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建材などに使われていたアスベストは、現在は原則として使用禁止されている物質だ。この記事ではアスベストがヒトにどのような健康被害をもたらすのか、法的規制はどうなっているのかを解説。また、アスベストに代わるサステナブルな素材も紹介する。
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アスベストとは、天然のけい酸塩鉱物で繊維状をしている物質である。「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれ、熱や摩擦、酸やアルカリに強いのが特徴だ。この特徴を活かし、かつては断熱材や屋根材などの建材として使われていた。ただし繊維が極めて細いため空気中に浮遊しやすく、吸い込むと肺がんや中皮腫、アスベスト肺などの健康被害を引き起こす恐れがあることから、現在では問題視されている。(※1)
アスベストの主な用途には、熱材、屋根材、床材、耐火材といった建材、接着剤、自動車のブレーキライニング、ブレーキパッドなど、約3,000種を超える多くの用途で使用されていた。(※1、※2)
アスベストは、安価で加工しやすく、優れた材料特性をもっていたことから、世界中で幅広い用途で使われていた。(※3)
アスベストの健康被害が指摘されるようになったのは1960年代だ。1972年にはIOL(国際労働機関)やWHO(世界保健機関)がアスベストのがん原性を公的に認めた。これを受け、日本は段階的にほかの物質への代替化指導や使用禁止措置を行った。
2005年にアスベスト建材を製造するメーカーが、従業員が肺がんや中皮腫で死亡していたことや、工場の近隣の住民や従業員の家族が中皮腫を発症・死亡していたことを公表する。これをきっかけに、アスベストの健康被害が多くの人に知られることとなった。(※4)
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アスベストには、どのような健康リスクがあるのか解説する。
アスベストは、人の髪の毛よりもかなり細い線維からなる。そのため空気中に浮遊しやすく、吸い込みやすい。ヒトがアスベストを吸い込むと肺胞に沈着しやすく、肺の組織内に滞留すると重篤な健康被害を引き起こす可能性がある。アスベストの繊維が細くて長いものは滞留が長く、有害性が高くなるといわれている。(※5)
アスベストによる疾患には、次のようなものがある。
胸膜や腹膜、心膜などにできる悪性の腫瘍。アスベストにばく露してから悪性中皮腫を発症するまでの潜伏機関は、20〜50年といわれている。なお、年齢が若いころにアスベストを吸い込んだ人のほうが、悪性中皮腫になりやすいとされている。(※1)
アスベストが肺細胞に取り込まれ、その物理的な刺激によって肺がんが発生するといわれている。ただし、アスベストが肺がんを起こす仕組みは明らかになっていない。アスベストにばく露してから肺がん発症までの潜伏機関は、15〜40年とされている。ばく露量が多いほど肺がんの発生が多く、喫煙者のほうが発症する可能性が高い。(※1)
肺が線維化してしまう「肺線維症(じん肺)」のひとつ。アスベストや粉じん、薬品などが肺の線維化を起こす要因であるが、なかでもアスベストのばく露によって起きた肺線維症は「アスベスト肺(石綿肺)」と呼ばれる。アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に発症するといわれ、潜伏期間は15〜20年とされる。(※1)
中皮腫、肺がん、アスベスト肺のいずれの疾患も、曝露後数十年の潜伏期間を経て発症することが多いのが特徴である。(※1)
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アスベストに関する法的規制の世界と日本の状況を解説する。
世界では、欧州の国々がいち早く全石綿を原則禁止とした。アイスランドが1983年、ノルウェーが1984年、オーストリアが1990年、オランダが1991年、イタリアが1992年、ドイツが1993年、フランスが1997年、ベルギーが1998年、イギリスが1998年、EU(25カ国)が2005年である。なお、チリ・アルゼンチンは2001年に、オーストラリアは2003年に、アメリカは1992年よりアスベスト含有製品6種類の製造、輸入、使用などが禁止されている。
ILOは1986年に青石綿の使用と吹付け禁止を提唱。WHOは、1989年に青石綿と茶石綿の使用禁止を勧告している。(※6)
1995年より茶石綿(アモサイト)、青石綿(クロシドライト)およびこれらを1%を超えて含有する製品の製造、輸入、使用などが禁止された。2004年より、全石綿が原則使用禁止となっている。
被害者救済法が成立し、救済制度がスタートしたのは2006年である。(※6)
