医療施設に癒しと彩りをあたえるホスピタルアートとは

たくさんの筆

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病院や医療施設を芸術作品で彩るホスピタルアート。それはどのようなものか、誰に対してどのような効果・影響を及ぼすのか、多種にわたる芸術活動の例を解説する。また海外でホスピタルアートが生まれた歴史的背景や日本国内の病院での普及状況、導入事例なども紹介する。

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2025.01.15
SOCIETY
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ホスピタルアートとは

クリニック

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病院内で壁に絵が描かれていたり、芸術作品が展示されているのを見たことがある人もいるだろう。これは「ホスピタルアート」と呼ばれる取り組みの一種だ。ホスピタルアートは病院等の医療現場において、患者をはじめとする人々の心のケアのために行われる芸術活動のことだ。また「アート=芸術」のとおり、絵画に限らず立体作品や音楽・演劇など他分野での芸術活動もそのひとつだ。

ホスピタルアートに取り組む団体はいくつもあり、それぞれに理念を持っている。まず共通するものとして「患者や家族、医療従事者を含む人々が医療現場でアートに触れることで、より快適に過ごせるようにする」ことを目指して活動している。(※1、※2)

ホスピタルアートが注目される背景

赤ちゃん

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病院という場所は、常に緊張感とともにある。痛み・苦しみをもって来院する人、入院している患者やその家族、人の生命を預かる医療スタッフもそれぞれの不安を抱えて病院にいる。その精神的ストレスを軽減しようと取り入れられたのがホスピタルアートだ。病院内で芸術作品と触れることにより、ストレスの緩和や身体的なリラックスにもつながるとしてホスピタルアートは注目されている。

ホスピタルアート先進国ともいわれるヨーロッパでは、心理的なケアも「治療」の一環であるという考え方が昔から広く知られており、まるで美術館のような病院内も多い。その歴史は長く、1937年にはスウェーデンで病院を含む公共施設建設の際には総費用の1%をアートに充てるという法律が制定された。(※3)

こういった海外の動きを受けて、日本においても平成初期ごろからホスピタルアートという概念が認識されるようになった。無機質で殺風景な病院といった旧来のイメージを覆すように豊かな色彩や柔らかさ、自然を感じさせる空間づくりも普及し始めた。今日ではホスピタルアートに対する理解が広まって需要も増えつつあり、これらのプロジェクトに取り組む団体やアーティストも多く存在している。(※4、※5)

またこれまでも、入院患者や来院者に向けて個々の病院で定期的/不定期的なイベントやコンサートが行われることがあった。これもホスピタルアートの類例といえる。

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ホスピタルアートの種類と特徴

絵の具

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ホスピタルアートは、視覚的なものをはじめさまざまな形態がある。どのようなものが取り入れられているかや、それぞれの特徴について解説する。

壁画アートやペイント

ホスピタルアートとして代表的なものが、施設内の壁画アートだ。カラフルな色彩や楽しさ、あるいは落ち着きを感じるものなど、見た人の感情を明るくするテーマの絵が好まれる。アーティストのデザイン原案に加え、スタッフや患者、地域住民も参加しての作品つくりも行われることが多く、親しみを感じさせる取り組みでもある。(※6、※7)

彫刻やインスタレーション

オブジェ・彫刻などの立体作品も導入されている。近くで、かつ多角的に見ることのできる作品は待ち時間の退屈を和らげる役割もある。屋外に設置されるオブジェもあり、長期入院患者にとっても散策・リフレッシュの一助となるだろう。(※8)

音楽や光を活用したアート

映像や音楽を用いて、多面性のある作品にも触れることができる。ホスピタルアートであることに留意して光の強さや音量の調整が求められるが、映像作品をはじめとして視覚・聴覚を刺激するアートはとくに入院中の子どもにとって楽しいものである。またデジタル設備の活用、見せ方の工夫によりインタラクティブな催しを行った例もある。(※9)

インテリアデザイン

空間全体を彩るインテリアデザインもアートの一種だ。例えば明るい雰囲気の待合室、コンセプトを持った休憩室など、内装の複合的要素によってデザインを楽しめる空間が当てはまる。(※10)また検査室や小児科診察室など、用途や対象層に合わせてリラックスしやすい雰囲気つくりも重視されている。

パフォーマンスアート

パフォーマンスやマジックなどの実演を間近で魅せる、パフォーマンスアートも取り入れられている。ホスピタルアートの普及以前から慰問といった形でゲストを招き、ステージを開く取り組みは存在していた。その流れを汲み、一度きりの特別な時間というだけでなく、心身をケアして快復の一助となるよう継続的な活動を行うアーティストも増えている。(※11、※12)

自然環境の利用

施設内の雰囲気づくりとして、内装だけによらず外部の自然環境を活用してデザインすることが可能だ。例えば入院中であっても安全に外を見渡せるバルコニー、季節を感じられる植生の庭も有効である。また自然光の利用もよい気分転換になり得る。ステンドグラス様の窓アートで外光を取り入れる例もあり、閉塞感の軽減も期待できるだろう。(※13)

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ホスピタルアートがもたらす心理的・身体的効果

花の絵

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ホスピタルアートは決して一時の気晴らしでなく、長期的にもさまざまな効果が得られるとされ、研究も進められている。その具体的な効果を解説する。

患者のストレス軽減と回復促進

避けようのないこととして、病院の利用には少なからず不安やストレスが伴うものだ。また長期の通院や入院であれば、なおのこと病気や症状と向き合う場となる。そのなかに少しでも興味を惹かれるもの、楽しめるものが存在することでより快適な時間を過ごせるのではないだろうか。調査からは、アートに対する快さ、さらに意識的な行動として鑑賞を行うという例も確認された。(※14)このような結果からも、ホスピタルアートによる心身への好影響があるといえる。

