環境と健康へ影響を与えるPFASとは? 世界や日本の規制現状について解説

水道水に含まれるPFASのイメージ

Photo by Sasikan Ulevik

PFASとは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称。環境や健康に影響を与えるとして、世界中で規制が進んでいる。本記事では、PFASのリスクや日本での規制の現状、国際的な取り組みについて解説。消費者ができることについても言及する。

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2025.01.23
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PFASとは

化学物質のイメージ

Photo by Ayush Kumar on Unsplash

PFASとは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)の総称のこと。一口にPFASといっても、1万種類以上の物質があるとされている(※1)。

薬品に強い、燃えにくい、電気を通さないなど多くの特徴を持ち、暮らしや産業においてさまざまな場面で活用されている物質である(※2)。

便利な一方で、PFASは分解しにくい性質があるため「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれ、自然環境中に長く残留することによる水質汚染や、それによって人体に与える影響が指摘されている(※3)。

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PFASが使用される主な用途

テフロン加工されたフライパンのイメージ

Photo by Andrew Valdivia on Unsplash

炭素原子とフッ素原子の結びつきを持つPFASは、熱や薬品、紫外線に強い、水や油などの液体をはじく、粘着力が小さい、電気を通しにくい、光の屈折が少ないなどといった、さまざまな性質をあわせ持つ。

焦げ付きにくいフライパンの表面処理剤(例:テフロン)や、靴や衣類の撥水加工剤、ピザやハンバーガーなどの厚紙箱や包装用紙、自動車のコーティング剤、消火剤など、身近なものにも幅広く使用されている(※4)。

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PFASが与える環境と健康への影響

PFASは生活や産業で活用される一方で、環境と健康への影響が指摘されている。

とくに、PFASの一種であるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、化学的にきわめて安定性が高く、難分解性であることから、仮に環境への排出が継続した場合には、長期的にわたって環境中に残留すると考えられている。それによって、環境や食物連鎖を通じて人の健康や動植物の生息・生育に影響をおよぼす可能性が指摘されているのだ(※5)。

代表的な影響について、解説していく。

環境への永続的影響

PFASは、熱や薬品、紫外線に強い、水や油などの液体をはじくなどの性質を持つ一方で、分解しにくい性質がある。そのため、自然界に一度放出されると長く残留し、半永続的に環境に影響を与え続けることになる。

生態蓄積性と生物への影響

PFASは、その環境残留性や生態蓄積性から、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれている。

人間だけでなく、動物や魚など、地球上すべての生態系へ長期的な影響をおよぼすとして、世界各国で規制が行われている。

人体への健康リスク

さまざまな人体への健康リスクが指摘されているが、そのひとつが発がん性である。世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)は、2023年12月の発表で、PFOAの発がん性を「可能性がある」から2段階引き上げ「ある」に認定。PFOSについても、新たに「可能性がある」の分類に追加された。

また、PFASはホルモンの働きを阻害すると考えられており、甲状腺疾患や生殖機能の異常、肥満、心疾患などのリスクを高める可能性がある。そのほか、免疫機能の低下なども指摘されている(※6)。

飲料水や地下水の汚染

飲料水をボトルに注いでいるイメージ

Photo by Bluewater Sweden on Unsplash

自然環境へ放出されたPFASは、分解されずに残留することで土壌へ入り込む。さらに地下水へ流れ、その後水道水へと汚染が広がっていく。

実際に日本国内でも、東京・多摩地域や沖縄県内で、水道水に使用している井戸水から基準以上のPFASが検出された事例もあり、私たちの飲み水にまで影響がおよんでいるのだ(※3)。

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PFASを取り巻く規制と国際的な取り組み

ここからは、PFASに関する規制や国際的な取り組みを紹介していく。

ストックホルム条約とPFOS・PFOAの規制

ストックホルム条約とは、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」のこと。環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の、製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約だ。

このストックホルム条約において、PFOS・PFOAは規制対象となる化学物質に指定されており、PFOAは附属書A(廃絶)の項目に、PFOSは附属書B(制限)の項目にそれぞれ分類されている(※7)。

