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海洋温度差発電は、海中の温度差を利用してエネルギーを生み出す技術だ。風力発電や太陽光発電とともに、環境負荷の少ないクリーンなエネルギーとして注目されている。この記事では海洋温度差発電の仕組みやメリット、今後の課題について解説する。
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海洋温度差発電(OTEC:Ocean Thermal Energy Conversion)とは、海水の温度差を利用して発電を行う技術だ。地球上の海洋には、表層の温かい海水と深層の冷たい海水が存在し、この温度差を活用して電力を生成する。
温かい海水によって気化した低沸点の流体を用いてタービンを回転させ、電力を生み出す。気化した流体は冷たい海水により再び液化し、このサイクルを繰り返すことで発電を行う。海洋温度差発電は、再生可能エネルギーとして注目されており、天候や昼夜を問わず比較的安定して電力を供給できるという特徴がある。可能な地域が限定され、主に熱帯・亜熱帯地域で利用が進められており、日本では沖縄周辺や小笠原諸島などが適した地域とされている。(※1)
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海洋温度差発電は、いくつかの方式に分類され、それぞれ異なる特徴を持つ。基本的な発電の仕組みとしては、温かい表層海水を用いて低沸点の流体を蒸発させ、その蒸気の力でタービンを回転させる。発生した蒸気は深層の冷たい海水で液化され、再び同じ流体を循環させて発電を続ける。以下に代表的な3つの発電方式を紹介する。
クローズドサイクル方式では、アンモニアなどの低沸点の作動流体を使用し、これを温かい海水で蒸発させてタービンを回し発電を行う。タービンを回した後の蒸気は、深層の冷たい海水により液化され、再び同じサイクルで使用される。この方式では流体を外部に放出せず、閉じたシステム内で循環させることから「クローズドサイクル」と呼ばれている。(※2)
オープンサイクル方式は、海水そのものを直接使う発電方式である。温かい表層の海水を蒸発器に送り、低圧下で蒸発させ、その蒸気によってタービンを回転させる。蒸発した海水の蒸気は冷たい深層水によって冷やされ、水として凝縮される。この際に淡水が副産物として得られるため、発電に加えて淡水資源の供給手段としても期待されている。(※2)
ハイブリッド方式は、クローズドサイクルとオープンサイクルの両方の特徴を組み合わせた方式である。クローズドサイクルでの発電と、オープンサイクルによる淡水生産を同時に行うことで、効率的なエネルギー利用を可能にしている。この方式は発電と同時に淡水を生産するため、とくに水不足に悩む地域での活用が期待されている。(※2)
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ここでは、海洋温度差発電のメリットについて詳しく解説する。
海洋温度差発電の利点は、天候に左右されない海中での発電であり、昼夜問わず一定の温度差が存在するため、安定した電力供給が可能な点である。太陽光や風力発電が気象条件に影響されやすいのに対し、海洋温度差発電は常に安定的なエネルギー源として期待されている。(※1)
海洋温度差発電は燃料を必要としないためCO2の排出がほとんどなく、温室効果ガス削減に寄与するクリーンエネルギーとされる。環境への負荷が少ないため、持続可能なエネルギー源として注目されている。(※1)
オープンサイクル方式やハイブリッド方式では、発電の過程で淡水が副産物として得られる。この淡水は水資源が限られている地域での利用が期待されており、エネルギー供給と水資源確保の両面で地域に貢献する。(※1)
海洋温度差発電で使用した深層海水は栄養素が豊富で冷却性も高いため、地域に新たな産業を生み出す可能性がある。たとえば深層海水を活用した養殖業やミネラルウォーターの生産などが挙げられる。深層海水は病原菌の少ない清浄な水質であるため、健康な水産物の養殖に適しており、地域での持続的な漁業の発展につながる。(※3)
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海洋温度差発電は持続可能なエネルギーとしての期待が高まる一方で、いくつかの課題やデメリットがある。以下では、具体的な課題とその対策の可能性について解説する。
海洋温度差発電は、発電プラントの設置に膨大なコストがかかるのがデメリットである。海面から深層水を汲み上げるためには1kmほどの長さの配管が必要で、設置にあたっては多額の投資が求められる。(※4)配管の長くなる離島などではこうしたコストが電力供給コスト全体に影響を与えやすく、普及が難しい側面がある。
海洋温度差発電を設置するためには、海中の温度差がある程度あることが前提となる。そのため日本だと、現在は九州以南や沖縄に限定されている。国外ではハワイ島、マーシャル諸島、インド、スリランカのみで、地理的な制約を大きく受ける。(※4)
海洋温度差発電の設備を設置する際、周囲の海洋環境に影響を与える可能性がある。深層から冷たい水を表層に戻すことで、海流や生態系に干渉し、その地域固有の生息環境を変えてしまう恐れもある。(※4)
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実用化に向けて、世界各地で海洋温度差発電のパイロットプロジェクトが進行中である。各国が地域に合わせた技術開発に取り組み、将来的なエネルギー自給自足型のインフラ構築を目指している。
アメリカのハワイ州では、2015年にハワイ島のコナで海洋温度差発電プラントが稼働を開始した。出力は105kWで、約120世帯分の電力をまかなう規模である。このプラントは、安定的なエネルギー供給を目的とし、島嶼地域の自給自足型エネルギーシステムのモデルケースとなっている。(※4)
インドでは、国立海洋技術研究所が主導し、5MW規模の商用プラントを目指して開発が進められている。現在は1MWの実証試験を進めており、海洋温度差発電を国の電力供給インフラの一部として導入する可能性を探っている。インドには約180,000MWもの海洋温度差発電のポテンシャルがあるとされ、このプロジェクトはエネルギー供給の安定化に寄与する取り組みとして注目されている。(※5)
日本国内では、沖縄県久米島で海洋温度差発電の試験が行われている。島内のエネルギーを自給自足する研究はもちろん、副次的に得られた海洋深層水を利用したクルマエビの養殖や化粧品の製造など、幅広い分野で海中資源の有効活用を模索している。(※6)
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持続可能な社会に向け、世界の国々がアクションを始めている。その過程において、海洋温度差発電も重要な役割をもつ。
海洋温度差発電は、特定の地域に適した再生可能エネルギーとしてエネルギー供給の多様化に貢献する。この発電方法が普及することで、化石燃料に依存しないエネルギー構造が実現し、持続可能性をより高めるだろう。
海洋温度差発電は、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する技術である。とくに目標7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や目標13の「気候変動に具体的な対策を」を実現する一助となる。クリーンエネルギーの普及は気候変動対策としても効果が期待され、今後の技術革新と実用化が求められている。(※7)
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海洋温度差発電は発電効率や設置コストの課題を抱えながらも、持続可能なエネルギーとしてのポテンシャルが高い。地域社会や産業に貢献し、再生可能エネルギーの一翼を担うことで、未来のエネルギー問題解決に大きく貢献する技術であると期待される。
※1 夢の発電・海洋温度差発電の実用化に向けて|PUBLIC RELATIONS OFFICE
※2 海洋温度差発電の分類|佐賀大学
※3 新しいハイブリッド方式海洋温度差発電(H-OTEC)実証設備の説明会の御案内|佐賀大学
※4 Vol.45 海のエネルギーを活用「海洋温度差発電」|エネフロ
※5 海洋温度差発電の技術の現状とロードマップ|NEDO
※6沖縄県海洋温度差発電実証設備|OTEC
※7SDGs17の目標|日本ユニセフ
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