アスベストに関連する法令には、大気汚染防止法、労働安全衛生法、石綿障害予防規則、建築基準法、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律などがある。(※7)
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アスベストを含む建材の見分け方と対処法について説明する。
アスベストが含まれる可能性のある建材には、建物の外壁、間仕切り壁、住宅用屋根、内装、外装、煙突、断熱財用接着剤、配電盤などがある。
なお、アスベストが建材に使われはじめたのは1955年ごろからだ。1960年代には多くの建物に使用されていた。1975年に吹きつけのアスベストが原則禁止されたため、1950年代から1975年までに建てられた建物はリスクが高いといえる。(※2)
建物にアスベストが使われているかどうかを調べるには、建築物を施工した建設業者または工務店、あるいは分譲住宅等を販売した宅建業者、建築時の施工図・材料表などが記載されている「設計図書」で確認する。(※8)
また建物を解体する場合は、アスベストの事前調査が義務付けられている。この事前調査では、延床面積や構造などを図面で確認し、使われている建材のサンプルを採取する。このサンプルを定量分析し、アスベストの含有量を調べる。含有量が0.1%を超えた場合、規制対象となる。調査結果は、所轄労働基準監督署⻑に報告する。これも義務化されている。(※9)
アスベストを解体する場合には「工事計画届出書」「特定粉じん排出等作業実施届出書」「建築物解体等届出書」などの各種届出を、労働基準監督署長や各都道府県知事に提出しなければならない。またトラブルなどが発生しないよう、近隣住民への説明も必要となる。アスベストを解体する工事の手順は次のとおりだ。
1:周囲の人々が見える位置に工事内容を提示する。
2:アスベストが飛散しないよう、専用のシートで建物全体を囲う。
3:アスベストが飛散しないよう、浸透性の高い飛散防止剤を散布する。
4:水をまきながらアスベストを除去する。
5:「特別管理産業廃棄物」としてアスベストを廃棄し、石綿作業主任者などが目視で取り残しがないかを確認する。
6:事前調査の結果、作業計画書、施工中の写真、廃棄物マニフェストなどを報告書としてまとめ、行政に報告する。(※9)
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アスベストに代わる、サステナブルな素材が登場している。どのようなものがあるのか見てみよう。
セルロースファイバーは、新聞紙の古紙を綿状に破砕しリサイクルしたものを主成分とした断熱材である。断熱性、防音性能、吸放湿性にすぐれているのが特徴だ。また環境負荷が少なく、再利用・リサイクルもできる。新聞由来であることから、アスベストのような健康被害がなく安全で、シックハウス症候群の心配もない。(※10)
ロックウールは玄武岩などの岩石を溶融して繊維状にしたもので、断熱材として使われている。燃えにくく湿気に強く、騒音に強いうえに優れた断熱効果があるのが特徴だ。健康被害因子となるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)をほとんど発生せず、発がん性評価はお茶と同等のグループ3に分類されているため、安心・安全な素材とされる。(※11)
膨張黒鉛は、黒鉛を高温で処理して膨張させたもので、耐熱性、耐薬品性に優れているのが特徴だ。この特性を生かし、建築用難燃材や製鋼用フラックス材(酸化防止材)、空調機器の配管用防火剤などに使われている。またノンハロゲンであることから、環境にもやさしい素材といえる。(※12)
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アスベストは天然の鉱物繊維であり、熱や摩擦、酸やアルカリに強いという特徴から、1950年ごろから建材に使われてきた。しかし健康被害などの有害性が認知され、現在では使用禁止となっている。アスベストの問題は現在進行形で、まだ解決していない。これ以上アスベストで人々が健康を害さないためにも、建物の解体や改修時には適切な除去・管理が必要である。
※1 アスベスト(石綿)に関するQ&A|厚生労働省
※2 アスベスト(石綿)はどのような場所に使用されていたか|環境再生保全機構
※3 アスベストの現状と課題|J-Stage
※4アスベスト問題の広がり|国土交通省
※5アスベスト(石綿)による健康障害のメカニズム|環境再生保全機構
※6 国内外におけるアスベストに係る規制状況|環境省
※7 石綿に関する法令等|環境省
※8 アスベスト対策Q&A|国土交通省
※9 【5分で分かる】アスベスト解体工事の流れ|株式会社ウラシコ
※10 セルロースファイバー|株式会社マツナガ
※11 ロックウール|JFE ロックファイバー株式会社
※12 膨張黒鉛|富士黒鉛工業株式会社
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