環境負荷の見える化につながる「ライフサイクルアセスメント」 活用の事例と導入のメリットとは

ホワイトボードの前でデータ分析をおこなう人

ライフサイクルアセスメントとは、資源調達から廃棄までのすべての過程において、製品やサービスがもたらす環境負担を評価するための手法のこと。企業は自社製品の開発や改善に活用でき、消費者はグリーン購入の指標にできる一方、実施行程に負担があるという課題も。

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2021.02.23
SOCIETY
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ライフサイクルアセスメント(LCA)とは

調査結果を写したパソコン画面

Photo by Chris Liverani on Unsplash

ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とは、製品やサービスがもたらす環境への影響を評価するための手法のこと。原料調達から加工、製造、流通、製品使用、メンテナンス、そして廃棄・リサイクルに至るまでの全過程(ライフサイクル)における環境負荷を算出することで、「環境負荷の見える化」を図る。

ライフサイクルアセスメントが最初に提唱されたのは、1969年に米コカ・コーラ社が実施した、飲料容器に関する環境影響評価とされている。

その後、石油危機によってガソリンや光熱費が高騰したため、多くの企業がエネルギー効率に優れた製品づくりを模索するようになった。この時代を皮切りに、自社製品の改良のため、世界各国の企業がライフサイクルアセスメントを活用するようになった。現在、ライフサイクルアセスメントは、ISO(国際標準化機構)による環境マネジメントにおいて国際規格化されている。

ライフサイクルアセスメントの実施手順

ライフサイクルアセスメントは、ISO規格で定められた次の4段階から構成されている。

1. 目的と調査範囲の設定
ライフサイクルアセスメントを実施する理由や、調査結果の用途を明らかにする。また、調査するライフサイクルの範囲を設定し、どの環境問題の観点から環境負担を算出するのか、などを明確にする。

2. インベントリ分析
ライフサイクルの各段階における、材料使用量、エネルギー消費量、環境負荷物質排出量、廃棄物量などの環境負担を算出する。この分析によって、製品のライフサイクルにおいてどれほどの環境負荷がかかっているかを定量的に把握することができ、改善すべき点が明らかになる。

3. 影響評価
インベントリ分析で得られた環境負荷データをもとに、環境問題の各カテゴリーごとにおける環境影響を定量化する。例えば「地球温暖化」という環境問題に対してどれくらいの温室効果ガスが発生するか、などを数値化する。関連性のある環境影響は足し合わせ、統合化することもある。

4. 解釈
インベントリ分析や影響評価の結果から、専門家による第三者からの意見も交え、結論を導く。ライフサイクルアセスメントをおこなうことへの理解と、製品・サービスに関わる環境負荷への理解が深まることで、製品の改善や環境負荷の削減に向けた提案が可能となる。

LCAを用いた調査と企業による活用事例

パソコンの前で会議する人

Photo by Scott Graham on Unsplash

レジ袋とマイバッグの環境負担を比較

近年、レジ袋の代替品として使用が奨励されているマイバッグ(エコバッグ)だが、実際にどれだけ環境負荷に違いがあるのかを検証するため、ライフサイクルアセスメントを導入した比較検証がおこなわれた。

この検証では、レジ袋とマイバッグ各1種類における、原料調達から廃棄処分までのCO2排出量や、耐久性を考慮した使用回数なども含めて比較・評価がされた。この結果、マイバッグにおいては、耐久性のよいものであれば環境負荷低減に貢献するが、頻繁に交換が必要なものはレジ袋よりも環境負荷が大きくなる可能性があることがわかった。

食品容器包装の必要性を検証

プラスチック製の食品容器包装を使うことは環境負担になると言われる一方、品質劣化や損傷を防ぎ、食品ロスを減らすという意見もある。これを明らかにするため、桃の生産から廃棄における環境影響をデータ化し、プラスチックの容器が桃の品質保持にどれほど影響を及ぼすのか、包装形態やトラック輸送による振動、輸送距離、温室効果ガスの排出量とエネルギー消費量なども含めて比較検証がされた。

検証の結果、プラスチック容器を使用した場合、容器の生産、廃棄、リサイクルにおける環境負荷はあるものの、輸送時における桃の損傷は大幅に減少するため、結果として環境負荷(温室効果ガスの排出量やエネルギー消費量)の削減に貢献していることが明らかになった。

技術開発への活用事例(マツダ株式会社)

国内大手自動車メーカーのマツダは、車のライフサイクルにおける環境負荷の低減を図るため、2009年からライフサイクルアセスメントを活用している。

2019年には、世界5地域を対象に、電気自動車とエンジン車のライフサイクルでのCO2排出量を算出し、どちらの車の方がより環境負荷が少ないのかを比較検証した。この結果、電力の状況や燃費・電費、生涯走行距離などは地域によって異なるため、各車における総合的なCO2排出量は地域ごとに変化することが判明した。

これを踏まえ、マツダでは適材適所の対応が可能となる、マルチソリューションでの技術開発が進められている。

ライフサイクルアセスメントのメリット

自社製品の開発・改善に利用できる

企業は、自社製品(サービス)のライフサイクルにおける環境負荷を評価することで、製品の開発や設計、生産プロセスの改善に利用できる。また、環境影響に関する情報を公開することで、環境に配慮している企業として、消費者や取引先からも評価を獲得できる。

政策の優先順位づけに利用できる

行政などは、ライフサイクルアセスメントによって、環境へ配慮した政策に優先順位を付けることができるため、より有効な政策による社会誘導が可能となる。

消費者に対する「環境負荷の見える化」を実現

消費者は、製品やシステムのライフサイクルにおける環境影響を適切に知ることができるため、消費をする際の評価基準にできる。これによりグリーンな消費者が増えることで、環境負荷の少ない社会が実現される。

ライフサイクルアセスメントの課題

ライフサイクルアセスメントには、原料調達から廃棄まで、すべての過程においての環境負担データが必要となるため負担が大きく、デ-タ収集が不十分になることが示唆される。

影響評価・総合評価については、欧州や日本でいくつかの手法が提唱されている段階であり、いまだ確立されていない。製品の種類によって考え方も異なり、数値で表すことのできない事例もあるため、各産業に応じた評価方法の確立が必要だ。

また、ライフサイクルアセスメントでは環境にかかる負荷を、減点方式で評価するため、いくら製品性能がよくても評価されづらい。そのため、製品性能と環境負荷を比で表した評価方法が求められる。

ライフサイクルアセスメントの重要性が高まる未来

環境問題への意識が高まり、環境負荷の少ない製品やサービスが求められる中、ライフサイクルアセスメントの必要性は今後さらに重視されるだろう。

企業はライフサイクルにおける環境負担を見える化することで、消費者や取引先からの信頼を高めることができる。また、情報を受け取った消費者は、グリーンな消費をおこなうための一つの指標にできる。ライフサイクルアセスメントの活用が一般化し、環境にやさしい社会が実現されることを願いたい。

※ 参照サイト
一般社団法人 プラスチック循環利用協会「LCAの視点で「レジ袋」を考える」(p8)、「容器包装用プラスチック利用による環境負荷削減貢献の評価」(p11)
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf
マツダ 「環境への取り組み/LCA(ライフサイクルアセスメント)」
https://www.mazda.com/ja/csr/environment/lca/

※掲載している情報は、2021年2月23日時点のものです。

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