生物濃縮とは? 意味や仕組み、事例を紹介

鳥が小魚を食べている食物連鎖のイメージ

Photo by David Groves

生物が外界から取り込んだ物質のうち、特定の物質が体内に高濃度で蓄積される現象を指す「生物濃縮」。少し専門的な言葉のようなイメージを受けるが、実は私たちの生活に深く関係している。本記事では生物濃縮を簡単に説明しながら、その仕組みや事例を紹介していく。

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2024.07.30

生物濃縮とは

鳥が小魚を食べているイメージ

Photo by David Groves on Unsplash

生物濃縮とは、生物が外界から取り込んだ物質のうち、特定の物質が体内に高濃度で蓄積される現象のこと。

簡単にいうと、環境中に存在する有害物質が食物連鎖を通じて濃縮されていき、高濃度になっていくことを指す。

生物濃縮の仕組み

海のなかのイメージ

Photo by Krystian Tambur on Unsplash

通常、生物の体内に取り込まれた物質は、代謝などによって分解されたり、体外に排出されたりする。しかし、水に溶けにくい、脂質と結びつきやすいなど、分解・排出されにくい性質を持つ一部の物質は、生物体内に蓄積しやすく、これが生物同士の食物連鎖によって濃縮が進んでいく(※1)。

体内に蓄積されやすい物質には、ダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)といった化学物質が挙げられる(※2)。

たとえば、水中に残留しているこれらの有害物質を水草やプランクトンが取り込み、分解・排出されずに体内に残る。この水草やプランクトンを小型の二枚貝や魚類が食べると、その体内に高い濃度となって蓄積されていく。そして、その貝類や魚類を鳥が食べると、さらに濃縮率を高めながら体内に蓄積される、という仕組みで生物濃縮が起こる。

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生物濃縮と環境問題

生物濃縮と聞いただけだと、身近な問題として捉えにくいかもしれないが、実は人間の生活にも関わる深刻な環境問題にもつながっている。

そのひとつが、生態系への影響だ。食物連鎖において、上位の捕食者が下位の捕食者よりも高い濃度の有害物質を蓄積することで、有害物質がしだいに高濃度になっていく。最終的に、最上位の捕食者の体内の入るときには、命に関わるほどの危険な濃度になってしまうこともあるのだ。

体内に蓄積されやすい性質を持つ化学物質は、通称 POPs(ポップス)と呼ばれている。POPsとは残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants)の頭文字をつないだ略称。日本ではPOPsの製造・使用はすでに法律で原則として禁止されているが、POPsのなかには、製造しなくても意図せず生成してしまうものあるほか、海外ではPOPsによる環境汚染について十分な対策を取っていない国もあるのが現状だ(※2)。

食物連鎖の最上位にはさまざまな生物がいるが、人間もそのひとつ。生物濃縮は人体を含む多くの生物に影響をおよぼし、生態系を壊す危険性もあり、深刻な環境問題として懸念されている。

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日本の生物濃縮の事例

ここからは、日本の生物濃縮の事例を紹介していく。

水俣病

工場のイメージ

Photo by Kanae Kanesaki on Unsplash

日本における生物濃縮の代表的な事例として知られているのが、1950年代に熊本県で発生した水俣病だ。

ビニール製造に必要な原料(アセトアルデヒド)をつくるときに発生したメチル水銀が化学工場から流れる工場排水中に混じって海に流れ、魚が体内に取り込んで生物濃縮が発生。その魚を人間が食べてメチル水銀が体内に入ってしまったことが、水俣病の原因だ。

メチル水銀は有害物質で、摂取すると脳や神経をマヒさせてしまう。メチル水銀を生物濃縮した魚を食べてしまった水俣湾周辺の住民は、四肢末端の感覚障がいや聴力障がいがあらわれた(※3)。

新潟水俣病

新潟水俣病は、1960年頃に新潟県阿賀野川流域で起きた公害病。先述の水俣病と同じく、日本の4大公害のひとつである。

酢酸や酢酸ビニルなどの原料となるアセトアルデヒドを生産する際に使用していた水銀が、毒性の強いメチル水銀に変わり工場排水に混じって阿賀野川に流されたことが原因だ。それが食物連鎖を通じて、プランクトン、水生昆虫、魚へと取り込まれ濃縮。その川魚を食べた人々が、新潟水俣病にかかってしまった。