医療スタッフのモチベーション向上

緊張感にさらされ続ける医療スタッフにも、心のケアが必要である。ホスピタルアートによってリラックスできる空間での患者との関わり、また仕事の間の少しの休憩であっても気分転換ができる場が整備されることにより、スタッフのストレス低減やモチベーションの回復・向上が期待されている。(※1)

空間全体のイメージ向上

「病院は痛い・苦しい時に行くもの」として潜在的な忌避感を示す人も少なくないだろう。そういったイメージの緩和も、ホスピタルアートに期待される効果だ。例えば「通りがかりに見たら明るい雰囲気だった」「外来時の待ち時間がさほど退屈しなかった」等のイメージアップで、病院をより身近で頼れるものとして認識してもらえる可能性もある。また診察・検査室でのアートの導入により、子ども達にとって「怖いだけの場所」というイメージの払拭にもつながるだろう。

コミュニケーションの促進

病院内でのコミュニケーションは、どうしても病気の話に偏りがちだ。また長期入院においては、話せることがなくなって心を閉ざしてしまう患者も存在する。その一助として、ホスピタルアートが一つの話題となり交流のきっかけとなることが期待されている。作品のクオリティや好き嫌いに関わらず、何かしらの感情を覚えるというだけで自分の外に興味を持つきっかけになる。

さらにその感想を話題にし、パフォーマンスアートへ参加してもらえればコミュニケーション促進として大成功だ。またホスピタルアートの製作に参加するというプロセスも、外部との交流に寄与するといえる。(※3)

新たな表現の場

アーティストの表現の場は限られており、大きさや音など制限を受けることも多々ある。そのためホスピタルアートはアーティストにとっても新たな表現の場所となり、芸術活動を普及させる効果もある。

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ホスピタルアートの成功事例

楽譜

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とくに欧米において、ホスピタルアートは古くから着目され導入されてきた。現在は日本においてもホスピタルアートは普及しつつあり、効果を上げているものもある。その代表的なものを紹介しよう。

海外での代表的な取り組み

スウェーデン

スウェーデンの法律では、病院建設の際に総費用の1%をアートに充てることになっており、多くの病院にホスピタルアートがある。ホスピタルアートはごく当然にあるプロジェクトで、それに関わる人材育成も盛んだ。またスタッフが新たな知見を得ることでこれまでにない試みを行うなど、未だ進化を続けている。(※15)

アメリカ

アメリカにおいても、1930年代に病院や公共スペースのためのアート制作が普及し始めた。ここで特徴的なのは、当時の大恐慌を背景に雇用を促進するためのニューディール政策の一環として「米国公共事業促進局 (WPA)」の資金提供によりその活動が推進された点である。(※16)この政策は多くのアーティストを困窮から救ったが、経済が安定した後も財団等の設立によりホスピタルアートは公共福祉として広まり続けている。(※17)

イギリス

イギリスでのホスピタルアート(Arts in Health)は、戦争を背景とした軍事病院への慰問から始まったとされる。(※18)その後1959年には「Paintings in Hospitals」が設立され、国立病院の館内に絵画作品を展示し、患者の心をいやそうという取り組みが始まった。(※19)このような流れを汲み民間団体、チャリティ団体の参加もあってホスピタルアートは広がりを見せ、現在では医療スタッフ、政策立案者においてもその重要性が認知されている。

日本国内のホスピタルアート事例

耳原総合病院|大阪

大阪にある「耳原総合病院」は約800名の職員が在籍する大規模な総合病院だ。ここでは「希望のともしびプロジェクト」として、院内随所にホスピタルアートを導入している。(※20)外壁の照明アート、エントランスのオブジェ、緊張を和らげるBGMなどが代表的で、これらの一部は患者・職員・地域住民のヒアリングやワークショップによるものだ。それを牽引したチーフ・アートディレクター室野愛子氏をはじめ、多数のアーティストがこのプロジェクトに関わっている。

徳島大学病院

「徳島大学病院」では、ホスピタルアートの導入として院内に「ホスピタルギャラリーbe」を設けている。(※21)その一角はまるで本物の美術館のようであり、展示替えもたびたび行われ、患者やスタッフだけでなく地域住民の憩いの空間ともなっている。また大学病院らしい取り組みとして、学内組織「Tokudai Hospital Art Labo」や学生サークル「ホスピタルアートクラブ」も制作に関わっている。(※22)

JA広島総合病院

南棟2階の待合スペースに、ホスピタルアートが設置されている。この場所にはこれまで地元の写真クラブの写真が展示されていたが、廿日市市在住のイラストレーター・デザイナー・にしもとおさむ氏によるアートでリニューアルされた。(※23)

白十字病院

福岡県の白十字病院では、福岡西区の景観をモチーフにしたさまざまなホスピタルアートを取り入れている。オブジェや絵画、インテリアなど形態にとらわれず地元の景色を病院内に取り入れている。(※24)

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ホスピタルアートが育む文化

ギャラリー

Photo by Mariya Georgieva on Unsplash

すべての人々が文化的な生活を送れるように、という切望は長きにわたって社会的な課題である。それは病院にいる人も例外ではない。どうしても不安が付きまとう医療現場において、芸術作品に触れ心を休めること、安心できる雰囲気をつくることはとても心強い取り組みといえよう。また医療機関がホスピタルアートの取り組みを通じて地域住民と関わることで、従来の「なんとなく怖い」「行きづらい」といったイメージを払拭し、信頼感を得られるきっかけづくりになることが期待される。

※掲載している情報は、2025年1月15日時点のものです。

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