公害とは何か 代表的な7つの公害や4大公害病、日本・世界の対策を解説

大量のごみと大気汚染の様子

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私たち人間のさまざまな活動によって引き起こされる公害。本記事では、公害の種類や4大公害病について簡単に解説する。日本では高度経済成長期に公害が深刻化したが、世界には現在進行形で問題に直面している国も多い。世界の現状、国際的な取り組みに関しても紹介する。

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2024.10.29

公害とは

工場から煙が立ちのぼる様子

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公害とは、人々が事業活動を行ったり日常生活を送ったりするなかで発生する、健康被害や自然環境破壊のこと。明治時代に栃木県で発生した「足尾銅山鉱毒事件」を代表例に、たびたび問題視されてきたが、とくに高度経済成長期の産業発展に伴い、発生件数が増加し、顕在化した。水俣病やイタイイタイ病、四日市ぜんそくなど、深刻な被害に発展する公害が多発し、企業と地域住民との間で公害紛争が生じてきた歴史がある。

近年は、加害者が事業者、被害者が周辺住民という構図の「産業公害」は減少。一方、私たち生活者が被害者であり、加害者にもなり得る「都市・生活型」の公害・問題の比率が増えている。(※1)

公害の定義

環境基本法の第2条第3項において、公害は以下のように定義されている(※2)。

「環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること」

同法によると、仮に被害者が1人だとしても、地域における広がりが認められる場合は、公害とみなされる。また、すでに発生している被害だけでなく、将来発生する可能性がある被害も被害として捉える。

「典型7公害」とは

公害のなかでも、環境基本法の定義のなかで列挙されている以下の7つを「典型7公害」と呼ぶ。

・大気汚染
・水質汚濁
・土壌汚染
・騒音
・振動
・地盤沈下
・悪臭

典型7公害以外にも、「廃棄物」や「空地管理」などの問題が存在する。(※3)

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日本の主な公害「典型7公害」

空に立ちのぼる煙

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ここからは、上でも挙げた「典型7公害」について、ひとつずつ解説する。

大気汚染

大気汚染とは、何らかの原因で汚染物質が大気中に排出されることにより、大気の質が悪化することを指す。具体的には、工場からの煙や車からの排気ガスなどが原因になり得る。焼却場の煙のなかの有毒物質を懸念して苦情が寄せられるケースも存在する。

4大公害病のひとつである「四日市ぜんそく」は、石油化学コンビナートからの排煙による大気汚染物質が原因だ。ほかにも、大阪府大東市における工場からの排出物質による自宅サッシの腐食や、滋賀県湖南市における工場からの鉄粉による倉庫屋根の腐食など、財産的被害に関する問題もたびたび起きている。

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水質汚濁

水質汚濁とは、水中に汚染物質が排出されることにより、水質が悪化すること。特定の排水による川の水の変色や、護岸工事による養殖魚の死亡被害など、さまざまなケースが考えられる。

4大公害病でいうと、「水俣病」や「新潟水俣病」は化学工場からの排水による水質汚濁が原因。長崎県島原市では、養豚場等から排出されたし尿によって、食品会社が使用している井戸が汚濁したとして、原因裁定申請事件が発生している。(※4)

土壌汚染

土壌汚染とは、汚染物質によって土壌が汚染されてしまうこと。日本での歴史は古く、明治時代に社会問題になった「足尾銅山鉱毒事件」や、4大公害病のひとつである「イタイイタイ病」に代表される、鉱山に由来する農用地汚染がはじまりといわれている。その後は、工場からの排出や廃棄物からの溶出などが問題視された。(※5)

市街地による土壌汚染が顕在化したのは、1975年のこと。江東・江戸川両区において、発がん性が指摘される「六価クロム」が埋め立てられていることが明らかになり、事業者が東京都指導のもと、処理・整備を行った。該当箇所は、その後公園として開放されている。(※6)

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騒音

騒音とは、一般的に不快な音のこと。深夜営業店や工事音などがトラブルになるケースが多い。過去には、神奈川県鎌倉市におけるドッグスクールからの犬の鳴き声や、愛知県名古屋市における鉄道騒音などの問題で、公害紛争事件に発展している。

振動

振動とは、土地や建物の揺れのこと。人が感知する振動は500Hz以下といわれており、公害として問題視されるのは、1Hz〜90Hzの範囲に該当するものだ。不快感や寝つきにくさ、思考の低下などの住民への影響のほか、家具や壁の損傷などの物的被害におよぶものまでさまざまなケースが存在する。

発生源は、建築作業振動、交通振動、空気を媒体とした振動など多岐にわたり、近年増加傾向にある。(※7)

地盤沈下

地盤沈下とは、さまざまな要因による地盤そのものの沈下のこと。公害としての地盤沈下の主な原因は、地下水の過剰採取だとされている。地盤沈下が起こると、建造物や港湾施設、農地などに被害が生じる。近年は、一部地域に著しい地盤沈下が認められるものの、全体としては鎮静化の傾向にあるとされている。(※8)