各国の水質基準や使用制限

世界保健機関(WHO)は、2022年9月、PFOS、PFOAそれぞれ飲み水1リットル当たり100ナノグラム、すべてのPFASで同500ナノグラムとの暫定的な基準値を提案した。

アメリカでは、同年に飲み水に含まれる代表的2物質の上限を、それぞれ1リットル当たり4ナノグラムという、世界一厳しい基準を設定している(※8)。

2023年には、欧州の化学物質管理規制であるREACH規則において、PFASを規制する提案が、デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの5つの当局から共同で欧州化学品庁(ECHA)に提出、公表された(※9)。

新たな代替物質の研究と開発

PFASが環境や生態系に影響を与えることから、世界中でPFASの代替物質の研究と開発が進められている。

しかし、すべての面でPFASと同等な代替材料を見つけることは困難とされており、耐熱性や耐薬品性など、特定の機能や性能のみに着目するならば代替材料を見つけられる可能性があるという(※10)。

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日本のPFAS規制の現状

輸入のイメージ

Photo by Big Dodzy on Unsplash

非常に多くの種類があるPFASのなかで、PFOS、PFOA、PFHxSの3種類は、自然や人体の中で分解されにくい、体外に排出されにくい、健康に悪影響を与えやすいといった性質が指摘されていることから、日本国内での製造や使用が禁止されている(※2)。

また、法律によってPFOSとPFOAの輸入・製造等が規制されており、2024年2月にPFHxSも第一種特定科学物質に指定され、6月以降は輸入が原則禁止となる予定だそう。

さらに、水質管理においても規制を行っており、厚生労働省は2020年にPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目に位置付け、合算値で50 ng/L以下とする暫定目標値を定めている(※11)。

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PFAS規制の課題

環境や生態系に影響を与えるPFASを規制する動きは加速しつつあるものの、規制にあたっての課題もある。詳しく見ていこう。

全面的な規制基準の設定が困難

まず挙げられる課題が、すべてのPFASに対する規制基準の設定や評価が困難であることだ。

先述のとおり、PFASは1万種類以上におよぶ化学物質の総称。個別物質ごとに特性やリスクが異なり、全面的な規制基準の設定や評価が困難なのだ。

技術導入および運用コストが高い

高濃度のPFAS汚染が確認された地域では、地下水や土壌の浄化が急務となっているが、それにともなう運用コストの高さも課題のひとつ。

逆浸透膜や活性炭を用いた技術による浄化対策は導入コストや運用負担が高く、水道料金の値上げにつながる可能性が懸念されている。

PFAS問題における消費者の役割

PFAS問題に対して、消費者には何ができるだろうか。

まずは、日用品などを選ぶ際に注意を払うことが大切だ。これまで、PFOS・PFOAなどの一部のPFASは、撥水剤や撥油剤などの用途で多くの消費者製品に使用されてきた。しかし近年では、PFASフリー製品も販売され始めているため、注意をすることでPFASを避けることができる。

また、問題に関する情報収集を行うことや、意識の向上も重要である。何にPFASが使われていてどんな影響をおよぼすのか、PFAS以外に環境汚染につながる物質はないのかなど、能動的に情報を収集することで、自分自身だけでなく地球を守るアクションにもつながっていく。

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PFAS規制における今後の展望

PFASの規制動向は、近年世界中で大きく変化している。

今後も、厳格な規制による使用削減にともない、多くの企業で持続可能な製品開発や代替物質の開発・普及が行われていくはずだ。また、汚染除去技術の進展なども期待されており、PFASを取り巻くさまざまな技術革新が予想されている。

PFAS規制はSDGsにも貢献

PFASの問題は、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」や目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標14「海の豊かさを守ろう」など多くの目標と密接に関わっている。企業や政府、そして一人ひとりがPFAS問題にしっかりと向き合い、解決に向けて取り組むことで、持続可能な社会へとつながっていくはずだ。

※掲載している情報は、2025年1月23日時点のものです。

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