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再生可能エネルギーのひとつとして注目されている地熱発電。実は、日本に多くの地熱資源があることはあまり知られていない。地熱発電の特徴やメリット・デメリットにはどのようなものがあるのか、世界の現状、日本の地熱発電について解説する。
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地熱発電とは、地下にあるマグマの熱などによってつくられた高温高圧の蒸気や熱水を利用した発電のことをいう。この地熱発電は再生可能エネルギーの一種で、永続的な利用ができる。日本政府は、地球環境に対して負荷の少ない再生可能エネルギーの導入を推進しており、地熱発電はそのひとつだ。
地熱発電は、火山などの地下深くにある蒸気や熱水を利用する。火山などの地下深部にはマグマだまりがあり、地下水はマグマの熱で温められ、蒸気や熱水となる。高温高圧の蒸気や熱水は地熱貯留層にたまり、そこまで井戸を掘って蒸気や熱水を取り出す。蒸気・熱水を取り出す力を利用してタービンを回し、発電する仕組みだ。
地熱発電に適した場所は、火山地帯や周辺のマグマだまりにより形成された地熱地帯である。そのため、環太平洋火山帯に属するアメリカ、インドネシア、日本、フィリピン、メキシコや、大西洋上のホットプルームという特殊な地熱資源環境に位置するアイスランド、アルプス・ヒマラヤ火山帯に属するイタリアなどが適した国といえる。
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地熱発電にはどのようなメリットがあるのか見ていこう。
地熱発電は地下の熱源を利用するため、太陽光発電や風力発電のように気象状況や季節、時間帯などによって発電量が左右されないのがメリットだ。24時間365日、安定的に稼働できる。また、資源が枯渇する心配がないのも魅力といえる。
地熱発電は、CO2の排出量が少ないエネルギーであることもメリットだ。さまざまな再生可能エネルギーがあるが、そのなかでも地熱発電のCO2排出量は13g・CO2/kWhとなっており、住宅用太陽光発電(38g・CO2/kWh)や風力発電(26g・CO2/kWh)よりも少なくなっている。(※1)
地熱発電は、自国の資源を活かせるのもメリットだ。そのため資源国の動向に影響されることがなく、また輸入に頼る必要もない。日本は地熱資源が豊富であることから、純国産エネルギーとして期待されている。
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地熱発電にはメリットがある一方、デメリットもある。どのようなものか解説しよう。
地熱発電は、開発に時間と費用がかかるのが最大のデメリットだ。地熱発電の開発には、地熱発電に向いている土地なのかを調べる地質調査や地盤調査が必要となる。これらの調査には掘削作業がともなうこと、必ずしも掘削した井戸が蒸気にあたるわけではないこと、想定した発電量に到達しないことなどの不確定要素も多い。そして調査から開発、事業開始にいたるまで、少なくとも10数年の月日が必要となるのもネックといえるだろう。
地熱発電の資源がある場所は、多くの場合、国公立公園や温泉地帯である。こういった場所に地熱発電の施設を建設することで、自然の景観を損なう可能性があるのもデメリットのひとつだ。地熱発電の開発には、自然保護の対策や地元住民への理解も必要となるだろう。
地熱発電に適した場所の条件には、火山などの地熱資源があること、掘削する距離を最小限に留めるため地熱資源の近くに平らな土地があることなどが挙げられる。これらの条件を満たす場所は、ある程度限定される。こういった、地熱発電に適した場所が限られていることもデメリットだろう。
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世界の地熱発電の資源量、設備容量、地熱発電割合を解説しよう。
主要国の地熱資源量は、1位がアメリカで3,000万kW、2位がインドネシアで2,779万kW、3位が日本で2,347万kWとなっている。(※2)
アメリカは世界最大規模の地熱地帯(ザ・ガイザーズ地熱地帯)をもち、インドネシアは多くの火山島からなる。また日本は世界有数の火山国であることから、地熱資源が豊富になっている。
次に、地熱発電の設備容量が多い上位3つの国を見てみよう。1位はアメリカで3,700MW、2位がインドネシアで2,289MW、3位がフィリピンで1,918MWとなっている。ちなみに日本は550MWで10位に位置。日本は資源量は多いものの、設備容量では近年伸びが著しいトルコやケニアに抜かれている。(※3)
近年、地熱開発の伸びが大きい国に、インドネシア、トルコがある。インドネシアの地熱発電の設備容量は2015年には1,340MWだったものの、2020年には2,289MWまで伸びている。トルコは、地熱発電の設備容量が2015年には397MWだったものの、2020年には1,549MWまで伸ばし、世界4位の地熱発電国となった。(※3)
