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日本最大の淡水湖であり、およそ400万年もの長い歴史をもつ琵琶湖。多くの人々の生活を支えている琵琶湖だが、さまざまな環境問題を抱えている。水質汚染や水位低下、外来種の繁殖などの問題について原因や現状を解説しながら、私たちにできることを考えていこう。
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滋賀県にある日本最大の淡水湖である、琵琶湖。およそ400万年もの長い歴史をもつとされる日本最古の湖で、世界中で20ほど存在する古代湖のうちのひとつだ。
京阪神の水がめとして人々の生活を支えている琵琶湖は、きれいな水を有する湖という印象があるが、実は水質汚染などの環境問題を抱えている。
琵琶湖のもっとも幅が狭い部分には琵琶湖大橋が架かっており、これより北側部分を北湖、南側部分を南湖と呼ぶ。
湖沼や海域などの水の汚れの度合を示す指標であるCOD(75%値)は、令和4年度の北湖の数値は2.8mg/Lであり、環境基準値(1.0mg/L)を超過。南湖についても、同年は4.9mg/Lであり、環境基準値を超過している。
また、南湖においては、湖沼の富栄養化の指標や地下水および工場排水における水質汚濁の指標である全窒素の数値も、同年環境基準値を超える結果となった(※1)。
ここからは、琵琶湖の水質汚染の原因について解説していく。
琵琶湖の水質汚染の原因としてまず挙げられるのが、生活排水や工場排水の影響である。
1960年代後半、琵琶湖の水を求めて湖畔に多くの工場が建設され、それによって工場排水が大量に琵琶湖に流れ込むようになった。加えて、周囲の家庭から生活排水が流れ込み、琵琶湖では1970年代から水質の悪化が問題になっているのだ(※2)。
家庭排水のなかでも、とくにリンを含む合成洗剤が琵琶湖の汚染につながったといわれている。湖沼などの水中に窒素やリンなどが溶けると、湖は富栄養化してしまうのだ。
富栄養化とは、栄養塩類が多い状態のことで、これによって植物プランクトンや藻類を増加させ、水が緑色に濁る「水盛り」を発生させてしまう。また、増加したプランクトンが大量に酸素を消費するため、水中の酸素が減少し、他の生き物が成育できなくなったり、悪臭が発生したりすることもあるという(※3)。
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湖の富栄養化は、赤潮の発生にも影響している。
琵琶湖では、1977年に初めて大規模な淡水赤潮が発生。琵琶湖での淡水赤潮は、毎年4月末から6月初めにかけて植物プランクトンが大量発生する現象で、湖水が赤褐色に変色し、生ぐさ臭を伴う。その後、琵琶湖の富栄養化は進み、赤潮は毎年発生するようになった。
1983年にはさらに悪化し、水面が緑色のペンキを流したようになるアオコも発生。アオコもその後、毎年のように観測されている(※3)。
琵琶湖は、水質汚染のほかに外来種の問題も抱えている。ここからは、琵琶湖に侵入した外来種の影響と、その対策について解説していく。
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琵琶湖に侵入し、大繁殖を経て、現在琵琶湖全域に生息しているのが、北米原産の外来魚「ブルーギル」と、ブラックバスの一種である北米原産の外来魚「オオクチバス」である。
オオクチバスは1974年に琵琶湖で初めて確認された後、1983年頃に急増。これは、バス釣りの人気の高まりとともに、意図的に放流されたのが要因とみられている。
そのほかにも、同じく北米原産の外来魚「チャネルキャットフィッシュ」や「コクチバス」も琵琶湖の一部や琵琶湖沿岸で確認されている(※4)。
外来魚が琵琶湖で大繁殖した時期には、滋賀県の郷土料理「鮒(ふな)ずし」の材料となるニゴロブナや、ホンモロコ、スジエビ等の在来種が激減。
これは、外来魚の生息域とこれら在来種の産卵場が重なり、孵化した在来種の仔稚魚等が強い食害を受けたためだと考えられている。
このように、外来魚は重要な水産資源を食害するほか、琵琶湖の生態系に歪みを生じさせるのだ(※4)。
滋賀県では、1985年度から外来魚対策を実施。現在、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュの4種を対象として、駆除を行なっている。
外来魚生息量は、これまでの継続的な駆除対策により、平成19年には2,132トンであったものが、多少の増減はあったものの概ね順調に減少し、近年は横ばいで推移している(※4)。
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水位低下も琵琶湖が抱える深刻な問題だ。2023年11月27日には、基準となる水位からマイナス62センチとなり、例年の平均を26センチ下回った。
水位が大幅に低下すると、川や湖からの取水量を減らす取水制限を実施することもある。1994年の琵琶湖大渇水ではマイナス123センチを記録し、京阪神地域で広範囲な取水制限を実施した。近年では、2000年、2002年に取水制限が実施されている。
琵琶湖の水位が下がると、船の航行や漁業に支障が生じるほか、生活用水や工業用水、農業用水の取水に支障をきたし、人々の生活にも大きな影響を与える。
この琵琶湖の水位には、雨の量が大きく関係している。琵琶湖の水は、直接琵琶湖に降る雨のほか、琵琶湖流域の琵琶湖を除く陸域に降った雨が地下に染み込み湧き出して川となったり、そのまま地下水として琵琶湖に入ったりする水でできている。
