サステナビリティ・リンク・ローンとは? 企業が対応すべき理由や事例を紹介

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昨今、環境問題や社会的課題の改善に取り組むため、「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」で資金調達を行う企業が増加している。当記事では、世界的に注目を集めており、日本企業も徐々に導入を進めているSLLについて、必要とされる背景や社会にもたらすメリットなどを紹介する。

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2024.09.21
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サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは

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「サステナビリティ・リンク・ローン(通称・SLL)」とは、借り手が野心的なSPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)(※1)を達成することを奨励するローンである。SPTsとは、環境問題などの解決に向けて行うサステナビリティに関する活動目標のことであり、主に3つの特徴がある。

①借り手の総合的な社会的責任に関する戦略で掲げたサステナビリティ目標とSPTsとの関係を整理する
②事前に定められたKPI(重要業績評価指標)で測定した適切なSPTsにより、サステナビリティの改善度を評価・測定する
③上記に関する融資後のレポーティングを通して透明性が確保されたローンである(※2)

従来のローンとの違い

従来のローンと異なるのは、借り手のサステナビリティに関する目標達成具合に応じて、融資条件が変動する点である。借り手が目標を達成できれば金利が下がり資金調達が容易になるなど、達成状況に応じてさまざまなインセンティブが組み込まれている点もポイントだ。(※2)

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サステナビリティ・リンク・ローンの仕組み

工場から煙

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ここでは、サステナビリティ・リンク・ローンの仕組みと特徴について解説する。

サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)の設定

環境省の発表した「グリーンローンおよびサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン サステナビリティ・リンク・ ローン関係のポイント 」によると、「野心的かつ有意義なSPTsの設定」は以下と定義付けられている。

①SPTsは借り手のビジネスにおけるマテリアリティに関連した野心的かつ有意義なもので、 定量的なものを事前に設定しなければならない

②野心的かつ有意義なものとは、以下のとおりである
・借り手の企業活動が環境や社会にもたらすポジティブおよびネガティブなインパクトを包括的に捉えている
・サステナビリティに関連するポジティブなインパクトが大きい、またはネガティブなインパクトを大きく改善させるものである
・達成困難度を踏まえて個別に判断されるものである(※3)

SPTsとKPIの違い

SPTsとKPIはどちらもSLLの評価指標として使用される。SPTsはKPIの評価指標の目標であるため、KPIに基づいて達成すべき水準を指している。一方、KPIは選定した指標のパフォーマンスを測定するために使用する、定量的な指標のことを指す。

したがって、SPTsとは指標に基づいて達成すべき水準(取り組むべき目標)のことであり、KPIとは目標達成状況を観測する指標である点が、大きな違いといえる。(※4)

SPTs達成状況と融資条件の連動

借り手は融資後に定期的なSPTsのレポーティングを行う義務がある。また、貸し手はSPTsの達成状況に応じて融資条件を見直す仕組みだ。したがって借り手のSPTsの達成状況によって、その後の融資条件も変動することになる。(※2)

企業へのインセンティブ

SPTsの達成状況と融資条件などが連動する仕組みにより、借り手が借入期間内に目標を達成することにより、企業はインセンティブを与えられる。たとえば金利の融資条件が良くなる、貸し手のホームページに掲載される、外部機関からの意見書の発行が実施されるなどだ。(※3)

レポーティングによる透明性の確保

借り手はレポーティングによる透明性の確保が義務付けられている。可能な場合は外部機関によるESG格付などのSPTsの達成状況に関する最新情報が入手できるよう、最低でも年に1回以上の報告を貸し手に行う必要がある。(※3)

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サステナビリティ・リンク・ローンを利用する企業のメリット

話し合う人

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ここではサステナビリティ・リンク・ローンにおける、借り手と貸し手双方のメリットについて紹介する。

借り手のメリット

貸し手と新たな関係を構築できる

サステナビリティ・リンク・ローンを受けて情報を開示することにより、ESG融資を好意的に選ぶ金融機関との新たな関係を構築できる。これにより、資金調達基盤の強化につながるケースがある。(※2)

社会的支持の獲得につながる

サステナビリティ・リンク・ローンから資金調達することにより、企業がサステナビリティに関して積極的な目標を掲げて取り組んでいることをアピールできる。これにより、社会的支持を獲得しやすくなる。(※2)

企業価値の向上につながる

サステナビリティ・リンク・ローンを利用することにより、借り手はSPTsを設定してから目標達成に向けて積極的に動く必要がある。したがって、組織内でサステナビリティに関する意欲や関心も自ずと高まっていく。

さらに、原材料の調達から生産といった供給連鎖全体の管理を強化していくことにより、全体のサステナビリティ経営への強化にもつながる。このような取り組みを通して、発行体の中長期的なESG評価の向上や、企業価値の向上につながるといえるだろう。(※2)

貸し手のメリット

借り手と新たな関係を構築できる

SPTsの目標を通して、借り手と事業課題について対話し関係を築いていく必要がある。借り手との多層的な関係構築により、新規ビジネスの獲得につながるなどのメリットが考えられる。(※1)

社会的支持の獲得につながる

サステナビリティ・リンク・ローンは、借り手の債務不履行などがない限りは安定したキャッシュフローを獲得できる。あわせて、環境や社会面で持続可能な経済活動へ積極的に資金を供給・支援していることを社会にもアピールできる。

