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土壌汚染は有害物質や排水などが地表面から浸透し、土壌に蓄積されていることを指す。人への健康被害をはじめ、さまざまな問題を引き起こしている。土壌汚染の原因や人と環境への影響、軽減策、予防策などについて解説する。
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土壌汚染とはどのような意味があるのか、特徴とあわせて確認しよう。
土壌汚染とは、土壌が有害物質により汚染された状態のこと。原因は、工場や事業所で有害物質の取り扱いが不適切であるために、それらの有害物質が自然に流れ出て、汚染が広がってまうからだ。
土壌汚染のなかには、人間の社会生活による汚染以外にも、自然由来の汚染もある。
有害物質は土のなかに留まりやすく、一度汚染されると完全に浄化されるまで長い年月が必要だ。原因となる有害物質が地下水などに流れ込むと、土壌汚染が広範囲に広がるケースもある。土壌中の汚染物質は土壌に吸着するだけでなく、気化してガス状になる場合もある。
土壌汚染の原因となる有害物質は、以下が挙げられる(※1)。
重金属:鉛、ヒ素、六価クロム、水銀、カドミウムなど
揮発性有機化合物:トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼンなど
揮発性有機化合物は、地下深くまで浸透しやすく、地下水に溶け出し、流れに乗って汚染が広範囲となる可能性が高い。また揮発性が高いため、大気へ放出される危険性がある。一方で重金属は、土の中で拡散することなく、局所的な汚染に留まりやすい。
土壌汚染が人間や環境に与える影響はどのようなものがあるのだろうか。土壌汚染が及ぼす影響と危険性について、それぞれ詳しく説明していく。
汚染された土壌で栽培された農作物を食べると、有害物質も一緒に体内に入り込む可能性があり、それによって健康被害が生じるかもしれない。土壌汚染された農地で育った農作物や、汚染された川や海で獲れた魚介類を摂取すれば、人間に影響があることも否定できない。
以前、東京都の豊洲市場の移転に際して、土壌汚染が確認されたという話題が注目を集めた。移転先の豊洲市場はかつて都市ガスの製造工場があった土地だったため、製造過程で生成されたベンゼン、シアン化合物、ヒ素などの有害物質により、土壌と地下水が汚染されていると報道された。豊洲市場は生鮮食品を扱うため人間への環境を鑑みて、土壌汚染処理が行われることとなった。
土壌汚染は人間への影響だけでなく、生態系にも影響を及ぼす。有害物質が農作物や植物の成長を阻害したり、動物たちが汚染された水を飲んだりする可能性がある。地球規模での生態系にも波及する可能性があるため、対策が必要だ。
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日本で初めて発生した公害が、土壌汚染によるものだ。明治時代以降に急速に発達した日本産業の影で、有害物質の排出により農地や川などが汚染された。近隣住民に深刻な被害が発生した事件を2つ紹介する。
栃木県の足尾銅山で起きた「足尾銅山鉱毒事件」は、明治から昭和初期にかけての鉱山活動で起きた、日本で初めての公害。足尾銅山での採掘の際、銅山の排水に含まれた鉱毒によって、栃木県と群馬県の間を流れる渡良瀬川周辺に影響をもたらした。渡瀬川の魚が死んだり、川沿いの畑の農作物が枯れたりしたのだ。
1890年には渡良瀬川の大洪水により、栃木県と群馬県の村の田畑が鉱毒によって汚染され、地域の生態系や住民の健康に深刻な影響を与えた。原因となる企業が認定されるまで100年近くがかかったことから「100年公害」と呼ばれる。
イタイイタイ病は、大正時代頃に岐阜県飛騨市の神岡鉱山から排出されたカドミウムなどの有害物質が引き起こした病気だ。有害物質が近くの神通川を汚染し、近隣住民がその地域の魚や農作物を食べることで、症状が発生した。腰や肩などの関節痛から始まり、骨折を繰り返すのが特徴で、全身に激しい痛みを感じる。痛みのため寝たきりとなり、食事がとれず衰弱死につながる残酷な病気だ。
土壌汚染の原因は人間の活動によるものと、自然由来のものがある。人間の活動による汚染は、産業排出や廃棄物処理などが挙げられる。一方で、自然由来の汚染は、地質的な変化や鉱物の影響が考えられる。それぞれの要因を詳しく解説する。
土壌汚染の大きな原因は人間の活動によるもので、工場や事業所から有害物質が漏れたり、排水に有害物質が混入したりすることなどが挙げられる。十分な処理が行われずに有害物質を埋め立てることや、工場から排出されるガスや灰に含まれる有害物質が地表に堆積することが要因だ。日本国内では、土壌汚染されている可能性のある場所は、数十万か所にもなるという声もある。
重金属は、土壌や鉱物の中に天然で存在する成分だ。重金属の濃度が高い鉱山地帯では、自然由来の土壌汚染が発生することがある。土壌に元々含まれていた重金属が、鉱山活動などをきっかけに排出されてしまう。また、鉱山地帯でない地域でも土壌汚染が報告されることがある。もともと重金属を多く含む地層があるほか、かつて海だった地域で鉱物を含む海底堆積物によって汚染されることもある。
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日本では土壌汚染を防ぐための法律が施行され、予防策や軽減策も提案されている。土壌汚染の予防方法や軽減策について詳しく解説する。
土壌汚染対策法は、土壌汚染の状況を把握し、人への健康被害を予防するために、2003年より施行された法律だ。法律で指定された有害物質を使用していた施設を廃止した際は土壌汚染状況の調査を実施することや、一定規模の土地の形質を変更する際は届出を義務付ける等している。
国内では持続可能な農業を推進し、有機肥料の積極的使用や、農薬使用量の削減が呼びかけられている。
多くの農家では、農薬を使用しているだろう。農薬を用いると、農家の手間が減って収穫量が増えるが、長期間用いると土壌に負担をかける。また農薬は、周囲の水を汚染する可能性もある。自然由来の有機肥料を使用する方が、農地や水環境にとって望ましいだろう。またその農地で働く人々への影響も考慮しなければならない。
土壌が汚染されると回復までに長い期間がかかるため、まだ改善の余地があるうちに持続可能な農業に切り替える必要がある。
私たちの行いが、気づかないうちに土壌を汚染することにつながっている場合がある。土壌汚染に加担しないためにも、今日からできる心がけをご紹介する。
まずは、土壌汚染を引き起こす可能性がある生活排水を減らすのが有効だ。例えば、汚れた皿や鍋はティッシュなどで拭いてから洗う。環境に配慮された洗剤を使用するといったことができる。油はできるだけ使いきり、残った分は新聞紙や吸収剤に吸わせて燃えるごみとして出そう。
環境汚染の原因となる化学物質は、工場だけでなく、私たちの身近なところからも排出されている。例えば、自動車だ。自動車から排出された排気ガスは、雨に混じり、その後土壌に浸透する。そのため、できるだけ自動車は使わず、電車やバスなどの公共交通機関を積極的に利用し、移動距離が短い場合は自転車や徒歩などで移動しよう。
土壌汚染は有害物質が土壌に浸透することで起こるものを言い、日本国内では足尾銅山鉱毒事件やイタイイタイ病などの公害に発展している。土壌汚染対策法の施行をはじめ、国が対策を講じるようになった。私たち生活者も、生活を見直し、土壌汚染に加担しない心がけが必要だ。
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