Photo by ©2023 Another Perfect Meal, LLC. All Rights Reserved
昨年12月に公開し、現在も上映中の『フード・インク ポスト・コロナ』は、これまで可視化されなかった食品業界を牛耳る大企業の独占、移民労働者の搾取・虐待、「超加工食品」による人体への影響や印象操作など、パンデミックで浮き彫りになった社会問題に光を当てていく。私たちの環境と生態系に関わる根幹的な問題を提起する秀逸作!
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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前作『フード・インク』(2009年)は、巨大食品企業や農業問題の闇を暴きながら、オーガニック・フードの本当の価値を訴えたドキュメンタリー映画だ。アメリカのファストフード業界の歴史的背景や裏側、モンサントの遺伝子組み換え作物、砂糖や加工食品、政治と企業の癒着など、長年見過ごされてきた食品業界のタブーに迫り、大ヒットとなった。
ロバート・ケナー監督とメリッサ・ロブレド監督は「『フード・インク』の続編を製作するつもりはなかった」と口を揃えて話す。「『フード・インク』製作当時、私たちは食べ物がどうやってつくられているか見てもらえれば、少しずつ食料システムを変えられると考えていました」。
現に、前作の公開以降、人々は食に関心を寄せるようになり、アメリカではフード・ムーブメントが起きた。今ではスーパーでオーガニック食品や牧草牛、非遺伝子組み換え食品が並んでいることも珍しくはなくなり、そうした価値観に沿った供給システムも夢ではないと思われた。
しかし、二人は「前作から15 年経って、エシカル消費だけでは太刀打ちできないことがはっきりしました。意義ある変革には、食品業界を支配しているひと握りの巨大で強力な企業を解体する必要があります」と指摘する。
「2020年に食肉加工工場が新型コロナ感染のホットスポットとなり、全米が突如食料不足に見舞われました。きっかけはパンデミックでしたが、この映画は野放しの独占力や、労働者や消費者、ひいては世界にもたらす危険など、食料システムにおける主要な問題をより幅広く追求するものになりました」。
前作でも重要な提言をしたジャーナリストで『ファストフード・ネイション』や『ファストフードが世界を食い尽くす』の著者、エリック・シュローサー氏は今回も登場。「食やフードシステムに携わったのは、アメリカの労働者問題への探究心だ」と話す彼は、本作で、パンデミック時にフロリダ州政府が労働者の救済措置を執らなかったことや、収穫量を維持するために感染者や接触者の追跡を中止したことなどを例に挙げ、今なお横行する労働者からの搾取や虐待の問題に触れている。
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ケナー監督は言う。「『フード・インク』では糖分や塩分、脂肪の害について取りあげましたが、『フード・インク ポスト・コロナ』の段階で新事実が発覚しました。糖分や塩分、脂肪の摂りすぎが良くないだけではなく、製造方法にも問題があったのです。それらを組みあわせて“超加工食品”とすることで、より害のあるものができあがります。これが新しい情報です」。
「超加工食品は脳に影響します。何を食べるかを決める配線を変えてしまうのです。収益性がとても高い食品なので、企業は人工脂や人工甘味料が健康被害を起こすかもしれないとわかっても、製造をやめません。売れるのですから」。
映画のなかでNY大学食品研究公衆栄養学のマリオン・ネスル名誉教授がインタビューに応じている。社会における重要な問題を調査してきた彼女だが、それは「“食”が教えてくれる」と話す。
ファストフードが世界中に展開されたのは、1980年代までに、一人あたり一日のカロリー摂取量が4,000カロリー(一日に必要とする2倍のカロリー)に上るほど、アメリカの農業生産が急増したことに対して、食品メーカーが慌てて策を練ったことに起因する。食べ物をたくさん供給するために、手軽で安価なファストフードが生まれたというわけだ。
「人は大量の食べ物を与えられると、少量を与えられた時より多く食べてしまうことが、あらゆる研究で示されている。いつでもどこでも大量に食べさせようとするというのは、必要以上の食べ物を売るにはベストな方法」なのだ。
1980年代、サンパウロ近郊で小児科医をしていたサンパウロ大学公衆栄養学のカルロス・モンテイロ教授は、「当時と比べると子どもの栄養失調は減少している一方、肥満が増している」と指摘する。調査をすると、肥満の原因になる塩、油や砂糖の購入量が減っていたことに着目。
頭を抱えたカルロス教授だったが、「米や豆など昔からの自然食品の消費が、清涼飲料水やスナック菓子、ソーセージ、インスタント麺などに置き換わっていることがわかった。このような栄養素と添加物を調合した食品には、着色料や香料、乳化剤、人工甘味料などが入っている。このような化学化合物が人体に与える影響は未知だ。こうした食品は徹底的に加工される」として、この食品群を「超加工食品」と呼ぶことにした。
