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気候変動問題への対策を世界が模索するなか、国内ではアンモニア発電が注目されている。燃やしても二酸化炭素を排出しない点から、カーボンフリーな発電方式とされ、次世代エネルギーとして期待されているのだ。本記事では、アンモニア発電のメリット・デメリットや今後についてわかりやすく解説する。
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アンモニア発電とは、アンモニアを燃料とした発電方式のこと。アンモニアは燃やしても二酸化炭素を排出しないことから、水素発電同様、クリーンなエネルギーとして注目されている。
そもそもアンモニアとは、窒素と水素で構成される無機化合物である。常温・常圧では無色透明の気体であり、「アンモニア臭」といわれる特有の刺激臭を持つことで知られている。
これまで、アンモニアの主な用途は、化学肥料だった。1909年に窒素と水素からアンモニアをつくる「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる工業製法が確立され、不可能とされてきたアンモニアの合成が可能となった。アンモニアは窒素肥料の原料になるもので、これにより化学肥料を大量生産できるようになり、農業生産に寄与してきた背景がある。(※1)
近年は、カーボンフリーの燃料になる可能性を秘めているとして、エネルギー分野でも大きく注目されている。
上でも触れたように、アンモニア発電は、アンモニアを燃料としているのが特徴だ。農産業分野で広く使われてきたアンモニアだが、燃焼性の低さや着火の難しさから、エネルギー分野では活用しにくい原料とされていた。
2014年に、東北大学の小林秀昭教授を研究責任者とする研究チームが、世界で初めてアンモニアを燃料としたガスタービン発電を実現させた。また、2018年には、メタンに20%のアンモニアを混ぜた燃料で、大型ガスタービン発電に成功。アンモニアの安定的な燃焼が可能となり、アンモニア発電が現実味を帯びてきたのだ。(※2)
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アンモニア発電の主な方法は、現状2つある。以下で、具体的な仕組みについて見ていこう。
1つ目は、混焼という方法だ。火力発電の原理は、燃料を燃焼することで発生する熱エネルギーでタービンを回転させ、電気を生み出すというもの。アンモニアは燃えにくいため専燃だと専用の設備が必要だが、既存の石炭火力発電設備の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させることができる。アンモニアの使用比率を高めることができれば、二酸化炭素排出量の削減が期待できる。
将来的には、混焼ではなく、100%アンモニアを用いた専燃を目指し、研究が進められている。国内最大の火力発電事業者「JERA」や、エネルギー事業に力を注ぐ「IHI」が、積極的に導入を進めている。
2つ目は、燃料電池である。燃料電池とは、2枚の電極板を用いて起電力を生み出す方法。通常は水素と酸素の化学反応を用いて、生じたエネルギーを電力として取り出す。京都大学と民間企業各社の共同研究グループでは、水素の代わりにアンモニアを用いた燃料電池の研究を進めている。(※3)
燃料電池は、大規模な設備が必要ないため、将来的にはアンモニアを用いた燃料電池車や家庭用発電装置の開発が期待できる。しかし、劣化が激しいなどの問題があり、実用化に向けてはさらなる開発が必要な状況だ。
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アンモニア発電の最大のメリットは、カーボンフリーな側面だが、それだけではない。以下では、3つのメリットを紹介する。
アンモニアは、燃焼時に二酸化炭素を排出しないため、クリーンなエネルギーとして注目されている。現在はまだその段階ではないが、仮に日本国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所でアンモニアの20%混焼をおこなえば、二酸化炭素排出削減量は約4000万トン、さらにアンモニアの専燃が実現すれば、二酸化炭素排出削減量は約2億トンになると試算されている(※4)。気候変動問題へのインパクトとしても、決して小さくない。
アンモニアは常温・常圧時では気体だが、少し圧力を加えるかマイナス30度程度に冷却するだけで液体となるため、輸送が容易だ。これまで農産業分野で広く用いられてきた原料であることから、輸送や貯蔵のシステムがある程度整っているし、世界的にも船舶による輸送方法が確立されており、既存の技術で管理できる点が大きなメリットだ。
水素は液化するにはマイナス200度以下に保つ必要があり、気体のままだと体積が大きく輸送や貯蔵が難しいのが課題とされているが、その点アンモニアは比較的容易といえる。
