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シックハウス症候群の原因物質として知られる「ホルムアルデヒド」。この記事ではホルムアルデヒドが人体へ与える影響にはどのようなものがあるのか、対策や各国の規制について解説する。
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ホルムアルデヒドは化学物質のひとつで、刺激臭のある無色の気体である。水によく溶け、殺菌作用があるのが特徴だ。家具や建築資材、壁紙を貼るための接着剤、塗料などに使われており、室内空気汚染の原因となっている。(※1)
ホルムアルデヒドの使用用途は多岐にわたる。なかでも多く使われているのが壁、天井、押入、床フローリングなどの合板だ。合板を張り合わせる接着剤や防腐剤として使われる。そのほか、たんすや食器棚といった木製家具などにも使われている。(※1、※2)
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ホルムアルデヒドは、室内の汚染された空気を吸うことで、さまざまな体調不良を引き起こす「シックハウス症候群」の原因のひとつでもある。実際に、人体にどのような影響があるのか解説する。
短期的な影響には、粘膜や呼吸器系、皮膚などに影響を与える。
ホルムアルデヒドには刺激臭があり、吸い込むと目、鼻や喉、呼吸器などの粘膜を刺激する。これにより、涙が出る、咳やくしゃみ、喉の痛みなどが起きることがある。高濃度に曝露されると、呼吸困難、肺浮腫を引き起こすリスクも高まる。(※3)
高濃度のホルムアルデヒドに接触した場合には、刺激性皮膚炎を起こす可能性がある。(※3)
日本産業衛生学会によると、ホルムアルデヒドには、気道と呼吸器に感作性(化学物質やアレルゲンに初めてばく露したことで体内に抗体が形成され、その抗原に再度ばく露されたときにアレルギー反応を引き起こす性質)があると考えられている。(※4)
長期的な影響には、発がん性や慢性的な呼吸器疾患がある。
国際がん研究機関(IARC)は、ホルムアルデヒドを「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と分類している。長期にわたりホルムアルデヒドに曝露されると、鼻咽頭がんや白血病のリスクが高まると考えられている。(※5)
慢性的な影響には、喉の痛み、鼻腔の閉塞による鼻炎といった呼吸器疾患がみられる。(※5)
シックハウス症候群に関する疫学調査では、乳幼児や高齢者はリスクが高いと考えられている。そのため、ホルムアルデヒドの悪影響も受けやすい可能性がある。(※6)
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ホルムアルデヒドはどのようなものや状況から発生するのか、注意すべきポイントを解説する。
建材や家具には、合板、断熱材、接着剤、防腐剤などが使われており、これらはホルムアルデヒドの発生源となる。密閉された空間でホルムアルデヒドが放出されると、濃度が高まるため注意が必要だ。(※1)
タバコの煙にはホルムアルデヒドを含む多くの有害物質が含まれており、室内で喫煙することで空気中のホルムアルデヒド濃度が高まる。受動喫煙も人体に悪影響を及ぼすため、とくに換気が悪い空間では健康リスクが増す。(※6)
殺虫剤、消毒液、じゅうたん、衣類などにもホルムアルデヒドが含まれていることがある。なかでも子ども用の衣類は、なめたり触ったりすることでアレルギーを起こす可能性があることから注意が必要である。(※7、※8)
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ホルムアルデヒドによる影響を防ぐには、どのような対策方法があるのか解説する。
もっとも効果的なのが、室内の空気環境の改善である。定期的な換気を行い、室内に滞留しているホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物を外に逃がす。そうすることで、濃度を低減させることができる。また、ホルムアルデヒドを除去できるフィルター付きの空気清浄機を活用するのもよい。(※8)
建材や家具を選ぶときには、建材のホルムアルデヒドの発散量を示す等級表示「エフ・フォースター(F☆☆☆☆)」がついているものや、JISマーク、JASマークのあるもの、大臣認定評価のあるものなどの低ホルムアルデヒドの製品を選ぶようにするとよい。(※9)
また家具の購入時は、製品表示と臭いを実際に嗅いで確認することも大切だ。購入後はしばらく屋外や風通しのよい場所で放置することで、ホルムアルデヒドの放散を促進させられる。
