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実用化が期待される再生可能エネルギーにはさまざまなものがあるが、そのひとつに重力発電・重力蓄電がある。どのような仕組みで、どのように環境に優しいのか。メリット・デメリットや国内外の取り組み事例とともに解説する。
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重力発電とは、重力による位置エネルギーを利用して発電する技術のこと。位置エネルギーとは、高いところから物が落下する時のエネルギーのことだ。
重力発電では、コンクリートブロックや水などの重りを上げ下げすることで位置エネルギーを発生させ、それを活用して電気に変換する。CO2の排出を伴わないことから、再生可能エネルギーの一種とされ、脱炭素化社会に向けて注目されている。
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重力発電の仕組みは、揚水発電と同じ原理だ。揚水発電とは、水をくみあげ、その水を落下させることで発電する方式。ダムを使った水力発電と異なるのは、まず水を高い場所へ汲み上げることが必要となる点だ。
水の汲み上げには「揚水ポンプ」を動かすが、この時に電気が使われる。揚水発電はもともと、需要の少ない夜間の電気を有効活用するためにつくられた。夜間の余った電気で揚水ポンプを稼働させ、水を高い位置に移動させておき、電気需要が高まる昼間に水を落下させて電気を供給するというもの。(※1)
最近では太陽光で発電した電気が余剰しているとき、昼間に水を汲み上げておき、太陽光で発電できない夜に落下させて発電する方法もとられるようになった。
揚水発電を応用したものが重力発電だ。重力発電では、クレーンなどを用いてコンクリートブロックなどの重たい物体を高い位置に持ち上げ、電力が必要なときに低い位置に下げることで発生する運動エネルギーを活用して電気を生み出す。
この仕組みからもわかるとおり、重力発電には、コンクリートブロックなどの重たい物体を高い位置に持ち上げたり、下げたりする装置やシステム、運動エネルギーを電力に変換する発電装置、エネルギーの需要と供給の管理をする制御システムなどが必要となる。しかし、水力発電のように水資源に頼らず、場所を問わず設置することが可能だ。
脱炭素化社会の実現に向けて活用が広がる再生可能エネルギーだが、デメリットのひとつとして発電量のコントロールが難しいという点がある。自然の力を利用する太陽光発電や風力、水力発電では、天候や気候に左右される。
そんなときに"蓄電池"としての役割を重力発電が担うことができる。それが「重力蓄電」と呼ばれるものだ。再生可能エネルギーの供給が過多のときに、余った電力を使って物質(コンクリートブロックや水など)を高い位置に上げておき、日照不足や無風など再エネの供給が難しくなったときに落下させて発電を行うのだ。本来"蓄電池"と聞いてイメージするものとは機能が異なるが、再エネによって生み出された電気を異なる形で"ストック"させておき、必要なときに活用する、いわゆる"蓄電池"としての役割が可能なのだ。
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重力発電にはさまざまなメリットがある。どのようなメリットがあるのか解説しよう。
重力発電は、前述したとおりシンプルな仕組みによって発電できるのが特徴だ。そのため汎用性が高く、場所さえ確保できればどこにでも設置できる。また燃料に化石燃料を使わないことから、二酸化炭素や温室効果ガスの排出がなく、環境への負荷を抑えられるのが大きなメリットだ。
重力発電の設備はシンプルな構造のため、一度建設してしまえば点検とメンテナンスを繰り返すことで数十年単位で運用することができる。
重力発電は、エネルギー供給が安定している点もメリットといえる。ほかの再生可能エネルギーにのように、天候に左右されることがない。化石燃料を使用した従来の火力発電のように、海外から燃料資源を調達する必要もない。国内でエネルギー生産を完結することができる。
従来の揚水発電では、コストが割高であることが課題だった。重力発電は構造がシンプルであること、耐久性が高いこと、燃料を必要としないことから、一度設置すれば低コストで運用できるのもメリットだ。
「変換効率」とは、つくったエネルギーをどれだけ電力に変換できるかという割合のことを指す。一般的な揚水発電の変換効率は約70%といわれているが、重力発電はそれを上回る約80%以上とされており、変換効率が高いのもメリットといえる。
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重力発電にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットや課題もある。
重力発電は運用コストは低いものの、初期コストがかかる点がデメリットといえる。重力発電には、大量のコンクリートブロック、高い場所へ上げ下げするためのクレーンや建物、それらを管理・制御するためのシステムなどが必要だ。より大きな電力を生み出すにはより大きな設備が必要となり、それ相当のコストがかかる。
