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環境影響評価法に含まれている法律「環境アセスメント」とはどのような制度なのか。この記事では、環境アセスメントの必要性やプロセス、メリット・デメリットを解説する。
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環境アセスメント(環境影響評価)とは、環境に大きな影響を及ぼす可能性のある事業を調査・予測・評価し、環境保全の観点から事業計画を作成する制度のことを指す。(※1)
環境アセスメントの目的は、環境に大きな影響を及ぼす可能性のある事業が環境保全に悪影響のないように行われることを確保することにある。
環境アセスメントを実施することで、環境保護の具体的な促進手段となることをはじめ、経済的・社会的影響も評価対象とされることから住民の健康被害や社会的負担への軽減にもつながる。また、環境や社会に対する潜在的なリスクを把握し、事業がもたらすリスクを最小限に抑えることも可能だ。
こうしたことから、環境アセスメントの実施は持続可能な社会づくりに向けたステップであり、環境保全と経済発展の両立を目指すための基盤となる。(※1)
環境アセスメントには、次のような種類がある。(※2)
法令アセスメント
国の法律に定められた環境アセスメントのこと。
条例アセスメント
地方自治体の条例に定められた環境アセスメントのこと。条例ごとにルールが異なる。
生活アセスメント(ミニアセス)
廃棄物処理法に沿い、調査、予測、評価されるアセスメントのこと。
自主アセスメント
自主的に環境への影響調査、環境保護へ向けた対策をしながら事業を進めていくアセスメントのこと。
なお、この記事ではおもに「法令アセスメント」について解説する。
法令アセスメントで検討する環境要素には、次のようなものがある。
・環境の自然的構成要素の良好な状態の保持(大気環境、水環境、土壌環境・その他の環境)
・生物の多様性の確保および自然環境の体系的保全(植物、動物、生態系)
・人と自然との豊かな触れ合い(景観、触れ合い活動の場)
・環境への負荷(廃棄物等、温室効果ガスなど)
・一般環境中の放射性物質(放射線の量)
なお、自治体が定める条例アセスメントでは、検討する環境要素が異なる場合がある。(※3)
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環境アセスメントを世界ではじめて導入したのはアメリカだ。アメリカでは、1960年代に環境問題に対する社会的関心が高まり、1969年に大規模プロジェクトにおける環境配慮を求める環境アセスメント制度「国家環境政策法(NEPA)」が制定された。この制度は米国外に影響を与え、オーストラリア(1974年)、タイ(1975年)、フランス(1976年)、フィリピン(1978年)、イスラエル(1981年)、パキスタン(1983年)などが環境アセスメント制度を導入していった。
日本では、1992年にブラジル・リオデジャネイロにおいて開催された国連環境開発会議によって採択されたアジェンダ21を受け、1993年に従来の公害対策基本法に代わり環境基本法が制定された。1997年に環境アセスメント法が成立した。(※4)
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日本と諸外国の環境アセスメント法について解説する。
環境アセスメントについて定めているのが「環境アセスメント法(環境影響評価法)」だ。環境アセスメントによる評価結果を事業内容に定めることを目的としており、対象となる事業や要素については規定がある。(※5)
国際的な環境規制の枠組みには、次のようなものがある。
気候変動に関する枠組みには、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、京都議定書(2020年までの枠組み)、パリ協定(2020年以降の枠組み)がある。
生態系保全の枠組みには、生物多様性条約(CBD)、ワシントン条約(CITES)などが、環境汚染に関する枠組みには、バーゼル条約やストックホルム条約、ロッテルダム条約がある。(※6、※7)
EUの環境アセスメントは、欧州委員会が定めた「環境影響アセスメント指令」に基づいて実施される。これは、特定の公共事業や民間事業の環境影響アセスメントに関する指令・規制のひとつである。
EU環境政策の基本方針である「対症療法よりも未然防止に重点を置く」ことをふまえ、事業認可の前に当該事業の環境への影響を特定して評価を行う環境影響アセスメントの手順を定めている。(※8)