タバコの煙には、ホルムアルデヒドが含まれている。そのため室内での喫煙を避けるようにし、副流煙などを吸わないように換気や空気清浄を行う。
簡易検査キットや測定器などを活用し、室内のホルムアルデヒド濃度を測定する。定期的に濃度をチェックし、濃度が高ければ換気を徹底するなどの対処を行う。
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日本や世界各国では、どのようなホルムアルデヒドの規制があるのか解説する。
日本には、建築分野、産業分野、製品分野などでホルムアルデヒドの規制がある。
2003年、日本の建築基準法にホルムアルデヒドの規制が導入された。この改正により、新築や改築された建築物において、ホルムアルデヒドの室内濃度が一定基準以下でなければならないことや、換気設備を装置することなどが義務づけられている。
また、JIS規格に基づく建材のホルムアルデヒドの発散量を示す等級表示がある。これを「エフ・フォースター(F☆☆☆☆)」と呼び、4つの等級(規制対象外建材、第三種、第二種、第一種ホルムアルデヒド発散建築材料)に分けられ、それぞれの等級に応じて使用できる面積に制限がかかる。(※6)
工場や研究施設などでホルムアルデヒドを取り扱う労働者のホルムアルデヒドへの対策として、「労働安全衛生法」が定められている。この法律では、職場環境のホルムアルデヒド濃度が一定基準以下であることや、発散抑制措置、健康診断の実施が義務づけられている。(※10)
家庭用品にも「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」でホルムアルデヒドの規制値が設けられている。家庭用品によって規制値は異なり、乳幼児用(生後24か月以内)の繊維製品や寝具は、所定の試験方法で吸光度差0.05以下または16ppm以下、子ども用・大人用繊維製品、かつら、つけまつげ、靴下止め用の接着剤は75ppm以下となっている。(※11)
WHO(世界保健機構)によるホルムアルデヒドのガイドライン値は、一般的なヒトへの明らかな感覚刺激を防ぐための30分平均値で0.1mg/立法メートルとなっている。(※6)
主要各国のホルムアルデヒドの規制値は次のとおりだ。アメリカや韓国のオフィスでは、0.1ppm(長期)、EUや中国のオフィスでは0.1mg/立法メートルとなっている。日本の規制値は住宅用で0.08ppmなので、ほかの国にくらべて規制が厳しいことがわかる。(※12)
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接着剤としての代替品にアセトアルデヒドがあるが、これらが新たにシックハウス症候群やヒトへの発がん性を引き起こす可能性が示唆されている。(※13)
建材については、ホルムアルデヒドの発散量を示す等級表示「エフ・フォースター(F☆☆☆☆)」を確認すると、安全性の高い建材を選ぶことができる。星の数が多いほど放散量が少ないことを示している。(※6)
これらのことからわかるとおり、ホルムアルデヒドの代替品やホルムアルデヒドの発散量が少ない建材はあるものの、完全な解決策にはなっていない。
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ホルムアルデヒドは有害性物質であるが、建物を建てる時や木製家具には欠かせない物質ともいえる。シックハウス症候群にならないためにも、なるべく低ホルムアルデヒドの素材や家具を選んで使い、部屋の換気をして室内の空気環境をよくして、ホルムアルデヒドとうまくつきあっていきたい。
※1 室内を汚染している化学物質|東京都健康安全研究センター
※2 ホルムアルデヒドとはどんな物質ですか|東京都保健医療局
※3 ホルムアルデヒドの毒性|東京都保健医療局
※4 ホルムアルデヒド、1,3-ブタジエン及び硫酸ジエチルに係る健康障害防止対策について|厚生労働省
※5 既存化学物質安全性(ハザード)評価シート|化学物質評価研究機構
※6 科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)
※7 2才用と3才用の服のホルムアルデヒドの規制|東京都保健医療局
※8 室内空気汚染物質を排除するための対策|山形大学環境保全センター
※9 ホルムアルデヒド放散等級表示制度|日本繊維板工業会
※10 今なお残るホルムアルデヒドの問題―ホルムアルデヒドを取り扱う職場での対策強化―|愛知県衛生研究所
※11 ホルムアルデヒドの規制|東京都保健医療局
※12 シックハウス症候群に関連する主要各国の規制値|PALCCOAT
※13 アセトアルデヒドに係る健康リスク評価について|環境省
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