金属資源を有効活用するリサイクルメタル 環境や生態系に与えるメリットや課題とは

たくさんの歯車

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一旦廃棄された製品に含まれる有用な金属を再利用するリサイクルメタル。金属資源を有効活用することで、持続可能な社会を目指す取り組みのひとつとして注目されている。環境や経済に与えるメリットや、リサイクルメタルを運用するための課題、身近な活用例を紹介する。

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2024.12.28

リサイクルメタルとは

パイプライター

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「リサイクルメタル」は、直訳したとおり再利用金属を指す。一旦廃棄された製品に含まれる有用な金属を取り出し、再び金属資源として活用することで、サステナビリティの高い社会を目指す取り組みのひとつである。(※1)

リサイクルメタルが注目される背景とは

地球上において鉱山から採掘できる天然資源には限りがあり、金属も例外ではない。機械化や電子化が加速するなかで、金属資源の枯渇に直面するのもそう遠くはないと予想されている。将来的な供給が不安視されるなか、廃棄物から金属資源を回収し再利用するということが資源循環の理念から重要とされている。

とくに日本ではほとんどの金属資源を輸入に頼っており、それが滞ると国内製品の製造・輸出に大きな影響が出る。そのため経済面からも、リサイクルメタルは重要と捉えられている。(※2)

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リサイクルメタルの種類とリサイクル対象金属

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現在再利用が進められている代表的な金属とそれらの特徴、リサイクルについて解説する。

鉄(スチール)

加工しやすく強度が高いという特長を持ち、流通量が多く安価であるため、製品の大小を問わず幅広く利用されている鉄(スチール)。家庭から出る金属ごみもあるが、メーカー等の加工工程から発生する鉄スクラップ、および廃車/建物から使用済み製品として発生する鉄スクラップが多くを占める。再利用鉄は主に乗用車、建設などの産業用途に役立てられる。(※3)

アルミニウム

軽くて丈夫なうえ錆びにくいという特徴を持つ。航空機から日用品などさまざまな分野で利用されており、低温で溶解できるため少ないエネルギーで再生できる。さらに再生アルミは新品のアルミとほとんど品質が変わらないという利点がある。(※4)とくにアルミの空き缶は高い割合でリサイクルされており、アルミ缶やアルミサッシに加工されたりなど役立てられている。

導電性(電気を通す性質)や熱伝導性(熱を使える力)に優れ、加工しやすく腐食しにくいという性質がある。また近年では抗菌作用にも着目されている。(※5)

このように銅資源はリサイクル原料として価値が高く、メーカー等の金属くずから一般の家庭ごみまで幅広く回収され、再度銅線や部品、家庭用品などに活用されている。

貴金属(ゴールド、シルバー、プラチナ)

腐食しにくく加工もしやすく、希少性の高い金属素材を貴金属と呼ぶ。(※6)そのなかでもとくにゴールド、シルバー、プラチナはアクセサリーの素材として人気が高い。アクセサリーを含む装飾品のほか電子部品にもこれらの貴金属は使われており、分解・分別した廃棄物から貴金属物質を抽出・精製した後、再度貴金属素材として利用される。

レアメタル

明確な定義はないが、存在量が少ない・採掘困難などにより希少、かつ産業に重要で安定供給が必要とされる金属類を指す。(※7)よく知られている物質としては、リチウム、チタン、ニッケルなどがある。上記の通り希少かつ重要であるが、日本ではほとんどを外国からの輸入に頼っている。そのため安定的な供給源として、廃棄物からの抽出・リサイクルを行う技術の研究が進められている。

レアアース

レアアースとは、スカンジウム、イットリウム、ランタンからルテチウムまでの希土類元素と呼ばれる17元素のグループのことである。永久磁石に使われるネオジム、ジスプロシウム、レーザーやカラーテレビの蛍光体に使用されるイットリウムなどが該当する。(※6)

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リサイクルメタルのリサイクル方法

工場

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金属のリサイクル方法は物質によって異なるが、一般的な手法を解説する。(※3)

回収と分別

家庭や企業から出る金属ごみは、国が認定した事業者に引き渡される。認定事業者においては解体・破砕・洗浄等のプロセスを経て、含まれる金属の種類により分別・回収が行われる。

溶解と再加工

回収された金属は電気炉や高炉によって加熱溶解され、材料として再成形される。成型された金属は素材として出荷され、再加工プロセスを経て再び製品として利用される。

精製と合金化

溶解の際、品質を保つために不純物を取り除く精錬が行われる。手法は金属の種類によって異なり、化学的・物理的な手法が用いられる。

例えば鉄の不純物は鉄よりも酸化しやすいため、あえて酸化させて分離除去を行う。(※8)またアルミニウムのリサイクル時には、純アルミ地金や他の使用済み製品を合わせて原料とし、リサイクル合金として生まれ変わる。(※9)

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リサイクルメタルのメリット

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リサイクルメタルには、社会問題の解決につながるさまざまなメリットがある。具体的なものを見ていこう。

資源の有効利用と天然資源の節約

前述した通り、金属資源は有限であり希少なものも多い。それらを使い終えたら廃棄して終わりではなく、リサイクルすることにより、すでにある資源を活用して鉱物資源の枯渇を防げる。

CO2排出量の削減

金属は採掘から製造までに大量のエネルギーを必要とし、同時に多量のCO2が排出される。リサイクルメタルについてはすでに製品となった金属を用いて再利用するため、鉱物から新しくつくるより少ないエネルギーで製造できる。そのため省エネルギーと同時にCO2排出量の削減に寄与する。