人間だけでなく、ペットや家畜なども命を落とすなど、水俣病同様多くの被害が出た(※4)。

フグ毒

毒性が強いことで知られるフグ毒の一種も、実は生物濃縮によって生まれている。

フグ毒は、フグの種によって毒の種類が異なるが、代表的な毒のひとつがテトロドトキシン。テトロドトキシンは、フグが自身で生産しているのではなく、食物連鎖を介して、生物濃縮された毒をエサ生物から得ていることが、実験で報告されている(※5)。

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海外の生物濃縮の事例

アメリカ・水鳥カイツブリの減少

カイツブリのイメージ

Photo by Mathew Schwartz on Unsplash

1949年から1957年にかけて、アメリカ・カリフォルニア州のクリア湖では、ユスリカやガガンボの仲間が大量に発生したことから、DDTに似た殺虫剤のDDDが湖水に流し込まれていた。

その結果、問題視されていた虫が減っただけでなく、湖の名物だった水鳥のカイツブリまでもが大幅に減少してしまったのだ。考えられる原因はいくつかあるが、1950年末の調査によると、カイツブリの体の脂肪中のDDD濃度と湖水の濃度とを比較した濃縮係数は、178,500倍にもなっていたといい、生物濃縮が原因のひとつとして指摘されている(※6)。

アザラシの大量死

アザラシが泳いでいるイメージ

Photo by Robyn Budlender on Unsplash

1988年の6月、北海沿岸のイギリスやノルウェー、デンマークなどの海岸のあちこちで、大量のアザラシの死体が打ち上げられた。このアザラシたちの死因は、ライン川やテムズ川から流れ込む産業廃水、生活排水、北海油田や船から流れ出す油とされており、死体からは高濃度の水銀やカドミウム、鉛など150種類もの有害物質が検出されたという。

これらの化学物質のほか、海に流出した重金属やダイオキシンが沿岸の海にたまり、プランクトンに取り込まれ、食物連鎖を通じて生物濃縮が起こり、アザラシの大量死につながったとされている。

その数は1万8千頭近くにもおよび、約2万頭前後いたとされる北海のアザラシが、わずか10ヵ月あまりの間に9割も命を落としたのだ(※7)。

北極圏にも危険が迫る

ホッキョクグマのイメージ

Photo by Hans-Jurgen Mager on Unsplash

これまで北極圏は、環境が厳しく、ほかの地域と比べると人の活動も盛んではないため、環境汚染とはあまり縁のない地域と考えられていた。

しかし、近年の調査によると、POPsの被害が北極圏にも拡大しているという。原因として考えられているのは、熱帯地域で散布されている農薬や、大都市や工場地帯からの汚染水。

そして、これらの汚染物質を取り込んだプランクトンなどが、食物連鎖を介して、哺乳類の生体へと取り込まれていることが問題視されている。ホッキョクグマや人間など、食物連鎖の上位にいる種ほど、高濃度の汚染物質にさらされており、影響が懸念されているのだ(※8)。

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生物濃縮の事例を繰り返さないために

生物濃縮は、人間を含む多くの生物や環境に危険をおよぼす、地球規模の問題だ。少し専門的な言葉のようで、身近な問題として捉えにくいかもしれない。しかし、決して過去の話でも、遠く離れた国で起きている問題でもなく、私たちの日常に密接に関わっている。

日本でも、環境省などの関係府省が連携してPOPs(残留性有機汚染物質)対策を実施しているが、私たちひとりひとりが取り組めることもある。

たとえば、何かを買うとき。汚染物質や有害物質を排出しないよう配慮してつくられたものか、使用したときに環境に悪影響を与えることがないかなど、しっかり調べ、考えながら選んでみよう。ただの買い物ではなく、生物や地球の未来を守っていくひとつのアクションとして取り組むことが求められる。

※掲載している情報は、2024年7月30日時点のものです。

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