環境負荷に考慮した建築を実現する「サスティナブル建材」とは

複数の角材

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建築業界でもSDGs達成に寄与するサステナブル建材が注目を浴びている。具体的にどのような素材であるか、新たな素材でのアップサイクルも含めて特徴を解説する。またサステナブル建材を使用するメリットや今後の課題、実際に用いられた建築例についても紹介する。

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2025.01.15
SOCIETY
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サステナブル建材とは

あかりのついた住宅

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環境負荷が小さく、リサイクル可能な建築材料のことを「サステナブル建材」と呼ぶ。近年各業界においてSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが行われ、建築業界でもその対応が求められている。(※1)

建築における建材調達、建材廃棄の段階においてSDGs実現への取り組みとして注目されているのが「サステナブル建材」だ。建材の製造においてはCO2排出や森林伐採などでの環境負荷が問題視されている。そこで廃材の再利用や使用建材の選定などでサステナブル建材を利用することが問題解決の一助として実践されつつある。また建設工事に係る資材の再資源化等に関しては法令で定められており、これによる再資源化がサステナブル建材製造の後押しにもなっている。(※2)

サステナブル建材の特徴と基準

木造家屋

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現在「サステナブル建材」について明確な定義はないが、社会・経済・環境の観点から見て持続可能であることが求められる。リサイクル・アップサイクルによる素材の有効活用をはじめ、長期間のライフサイクルに耐えうること、化学薬品を用いないことなどが該当する。また建材の製造・調達段階に限らず、建築物として存在する間、そして廃棄までのライフサイクル全体で環境負荷を軽減することが求められている。

再生可能資源の使用

既存建築物を解体した際の廃材、およびその他の廃棄物からのリサイクル素材を用いて建材を製造する。あるいはリサイクルが容易とされる建材を用いることで、建築物が解体される際にも再び建材やその他製品として循環でき、廃棄物の減少が期待される。(※2)

製造・運搬時のエネルギー効率

建材の製造・運搬時には、電力や燃料として多量のエネルギーを必要とする。しかし鉄はリサイクル時の電力消費が新造時より少なく、これを用いることによって省エネルギー化に繋げることができる。また従来は大型トラックで運搬していた建材を規格コンテナに収まるサイズで製造し、鉄道輸送することでCO2排出量を削減した例もある。(※3)このように省エネルギー化を進めることにより、環境負荷の軽減やエネルギー有効活用を行うことができる。

寿命・リサイクル可能性

建築物を「つくっては壊す」から「長く大切に使う」社会への移行が求められている。(※4)高耐久の建材によって住宅の長寿命化をはかることにより、製造から廃棄までのライフサイクルが長くなり、長期的な視点での省エネルギーが期待できるだろう。また長く品質を保てる建材を用いることで、素材の再使用/再利用を推進することも期待される。

有害物質の放出を抑える

化学薬品を使用せず、自然素材を使用することで有害物質の放出を抑えられる。建築物が使用されている間から解体・廃棄後も周囲の汚染を防ぎ、生分解性の高さにより人体や環境への影響を軽減することが期待できる。

新たな価値の創出

サステナブル建材を用いることによって、新たな経済性をも発生させている。その好例が従来から行われている古民家木材の再使用だ。長く使用された木造建築でも適切なメンテナンスを受けた木材は耐久性に優れるうえ、現在は手に入らない高品質の木材が残っている場合も多い。(※5)そのような木材を再度建材として使用することで品質の向上、顧客の満足といった付加価値も期待できる。

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サステナブル建材の主な種類

植物

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サステナブル建材の素材は多種多様だ。主な具体例について紹介し、種類ごとに特徴を解説する。

木材

古来から建材として使用されてきた木材もサステナブル建材のひとつである。(※6)植物は生育の過程でCO2を吸収して炭素とし、加えて製造・加工時のエネルギー消費が少ないことからCO2排出削減に寄与している。ただし無計画な森林伐採ではなく、適切に管理された森林から合法的に伐採された木材(FSC認証材)であることが重要である。(※7)また木くずやその他の素材を粉砕・成型して製造される「再生木材」も増えており、新しく木を伐採せずに得られる木材代替品として注目されている。(※8)