重力発電では、コンクリートブロックなどの物体を高い位置に持ち上げる必要がある。そのためには高さと広さを確保できる場所でなければならず、設置場所は制限されてしまう。都市部などの込み入った場所や地形が複雑な場所には、設置が難しいのがデメリットだ。
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日本ではあまり馴染みのない重力発電だが、国内にも海外にも重力発電に取り組む企業がある。ここでは重力発電に取り組む企業の事例を4つ紹介しよう。
スイスのスタートアップ企業「Energy Vault(エナジー・ボールト)」の重力蓄電は、1つ35トンのコンクリートブロックを特殊なクレーンで上げ下げする構造で、電気エネルギーと位置エネルギーを自在に変換する仕組みだ。変換効率が一般的な揚水発電にくらべて高効率で、30年以上の長期使用が可能だ。またコンクリートブロックの一部に廃材を活用し、環境負荷の低減と安価な運用コストを実現できるとしている。(※2)
アメリカの「Advanced Rail Energy Storage(アドバンスト レール エナジー ストレージ)」は、鉄道を用いた重力蓄電システムを開発している。具体的には、7~8%の傾斜がある鉄道線路に重量貨物を牽引する電気機関車を活用し、電力が余っているときに傾斜の下から上に向かって機関車を走らせ、電気が必要になったときに停まっている列車を時速35マイル(56キロメートル)で傾斜に沿って下に走らせることで、ブレーキによる回生電力として回収する仕組みだ。蓄電・発電容量の調整は、貨車の編成を変更することで可能となる。(※3)約100キロメートルの線路を敷設すれば50万キロワットの蓄電が可能で、変換効率は90%近いという。(※4)
イギリス・スコットランドの「Gravitricity(グラビットリシティ)」は、地中15〜150mの穴に500〜5,000トンの重りを吊るして上げ下げする構造の重力発電を開発した。穴の深さや重りの重さによって、貯蔵(発電)できる電力量が変わること、起動からわずか1秒で最大出力に達すること、低コストで開発運用ができるのが特徴だ。2021年に実証実験を行い、今後はイギリス、ヨーロッパ、南アフリカの廃坑を活用した実証機の建設を目指している。(※5)
日本の「東芝三菱電機産業システム(TMEIC)」は、重力蓄電システムの開発・実用化に取り組んでいる企業のひとつだ。TMEICの重力蓄電システムは、山間部に100~300m程度の高低差をもつ重力蓄電システムを設置し、ワイヤーに重量物を吊り下げる形式だ。重量物を垂直方向に上下させるだけでなく、重量物を斜面に沿って上下させる方式も可能で、国内の山間部の斜面を活かすことができる。(※6)
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再生可能エネルギーが注目される理由には、2015年のパリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)の策定、気候変動への懸念が世界的に広がっていることが挙げられる。
世界の平均気温は、2020年時点で工業化以前(1850~1900年)と比べて約1.1℃上昇したことが発表されている。このような気温の上昇を発端として、気候変動による豪雨や猛暑、干ばつや洪水といったあらゆる自然災害の発生が世界的に問題となっている。
パリ協定では、世界共通で「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標が掲げられた。そのためには、可能な限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとることが目指される。目標達成のため、途上国を含むすべての参加国に、温室効果ガス排出削減の努力が求められている。
SDGsでは目標7に「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」がある。すべての人が手頃な価格で近代的なエネルギーを使えることや、環境によいクリーンな再生可能エネルギーを増やすことなどが目標として掲げられている。
このような背景から、温室効果ガスの発生が伴う化石燃料による発電から、クリーンで環境負荷が少ない再生可能エネルギーへの転換が急がれているのだ。重力発電をはじめ、太陽光や水力、風力、バイオマス、地熱、そのほか、水素発電やアンモニア発電など、さまざまな再生可能エネルギーが注目されている。
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その方式は古くからあるが、いま改めて注目を集めている重力発電。実用化に向けて動き出している企業も国内外に複数ある。水素発電やアンモニア発電などとともに、今後の実用化に注目したい。
※1 電力のピンチを救え!大活躍する「揚水発電」の役割とは?|経済産業省 資源エネルギー庁
※2 Energy Vault
※3 ARES North America|The Power of Gravity
※4 自然エネルギーの出力変動を抑制する蓄電設備|国際環境経済研究所
※5 Projects|Gravitricity
※6 力学的に電気を蓄える重力蓄電システム|TMEIC
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