食べ方を変えれば社会が変わる! 映画『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』

アリス・ウォータース

Photo by ©2024 アリス映像プロジェクト/Ama No Kaze

Movie Column いまいちばん観たい映画

予約の取れないレストラン「シェ・パニース」のオーナーで、オーガニックの母と呼ばれるアリス・ウォータース。世界中の料理人と教育者に影響を与える彼女が信じる「おいしい解決策」とは?

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2024.12.04

どう食べるかが人と社会をつくる

食べることは生きること

Photo by ©2024 アリス映像プロジェクト/Ama No Kaze

長年環境先進都市を目指し、近年、「オーガニックタウン宣言」をした京都府亀岡市。教育関係者や農家が、同市を訪れたアリスの言葉に耳を傾けた。

「1950年以前は地球に生きるすべての人がオーガニックでローカルのものを食べていました。アメリカではコーヒー、紅茶、スパイス以外は、輸入も全くしていませんでした。地球上すべての人がみな、そういうふうだったのです。たった60〜70年前のことですよ」とアリスはやさしく語り出す。

彼女が食の世界に惹かれたのは、「1965年にフランスに住み、人々の生き方、食べ方に魅了された」からだと言う。その後、アメリカに帰国した彼女は、1971年にカリフォルニア州バークレーで「シェ・パニース」を開業。1995年には、地元の公立中学校に「エディブル・スクールヤード」(食育菜園)を創設。校庭で野菜を育て、鶏を飼い、調理して、食卓を囲むことをカリキュラム化した。「誰もが食べるし、学校に行くから」だ。現在に至る半世紀にわたり、「どう食べるかが人と社会をつくる」と説いてきた。

そして、2023年秋、彼女の集大成となる書籍『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』(海士の風)の出版一周年を記念して来日した。本作は、その様子を映したものだ。

社会や地球を健康にしてくれる“おいしい”解決策とは

食べることは生きること

Photo by ©2024 アリス映像プロジェクト/Ama No Kaze

アリスは島根県、徳島県、京都府など、日本でスローフードを実践する人々や学校の給食を食べる子どもたち、生産者を訪ね食事をともにし、生産者とのつながりを大切にしている料理人と触れ合っていく。

彼女の来日に際し、「海士の風」代表の阿部裕志氏、「スローフード宣言」翻訳者の小野寺愛氏などが来日プロジェクトチームを結成。撮影・編集の田中順也監督と本作ナレーターを担当したモデルの長谷川ミラ氏が運営するjamが制作を担当した。

彼らはアリスとともに、日本と彼女の拠点であるカリフォルニア・バークレーを回り、「おいしい革命」の探求へと向かった。彼女が発する力強い言葉と、人々に日本の「美しさ」を再確認させるのを目の当たりにした来日プロジェクトチームは、「この機会を自分たちだけで独り占めしてはもったいない」と考えるようになった。

「アリスが日本を旅するなかで見たもの、聞いたこと、味わったもの、気づいたことを余すところなく記録し、観る人の五感に響く映像をつくりたい。そして、アリスの思想や、各地域での実践を次世代につなぐことができたら………」。

そうした願いから、クラウドファウンディングによって592人から支援され、本作が完成した。田中順也監督は「自分の健康はもちろん、“社会や地球の健康も解決してくれるおいしい解決策とは?” そんなことに焦点を当てながら紐解いていく映像になりました。私たちの生活に密接な関係を持つ“食”という普遍的なテーマなので、この映画を観終わった方々が、それぞれ自分に置き換えて、何かを考え始めるきっかけの一つになってほしい」とメッセージを寄せている。

生産者こそ気候変動を防ぐ土地の守り手

食べることは生きること

アリスがマーティン・ルーサーキングJr.中学校の校庭で始めたエディブル・スクールヤードで、長谷川ミラ氏がアリスに「自分ごとにするには?」と切り出す。

アリスは本のタイトルを“We Are What We Eat(食べることは生きること)”にした理由について、「何を食べるか、一つひとつの食を選ぶこと、決めることは自分たちの健康、そして地球の健康を良くすることにもつながるし、悪くしてしまう原因にもなるから」だと言う。だから、「食べるときに、どのような決断をするのかは、いま本当に大切なこと」なのだ。そして、「いまがチャンスです。教育の危機が目の前にあるのだから」とアリスは言う。

彼女が学校支援型農業(SSA)というコンセプトに思い至ったのも、「学校が給食のために持つたくさんのお金で、大地を守ってくれる地域の農家から食材を買えば、子どもたちに栄養たっぷりの食事を与えながら、空気中の炭素を地中に固定することもできる」からだ。

それには、「その年の作付けが始まる前に農家に約束する必要があります。『畑にできるものを全部、実際にかかる金額で買い取りますよ』ってね。その約束が、農家のやるべき仕事に保証を与えます」。このように、彼女の信念である「ファーマーズ・ファースト(農家が一番)」の徹底が、持続可能な社会へとつながっていくのだろう。

土地を守る人から食べ物を買うことは、国の未来を守ること

食べることは生きること

Photo by ©2024 アリス映像プロジェクト/Ama No Kaze

実際に「シェ・パニース」に野菜を届け続ける「セブン・ムーンズ・ファーム」のロス・カナダ氏もこう話す。「シェ・パニースのようなレストランと一緒にやっていけば、ちゃんとできるし、続けていけます。店からドライバーも来てくれるから配達もせずに済みます。農家の私たちは野菜づくりに専念できるという素晴らしいサイクルがあります」。

一方で、「多くの農業が巨大なアグロビジネスの上に成り立っている」としたうえで、「とてつもなく大きい、グローバルな問題だとは思うんだ。課題の大きさだけは心に留めながら、地域内で食べようと思うのは素晴らしいこと。コミュニティのためにも、地球の未来のためにも、みなが地域内で生態系をつくらなくちゃ」と話し、農家の立場から個人でできることにも触れている。

食との関わりを見直すことが社会に及ぼす影響とは

本作は「食と関わり直すことで、社会に働きかけることは可能なのか?」 という問いを投げかけている。アリスと日本でスローフードを実践する人々や生産者との出会いや関係性に触れると、自分自身と食と自分とのつながりを改めて考えるきっかけになるはずだ。いまからでも遅くはない。ぜひアリスと一緒に「おいしい革命」を探究する旅に出かけてみてほしい。

『食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~』
2024年/66分/日本/ドキュメンタリー
全米で予約の取れないレストラン シェ・パニースの創始者であり、オーガニックの母と呼ばれるアリス・ウォータース。彼女の集大成となる書籍『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』(海士の風)の出版一周年を記念して来日したアリスが、日本でスローフードを実践する人々を訪ね、「おいしい革命」の探究へと向かうドキュメンタリー。食べ方を変えれば、人の価値観、そして社会が変わる!

監督・撮影・編集:田中順也
プロデューサー:長谷川ミラ、田中順也、阿部裕志、小野寺愛
出演:アリス・ウォータース 他
制作:jam
製作:海士の風
字幕:小野寺愛
配給:ユナイテッドピープル
https://unitedpeople.jp/alice/

12月10日は、スローフードに関わる生産者、食のコミュニティ、料理人などが世界中で祝賀する「テッラ・マードレ・デー」。そこで、配給会社ユナイテッドピープルは12月1日〜12月10日にかけて、一斉上映のキャンペーンを実施する。全国の上映情報など詳細はこちら

執筆/稲垣美穂子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2024年12月4日時点のものです。

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