発電も融雪も可能な積雪発電とは 仕組みやメリットを解説

雪に覆われた地面

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積もった雪を有効活用する積雪発電。温室効果ガスの発生が少ないクリーンな発電方法であると同時に融雪にも使え、豪雪地帯で負担となっている除雪費用の大幅な削減も期待できる。この記事では、積雪発電の仕組みやメリット、残された課題を解説。

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2024.08.08
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雪国の新たな可能性「積雪発電」とは

積雪地域の住宅街

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積雪発電とは、温度差発電の一種で、雪と熱源の温度差を利用してエンジン(発電機)を駆動し発電する方法のこと。

温度差発電は温度差を得るために高温熱源と低温熱源が必要だ。本来は低温熱源、つまり熱エネルギーの廃棄場所は大気や海水などが用いられる。しかし、大気中に放出すると地球温暖化などの問題が生じてしまう。そこで、積雪発電では発生した熱エネルギーの廃棄場所に雪を活用する。そうすることで融雪もでき、さらに大気中に熱を逃がすよりも高温熱源と低温熱源の温度差が大きくなり、発電効率が上がるという一挙両得の発電方法だ。(※1)

なお、積雪発電で使われるスターリングエンジンは1800年代に発明され、内燃機関がないことなどから環境負荷が少ない発電として期待されてきた。(※2)

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積雪発電の仕組み

光る電球

Photo by Anthony Indraus on Unsplash

積雪発電は、どのような仕組みで発電しているのだろうか。

スターリングエンジン(発電機)を活用

積雪発電では、スターリングエンジン(発電機)が使用されている。スターリングエンジンは、19世紀初頭にスコットランドの牧師ロバート・スターリング氏によって発明された発電機だ。(※3)シリンダー内にあるヘリウムなどの気体が熱せられたときの膨張と冷やされたときの収縮を利用して内部のピストンを回し、それによって生まれるエネルギーで発電するという仕組み。

発電効率の低さからこれまで実用化は進まなかったが、技術の進歩により、いま、急速に実用化が進んでいる。熱エネルギーには、太陽熱や工場の排熱、廃材を燃焼するバイオマスボイラーなどの利用が試みられており、温室効果ガスの排出を極力抑えた発電方法として注目されているのだ。

積雪発電では、バイオマスボイラーや太陽熱から供給される高温熱源と雪による低温熱源を活用する。

不凍液を使用

積雪発電では、低温熱源が0度からマイナス10度程度と非常に低いため、凍ってしまう水の代わりに不凍液を循環させる。これにより、より低い温度の低温熱源が手に入る。高温熱源と低温熱源の温度差が大きいほど、発電量が大きくなり、より効率も向上する。

発電と同時に融雪も可能

発電時に温められた不凍液は、融雪にも活用できる点が積雪発電のメリットだ。バイオマスボイラーで40度から60度に温められた不凍液をまずは暖房などに使用し、それをさらに道路や屋根の融雪に利用する。雪のなかに巡らされた配管を通った不凍液は再び冷やされ、0度からマイナス10度となり、低温熱源としてスターリングエンジンに戻り、発電に利用される。(※4)このサイクルにより、エネルギーを無駄なく効率的に活用できる。

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積雪発電のメリット

雪がのっている木々

Photo by Ali Inay on Unsplash

積雪発電には、どのようなメリットがあるのだろうか。

莫大な除雪費用の削減につながる

北海道や東北などの豪雪地帯では、除雪のための費用や手間が膨大だ。例えば世界でも有数の降雪量を記録する札幌市では、過去30年間の平均年間積雪量が4m79cmにもなる。(※5)その除雪にかかる費用は莫大で、道路除雪費だけで年間約220億円。その他の雪対策費を合わせると約264億円だ。(※6)

積雪発電は雪を利用した発電と融雪を同時に行うことで、除雪費用を大幅に削減することが可能だ。除雪作業の手間とコストを削減し、環境負荷を抑えた電力を賄うことができる、一石二鳥の発電方法と言える。

環境負荷を抑えられる

日本の発電方法の約7割を占める火力発電では、石炭や石油などの化石燃料が使われ、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出が問題となっている。積雪発電では高温熱源に太陽熱や廃材や間伐材を利用したバイオマスボイラーを利用し、低温熱源には雪を利用するため、環境への負荷を低く抑えることができる。

また、一般的に使われるエンジン(発電機)は、ガソリンなどの化石燃料をシリンダー内で連続的に爆発させることでピストンを動かす。大きな出力を得ることができるが、化石燃料を使用するため、排気ガスを排出する。一方、積雪発電に使用されるスターリングエンジンは、温度差を利用して発電するため、排気ガスを一切排出しない。

スターリングエンジン1台を搭載した積雪発電システムで年間7トンの二酸化炭素削減効果があるとの試算も出ている。(※4)

雪国でも安定して電力供給が可能

積雪地域では既存の再生可能エネルギーの活用が難しいという問題がある。パネルに雪が積もってしまうため冬季は太陽光発電の利用ができず、積雪による荷重で破損する事故も起きてしまう。さらに雪の影響で風力発電も期待できない。

