「ファッションから心ときめくエシカルを」 Ron Herman・根岸由香里さんが描くワクワクする未来

根岸由香里さん
ELEMINIST TALK 気になるあの人に聞いたエシカルライフ

エシカルでサステナブルなライフスタイルを送る先人から、一歩を踏み出すヒントを学ぶインタビュー連載企画「ELEMINIST TALK」。今回は、セレクトショップ「Ron Herman(ロンハーマン)」より、事業部長兼ウィメンズ・ディレクターの根岸由香里さんが登場。積極的にサステナブルに取り組む「Ron Herman」の活動や、日常でのエシカルなアクションについても伺いました。

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エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2024.08.26
ACTION
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ファッション好きなら誰もが知る、カリフォルニア発のセレクトショップ「Ron Herman」。ハイセンスなラインアップが人気ですが、社をあげてサステナブルな取り組みを行っているのも広く知られるところ。

2021年には、具体的な数値目標を含むサステナビリティの公約を発表。2030年までにCO2排出量(スコープ1、2)を実質ゼロに、オリジナル商品の素材はサステナブル比率100%を目指すなど、本気度がうかがえる内容です。

ブランドを牽引する根岸由香里さんのサステナブルな感覚はどのように育まれたのか、ふだんの生活は? そこには「エシカルの前に楽しくて、すてきじゃないと!」、そんなファッショニスタらしい心意気が垣間見れました。

なぜアパレルは環境負荷が高いのか、知ることからスタート

Ron Herman

————エシカルな取り組みやサステナビリティに興味を持つようになったきっかけを教えてください。

5年ほど前でしょうか。仕事で東京都や他業種の方とご一緒する機会があり、そこで気候変動や環境汚染について知ったのがきっかけです。さらに、ファッション業界が石油産業に次いで世界第2位の汚染産業だと知ってしまって………。

————ファストファッションの台頭によってトレンド・サイクルが短くなったこと、それによる衣料の大量廃棄などが問題視されましたね。

聞いたときは、「ダメだ。もう洋服はつくれない」と、かなりショックを受けました。でもやっぱり、洋服って人を幸せにしてくれるし、私自身も大好きなもの。人間が生きていく以上、服を着ることがなくなることもありません。きっとファッションだからできることもあるはず、まずは「学ばなきゃ」と思ったのがスタートでした。ファッション業界がなぜ環境へ負荷をかけているのか、変えるにはどんな選択肢があるのか、本当にわからないことだらけだったので。

————そこからどうやって学ばれたのですか?

当時はまだエシカルやサステナビリティといった言葉について、簡単に情報を得られる時代ではありませんでした。SNSでも拾えなかったですし、『ELEMINIST』もローンチ前だったので。いろんな方に相談する中で、一般社団法人エシカル協会主催の「エシカル・コンシェルジュ講座」を紹介してもらい、受けることにしたんです。

そこでは、「エシカルって何?」という基本的なところから、気候変動、再生可能エネルギー、動物福祉、ジェンダー論など、さまざまな分野について学びました。わかったのは、すべての業界はつながっているということと、前向きに取り組めば現状は変えられるということ。「Ron Herman」として何ができるか考え、議論した結果、サステナビリティの公約が生まれました。

「自分たちで電気を生み出したい」ソーラーシェアリング

Ron Herman

————「Ron Herman」のサステナブルな取り組みの中で、代表的なものを教えてください。

「エシカル・コンシェルジュ講座」を受けてすぐに取りかかったのが、「ソーラーシェアリング」です。講師として来ていた「市民エネルギーちば株式会社」の代表である東光弘さんのお話がすごく興味深く、「ロンハーマンでも発電やったら面白いよね!」という話から、ご相談させていただいたのがきっかけです。公約のひとつである「2030年までにロンハーマン事業のCO2排出量実質ゼロ」を実現するため、再生可能エネルギー事業に取り組むことにしたんです。千葉県匝瑳市で運営しているのですが、現在5号機まで稼働中です。

「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」とは、農地の上に太陽光パネルを設置することで、太陽光を利用したエネルギー生産と、農業生産の両方ができるというもの。パネル下の農地も、耕さない栽培(不耕起栽培)にすることで土壌の回復につながり、さらに大気中のCO2を吸収するため、カーボンニュートラルへの貢献にもなるんです。

「オーガニックコットンがベスト?」エシカル素材の選択肢

farmers 360° link

「farmers 360° link」の契約農家のコットンは綿繰(わたく)り工場に集められる。栽培農家を特定するQRコードを袋につけるため、生産者に責任感が生まれる(Ron Herman Journalより)

————扱っているプロダクトに対してはどんな取り組みがありますか?