リサイクル材

従来の建材も、再利用可能なものはリサイクル材として活躍している。もっとも代表的なものは金属だ。例えば鉄スクラップは回収後にリサイクルプロセスを経て、建材を含むさまざまな用途のリサイクル鉄として活用される。またその他の金属、アルミニウムも建材から建材へと循環している。(※9・10)金属のリサイクルにおいては、いったん素材となったものを再処理して成型する分エネルギーが削減されるという利点もあるのだ。

一般の家庭から排出されたガラスもリサイクル材の原料である。(※11)以前は再利用できなかった色付きガラス瓶なども主原料として、超軽量のタイルに再商品化され活用されている。リサイクルが難しいとされてきたコンクリート廃棄物も、骨材として再利用するための技術研究が進んでいるところだ。(※12)

自然素材

木材以外の自然素材も、サステナブル建材の一種だ。古来より使われてきた土壁、漆喰、珪藻土など、古民家や古い住宅でもよく見られるものがそれである。これらは自然の物質から化学薬品を用いずに製造でき、解体・破棄の際にもそのまま自然へ還すことが可能だ。近年では植物由来の壁紙も実用化され、土にかえる壁紙として注目を浴びている。(※13)従来の建築物ではビニールを主とする石油由来の壁紙が使われてきたが、比較的身近な建材にもサステナブルな選択肢は広がっている。

新素材

ここまで述べた素材のほか、新たに開発された環境負荷低減型の素材も含まれる。一見夢物語とも思えそうだが、実用化の例を紹介したい。

ノンフロン断熱材
日本の家屋においては高性能の断熱材が用いられるが、発泡プラスチック系素材のなかにはフロン類(温室効果ガスの一種)を含むものが存在し、大量に使用されてきた。しかしこれらの断熱剤から排出されるフロン類はオゾン層の破壊を招くため、環境への観点から現在ではこれらの断熱材もノンフロン化が進んでいる。またこれらを用いて断熱性を高めることにより、外気との遮断性を上げ冷暖房の使用削減にも寄与しうるのだ。(※14)

CO2を吸収するコンクリート
製造時のCO2排出を大幅に削減し、かつ製造過程においてCO2を吸収するコンクリート。吸収したCO2をコンクリート内に固定し、高耐久も期待できる製品である。(※15)

廃棄衣類・食品の繊維からなるボード
人間の生活の中で必要な衣料や食品、その廃棄が問題となっている。そのような廃棄物の繊維をリサイクルして建材とする製品があるのだ。廃棄物削減に寄与する上、デザイン性を高めることによりアップサイクルも兼ねることが期待される。(※16)

ごみからつくられるタイル
家庭や工場から排出されるごみは、処理場の融解炉によって最終的には「溶解スラグ」という物質になる。これは従来道路素材やコンクリート原料となっていたが、さらなる有効化を目指して溶解スラグからなるタイルが開発された。この製品は低温かつ短時間で焼成可能なため、リサイクル時のCO2削減にも貢献している。(※17)

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サステナブル建材がもたらすメリット

森

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サステナブル建材にはSDGs実現を含めて多様なメリットがある。それらの利点について解説する。

環境への影響

建設廃棄物は全産業廃棄物排出量の約2割を占め、その抑制・再利用が課題であった。(※18)サステナブル建材は廃棄物の削減、CO2排出削減、生分解性などにより環境負荷の軽減が可能である。またリサイクルによるエコシステムや、耐久性に優れた建材を用いることによって新たな資源採取を軽減し、持続可能性を高めることが期待される。

経済的な影響

サステナブル建材の価格自体は、従来の建材に比べて高価なものが多い。しかし長期的なライフサイクルで見ると、長寿命であることや住環境としてのエネルギー効率の向上から全体的に減少するコストもある。さらに今後は環境規制が強まり得ること、資源の新規獲得コストが増大しうることを視野に入れて、サステナブル建材の重要性が高まってくることが予想される。

