描きたい」という思いを抱えていたところだった。

子育て中の高田氏は、子どもたちが公園という同じ空間にいるのに、それぞれ好きなように遊んでいて、見ているだけで飽きないという世界に影響を受け、「それを映画にしたら面白いものになるんじゃないかな」と思っていたそう。さらに、「1960〜70年代の学生運動や連合赤軍の事件にも興味があって、何らかの志を持って活動を始めたはずの集団が当初の目的から離れて仲間割れしていく物語をやりたいと思っていた」ことから、「この企画ならその両方を描ける」と考えた。

「正義」のもと過激化する危うさを、「ギャングエイジ」と呼ばれる10歳の子どもたちのコミュニティで描かれると、大人である筆者は何だか胸がえぐられた。

子どもも大人も楽しめる<リアリズム×エンタメ>な映画

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Photo by ©2025「ふつうの⼦ども」製作委員会

世界の気候正義活動が過激化しているかとも思えないが、「この映画は何が言いたいんだろう? でも気づいたら、胸がギューってなって、ボロ泣き寸前で堪えているんですけど…。一体なんなの、この映画…」。これが観終わった時の率直な感想だった。

でも、これは仕組まれた監督の策略で、技術部隊たちの巧妙な技によるものだった。ストーリーはもちろん、視線や子どもたちの動き、音、服装、場所など些細なところにも注目してみてほしい。

とくに画と音に関して呉監督は、「映画の全カットの画と音をバラバラにして、ひとつひとつマッチングを試しながら繋いでいます。編集はもう過酷な修行のようでした」というのだから、映像制作に対する執着には頭が上がらない。

呉監督も高田氏も、子どものリアルを描きたいのではなく、リアリズムとエンタメの両立(エンタメのなかにはリアリズムが必要)を意識しているのだ。そして、油断をしてはいけない。「それで、大人は?」という問いは突然やってきて、一気に他人事でなくなり、展開に釘付けになるはずだ。

ふつうの⼦ども

『ふつうの子ども』96分/日本/2025年/フィクション

同じ小学4年生のクラスに、グレタ・トゥーンベリさながらの女子生徒が現れたら? 何がなんだかよくわからないながら彼女が言う「大人のせいで気候危機が大問題!」という共通認識のもと、暴走する三角関係と正義を描いた呉美保監督と高田亮脚本の完全オリジナルストーリー映画が全国で公開中。

監督:呉美保(『そこのみにて光輝く』2014、『きみはいい子』2015)
脚本:高田亮(『そこのみにて光輝く』2014、『きみはいい子』2015)
製作幹事・配給:murmur 
9月5日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式サイト:https://kodomo-film.com/index.html

執筆/稲垣美穂子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2025年10月11日時点のものです。

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