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風力発電のひとつである「洋上風力発電」。世界的に注目されている発電方法だが、具体的にどのようなものなのだろうか。陸上の風力発電とは何が違うのか。メリットやデメリット、残された課題や日本や世界の現状にも触れながら、今後の展望を紹介しよう。
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洋上風力発電とは、風力発電のひとつで、海上や湖上などの洋上に建設されたもののことを指す。
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そもそも風力発電とは、風の力を利用して風車を回し、その回転を発電機を通して電気に変換する発電方法のこと。
一定の風速があれば昼夜を問わず電力を生み出してくれる発電方法であることや、自然のエネルギーを利用するため、資源が枯渇する恐れがない再生可能エネルギーであることなどが、特徴として挙げられる。
また、燃料を必要としないので、CO2など温室効果ガスを排出しないことも利点のひとつ。地球環境にやさしいエネルギーとして、年々需要が高まっている。
風力発電には、地上(陸上)に設置する「陸上風力発電」と、海上・湖上などに設置する「洋上風力発電」の2種類がある。どちらにしても、風力発電を行うには、適した場所を選び、設置条件を満たすことが重要だ。
ある程度の風速がないと発電量が確保できないため、風速が年平均で毎秒6.5m以上が望ましく、山間部や海岸沿いが適している。さらに、発電機を設置する広い土地や、大きくて重い部品を運べるような道路も必要だ(※1)。
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日本の風力発電のほとんどが、陸上にあるが、洋上に設置するメリットはなんなのだろうか。
洋上風力発電の大きなメリットは、安定的かつ高効率の発電が可能なこと。山などの地形によって風の強さや向きが変わりやすい陸上に比べて、洋上は一般的に風が強く安定的に吹くため、高効率な発電が叶うのだ。
さらに、陸上よりも設置場所が生活エリアから離れることで騒音や景観問題が少ないため、世界的に洋上風力発電の設置が計画されている(※2)。
洋上風力発電には、「着床式」と「浮体式」の2タイプがある。それぞれの特徴について説明していこう。
着床式とは、海底に杭などの基礎構造物を設置してその上に風車を乗せる方式のこと。海底に固定しているため大型の発電機を設置することが可能で、一般的に水深が50mより浅い海域に適用される。
浮体式は、発電機を洋上に浮かべる方式で、場所を選ばず大量に設置できるのが大きなメリットだ。日本は近海の水深が深いため、水深が50mよりも深い海域に適用される浮体式が注目を集めている。
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世界的に洋上風力発電が注目されるのには、世界的共通目標である持続可能な開発目標「SDGs」の取り決めや、温室効果ガス排出削減に関し2020年以降の国際的な枠組みとして設けられた「パリ協定」などが背景にある。脱炭素化への関心が高まり、有効な対策のひとつとして洋上風力発電が注目されているのだ。
日本でも、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする「カーボンニュートラル」を目指していることもあり、達成への貢献度が高く、海に囲まれた日本の特性を活用できる洋上風力発電が注目されている。
世界風力会議が発行した、風力発電の2022年の年間報告書「Global Wind Report 2023」によると、世界の風力発電の2022年末の累計導入量は906GW。2021年末の830GWから9%アップした。また、洋上風力は累計で64.3GWで、2021年末の55.5GWから16%アップとなっており、どちらも前年比で増えていることがわかる(※3)。
また、一般社団法人 日本風力発電協会が2023年1月に発表したデータによると、2022年末日本の風力発電の累積導入量は4,802MW。そのうち洋上風力発電は135MW(およそ2.8%)となっている(※4)。
ヨーロッパではイギリスを筆頭に大規模な洋上風力発電のプロジェクトが始動し、商業運転を成功させている。日本は導入が遅れているとされるものの、2000年以降からは導入件数が急激に増加。2020年に政府が発表した「洋上風力産業ビジョン」でも、2030年までに10GW、2040年までに30GW〜45GWの導入を目指すことを目標値に掲げていることもあり、今後もさらに増加が加速していくと予想される。
洋上風力発電が注目されているのには、さまざまなメリットがある。メリットを具体的に紹介していこう。
まず洋上風力発電のメリットとして挙げられるのが、安定した発電が行えることだ。
発電にはある程度の風速が必要で、年平均毎秒6.5m以上が望ましいとされている。陸上では、地形の影響などにより、十分な風速でなかったり、頻繁に風向きや強さが変わってしまうことも。その点、洋上は強い風が持続的に吹いている場所が多く、風の乱れも少ないため、発電に適しているのだ。
また、陸上に比べて制約が少なく、設備の大型化も実現できるため、費用対効果の高い発電が可能な点もメリットといえるだろう。洋上風力発電が先行する欧州では、落札額が10円/kWhを切る事例や補助金を投入せずに市場価格での取り引きが可能となった事例も起きている。(※5)
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洋上は陸上に比べて、周りに建物などの障害物がないため、大型の発電機の導入や、発電機の大量導入が可能だ。
そのため、洋上風力発電は陸上風力発電よりも大きな電力を生み出すことができると期待されている。