そういった環境において、積雪発電は冬季の安定的な電力供給が期待される。天候による発電量の変動も少なく、設備を整えれば長期的に活用が可能だ。

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積雪発電の課題

積雪地域の森林

Photo by Adam Chang on Unsplash

積雪発電の普及のためには、さまざまな課題が残されている。実用化にはどのような課題があるのだろうか。

初期コストがかかる

積雪発電に適した発電機は、現状では限られた国でのみ製造されているため、価格が高い。また、大出力で高効率な熱駆動エンジンが存在していないため、積雪発電の実用化には開発とそれに伴うコストが発生する。(※1)

施工方法の確立とインフラの整備が必要

積雪発電は、現状ではスキー場など限られた施設、限定的な場面での実証実験が成功した段階だ。既存の民家や一般の道路などに適用するためには、発電設備の簡易的かつ画一的な施工方法や導入方法を確立する必要がある。また、発電と融雪を効率よく行うためには、不凍液が流れるパイプの配置など、インフラの整備も欠かせない。

融雪計画の予測が困難

雪にも粉雪やざらめ雪など種類があり、さらには天候や気温によっては氷状になっている場合もあるため、融雪面積や融雪にかかる時間を正確に予測することが現状は難しい。自治体などのインフラとして導入する場合は、ある程度の予測と確実な融雪の実行が必要となるため、実用化に向けての課題のひとつとなる。(※1)

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積雪発電の現状と今後の展望

雪国の夜景

Photo by Teo Leguay on Unsplash

積雪発電は、青森で行われた実証実験により、約200Wの電力を生み出す可能性が示された。(※4)

実験では、雪の温度管理や発電効率の課題があったが、特許出願を含む解決策の策定が進んでいる。今後の展望として、積雪発電機の高コストや融雪の精度向上、大出力エンジンの開発、施工方法の簡素化が挙げられている。(※1)

積雪発電は廃棄雪を有効活用する環境にやさしい技術として、日本や世界の豪雪地帯で注目されている。

積雪発電以外にも研究が進むクリーンエネルギー

電圧計

Photo by Thomas Kelley on Unsplash

国際連合が掲げているSDGs(持続可能な開発目標)における目標7でも「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」が掲げられている。その目標達成のために、世界の国々や日本では積雪発電以外にも環境負荷の少ない発電方法の研究が進められている。具体的にどのようなクリーンエネルギーが存在しているか例を挙げる。

水素発電

水素発電は、水素を燃料として発電する方法だ。水素発電には、水素をボイラーで燃焼し蒸気でタービンを回して発電する「汽力発電」、水素を燃焼して得たガスでタービンを回して発電する「ガスタービン発電」、水素と酸素を化学反応させて発電する「燃料電池」の3つの方式がある。

現在、国内外で水素専焼や混焼を目指した大規模な実証実験が進行している。一例として、オランダや米国ユタ州、日本の三菱重工業やイーレックスなどがそれぞれ大規模な水素発電プロジェクトを進めている。

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重力発電

重力発電は、重力の位置エネルギーを利用して電気を生み出す技術だ。コンクリートブロックや水などの重りを高い位置に持ち上げ、重力でおろすことで発生する運動エネルギーを使って発電する。

また重力発電は揚水発電の原理を応用しており、電力需要の低い時間帯にエネルギーを蓄えておき、電力需要が高まったときに高い位置から落下させて発電することができる。環境負荷が少なく設置場所を選ばないため、今後の脱炭素化社会に向けた有望な技術とされている。

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アンモニア発電

アンモニア発電は、アンモニアを燃料として電力を生成する発電方法である。アンモニア発電には、既存の火力発電設備にアンモニアを加えて燃焼し、タービンを回して発電する「混焼」と、アンモニアと酸素の化学反応で発電する「燃料電池」の2つの発電方法がある。アンモニアはエネルギー密度が高く、低炭素エネルギー源としての可能性が広がっている。しかし、燃焼や化学反応の安定性向上などの課題もある。

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バイオマス発電

バイオマス発電は、生物由来の資源を燃料として電力を生成する発電方法である。木材や農業廃棄物を燃やして得られる熱で蒸気を発生させ、タービンを回して発電する「直接燃焼方式」、バイオマスを加熱して可燃性ガスを生成し、ガスタービンやエンジンで発電する「熱分解ガス化方式」、バイオマスを発酵させて生成されるメタンを燃焼させて発電する「生物化学的ガス化方式」などの3つの発電方法が主流である。バイオマス発電は、カーボンニュートラルなエネルギー源として注目されている。

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波力発電

波力発電は、海の波の動きを利用して電力を生み出す発電方法だ。主な方法には、波の動きで浮体を動かして発電する「可動物体型」や、水柱の振動でタービンを回す「振動水柱型」などがある。波力発電は、環境負荷が少なく再生可能なエネルギーとして注目されている。(※7)

積雪発電は地球温暖化防止に貢献

積雪地域の街

Photo by matthew Feeney on Unsplash

気候変動問題について考える国際的な枠組み「パリ協定」は、長年、温室効果ガス削減のために活動してきた。日本もパリ協定の締結国として、温室効果ガスの削減に励んでいる。脱炭素発電である積雪発電も、今後のさらなる研究と実用化により、地球温暖化防止への貢献が期待される。

※掲載している情報は、2024年8月8日時点のものです。

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