洋服をつくる環境負荷を考えたとき、素材を変えることも重要です。公約でも「オリジナル商品において、主要素材のサステナブル⽐率100%を目指す、もっともサステナブルな素材の探求」を掲げていて、2023SSは、サステナブル素材の比率51%まで達成しました。

素材の探求についても、「すべてオーガニックコットンに変えればいいの?」という疑問があったんですが、三井物産の「farmers 360°link(ファーマーズ360°リンク)」という新しいプラットフォームに参画する機会に恵まれました。ファッションを通じて生産者と消費者を結ぶというもので、ザンビア共和国の綿花農家さんの顔が見えるトレーサブルなコットンをつくっています。オーガニックコットンではないんですが、極力農薬をおさえた農法を行っていて、購入者はQRコードによる原産地証明だけではなく、生産量のアップや現地の子どもたちへの教育など、農家さんへの応援を自分で選ぶことができるんです。

エシカルな素材を選ぶとなったとき、いろんな考えや選択肢があると思います。企業として単純にオーガニックコットン一択にするのではなく、こういった支援する仕組みを知ったり、他企業と一緒にチャレンジしていくことで新たな気づきがあるなと感じています。

————エシカルな取り組みやサステナビリティに関する情報は、社内でどのように共有されていますか?

最新のトピックスを記事にした社内向けのメルマガ「サステナブル通信」を配信しています。アドバイザーの方にも入っていただいているので、企画段階で「こういったことをやりたいと思っているけど、懸念点はありますか?」と、ご相談することも。新しい素材やプラットフォームに取り組むときは、それが本当に意味のあることなのか、多角的な検討が必要です。上辺だけエシカルを謳ったことはしたくない、そういった意識は根付いていると思います。

地球環境のために変えたほうが面白いし、カッコいい

————社員による自発的な取り組みも活発だと伺いました。例えばどんなものがありますか?

節電の必要性を実感した社員から、「朝会社に来たとき、一斉に電気をつけるのはもったいない。使用する箇所だけつけよう」とか、「ミーティングのときはこの部屋だけでいいよね」とか。

マイタンブラーも浸透していて、すごく変わったと思う部分です。メンズのバイヤーチームがいるんですが、最初はマイタンブラーを持参する感覚がどこまで浸透するのか疑問に思っていました。ところが、いまでは普通に持つようになっています。バッグすら持たない人たちだったのに(笑)。

他にも、みんなで店舗周辺のごみ拾いやビーチクリーン活動を習慣化している店舗があったり、「これはごみじゃなくて、もう1回使えるんじゃないの?」という会話から、リサイクルハンガーの導入テストを行ったことも。

————カリフォルニアが発祥の「Ron Herman」。あちらはエシカルやサステナブルが根付いているように思います。社風として受け入れやすい土壌があったのでしょうか?

「Ron Herman」の理念に、“Today is Beautiful(トゥデイ イズ ビューティフル)”というメッセージがあります。そう思うには、自分の周りにいる人が幸せでないといけない。ハッピーであるためには、健康であるのはもちろん、地球環境もよくあってほしい。そこに反している以上、変えなきゃいけないし、「その方が面白いし、カッコいい!」というマインドがあると思います。同じ感覚でいてくれる人材が集まったのも、エシカルな取り組みの浸透度が早い理由かもしれません。

自然へのリスペクトや共生を大切にしている社員も多いですね。社長もサーファーですし、私もいまはやっていないんですが、サーフィンが趣味だったことも。みんなでビーチへ行って帰りにごみを拾って帰る、そんなことが自然にできるメンバーなので受け入れも早かったです。

いい服を長く、大切に着るのもサステナブル

Ron Herman

————生活の中では、どんなエシカルなアクションをされていますか?

