世界遺産で生じている環境問題とは? 国際的な保護への取り組みや現状を解説

Mont Saint-Michel

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世界で起きているさまざまな環境問題が、世界遺産にも影響を及ぼしている。この記事では、世界遺産で起こっている環境問題や保護するための国際的な取り組み、世界遺産を守るためにできることを解説する。

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2024.11.16

そもそも世界遺産とは

yellowstone national park

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まずは、世界遺産とはなにか、その定義と種類について解説しよう。

世界遺産の定義と種類

「世界遺産」とは、「世界遺産条約」に基づいて作成される「世界遺産一覧表」に記載されている物件のことを指す。世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)とは、UNESCOが世界遺産を「人類共通の遺産」として保護・保全していくための国際的な協力体制を築く国際条約で、1972年の第17回UNESCO総会にて採択された。

世界遺産は有形の不動産を対象としている。これには建造物や遺跡などの「文化遺産」、自然地域などの「自然遺産」、文化と自然の両方の要素を兼ね備えた「複合遺産」の3種類がある。(※1)

日本や世界における世界遺産の例

日本や世界における世界遺産の例を種類別に紹介しよう。(※1、※2)

文化遺産には、法隆寺地域の仏教建造物(日本・奈良)、原爆ドーム(日本・広島)、タージ・マハル(インド)、ケルン大聖堂(ドイツ)などがある。

自然遺産には、屋久島(日本・鹿児島)、知床(日本・北海道)、キリマンジャロ国立公園(タンザニア)、イエローストーン国立公園(アメリカ)などがある。

複合遺産には、メテオラ(ギリシア)、ティカル国立公園(グアテマラ)などがある。

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世界遺産で起きている環境問題

タージ・マハル

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「人類共通の遺産」として保護・保全していくことが求められる世界遺産では、いま、さまざまな環境問題が起きている。

オーバーツーリズム

世界遺産には、多くの観光客が訪れる。場所によってはオーバーツーリズムの影響により、地域住民や自然環境、景観などに悪影響を及ぼしている。

イタリアのベネチアは観光客が増加しすぎたため、住民生活が害されている。またマチュ・ピチュも観光客の数が増加したことにより、観光客による迷惑行為や浸食などの影響で劣化が進んだため、入場者数制限などのルールが設けられている。(※3、※4)

大気汚染

大気汚染が原因となり、保存に大きな支障をきたしている。大気汚染がひどいといわれているのが、中国の万里の長城やインドのタージ・マハルだ。

万里の長城は、大気汚染によって頂上が見えないといわれている。またタージ・マハルのあるインド・アグラは世界第8位の大気汚染都市であり、これによってタージ・マハルの大理石が黄色や緑色に変色している。(※5、※6)

水質汚染

水質汚染も、世界遺産を脅かす環境問題のひとつだ。ロシアの東南部に位置し、三日月型の湖として知られるバイカル湖では、周辺に製紙工場があり工業排水が流れ込んでいることが原因で水質汚染に悩まされている。(※7)

生物多様性の喪失

生物多様性の喪失は世界的な問題となっており、世界遺産の登録基準を満たす地域も生物多様性の喪失の影響を受けている。コンゴのヴィルンガ国立公園では、カバやゴリラの大量虐殺により自然遺産であるものの危機遺産となってしまった。こうした生物多様性の喪失の原因としては、森林伐採などの生息地の消失、過剰な捕獲、気候変動、汚染、外来種などが挙げられる。(※8、※9)

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海洋プラスチック汚染

海の世界遺産では、海洋プラスチックごみが漂着して生態系に深刻な影響を与えている。プラスチックは海洋生物が誤って摂取し、健康被害や死因になることが多い。オーストラリアとニュージーランドの間にあるロード・ハウ島では、アカアシミズナギドリのひな鳥の体内から大量のプラスチックが出てきており、生態系への影響を懸念している。(※10)

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文化財の劣化や損傷

世界遺産の文化財が劣化や損傷することも問題となっている。その原因は、戦争や軍事衝突、自然災害、大規模工事、都市開発、観光開発、商業的密猟などによるものだ。(※11)

海面上昇による水没の危険

世界遺産を含むさまざまな地域で、地球温暖化による海面上昇も環境問題として深刻化している。エジプトのルクソールの古代神殿群や、アレクサンドロス大王が紀元前331年に建設したアレクサンドリア周辺は、海抜より低い場所にあることから海面上昇によって水没の恐れがあるとされている。(※12)

森林伐採・環境破壊

ブラジルの中央アマゾン保全地域群は、森林伐採によって生態系が破壊され、多くの固有種が絶滅の危機に瀕している。熱帯雨林が減少すれば二酸化炭素吸収量の低下を招き、気候変動をさらに悪化させることも問題となる。(※13)

