Photo by ©2025 GODOM 沖縄
9年前、沖縄県が沖縄県民45万人が飲んできた水道水にPFAS・有機フッ素化合物が含まれていると発表。息子に水道水でつくったミルクを与えていた監督が怒りから水を追い始め、世界の至る所で汚染問題の解決を求め立ち上がったウナイ(女性たち)との出会いを通じて、希望を見出そうと懸命に立ち向かう。8月16日より公開。
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すべては2016年1月に流れた沖縄県による記者会見のニュースから始まった。
「PFOSが北谷浄水場の水源である比謝川や嘉手納井戸群において、高濃度で検出され、発生源は嘉手納基地である可能性が高い」。水道水が汚染されている。
でも、「PFOSって何?」
ニュースを見ていた平良いずみ監督は調べ始めた。すると、発がん性や胎児への影響が書かれているのを目にし、不安と怒りで一杯になった。出産したばかりで、水道水でミルクをつくり、子どもに与えていたからだ。
「我が子に毒を飲ませてしまったのではないか」。当時、放送局で働いていた平良監督は国内外の水を追いかけ始めた。そして国内外の各地でPFAS汚染に立ち向かう女性たちと出会い、5年かけて映画化した。
本作は知ることのなかったどこかで暮らす母親たちの奮闘を知らせ、私たちと彼女たちの奮闘を繋いでくれるだけではない。「どこにでもある水の話」を通じて、歴史背景、社会問題を包括的に可視化し、連鎖する日本社会が抱える問題の根幹を突きつける。
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有機フッ素化合物の総称を「PFAS(ピーファス/Per and Polyfluoroalkyl Substancesの略)」と呼び、「PFOS(ピーフォス)」や「PFOA(ピーフォア)」はその一種だ。OECDの定義で4,730種類以上あるPFASのなかでも、これら2種はとくに問題視されている代表的な物質で、現在は国際条約 POPs条約の新規製造、輸入の禁止対象となっている。
基本的にPFASは水や油をはじく特性から、焦げ付かないフライパンや防水スプレー、半導体、泡消化剤などあらゆる生活用品に使われてきた。PFOSは耐熱性、耐薬品性があるため、金属メッキ処理剤や半導体、液晶ディスプレイ、泡消化薬剤、界面活性剤、殺虫剤などに使われてきた。2010年には日本でも使用・製造が禁止されている。しかし、「かつて工場製品などで広く使用されていたことから、残留汚染は依然として大きな問題」だ。
PFOAは撥水性に優れ、繊維製品、医療機器、食品包装紙、フローリング、防護服などに使われてきた。2013年までに国内メーカーでの使用は全廃、2021年に製造・輸入が原則禁止となった。
PFASは、発がん性など人体への有害性が指摘され、世界ではその毒性から規制が進んでいる。本作ではこの規制状況の違いも浮き彫りにしている。
近年、アメリカでは2024年よりPFOS・PFOAそれぞれ1リットルあたり4ng/L、ドイツでは2028年から双方の合計が1リットルあたり20ng/Lとされる中、日本は、合計で50ng/Lとする暫定目標値を設定している。さらに、日本政府は血中濃度の基準について、「知見が不十分」だとして値を定めていない。
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本作を通じて、各国でこれほどPFAS汚染が引き起こされ、汚染した米軍や企業の責任は問われないまま、ガンを患いながら闘い続けている人たちの多さに驚きを禁じ得ない。
仲宗根由美さんは「自分の身に公害が起きている」と訴え、検査におよび腰の行政を変えるために立候補した。「汚染物質を体内に取り込むと、私の母体よりも胎児のほうに多く、その物質がいくという話があり、とても大きな不安を感じました。お母さんたちにも知らせないといけない」と動き出したきっかけを語る。第三子出産後は、「この子たちの心身の健康が脅かされるようなことがあったら、黙ってはいられないという気持ちになりました」。
日本には「日米地位協定」があり、国内法は基地には適用されない。そのため発覚から9年経つ現在も、米軍は立ち入り調査を拒み続けている。立ち入り調査できない沖縄で、彼女の闘いは続く。