アンモニア発電は、火力発電所の既存の設備をそのまま使えるのもポイントだ。アンモニアは、火力発電のボイラーで混焼することが可能。また、火力発電所にはアンモニアのタンクが設備として備わっている。つまり、作業員はアンモニアの扱いにも慣れているのだ。
アンモニア発電に大掛かりな初期投資は必要なく、アンモニアを燃料として導入するハードルは高くないとされている。そういう点でも、実用化は現実的なのだ。
アンモニア発電はメリットが多い反面、課題も残されている。以下で、3つ紹介する。
アンモニア発電は、実験レベルにおいては高効率な発電が可能とされている。一方で、大規模な商業用発電は実証段階。今後は、いかに混焼比率を高められるかがカギとなっている。
アンモニアは石油や天然ガスなどの化石燃料に含まれるメタンから水素を分離する方法で製造されるため、生産時に二酸化炭素を排出する。燃焼時には二酸化炭素を排出しないことで注目されているが、生産時の排出は大きな課題だ。
しかし、再生可能エネルギーを用いた製造も進められている。低炭素アンモニアとして注目されているグリーンアンモニアやブルーアンモニアは、製造プロセスにおける二酸化炭素の発生を抑えられる。
グリーンアンモニアは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用し、水電解により製造される水素と空気から分離した窒素を反応させて製造される。そのため、製造プロセスから直接排出される二酸化炭素排出量は0である。(※5)
ブルーアンモニアは、化石資源を原料として水素生成時に温室効果ガスが発生するが、これらを回収して地中などに貯留することで排出を抑えることができる。
アンモニアには、供給体制の課題も残されている。現状は国内生産量が不足しており、アンモニア発電の本格導入には、国内製造の拡大が必須。もしくは、輸入のための体制を整える必要がある。いずれにせよ、導入拡大のためには、サプライチェーンの構築が不可欠だ。
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2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、政府によるアンモニア発電における本格的な議論が開始された。同年12月に公表された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、アンモニアは重要分野のひとつに位置付けられている。
2030年までに石炭火力への20%アンモニア混焼の導入・普及を目標に定め、それに伴うアンモニアの国内消費量は、2030年に年間300万トン、2050年には年間3000万トンと想定。利用拡大のために、日本企業主導でサプライチェーンを構築することを目指している。
また、国内のエネルギー政策の方向性を定めた「第6次エネルギー計画」では、2030年度の電源構成において、アンモニアと水素で約1%を賄うことが定められている。(※6)
アンモニアの混焼をいち早く取り入れた火力発電事業者「JERA」は、「2050年までにCO2排出実質ゼロを実現する」という目標を掲げている。実現のためのソリューションのひとつが、アンモニア発電だ。ロードマップでは、アンモニアの混焼比率を具体的に示しており、2050年までに石炭火力発電所でアンモニア専燃を達成することを目指している。(※7)
二酸化炭素の大幅な排出削減が見込まれているアンモニア発電。今後導入を本格化し、発電方法の主流となることが大きく期待されている。
脱炭素の切り札として注目されているアンモニア発電。気候変動の原因である温室効果ガスの排出削減に大きく寄与する可能性があり、実用化が進めばインパクトは決して少なくないだろう。
本格導入のためにはクリアしなければならない課題もあるが、日々研究や開発が進められている。さまざまな発電技術が誕生している昨今、アンモニア発電の今後にもますます注目したい。
※1 アンモニア合成を通して人類を支えた研究者たち|東京工業大学
※2 アンモニアを燃やして発電|国立研究開発法人 科学技術振興機構
※3 アンモニア燃料電池|SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)
※4 アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先|経済産業省 資源エネルギー庁
※5 従来のアンモニアおよびブルーアンモニア、グリーンアンモニア P5|公益社団法人 化学工学会
※6 第2節 燃料アンモニアの導入拡大に向けた取組|経済産業省 資源エネルギー庁
※7 環境先進国の疑義を覆す、アンモニア活用の現実とは|jera
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