これらの国の地熱開発の伸びが大きい理由は、国による推進策を打ち出していることであろう。推進策として、インドネシアでは地熱法の整備、買取価格政策、優遇税制などが、トルコでは地熱法、FIT制定、初期調査を公的機関から民間へ移転、掘削しやすい環境的有利な点などがある。(※4)
総発電電力量で、地熱発電が占める割合が高い国上位3つは、アイスランドで27.0%、フィリピンで14.8%、ニュージーランドで13.7%の順となっている。
アメリカは資源量・設備容量ともに高いものの、発電割合は0.4%、日本は資源量が多いものの0.3%にとどまっている。(※5)
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日本の地熱発電の現状を見てみよう。
日本における地熱発電所の数は、2018年度末時点で66地点、87ユニットとなっている。(※6)多くの発電所は東北と九州に集中しており、代表的な発電所に、国内最⼤の発電設備容量を誇る大分県の八丁原発電所、昭和41年に国内ではじめて商用運転を始めた地熱発電所である岩手県の松川地熱発電所がある。
2019年度の全国の地熱発電所の発電設備容量は、合計すると約54万kW、発電電力量は2,472GWhとなっている。(※7)
2022年度の日本国内の自然エネルギーによる年間発電電力量の割合は24.5%であった。そのうち地熱は0.3%を占めている。(※8)
日本は地熱資源量が世界3位であるにも関わらず、地熱発電の普及はあまり進んでいない。その理由や抱える課題について解説する。
地熱発電は、開発コストがかかることも課題のひとつだ。発電にいたるまではおよそ10年の期間が必要になり、確実に地熱資源を掘り当てることも容易ではなく、井戸を掘るのに数億円の費用がかかる。こうした開発コストやリスクを低減するために、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、調査データの提供や調査支援を行っている。(※9)
地熱発電の資源の多くは国公立公園内にある。これまで国公立公園内に地熱開発をすることは、法律で制限があった。そのため、適地で開発が行われず普及しなかったのも原因のひとつである。
地熱発電の開発により、温泉資源の枯渇や自然環境への影響などを不安視する温泉事業者や地元住民の反対から、開発が進められないケースもある。こういったケースでは今後、意見交換の場を設け、モニタリング調査や勉強会などを開き理解を得ることが必要となる。
日本は、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、2030年度までに温室効果ガスの排出量を46%削減を目指している。そのために再生エネルギーの電源構成36〜38%の導入を目標としている。再生エネルギーの導入は、2012年にはじまったFIT制度により大幅に増加した。そのうち地熱の電源構成は、FIT制度導入前の2011年度は0.2%、2019年度は0.3%に微増している。2030年には電源構成1%、設備容量約150万kWになるよう導入促進を実施している。(※9)
世界の各国でも、地球温暖化防止の観点から再生可能エネルギーのへの期待が高まっており、そのなかでも地熱発電は急速に拡大・成長を遂げている。インドネシアでは2028年までに600万kWまで地熱発電設備容量を増加することが計画され、ケニアでは2030年までに500万kWを系統につなぐ計画がある。またトルコでは、地熱発電所の新設が相次いでいる。このように各国で今後の地熱開発が期待されている。(※10)
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日本は世界第三位の地熱資源量を持つ国だ。地熱発電は安定したエネルギー供給を可能にし、CO2排出量も少ないため、地球温暖化対策にも貢献する。また地熱発電は地域経済の活性化にも寄与し、新たな雇用創出としても有用だ。貴重な資源を有効に活用した地熱発電や、再生可能エネルギーに注目していこう。
※1 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組|資源エネルギー庁
※2 地熱資源開発の現状について|資源エネルギー庁
※3 主力電源としての地熱発電導入の展望|日本地熱協会
※4 海外の地熱発電状況について|新エネルギー財団
※5 主要国の市場動向|環境省
※6 我が国の地熱発電の概要|環境省
※7 日本の地熱発電|エネルギー・金属鉱物資源機構
※8 国内の2022年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況(速報)|環境エネルギー政策研究所
※9 地熱発電の導入促進に向けた経済産業省の取組について|資源エネルギー庁
※10 世界の地熱発電|日本地熱協会
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