アメリカの国家環境政策法(NEPA)は、連邦政府の関わるあらゆるレベルの行為(政策、計画、プログラム、事業)に対し、必要な場合において環境アセスメントを行うことを義務付けている。(※9)
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前述したとおり、環境アセスメントの対象となる事業は法律で定められている。
環境アセスメントの対象となる事業は13ある。それぞれ、環境アセスメントを必ず行う事業である「第1種事業」と、環境アセスメントが必要かどうかを個別に判断する事業の「第2種事業」があり、これは、規模の大きさによってわけられている。(※1)
・道路
・河川
・鉄道
・飛行場
・発電所
・廃棄物最終処分場
・埋め立て、干拓
・土地区画整理事業
・新住宅市街地開発事業
・工業団地造成事業
・新都市基盤整備事業
・流通業務団地造成事業
・宅地の造成の事業
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環境アセスメントの手順と実施方法について説明する。
どのように環境アセスメントを進めるかを設計する。事業や計画の段階・熟度に応じて、必要な調査、予測、評価等の方法を検討し明確にする。(※1)
現地の環境の状況を調査する。調査方法には、現地測定や観察、既存の資料の整理などがある。調査結果をもとに、環境にどのような影響があるかを予測する。事業を行った場合の環境保全対策を検討し、評価する。(※1)
都道府県知事や市町村長、一般の人々から意見を聞く。必要に応じて内容を見直す。(※1)
事業に着手し、環境保全対策を実施する。また事業着手後も必要があれば追跡調査を行い、環境保全対策を検討、実施する。(※1)
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環境アセスメントには、メリットとデメリットの両方がある。それぞれを解説しよう。
環境アセスメントの実施は、環境問題の予防、環境保全につながり、持続可能な開発の促進になるのがメリットだ。また事前にリスクを予測し、予防策や緩和策を講じることができる。
環境アセスメントによって環境への影響を事前に分析して公表することで、近隣住民や周辺環境に配慮した事業を行うことができる。企業は社会的責任を果たす姿勢が評価され、信頼性やブランドイメージの向上につながる。(※10)
環境アセスメントのデメリットとしては、時間やコストがかかることが挙げられる。また、手続きが複雑であることも課題である。さらに、環境への影響をすべて正確に予測するのは困難であり、とくに長期的な影響については不確実性が伴うこともデメリットといえるだろう。
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今後、環境アセスメントは持続可能な開発の重要性が増すなかで、さらにその役割や方法が進化していくと予想される。AIやビッグデータ、リモートセンシング技術の導入で、調査の効率性と精度が向上するだろう。またSDGsや国際的な環境規制の枠組みとの連携により、それらの基準に適合する開発が重視されるようになると考えられる。(※11)
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環境アセスメントは、開発事業により環境保全に悪影響のないよう事業計画をつくる制度だ。環境問題を防ぎ、持続可能な開発を促進するというメリットがある一方、時間やコストがかかるというデメリットもある。地域住民であれば意見を求められることもあるため、環境アセスメントや環境問題について理解を深めておく必要がある。
※1 環境アセスメント制度のあらまし|環境省
※2 環境アセスメント入門 その1|DOWAエコジャーナル
※3 1-5 環境アセスメントで調べることがら|環境省
※4 環境アセスメント制度の発展経緯と国際的な対応状況|環境省
※5 環境影響評価法|e-gov 法令検索
※6 気候変動に関する国際枠組み|外務省
※7 3条約(ストックホルム条約・バーゼル条約・ロッテルダム条約)の概要|環境省
※8 環境影響アセスメント指令|ATOMICA
※9 諸外国の戦略的環境影響評価制度 導入状況調査報告書|環境省
※10 環境アセスメントを活かそう「環境アセスメントの心得」|環境アセスメント学会
※11 環境アセスメント制度の現状と課題|J-stage
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