社会的な影響

サステナブル建材を用いることにより、SDGsのうち人間社会に関する目標「すべての人に健康と福祉を」「住み続けられるまちづくりを」に対応可能である。(※19)化学物質を排することでシックハウス症候群や化学物質過敏症の軽減につながり、高断熱性があれば熱中症やヒートショックから身を守ることができる。また自然由来の素材を内装に用いることで、天然の調湿作用により快適な住環境が期待できる。

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サステナブル建材を採用した建築事例

海

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サステナブル建材を取り入れた建築はすでに行われており、日本各地に実例がある。(※20)実際に訪問や見学の機会があれば、ぜひ建材や建築物に注目してみてほしい。

仮設建設物

サミットや万博で一時的に使用された建造物において、再利用を前提とした木材を用いた。イベントの終了・解体後はふたたび建材として木材の再使用を行っている。(※21)

徳山中央病院

ウッドデッキに再生木材を使用して耐久性向上を図るとともに、木材の使用低減を行った。(※22)さらに病院特有の施設として、ガン治療のための放射線照射装置室とそれを取り囲むコンクリートが存在する。通常のコンクリートは照射の影響を受けて放射線を出すようになり、利用者の健康影響や廃棄時の環境負荷・コストが懸念されるが、ここでは低放射化コンクリートを採用してその低減を図っている。(※23)

スターバックス皇居外苑 和田倉噴水公園店

床タイルにCO2を吸収することで固まる新素材を使用。店内装飾にも廃棄予定だった素材を再利用し、アップサイクルを図っている。(※24)

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サステナブル建材を選ぶ際のポイント

倉庫

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サステナブル建材を選ぶ際の基準や、考慮すべきポイントを解説する。

素材

まず再生可能な資源からつくられているか、あるいはリサイクル素材を使用しているかが判断基準となる。なかでも木材においては、FSC認証を受けた素材であることも確認しておきたい。(※7)

用途や気候

建造物の用途や気候によって、重視するポイントは異なってくる。例えば寒冷地であれば高断熱性の素材を、雰囲気や快適性を重視する店舗では自然由来の漆喰を採用するなどだ。

ライフサイクルアセスメント(LCA)

建材の製造から建築、利用、そして最終的な解体処分に至るまでの環境負荷を把握する手法だ。(※27)これにより、ライフサイクル全体でのサステナビリティを評価できる。

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サステナブル建材の課題と今後の展望

夕焼けと家

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現在において、サステナブル建材はその認知度や課題から広く普及しているとはいえない。しかしさまざまな取り組みが行われているなかで、今後の展望についても考えたい。

サステナブル建材の課題

サステナブル建材は従来の量産型製品に比べて、製造費用が割高になってしまう。また素材によっては知識・技術の不足から、これを取り扱える企業が限られる場合もある。そのためサステナブル建材の一般化は難しく、大きな課題となっている。

サステナブル建材の展望

上記のような課題から発展途上にあるサステナブル建材ではあるが、多くの機関によって普及が推し進められている。建材を取り扱う企業や組織に向けては講演や知識の啓発、事業採択など。(※28、※29)消費者に向けては長期的なコスト低減の周知や、普及促進のための助成事業など。(※30)これらの取り組みや技術革新による新素材の普及などで、近い将来には積極的にサステナブル建材が選択される社会も実現しうる。

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サステナブル建材の普及に向けて

高速道路

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長期的なスパンで考えれば、サステナブル建材は環境・社会・環境の持続性に寄与するものだ。実際に用いられている建築物もあり、研究も進んでいるさなかである。購入時のコストや製品の種類の少なさなど未だ課題は残るが、一般的な普及に向けての取り組みが進行中だ。すぐ導入するのは難しいが、例えば住居の補修、壁紙の張り替えなどちょっとした修繕でもサステナブルな材料という選択ができることを心にとどめておきたい。

※掲載している情報は、2025年1月15日時点のものです。

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