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国際的な自然保護団体、国際自然保護連合(IUCN)の設立の背景・目的、その役割とはどのようなものか。絶滅危惧種レッドリストの作成をはじめとする自然保護のための具体的な活動や、それらを支える7つの専門委員会などの団体組織、他の自然保護団体との連携・協調の例について紹介する。
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「国際自然保護連合(IUCN)」は、国際的な自然保護団体。(※1)世界の絶滅危惧種をまとめた『レッドリスト』の作成元として知っている人も多いだろう。国家・政府機関・その他非政府機関団体が加盟する大規模団体であり、国際的な自然保護の分野で助言・支援などを実施している。
設立の背景には欧州各国が植民地としていたアフリカや南米の環境問題が注目されたことがある。国際的な自然保護の機運の高まりに応えて、国連機関のユネスコ支援のもと1948年にIUCN(当時の名称はIUPN)が発足。その後日本においても国内の自然保護団体が次々と加盟し、1978年に環境省が政府機関として加盟、1995年には日本政府が国家として加盟している。(※2)
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IUCNは、第二次世界大戦前後の環境保護機運を受けて設立された。具体的な背景と、その設立目的を解説する。
ヨーロッパにおいて工業化の進んだ18世紀〜19世紀には、環境汚染がすでに問題視されていた。また第一次世界大戦を経て20世紀初頭、植民地における生態系保全の必要性が認識されつつあった。(※3)このような背景から、先進国を中心に国際的な自然保護が必要との機運が高まり、IUCN設立を後押しした。
環境問題対策は一国の問題にとどまらず、地球規模で取り組むべき課題も多い。しかし先進国と開発途上国のような差異、歴史的に対立感情のある国々、国交のない国同士で一律に協力体制を敷くことは困難だ。IUCNでは少なくとも「自然環境保護の分野」において各国が協力しグローバルな取り組みに向かうことを目的とする。またとくに自然保護対策で不利を受けやすい開発途上国への経済的・技術的支援を行い、連携を強める取り組みも重視している。
IUCNは自然保護分野において、政府とNGO(非政府組織)が共通のビジョンのもとに協力することを目的としている。政府とNGOの関係は互いに対等で協力的であることが望ましいが、立場の違いから協調が難しい場合もある。そのような状況においても、同じ目標に向かい協力体制を敷けるよう助言・支援を行うこともIUCNの役割だ。
独自の調査研究や世界中の研究機関との連携を通じて自然保護に関する科学的な情報を集め、それを広く共有し行動決定に役立てることも目的のひとつだ。IUCUには自然科学をはじめとする多様な分野の専門家によって結成された7つの専門委員会が存在し、それぞれの課題目標に関する研究成果を公表して世界への提言を行っている。(※4)
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IUCNは地球の自然環境を守るため、さまざまな活動を展開している。ここではIUCNが行っている具体的な活動について解説する。
IUCNのまとめた「レッドリスト」は、自然界を構成する生物を絶滅から救うことを目的とする。(※5)生物の種ごとに絶滅リスクの評価を行い公表することで、世界の人々にその危機をわかりやすく周知し、生物多様性の意識啓発をしている。さらに絶滅に瀕した背景や保全のための科学的情報を示すことで、各団体の行動指針策定にも貢献する。
IUCNレッドリストにおける絶滅危惧種の分類には、以下の観点が評価基準とされている。(※6)
・A:個体群の縮小(10年あるいは3世代での測定)
・B:地理的範囲(出現範囲あるいは占有面積)
・C:成熟個体の数と減少の観測・予測
・D:成熟個体の数
・E:定量的分析による予測
これらの基準に基づき、未評価の種を含め9段階で絶滅危惧種を分類する。
・Extinct(EX):絶滅
・Extinct in the Wild(EW):野生絶滅
・Critically Endangered (CR):深刻な危機
・Endangered(EN):危機
・Vulnerable(VU):危急
・Near Threatened(NT):準絶滅危惧
・Least Concern(LC):低懸念
・Data Deficient(DD):データ不足
・Not Evaluated(NE):未評価
上記カテゴリーは絶滅リスクの高い順であり、とくに「CR:深刻な危機」「EN:危機」「VU:危急」段階に対して早急な対策が求められる。
レッドリストは多国間環境協定による決定の参考情報として利用されている。(※5)例えば動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」の制定、水鳥の生息地を保全する「ラムサール条約」に関して湿地帯の生態系など付帯情報の提供に関わるなど、世界的な自然保護に関して科学的に信頼度の堅い情報源として影響を与えている。
IUCNは保護地域を効果的に管理するためのカテゴリー分類を行い、共通基準での保全を推進する。(※7)保護地域管理者に向けてガイドラインを制定し、専門家ネットワークを通じて提言・情報共有を行う。また保護地域に向けた経済的・技能的支援も行っている。
IUCNのメンバーには国家や政府機関も含まれており、自然保護のための情報提供などを通して政策提言を行う場所づくりとしても機能している。(※8)また科学的根拠に基づくデータや専門家ネットワークにより、各国に対応した自然保護プロセスのアドバイスも行っている。
「環境教育」という言葉が初めて用いられたのはIUCN設立総会(1948年)とされる。(※9)環境教育やコミュニケーションを取り扱う専門委員会も存在し、各国における学校での環境教育のサポートや一般市民に対しての啓発活動を行っている。(※10)とくに将来を担う若者世代の自然保護活動への意義ある参画のため、社会科学的なアプローチ戦略の研究も盛んだ。(※11)