悪臭

悪臭とは、不快感を与える臭いのこと。一般的に不快とされる臭いだけでなく、コーヒー焙煎時のにおいや、パンを焼くにおいによって苦情が寄せられるケースも存在する。(※9)

日本の公害の歴史「4大公害病」とは

水辺でごみを咥える水鳥

Photo by Tim Mossholder on Unsplash

日本の公害のなかでも、とくに深刻な被害が生じ、社会問題となった公害を「4大公害病」という。以下では、4大公害病といわれる「水俣病」「イタイイタイ病」「四日市ぜんそく」「新潟水俣病」について紹介する(※10)。

水俣病

水俣病は、1953年頃から1960年頃にかけて、熊本県水俣市近隣で発生した。水俣湾付近の化学工場からの廃水に含まれるメチル水銀が海に流出し、魚や貝に蓄積。それらの海産物を長期にわたって食べていた地域住民が、手足のしびれ、麻痺などの症状を訴えた。死亡に至るケースもあった。

被害者認定された患者は2,200人以上にのぼり、廃水を流していた会社には賠償金の支払いが命じられた。また、水俣病の発生と拡大を防止しなかった点において、国と熊本県の責任が認められた。

イタイイタイ病

イタイイタイ病は、富山県神通川流域で発生した公害病。地域住民は、大正時代頃から原因不明の病として苦しめられてきた。1955年に注目され、後に、鉱山の廃液に含まれていたカドミウムが水質や土壌を汚染していたことが原因だと特定された。

症状としては、骨が脆くなり、激しい痛みを伴う。患者が「イタイイタイ」と泣き叫ぶことから、病名がつけられた。認定患者は190人。汚染された環境は、長年の努力によって蘇っている(※11)。

四日市ぜんそく

四日市ぜんそくは、三重県四日市市を中心に、1960年頃から発生。石油化学コンビナートの稼働が加速したことによる大気汚染物質が原因で、気管支炎やぜんそくなどの呼吸器疾患が多発した。認定患者は約1,700人となった。

三重県四日市市に限らず、全国のほかの工場地帯でも同様の公害が発生している。

新潟水俣病

新潟水俣病は、1964年頃から新潟県阿賀野川流域で発生した。熊本で発生した水俣病と同様、工場排水に含まれるメチル水銀が原因の中毒症状であり、「第2水俣病」と呼ばれることもある。

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日本政府の公害対策

会議でメモをとる人の手元

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公害被害の深刻化を受け、日本政府は法律の制定や基準の設定を行い、公害を対策してきた。以下では、公害対策の歩みとして主要なものを紹介する。

「公害対策基本法」の制定

高度経済成長を遂げる一方で、4大公害病が発生し、これらが産業活動による被害だと明らかになるなかで、1967年7月に「公害対策基本法」が成立した。同法では、公害を防止するための事業者、国、地方公共団体の責務が明らかにされた。公害対策を進め、国民の健康保護や環境保全を図ることなどが定められている。(※12)

公害対策基本法の中心的な施策のひとつが「公害防止計画」だ。公害が発生している地域や、発生可能性がある地域において、公害防止施策を総合的に推進するための計画である。内容の一部は、「環境基本法」に引き継がれている。(※13)

環境庁の発足

1971年には、佐藤栄作内閣総理大臣のもと、環境庁が発足した。公害問題を最重点課題と捉え、それまで各省庁に分散していた公害に関する行政を一元的に行うことが目的とされた。環境庁の発足により、硫黄酸化物による大気汚染対策が進んだといわれている。

しかし、現在の内閣府である「総理府」の外局として設立されており、規制に関する権限は限定的。公害対策の総合的な推進は、難しかったとされる。(※14)2001年に、環境庁は、公害を含め、さまざまな環境政策を統括する「環境省」として生まれ変わった。

「環境基準」の設定

公害対策基本法に基づき、環境基準が設定されている。環境基準とは、人の健康や生活環境を保全するために維持したほうがよい水準のこと。環境基準をもとに、規制や措置が講じられる。1969年に硫黄酸化物の環境基準が定められ、1973年に改訂された。(※15)

現在は、環境基本法に基づき規定されている。大気・水・土壌・騒音の目標があり、常に新しい科学的知見のもと、判断を加えていかなければならないとされている。(※16)

公害に関するさまざまな法律の制定

公害対策基本法にとどまらず、公害に関する複数の法律が制定された。1968年には「大気汚染防止法」と「騒音規制法」、1971年には「水質汚濁防止法」が成立した。内容は異なるものの、それぞれの目的は国民の健康保護と生活環境の保全であり、共通している。(※17・18・19)