一方、同じくアメリカ軍が大規模に駐留するドイツ・アンスバッハ市でも基準を上回るPFASが検出されていたが、アメリカ軍は認め、費用も負担し、最新の浄化設備の運用を開始。軍自ら汚染浄化を進めていた。
2013年、イタリア・ヴェネト州では、30万人に供給されてきた水道水からPFASが検出された。世界最大規模の汚染で、50年にわたりPFASを製造していたミテーニ社の工場が汚染源だとされた。地域で行われた血液検査で、娘の血液濃度が高いことにショックを受けた看護師のミケーラ・ピッコリさんは「Mamme No PFAS」を結成。健康被害を訴える母親たちが立ち上がっていた。
本作では、浄化のための費用負担が問題になっていることや、ヴェネト州・ビチェンツァ県は倒産したミテーニ社を管理してきた複数の企業に対し負担を求めていることなどを紹介している。
本作完成後の今年6月、ビチェンツァ地方裁判所は、同社の親会社だった三菱商事の元関連会社で取締役などを務めていた日本の責任者3人を含む11人に拘禁系2年8カ月から17年カ月の有罪判決を下した。彼女たちの取り組みが実を結んだ。
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80年前に島は占領され、次々とアメリカの基地が建設された。奪われた土地、その多くが島の貴重な水源の上につくられた。
「やっと生きて、ここまでたくさんの人の知恵と生命力、力強さで、基地があろうと乗り越えて復興したのに、その土台である水が汚染されたというのは、耐えがたいアメリカ軍の仕打ち」であり、「この水の問題は沖縄戦の思いからつながっている」と語るのは宜野湾市でカフェを営む町田直美さんだ。
「沖縄の子だけこんな理不尽なことを当たり前に押しつけられなきゃいけないのかなって。悔しいですね。誰にとっても子どもは宝なはずなのに……」。
長年PFASの有害性について研究を続けている京都府立大学の小泉昭夫教授は、「PFASは分解しないため50年間残り続ける」と教示した上で、「基地とサトウキビ畑しかなく、産業廃棄物が無かった時代、このPFAS汚染は1980年代からスタートしていたと確実に言える」と断言。
熱や腐食に強いPFASは、原子爆弾のコーティング剤としても使われた。PFASがあったからこそアメリカが開発に成功できた兵器だ。広島市内を流れる川からもPFASが検出された。川の上流にはアメリカ軍の弾薬庫があり、近くの井戸から検出されたのは極めて高いPFAS15000ng/L(米国規制値の3750倍)が検出され、周辺の20世帯は汚染された井戸水を飲んでいた。
この地域に暮らし、80年前に被ばく者の女性は「原爆が落ちた時と一緒。なんでこう2回もやられんといかんのかね」と憤る。
自分の暮らす街の水が同じように汚染された時、私たちは彼女たちのように立ち向かうことができるだろうか。いま起きている環境汚染は決して他人ごとではないことをウナイたちは示している。今度は私たちが応える番だ。
『ウナイ 透明な闇 PFAS汚染に立ち向かう』106分/日本/2025年/ドキュメンタリー
2016年、沖縄県が県民45万人が飲んできた水道水にPFAS・有機フッ素化合物が含まれていると発表。生まれたばかりの息子に水道水でつくったミルクを与えていた監督が、各国で水汚染に立ち上がったウナイ(女性)たちと出会い、希望を見出そうと懸命に立ち向かう物語。8月16日より公開。
監督=平良いずみ
プロデューサー=山里孫存・千葉聡史
音楽=半野喜弘
撮影=大城学・赤嶺信悟
編集=田邊志麻・山里孫存
構成=渡邊修一
製作=GODOM沖縄
製作協力・配給=太秦
文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
【2025 年/日本/ 16:9 / 106 分】
©2025 GODOM 沖縄
8/16(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
7/26(土)より沖縄・桜坂劇場にて先行上映
https://unai-pfas.jp/
執筆/稲垣美穂子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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