雨によって入ってくる水がある一方で、川へ流れたり蒸発したりすることによって出ていく水もある。気候変動の影響で気温が上昇すると蒸発量も増加。また、台風シーズンに晴天が多いなどの異常気象によって降雨量が少なく、琵琶湖の渇水を加速させている。このように、気候変動は琵琶湖の水位低下にも影響を与えているのだ(※5)。
琵琶湖では、さまざまな環境保全活動や施策が実施されている。取り組みの一部を紹介しよう。
マザーレイク21計画(琵琶湖総合保全整備計画)とは、2000年3月に始まり、2020年度まで行われてきた琵琶湖の総合保全のための計画だ。
「活力ある営みのなかで、琵琶湖と人とが共生する姿」を琵琶湖のあるべき姿として捉え、琵琶湖を健全な姿で次世代に継承していくことを基本理念として、第1期、第2期に分けて目標を設定し、それぞれ取り組みを行ってきた。
具体的には、水質保全や水源のかん養、琵琶湖流域生態系の保全・再生、暮らしと湖の関わりの再生などが目標として掲げられてきた。
1977年5月、琵琶湖に淡水赤潮が発生。この赤潮の原因のひとつが合成洗剤に含まれているりんに起因することがわかり、県民が合成洗剤の使用をやめ、天然油脂を主原料とした粉石けんを使おうという「石けん運動」が起きた。
この石けん運動をきっかけに、1980年7月には、りんを含む家庭用合成洗剤の販売・使用・贈答の禁止、窒素やリンの工場排水規制を盛り込んだ条例が試行されている(※6)。
地域住民や団体による清掃活動も行われている。
毎年、7月1日の「びわ湖の日」には、県内各地で市民や企業が行政と一体となって「びわ湖を美しくする運動」を実施。7月1日を「びわ湖の日」と決定した1981年以降、約30年間で延べ500万人以上が参加してきた。
琵琶湖の環境保全のため、環境教育と連携した取り組みも行なっている。
たとえば、学校教育の一環として、小学校5年生が宿泊体験する「うみのこ」によるびわ湖環境学習が定着しており、1983年の開始以来、46万人を超える児童が参加。
また、環境学習に取り組む県民、地域団体・NPO等に対し、企画サポート、情報発信等を実施している環境学習の推進拠点「琵琶湖博物館 環境学習センター」のウェブサイトでは、環境学習に協力する地域団体やNPO等が153団体も登録。市民主体による環境保全行動につながる環境学習が、県内各地で行われている(※7)。
さまざまな取り組みによって、少しずつ改善されている環境問題もある。
たとえば水質汚染の原因のひとつである富栄養化については、琵琶湖に流入する汚濁負荷の低減により改善傾向にある。さらに、県がこれまで進めてきた下水道の整備や、工場・事業 場の排水規制等の汚濁負荷削減対策により、全窒素および全りん等は改善傾向が見られ、令和元年度に観測開始以降初めて北湖の全窒素に係る環境基準を達成した。
また、オオクチバスやブルーギルなどの外来魚についても、これまでの取り組みにより生息量が減少傾向にあるそうだ(※8)。
しかし、琵琶湖漁業全体の漁獲量が大きく減少しているほか、気候条件等により、今後も水草が大量に繁茂する恐れがあるなど、まだまだ課題を抱えている。
琵琶湖の保全に向けて、私たちが個人レベルでできる保全活動について考えてみよう。
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すぐに取り組めることのひとつが、ごみの適切な廃棄やリサイクルである。
琵琶湖の近くに住んでいないと効果がないように思うかもしれないが、先述の琵琶湖の水位低下は、地球温暖化による気温上昇や、気候変動による異常気象などが影響している。
ごみを適切に廃棄したりリサイクルしたりすることで、温室効果ガスの排出を抑えることができ、気候変動対策につながり、琵琶湖の環境問題改善にも貢献できる。
外来種問題は、発生した被害の拡大を防ぐ「防除」だけでなく、そもそも被害を発生させないための「予防」も重要である。とくに私たちが意識するべきなのは、飼養・栽培している外来種を適切に管理し、逃がさない・放さない・逸出させないなど「捨てない」こと。
外来種問題に限った話ではないが、動物を飼うときは、成長した際の体の大きさや、こどもが生まれた時のことを必ず考えることが大切。そして最後まで責任を持って飼い、途中で野外に放つことは、絶対にしてはいけないのだ。
琵琶湖では、さまざまなイベントが開催されている。とくにびわ湖の日付近は活発で、昆虫観察やプランクトン観察、キャンプなど大人から子どもまで楽しめるイベントが充実している。
これらに参加することで、琵琶湖の現状を肌で感じることができ、環境問題について考え行動するきっかけになるはずだ。
さまざまな環境問題を抱えている、琵琶湖。近くに住んでいない人にとっては“関係ない問題”のように感じるかもしれないが、実は気候変動も原因のひとつで、すべての人が関係している問題である。琵琶湖を健全な姿で次世代につないでいけるよう、まずは自分にできることから取り組んでいこう。
※1 琵琶湖の水質|公益財団法人琵琶湖・淀川水質保全機構
※2 琵琶湖の環境問題|NHK for School
※3 富栄養化問題|滋賀県ホームページ
※4 外来魚駆除対策事業|滋賀県ホームページ
※5 琵琶湖の水位低下。マイナス75センチで節水呼びかけ、90センチで取水制限|Yahoo!ニュース
※6 石けん運動とびわ湖の日|滋賀県ホームページ
※7 琵琶湖を守る県民の活動、取組|滋賀県ホームページ
※8 琵琶湖環境インフォメーション 琵琶湖をとりまく現状と課題(5ページ目)|滋賀県ホームページ
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