したがって、サステナビリティ・リンク・ローンに融資を行うことにより、社会的な支持の獲得にもつながるといえるだろう。(※2)

経済的利益と環境・社会面の両方の向上が可能になる

サステナビリティ・リンク・ローンとして融資を行うことにより、経済的利益を得ながら資金供給を通じてサステナビリティに関する取り組みを支援することが可能となる。したがって、融資を通じて経済的利益だけでなく、環境・社会面の向上も可能になる。(※2)

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サステナビリティ・リンク・ローンが社会にもたらすメリット

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ここではサステナビリティ・リンク・ローンが社会にもたらすメリットについて紹介する。

地球環境の保護や安全を守ることに貢献できる

サステナビリティ・リンク・ローンの普及が進むことにより、借り手のサステナビリティ経営の高度化・維持を行う動機が内部化される。さらに、環境面で持続可能な経済活動に関する事業への民間資金の導入が拡大するため、温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止などにもつながると考えられている。(※2)

金融機関の預金者への啓発につながる

サステナビリティ・リンク・ローンの普及が進めば、預金者への啓発につながる。それだけでなく、個人資産の受託者(金融機関)側もサステナビリティ・リンク・ローンの実施を前向きに検討させる効果があると考えられている。(※2)

社会や経済問題の解決に貢献できる

サステナビリティ・リンク・ローンを通して、エネルギーコストの低減や災害時の復興力向上、地域活性化などといった社会や経済問題の解決に貢献できる点も大きなメリットだ。これにより、持続可能な社会の形成に役立つ経済活動に関する事業の推進が可能になると考えられている。(※2)

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サステナビリティ・リンク・ローンの課題やデメリット

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ここではサステナビリティ・リンク・ローンの課題やデメリットについて紹介する。

目標設定や情報開示に関する追加の負担

借り手はレポーティングによる透明性の確保が義務付けられており、年に1回以上は細かな情報を開示する必要がある。報告準備や目標達成に時間を費やす必要があるため、従来のローンと比べて負担がやや大きいと考えられている。

また第三者が達成状況を判別できるよう、SPTsに関する情報を一般に開示しなければならないため、情報開示の負担も少なからずあるだろう。(※5)

SPTs達成のインセンティブが限定的

SPTsの達成状況と融資条件が連動する仕組みにより、借り手は借入期間内に目標を達成すると金利の融資条件が良くなるなどのインセンティブが与えられている。しかしインセンティブの内容は企業によって異なり、範囲もやや限定的であることから、借り手によってはSPTs達成に対するインセンティブが労力と比例していないと感じるケースもある。(※5)

貸し手の知識不足

貸し手のサステナビリティに対する知見が不足している点も、現状の課題といえる。貸し手が環境などのサステナビリティに対するリスクを適切に評価できておらず、国内でサステナビリティ・リンク・ローンの認知が未だ進んでいない。したがって、貸し手のサステナビリティに対する考慮の重要性と認知をどのように広げていくかが、今後の課題といえる。(※3)

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サステナビリティ・リンク・ローンの具体例

データを分析する人

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ここではサステナビリティ・リンク・ローンの具体例について紹介する。

JTBグループ

JTBグループではサステナビリティ戦略推進の一環として、三菱UFJ銀行とサステナビリティ・リンク・ローン形式によるコミットメントライン契約を締結した。SPTsでは「男女賃金差異」の軽減や「男性育児休暇取得率」の向上などを設定している。(※6)

ギガプランニング

ギガプランニングは群馬銀行とSLL契約を締結した。貸し手の群馬銀行は自然環境に配慮した経営を目指しており、「ぐんぎんSLL」の取り組みを機に温室効果ガス排出量の測定・削減に向けた各種取り組みをとおして環境負荷低減を積極的に努めている。

借り手のギガプランニングは、SPTsにて「温室効果ガスの排出量を2024年3月期を基準に、売上高比率で年2.7%ずつ削減していく」と設定している。(※7)

石川建材

石川建材は静清信用金庫とSLL契約を締結した。SPTsでは「事業活動における CO2排出量の削減」と設定しており、達成された場合は金利を引き下げるインセンティブが実行される設計となっている。(※8)

イオンモール

イオンモールは広島銀行とSLL契約を締結した。SPTsでは「CDP気候変動スコアのA-維持」と設定しており、達成された場合は金利を優遇するインセンティブが実行される設計となっている。(※8)

千吉良

千吉良は群馬銀行とSLL契約を締結した。SPTsでは「温室効果ガス排出量を、2024年3月期を基準に生産高比率で年2.7%ずつ削減する」と設定しており、達成された場合は金利を引き下げるインセンティブが実行される設計となっている。(※8)

SLLの今後の動向に注目

ノートパソコン

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世界中でサステナビリティ・リンク・ローンが浸透しつつあり、日本でも名だたる企業が利用し始めたことで注目されている。

しかしいまだ多くの企業がサステナビリティ・リンク・ローンを実施するまでには至っておらず、どのようにして行動を後押ししていくのかがこれからの課題といえる。サステナビリティ・リンク・ローンをとおして、環境などのサステナビリティに対する重要性をどれだけ意識し実践していけるかが、これからの私たちに求められる。

※掲載している情報は、2024年9月21日時点のものです。

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