自然保護の一環として生物多様性の視点から気候変動の影響を評価し、各国政府や国際機関に対策の提言を行っている。IUCN内の専門委員会のひとつとして2021年の世界自然保護会議で新たに設立された「気候危機委員会」も活発に活動している。(※12)
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IUCNは団体からなる会員制度を基本としており、国家から民間までさまざまな団体が加盟する大規模ネットワークだ。また同時に他の国際機関とも連携し、グローバルな活動を可能としている。その概要について解説する。(※4)
2024年時点でIUCNには国家会員・政府機関会員・NGO会員・その他の会員の4種別があり、1400以上の団体が加盟している。(※13)そのなかには自然保護団体だけでなく研究機関もふくまれ、さらなる自然科学研究の連携も期待される。(※14)国家会員としての加盟数は90か国以上だが、政府会員・NGO会員も含めて多数の国や地域に広がっている。
世界各国または国際的な自然保護団体は、IUCN以外にも多数存在している。IUCNではそのような他の団体との協力・連携も活発に行っている。有名な例ではWWFとの野生生物取引監視での協力、バードライフ・インターナショナルとの連携による鳥類および生息地の保全だ。(※15、※16)このような連携活動によって、よりグローバルな自然保護活動が可能になっている。
IUCNには7つの専門委員会が設置されており、世界中で約17000人もの専門家が参加している。(※17)
6つの専門委員会と紹介される場合もあるが、2021年に設立された気候危機委員会を含めて2024年時点では下記7つの委員会が存在する。
・種の保存委員会(SSC)
IUCN絶滅危惧種レッドリストの作成・管理をはじめ、絶滅危惧種や野生生物の保護に関する計画策定を行う。
・保護地域に関する世界委員会(WCPA)
保護地域の評価・策定および保護地域管理への支援などを行う。
・生態系管理委員会(CEM)
生態系の分類や管理評価を進め、生物多様性に関する研究を行う。
・教育・コミュニケーション委員会(CEC)
環境教育やコミュニケーションの機会を通じて自然保護への行動を啓発する。
・環境・経済・社会政策委員会(CEESP)
自然保護と社会経済活動の共生、持続可能な開発などの研究を行う。
・環境法に関する世界委員会(WCEL)
各国の環境法の整備や、環境法に関する教育・研修などを行う。
・気候危機委員会(CCC)
近年の気候変動の深刻化に対する研究・対応を担う。
継続的な自然保護運動には、活動における課題や新たな問題も必然的に発生する。IUCNもその例外ではない。国家間の利害が絡む開発/保全のバランスもその問題のひとつだ。IUCNでは科学的な根拠に基づく働きかけや他の国際機関との連携による提言などにより、問題に対応しようとしている。
恒常的な資金不足に対してはこれまでの会員費・寄付などに頼りきらず、民間企業との連携による資金調達も始まった。(※18)さらに優先的な事業の順位付けや各事業のモニタリングで、資金活用の効率化に取り組んでいる。人材の不足に対しては、専門委員会によるネットワークの強化および途上国における人材育成の結実が待たれるところだ。
また近年とくに深刻視されるようになった気候変動の影響により、2021年に新たに設置された「気候危機委員会(CCC)」もある。このようにIUCNは課題を抱えながらも必要な変化を取り入れ、今後も活動を続けていくだろう。
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絶滅危惧種レッドリスト作成などで大きな影響力を持つ国際自然保護連合(IUCN)は、国家なども会員として参加する大規模ネットワークであり、主に科学研究の分野で人々の力が結集した団体だ。他の団体とも連携し、自然保護と人間社会の共存についてグローバルな取り組みを行っている。さまざまな課題に直面しているなかで、柔軟に対応し変化を続けている。今後も、地球規模での自然保護を牽引する活躍が期待される。
※1 初めての方へ|IUCN日本委員会
※2 国際自然保護連合(IUCN)|外務省
※3 世界自然保護連合(IUCN)の知的挑戦──21世紀に向けての新しい国際機関:IUCNを例に──|国際基督教大学リポジトリ
※4 IUCNの組織紹介|IUCN日本委員会
※5 How the Red List is Used|IUCN
※6 IUCNレッドリストカテゴリーと基準|IUCN
※7 保護地域管理カテゴリー適用ガイドライン|IUCN
※8 IUCN-Jの役割 ~3つのテーマ|IUCN日本委員会
※9 環境用語集:「環境教育・環境学習」|EICネット|一般財団法人環境イノベーション情報機構
※10 IUCN Commission on Education and Communication 2021-2025|IUCN
※11 IUCN-J将来世代戦略 2024-2030|IUCN日本委員会
※12 第7回IUCN世界自然保護会議の結果概要について | 報道発表資料 | 環境省
※13 IUCN Members|IUCN
※14 NGOと研究者の連携を進化させよう~IUCN-Jと国立環境研究所との連携協定|日本自然保護協会
※15 WWF and IUCN boost collaboration on wildlife trade issues|WWF
※16 レッド・リストとバードライフ・インターナショナル|一般社団法人バードライフ・インターナショナル東京
※17 IUCN 7つの専門委員会|IUCN日本委員会
※18 IUCN-Toyota Partnership|IUCN
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