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危機にさらされている「危機遺産」とは

Historic Centre of Vienna

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危機遺産とは、世界遺産リストに登録されている遺産のうち、戦争や紛争、自然災害、気候変動、都市開発、観光の増加、商業的密猟などによって危機にさらされているものを指す。普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている場合、「危機にさらされている世界遺産リスト(危機遺産リスト)」に登録される。

登録された世界遺産は、国際的な協力を仰ぎ、ワールド・ヘリテジ・ファンド(世界遺産基金)への財政的支援を申請することができる。危機的な状況を脱したと判断された場合には、危機遺産リストから削除される。

現在危機遺産リストに登録されている世界遺産には、アフガニスタンのバーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群、イエメンの古都ザビード、コンゴのヴィルンガ国立公園、ガランバ国立公園などがある。(※11)

世界遺産を保護するための国際的な取り組み

ストーンヘンジ

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世界遺産を保護するための国際的な取り組みの例を紹介しよう。

世界遺産条約の制定と実施

1972年にユネスコが採択した「世界遺産条約」は、文化遺産と自然遺産の保護を目的としている。この条約により、世界遺産リストに登録された遺産の保護と保全が各国の義務として定められている。条約に加盟する国々が、自国の世界遺産の保護を法的に確保し保全に努めている。また国際社会全体で資金や技術の提供が行われ、各国が連携して支援し合える体制が整ってる。(※14)

持続可能な観光地域づくり

ユネスコは、世界遺産や無形文化遺産、生物圏保存地域(エコパーク)、世界ジオパーク、創造都市ネットワークなどの登録・認定を行う際に、持続可能な地域づくりを後押しする対策を講じている。具体的には、教育や観光などを通して多様な文化を地域創生の資源として活用したり、来訪者管理計画・戦略を立てて観光客による負の影響を軽減するなどの対策がある。(※15、※16)

SDGsによる気候変動対策

前述したとおり世界遺産は、温暖化、海面上昇、干ばつ、森林火災といった気候変動による影響を受けている。SDGsの目標13には「気候変動に具体的な対策を」があり、これは温室効果ガスによる地球温暖化や気候変動による影響を軽減することを目的としたものだ。この目標を達成することで、気候変動から世界遺産を守ることができる。(※17、※18)

危機遺産リストの活用

危機遺産リストには、自然災害や人間活動の影響で保存が難しくなっている遺産が登録されている。このリストに登録されることで国際的な協力を仰ぐことができ、国際社会や関係機関からの支援が積極的に行われるようになる。(※11)

ユネスコ世界遺産基金

ユネスコ世界遺産基金(ワールド・ヘリテージ・ファンド)は、世界遺産の保護や保全を支援するために用いられる資金である。この資金は、世界遺産の登録やモニタリング、保護を支援する際に活用される。また危機遺産リストに登録された世界遺産は、国際的な協力を得て世界遺産基金への財政的支援を申請することができる。(※11、※19)

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世界遺産を守るためにできること

machu picchu

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世界遺産を守るために、私たち一人ひとりができることがある。以下のような方法で、世界遺産の保護に貢献しよう。

環境に配慮した観光行動を心がける

世界遺産を訪れる際は、環境や文化に配慮した行動を心がけよう。ルールを守ってごみを持ち帰り、自然や文化に影響を与える行為を避けることが重要である。

寄付やボランティア活動で保護活動を支援

ユネスコや世界遺産保護団体は、保護活動を継続するための寄付を募集している。寄付を通じて、遺産の修復や保全、教育活動への支援を行うことができる。また世界遺産の保護活動や清掃活動などのボランティアに参加することで、現地での保護活動を体験し、実際に貢献することも可能だ。(※20、※21)

環境保護や持続可能なライフスタイルを実践する

気候変動は多くの世界遺産に影響を及ぼしている。日常生活でエネルギーの消費を抑える、リサイクルを徹底する、食品ロスを減らすといった行動が間接的に遺産保護につながる。極力二酸化炭素排出を減らす、持続可能なライフスタイルを実践しよう。

教育プログラムやセミナーに参加する

多くの地域や団体で、世界遺産や環境保護に関するセミナーやワークショップを開催している。これに参加することで、世界遺産の保護の重要性について理解を深められ、環境問題についての知識を身につけることができるだろう。(※22)

個人の小さな行動が世界遺産を守ることにつながる

seine river

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世界遺産は、オーバーツーリズムや気候変動、海洋プラスチックごみなど、多くの環境問題にその価値が脅かされている。世界遺産を保護するための国際的な取り組みが行われているが、私たち個人でも、小さな行動から貢献できることはある。持続可能な未来のためにも、私たち一人ひとりの意識と行動が大切である。

※掲載している情報は、2024年11月16日時点のものです。

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