陸上では、運搬の関係などから3MW程度の風車が限界といわれているが、洋上では、8MW以上が主流。陸上よりも大きな電力を生み出せることもメリットのひとつだ。
大きな電力を生み出せる洋上風力発電が、安定的かつ大量導入できれば大きな力となり、再生可能エネルギーの主力電力になり得るだろう。
洋上風力発電の設備には、数万点にもおよぶ多くの部品が使われている。それらの製造を国内で行うことで、経済波及効果が期待できるのもメリットといえるだろう(※5)。
設置後も定期的にメンテナンスが必要なため、関連する産業には長期的にさまざまな経済効果が生まれるはずだ。
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洋上風力発電について考えたとき、気になることのひとつが漁業への影響だ。自然界に存在しないものが海に設置されることで、魚が警戒していなくなってしまったり、獲りにくくなってしまうことを懸念する漁業関係者もいる。
しかし、洋上風力発電の基礎部分は、人工魚礁としての役割を果たし、さまざまな魚類が集まってくることが報告されている。ウィンドファーム内(多くの風力発電機を設置して、全体を一つの発電所として運営する形態)での漁業の規制は国や地域によって異なるが、浮体の周辺に小魚が住みつき、小魚を捕食する魚やイセエビなどの甲殻類も集まるようになるなど、漁業にいい影響があることも確認されている(※6)。
洋上風力発電が設置される場所は、生活エリアから離れている。そのため、陸上に比べると周囲の景観への影響も少なく、騒音問題などで近隣に迷惑をかける心配がほとんどない点もメリットといえるだろう。
洋上風力発電にはさまざまなメリットがあるが、一方でデメリットも存在する。ここからは、デメリットについて考えてみよう。
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大きなデメリットのひとつが、コストが高いこと。洋上風力発電は、基礎やケーブルなどの設置と維持管理費に大きなコストがかかるのだ。
着床式の場合、水中で発電機が倒れないよう、海底に基礎を築き、足場を固める必要がある。また、発電した電力を変電所に届けるケーブルも、長くなればなるほど(陸から離れるほど)かかるコストは増えていく。
さらに、洋上では波による浸食作用により、陸上よりも速く劣化が進むことや、メンテナンスのための往復移動にも費用がかかり、維持コストも高くついてしまうのが現状だ。しかしながら洋上風力発電は、複数基を設置する大規模なウィンドファームの建設が可能であり、スケールメリットが期待される。
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洋上風力発電の設置工事によって懸念されるのが、生態系や漁場への影響だ。
海中で設置作業をする際の騒音や水質悪化、さらに稼働させたときの音による、魚類や海洋哺乳類への影響が心配されている。
メリットでは、“景観への影響が少ない”と紹介したが、影響がまったくないわけではない。少ないとはいえ、そこになかったものが存在するようになるというのは、場所によっては景観の悪化を引き起こしてしまう可能性もある。
洋上風力発電を設置する際は、その土地の歴史や観光名所など、地域において大切にされてきた景観や文化について考えを巡らせながら、地域の人々と一緒に考えて計画を進めていく必要があるだろう。
前述したように、2022年末時点の日本の風力発電の累積導入量4,802MWのうち、洋上風力発電は135MW(およそ2.8%)と少ない。日本において洋上風力発電が普及しなかった理由はなんなのだろうか。
日本近海は浅い海域が少ないため設置方法が限られてしまうほか、台風の襲来や地震が起きる確率が高いこと、それにともなう津波など、日本の環境条件の厳しさも理由のひとつだ。
また、ヨーロッパに比べて許認可プロセスの障壁が大きいことも、普及しなかった理由といえるだろう。日本では一般海域の長期占有について枠組みや、海運業・漁業といった既存の利用者との関係調整の枠組みが明確になされていなかった。関係各所との調整に大幅な時間が取られ、計画から実際に建設、運用まで数年単位でかかることもしばしばだ。
ヨーロッパに比べると、洋上風力発電において出遅れてしまった日本だが、現在は日本政府の後押しもあり、着々と導入が進んでいる。
たとえば、再エネ海域利用法に基づき、沿岸海域における着床式を中心に、年平均で1GWのペースで10箇所の促進区域を創出(合計4.6GW )。そのほか港湾区域において、2023年1月に秋田港・能代港の洋上風力が、また2023年末には石狩湾新港の洋上風力が運転を開始した。
また、2024年3月12日、政府は再エネ海域利用法で定める洋上風力発電の設置対象海域を、領海内から排他的経済水域(EEZ)までに拡大。これによって、より深い海での建設を想定した浮体式洋上風力発電の導入が加速する見込みとなっている(※7)。
海に囲まれた日本では、再生可能エネルギーの普及が今後より進むか否かは洋上風力発電の発展にかかっているとも言えるだろう。コストの面などの課題をクリアし、欧州に追随する発展が見込めるか、動向に注目したい。
※1 風力発電の設置に理想的な場所とは?|ダイナビ発電所
※2 洋上風力発電とは?|産総研マガジン
※3 GWECが世界風力統計を含む Global Wind Report 2023 を発表|JWPA一般社団法人 日本風力発電協会
※4 2022年末日本の風力発電の累積導入量|JWPA一般社団法人 日本風力発電協会
※5 2050年カーボンニュートラルに向けた 洋上風力発電政策の現状について(7ページ目)|経済産業省
※6 洋上風力の魚類等への影響について|公益財団法人 海洋生物環境研究所
※7 洋上風力発電に関する国内外の動向等について|経済産業省
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