土壌汚染が原因となって、売却や再利用ができずに放置されている土地「ブラウンフィールド」。1970年代よりアメリカで問題視されるようになったブラウンフィールド問題は、現在日本においても多くの場面で課題になる可能性が指摘される。本記事では日本の現状と解決策について解説する。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
ブラウンフィールドとは、一度は工場などの建造物として利用されたが、土壌汚染によって売却や再開発ができず、見捨てられてしまった土地のことをいう。
ブラウンフィールドは、1970年代にアメリカで生まれたことばである。アメリカにおいては「有害物質・汚染物質・汚染が存在する、または存在の可能性があることによって、不動産の拡大、再開発、再利用が複雑化している不動産」(2002年、ブラウンフィールド再活性化法)と定義されている。
ブラウンフィールドが問題視されるようになった契機は、1970年代後半のニューヨーク州ナイアガラフォールズで起きたラブ・キャナル事件に遡る。運河の跡地を産業廃棄物処理場として埋め立てた土地に住宅が開発されたことが発端で、汚染物質の有害性が問題となった。
この事件を機に、環境に放たれた有害物質の除去と人の健康を守ることを目的としたスーパーファンド法が発足。法整備によってブラウンフィールドの条件に当てはまる土地の浄化・再開発において、税制優遇措置や資金融資が行われるようになった。
世界的に有名なブラウンフィールドの例には、1970年以降、かつて繁栄したアメリカやイギリスの工業地帯の汚染された土地の浄化や修復問題がある。また、アメリカ北東部・中西部の工業地帯”ラスベルト(ラストベルト)”では、1980年代から多くの工場が停止され、残った跡地は「グリーンフィールド問題」として都市問題化した。
Photo by Joe Dudeck on Unsplash
土壌汚染の対策には膨大な費用が必要だと言われている。ブラウンフィードは再開発ができないまま放置されるケースが多い。結果として、土壌汚染の可能性があるような土地の再開発が進みにくいと考えられている。
浄化費用は、汚染物質の種類や状況によって異なるが、土地価格の2倍以上の土壌汚染対策費用が必要となると言われている。
環境庁によるアンケートによれば、土壌汚染が発生した土地の売買で、買主が「汚染の除去」以外の対策を認めた事例は少ないという結果がある。これには土壌汚染が完全に除去され、一切の不安が取り除かれた状態で、土地の引渡しを受けたいとの土地購入者の心理が関係する。
土地売買の際に「汚染の除去」が求められると土壌汚染費用も多額となり、結果としてブラウンフィールドを発生させることになる。
日本においても、土壌汚染により土地の取引や活用が進まないといった課題が生じている。現在、日本企業の工場が東南アジアをはじめとした海外へ進出をしている。また、人口減少により地方都市の土地のニーズが減少することから、ブラウンフィールドはさらに問題化していくだろう。
また、2018年築地市場が豊洲市場に移転したが、その要因には豊洲市場が元東京ガスの製造工場の跡地であり、土壌汚染が懸念されたためである。このように、日本全国の土地には土壌汚染の可能性がある箇所は眠っている。
ブラウンフィールドが問題視されるようになったことから、環境省は平成19年3月に「土壌汚染をめぐるブラウンフィールド問題の実態等について~中間取りまとめ」において、日本におけるブラウンフィールドの定義や実態、背景並びに潜在的な規模をまとめた。日本では一般的に、土壌汚染の対策費用が土地の価格の3割を超えた場合売却が困難だとされている。土壌汚染対策費が土地価格の20~40%を超えれば、土地売買が不成立になるケースが多い。
平成15年時点の推計では、日本でブラウンフィールド化する土地の資産規模は約10.8兆円(面積 約2.8万ha)、これに要する対策費用は約4.2兆円と試算されている(※1)
。
Photo by Leon Seibert on Unsplash
土壌汚染対策とは、土地が有害物質で汚染されてないかを確認するための調査を経て、汚染が確認された土地について浄化工事の設計・施工を行うこと。また、土地の買い手、行政、近隣住民等利害関係者とのコミュニケーションを通して問題解決を図ることをいう。
現在、日本では民間で土壌汚染対策事業を行う企業が存在する(※2)。環境問題に取り組むエンバイオ・ホールディングスでは、土地を売却する際に土壌汚染の有無を調査し、汚染されていた場合は浄化工事を実施している。
具体的には、土壌汚染を掘削せずに汚染物質を分解、また土壌を掘削して場内で汚染物質を分解・除去した後に埋め戻す工法で対策を行う。
土壌汚染の掘削除去はコストはかかるが、土地購入者にとっては「封じ込め」より好まれる傾向にある。
処理は敷地内浄化と敷地外処分に区分される。環境省による調査によると、全体の 93%で敷地外処分が行われている。掘り起こされた土壌は、最終処分場等で処分されたり、汚染土壌浄化施設において浄化される。
現在、日本では新規ビジネスとしてブラウンフィールド活用事業を行う企業がある。顧客が保有している土壌汚染地、または土壌汚染の可能性があり売買が成立しにくい土地を、土壌汚染リスクを見込んだ価格で購入する。
また自社で土壌汚染対策を行い、必要に応じて行政への届け出を提出し、賃貸の手続きを行っている。
ブラウンフィールドの増加は、環境問題としてだけでなく産業振興や、地域開発への影響など、多くの場面で問題になる可能性がある。環境施策のみならず社会経済施策等も含めた総合的な観点で対策を検討することが必要となる予想される。
土壌汚染の実態や影響をしっかり理解し、土地を有効利用する視点や方策が必要だ。
※1 ブラウンフィールド問題について|環境庁
https://www.env.go.jp/water/dojo/sesaku_kondan/01/06.pdf
※2 About us|株式会社エンバイオ・ホールディングス
https://enbio-holdings.com/
ELEMINIST Recommends