そして、「超加工食品の摂取が糖尿病などの慢性疾患の原因ではないか」という仮説を立てた。メリーランド州ベセスダにあるアメリカ国立衛生研究所のケビン・ホール主任研究員が、この仮説を検証すると、「超加工食品」を食べた人たちのほうが一日500カロリー多く食べたのだ。この結果には前述のマリオン名誉教授も驚いた。
イェール大学精神医学のダナ・スモール教授も証言する。ダナ教授は、食品を口にした時の神経画像検査を行い、食品と脳(食品がもたらす快感を伝える部位)の報酬系の関連性を調べる専門家だ。
ダナ教授の研究に関心を示したペプシ社は「満足感を失わずに砂糖入りの飲料のカロリーだけを減らすことは可能か」と検証を依頼した。当初、もっとも高カロリーの飲料がもっとも好まれると予想したが、実際は甘さとカロリーが釣り合ったものがもっとも好まれた。
「自然界では甘さとカロリーは安定した関係にある。だから栄養成分を無視し、感覚情報を操作すると釣り合いが取れない」ことがわかり、さらにダナ教授は実験を続けた。すると、驚くべき事実が判明する。
甘さがカロリーと釣り合った時に、体はそのエネルギーを代謝するが、カロリーに対して甘すぎたり、甘さに不足があると、体の代謝能力が落ちてしまうことがわかったのだ。こうして余分になったカロリーは、脂肪に変換されてしまう。つまり、「人工甘味料を加えてカロリーを減らすと人体に害をもたらす可能性がある」ことが明らかになったのだ。しかし、ペプシ社に結果を報告したが、受け入れられなかった。
前作にも登場した『雑食動物のジレンマ』の著者であるマイケル・ポーラン氏は、「食品科学の発展によって、脳を欺くことに成功した」と話す。
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もちろん、悪い話ばかりではない。本作では、周りから奇異な目で見られてしまうような人々の奮闘も取り上げている。
パイオニア社の代理店を辞めて、代替システムの構築に挑戦する農家や、工業的な食料生産の最盛期に生態系をズタズタにする漁の仕方に嫌気がさして、海を守りながら養殖を再生できるか一人で奮闘する漁師の姿には釘付けにさせられる。
海の環境を守りながら養殖を目指す漁師のブレン・スミスは、産業の行方の重要性を指摘する。「400ヘクタールの農地を数社が所有するか。4ヘクタールの農地を何千の農地が所有するか。成功の鍵は大勢による実行だ。統合ではない。もっといい方法があるはずだ」と語る。
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一方で、植物由来の食事への移行に伴い、フードシステムでの動物の置き換えによって、今ある食肉の代替品を生産する会社の人々や取り組みも紹介されるが、やはりこれには疑問が残ることにも触れている。
そして、労働者たちの市場支配力を持つ大(人気)企業との対決、消費者、農園CEO(経営者)や政府の変化にも注目だ。フロリダにおける労働者の人権を保護するフェアフード協定やこうした動きが労使関係のモデルになりつつあること、南アメリカにおける超加工食品摂取を減らそうとする動きなどの先進的な事例も映し出される。
シュローサーは、別な視点から問題を提起する。
「ひとたびシステムが社会や環境に押しつけている途方もないコストが明らかになれば、変化の大きな動機となるでしょう」。そのうえで、「変化には時間がかかります。苛立つこともあるでしょう。課題は、健康的でサステナブルに生産された食品をどうやってほとんどの米国民の手が届くようにするかということです。絶対にできるはずです」。
パンデミック後のアメリカの食を通じた社会課題とその解決策のヒントが盛り沢山。映像もわかりやすく工夫されていて、あっという間の一時間半だ。ぜひ劇場で観てほしい。
『フード・インク ポスト・コロナ』
2023年/94分/アメリカ/ドキュメンタリー
いままで可視化されなかった巨大食品企業の市場独占、経済格差、移民労働者の搾取などパンデミックで露呈した社会問題に光を当てる。“超加工食品”による健康被害などの新事実も、研究者の証言によって明らかに。一方で、持続可能な未来を目指す農家や漁師も登場。“食”を通じて真実に迫る秀逸作!
製作・監督:ロバート・ケナー、メリッサ・ロブレド
音楽:マーク・アドラー
出演:エリック・シュローサー、マイケル・ポーランほか
配給:アンプラグド
12月6日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
https://unpfilm.com/foodinc2/
執筆/稲垣美穂子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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