「公害紛争処理法」の制定

1970年には「紛争処理法」が制定され、国の機関として「中央公害審査委員会」が、都道府県には「都道府県公害審査会」が設置された。これにより、行政機関が公害紛争を処理する仕組みが整った。

公害紛争処理制度が確立する前までは、民事裁判によって公害紛争を解決することが主だった。しかし、判決までに長期間を要する点や因果関係の立証が困難なケースが多い点などから、新たな方法が模索されていた。

公害紛争処理制度は、定期的に新たな制度が導入されており、充実が図られている。(※20)

世界における公害問題

ごみの山のなかにいる人

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公害の問題は、日本だけではない。世界で2019年に早死にした人の原因のうち、約6分の1が公害によるものだったという研究データが存在する。(※21)世界には、かつて日本で発生したような大規模な公害に苦しんでいる国が少なくない。以下で詳細について解説する。

発展途上国の公害問題

発展途上国では経済的な発展を優先するために、公害対策が追いついていなかったり、環境保全の優先度が下がってしまったりというケースが多い。それにより、産業活動が環境へ与える負荷が大きくなり、大気汚染や水質汚濁が国境を越えて広域に広がることもめずらしくない。

なかでも、アジアでは、過去に先進国が経験してきたような公害が発生し、深刻化している現状がある。さらに、産業型の公害に加え、都市・生活型の公害も大きな問題となっている。都市化が急速に進むことによる排気ガスの増加や生活排水による水質汚濁など、さまざまな問題を抱えている状況だ。(※22)

国別にみる公害の現状

公害の現状は、国によって大きく異なっている。以下では、世界のなかでも公害がとくに問題視されている国の現状を紹介する。

中国の公害の現状

「環境問題のデパート」と例えられることもある中国は、大気汚染をはじめ、水質汚濁や土壌汚染などの多くの公害問題を抱えている。日本の120年分の公害や環境問題を、20〜30年程度で経験しようとしているともいわれている。(※23)

なかでも、2010年頃の北京は、空気がかすむほど大気汚染が深刻だった。しかし、近年大気汚染物質は大幅に減少している。北京市生態環境局によると、PM2.5は2013年以降減少を続け、10年間で66.5%減少。ほかの大気汚染物質も改善しており、国連環境開発計画(UNEP)は、北京の大気汚染の取り組みを評価した。(※24)

インドの公害の現状

日本をはじめ、各国企業の進出先として注目されているインドも、大気汚染が深刻な状況だ。経済成長によって、工場や車の排気ガスが増加しているほか、複数の要因が絡んでいる。

とくに首都圏では、野焼きやヒンドゥー教の祭りでの爆竹使用により、11月から1月頃に大気汚染がより深刻化する。同時期のPM2.5の1日の平均値は、日本の環境基準の3倍以上。ひどいときには8倍程度になる日もあるという。インドでは呼吸器疾患を訴える人が増加しており、その影響は周辺国にもおよんでいる。

大気浄化の国家計画を掲げたり、通行規制や水撒きをしたりと対策を進めてはいるものの、一筋縄では行かない状況だ。(※25)

バングラデシュの公害の現状

「世界最悪」の大気汚染ともいわれるバングラデシュでは、大気汚染が経済成長に大きな影響をおよぼしている。2019年には、大気汚染によってGDPが3.9〜4.4%押し下げられた。また、大気汚染による死者が多く、早死や疾病の原因になっていると公表されている。

とくに首都であり最大都市であるダッカの状況が深刻。1日あたりの微粒子物質の量は、1.7本の喫煙に相当する水準だという。(※26)

公害問題への国際的な取り組み

2001年5月には、ストックホルム条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)が採択された。ダイオキシンをはじめとする残留性が高い化学物質の廃絶・削減を目的としており、国際的に強調して取り組むことの必要性が掲げられた。人の健康の保護や、環境の保全を図るのが目的だ。(※27)

公害を含めたさまざまな環境問題の解決における国際協力の必要性が謳われるなかで、国際的な取り組みも進められている。日本では、2017年に「環境インフラ海外展開基本戦略」が策定された。発展途上国の経済成長によって起こり得る公害問題や環境問題を回避するために、日本の環境技術やノウハウを展開し、環境改善に貢献することが目的だ。国内外の機関と連携し、制度設計から技術支援やファイナンスのサポートまでを戦略的に実施する。(※28)

決して他人事ではない公害 個人でできることも

日本では、高度経済成長期に深刻な被害をおよぼした公害。産業型の大規模な公害はいまでこそ少なくなっているが、一方で、都市型の公害は各地で増加傾向だ。また、世界に目を向けると、かつての日本のような深刻な公害が現在進行形で発生している。

まずは公害について、正しく知ることが大切。そのうえで、一生活者として、周囲の人々や環境に配慮した生活を送りたい。社会全体の意識の変化が、公害対策にもつながるだろう。

※掲載している情報は、2024年10月29日時点のものです。

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