コストの削減

リサイクルメタルは一度製品になった金属原料を原料とするため、いちから製造するよりも製造コストが低い。また海外からの輸入に頼る金属資源に対して、日本国内で発生した廃棄物から得られるリサイクルメタルは価格の変動を受けにくく、安定した価格で製造しやすい。(※8)

廃棄物の削減

金属を含む不燃ごみの処分方法は、最終的には埋め立てるしかない。(※10)埋め立てによる処分は広大な敷地を必要とし、また周囲の環境に影響をおよぼすため、できる限り埋め立てごみは減らさなければならない。

金属リサイクルは分別が必要だが、最終的な埋め立てごみを減らす有効策のひとつである。とくにメーカーから排出される金属くずや大きな金属廃棄物は大規模な回収が可能で、リサイクルメタルの原料にすることによって廃棄物削減の効果が高い。

生態系の保護

金属を新しく採るには鉱石の採掘が必要であり、そのための鉱山も拓く必要がある。しかし鉱物資源の採掘にはさまざまな環境問題が伴う。鉱山からの流出水による水質汚染からくる生態系への影響もそのひとつだ。(※11)そこでリサイクルメタルを活用することで、新しく鉱山を拓き採掘し続けるペースを緩やかにし、長期的な生態系保護につながるだろう。

再生インフラが整っている

一部の金属、なかでも鉄鋼スクラップはほとんどの国や地域でリサイクルに関する社会システムが整備されており、スクラップの回収も原料としての利用も経済合理的に行われている。そのため、新たに大規模な投資を行う必要がない。(※8)

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リサイクルメタルのデメリットと課題

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リサイクルメタルはいまだ技術研究が盛んに進められている分野であり、発展性がありつつもさまざまな課題が残されている。

純度の維持が難しい

リサイクル工程のうち精錬の過程で不純物除去を行うが、完全に除去することは難しい。リサイクルメタルの純度が低いと、期待される金属性質に対して強度が弱くなるなどの問題が発生する。さらに何度もリサイクルを行うと、純度はさらに低下する。(※12)

回収と分別の手間

一般的に単一素材で使われやすい鉄・アルミニウム・銅といった金属資源は、家庭や企業からの排出される際も分別しやすくリサイクル率も比較的高い。しかし複合的な金属素材が使われている製品から貴金属・レアメタルを回収するのは難しい。家電やスマートフォン等の電子部品から金属素材を回収するには、まずプラスチック等の非金属を取り除き、貴金属の含有量が高い部材を回収したうえで溶解し分離回収しなければならない。(※13)

また電子部品の小型化もあって、1個1個から抽出できるリサイクルメタルはごく僅かであり、高コストになってしまう。そのため分別回収段階での効率化について、有効な技術開発が望まれている。

リサイクルインフラの整備

金属のリサイクルにはそれに適した設備インフラの整備が整いつつあるものの、新設の際のコスト、既存施設の老朽化等が足枷になりうる。

例えば鉄素材の溶解炉は、大きく分けて高炉と電炉の2種がある。(※14)電気を用いる電炉は環境負荷が小さいが、不純物が残りやすく品質管理が難しいうえに電力を消費する。高炉は高純度の鉄をつくれるが、環境負荷が大きく建造にかかるコストも大きい。

材料管理の難しさ

再生材の材料管理が不十分な場合、工場内の油分、粉塵などが成形中に素材に入り込み、成型後の製品が強度低下を起こす恐れがある。どのような環境に再生材が置かれていたのか、どのような環境で再生されるのか、厳密に管理することは難しい。(※12)

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リサイクルメタルの活用事例

王冠

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リサイクルメタルによる製品は、大規模なものから身近なものまで幅広く活用されている。機会があればぜひ着目してみてほしい。(※15)

自動車部品や家電製品

既知の通り、自動車や電気電子機器には多くの金属が使われている。以前は天然資源性の鉄を使用していたこれらの製品も、高品質化したリサイクル鉄を鋼材として用いており、リサイクルメタルの活用は広がっている。

建築資材

以前からリサイクル鉄を原料とする鋼材は、比較的不純物の許容される建築資材に用いられることが多かった。それほど高品質が求められない場合には電炉を用いて低エネルギーでリサイクル鉄を生産できるため、二酸化炭素の排出量減少につながっている。

電線や通信ケーブル

銅は通電性の高さから電線等の原料として使用される。とくに電線・通信ケーブルに用いられている銅線は被膜と分別しやすく、また電力・通信会社による回収・リサイクルも積極的に行われている。

アクセサリーや日用品

気軽に手に取れる物品にもリサイクルメタルが活用されている。例えば回収されたアルミ缶が再びアルミ缶として使用される「CAN to CAN」はリサイクル率も高い。(※16)

また貴金属は、リサイクル後もアクセサリーとして用いられることが多い。以前から不要になった金やプラチナ製の宝飾品をリサイクルして新たなデザインにつくり替えることがよく行われていた。それに限らず近年はサステナブル志向の高まりから「リサイクルメタルであること」に価値を見出す消費者もおり、一般的にも注目されている。アクセサリーブランド「4℃」は2021年「cofl by 4℃」というサステナブルラインを立ち上げ、リサイクルメタルを含む素材にこだわった製品を提案している。(※17)

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リサイクルメタルへの第一歩

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リサイクルメタルに関してはいまだ研究・開発途中の課題も多いが、社会的な環境問題・経済問題の解決に寄与するものであり、今後より一層の活用が期待されている。金属の再利用は大規模なサイクルであるため、個人レベルでできることは少ないと思う方もいるだろう。しかし個人個人の意識も大切だ。例えば金属を含むごみは分別しやすく廃棄する、リサイクルメタル使用の製品を手に取ってみる、そういった小さな行動が積み重なって、リサイクルメタルの普及につながるだろう。

※掲載している情報は、2024年12月28日時点のものです。

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