できる限りごみは出さないように気をつけています。食べ物は、なるべく有機栽培でつくられたものを選ぶようになりました。最近引っ越したんですが、以前はオーガニックスーパーで買い物をしていて、とても便利だったんです。安全だし、有機栽培だし、エシカルを含めて一定の基準をクリアした商品ばかりだったので。それがいまは近所にそういったスーパーがなくて。大量の商品から裏の成分表示をみて買い物をするのは大変ですよね。何も考えずにエシカルな商品にアクセスできる快適さを身に沁みて感じています。

マイタンブラー生活も続いていて、おかげでごみの量は減ったと思います。もともとお茶が好きなので、紅茶や有機の緑茶など毎日楽しんでいます。娘は自動販売機をみると、「ジュースが飲みたい!」っていうんですけど………。

引っ越しでいうと、古いものも好きなのでヴィンテージ家具を選択肢に入れたいですね。椅子もフレームだけ残っていて、布を貼り直せば使えるものもあったので自分でやってみようかと。数年前に比べて、「もったいない」という感覚が身についたなと感じています。

————好きなものを、なるべく長く使い続けるのもサステナブルな取り組みです。職業柄、洋服のお手入れにはこだわりがあるとか。長く使うコツを教えてください。

①洗う必要のないものは、極力洗わない
やっぱり、洗わないことが一番長持ちするんです(笑)。なので闇雲に洗うのではなく、例えばコートなら、汚れやすい襟元だけ洗剤を含ませたコットンでたたいて皮脂をとり、他はブラシをかけるだけで十分。ある程度のタイミングでクリーニングに出せば大丈夫です。

②洗うときは畳んで、洗濯ネットにいれる
肌に直接触れるTシャツなんかは、衛生的にもよくないのでちゃんと洗います。そのときは畳んで洗濯ネットにいれると、シワや型崩れの防止に。素材ごとにお手入れ方法をかえると長持ちしますよ。

③どうしても着なくなったものは、誰かに譲る
洋服が好きすぎて、30年前に買ったものも現役で着ています。仕事の資料として集めているのもありますが、コレクター気質なんです。いままでずっと売らずにきたのですが、先日、タンスに眠っていたものを活躍させてくれそうな方にお譲りしました。すごくいい経験だったなと思います。

人の心を動かすものでないと、社会にいいインパクトは与えられない

Ron Herman

————エシカルな暮らしをはじめたいと思っている読者に向けて、アドバイスをお願いします。

「これ、面白そう!」というところからトライするのがおすすめです。マイタンブラーを持つようになって気づいたんですが、それまでおいしいお茶って飲めていなかったんですよね。デスクにマグカップはあったんですが、おいしいものとなるとお店に行かないと飲めなかった。それがいま、外でふとしたときにタンブラーで飲むお茶がすごくおいしくて。そういう楽しさに気づくと、継続につながると思います。無理せず、興味のあることからはじめるのが一番ですね。

————これからどんなことを発信していきたいですか?

数年前は、「なんとかしなきゃ!」という危機感に駆り立てられる気持ちでいました。そこからいろんな学びや経験を経て思うのは、面白かったり、すてきじゃないと、エシカルであっても続かない。人の心を動かすものでないと、社会にいいインパクトは与えられないということ。

その上で、継続とチャレンジ、この2軸の大切さを実感しています。それは、新しい素材かもしれないし、新技術かもしれないし、新規事業なのかもしれない。常にアンテナを張っていいと思ったことはトライする、そして一度はじめたことは継続する。続けてこそ意味のあるものになると思っています。

————ちょうど2024年8月末で「Ron Herman」15周年だと伺いました。今後の展望はありますか?

いま動いているのが、ジュエリーのリメイク・プロジェクト。宝石って、洋服以上に思い入れのあるものが多いですよね。何かの記念にいただいたものだったり、祖母や母から譲り受けたものだったり………。石はすてきなのにデザインが今と馴染まない。そんなものを新しく蘇らせて、日常につけてもらえたらいいなと思っています。

15周年はみなさんに感謝しつつ、自分たちが考えるすてきなこと、ワクワクするエシカル、そういった取り組みが未来にむけてスタートする節目にしたいですね。

Ron Herman

根岸由香里/1977年栃木県生まれ。文化服装学院卒業後、セレクトショップにて、企画、バイイングなどを担当。2008年よりロンハーマン日本1号店の立ち上げに伴い、サザビーリーグへ。2016年にはロンハーマン事業部長兼ウィメンズ・ディレクターに就任。プライベートでは、1児の母でもある。
根岸由香里さんInstagram:@yukarinegishi
Ron Herman Instagram:@ronhermanjp

News
このRon Herman15周年のタイミングにスピンオフとして、ユースカルチャーに向けたコンセプトストア「UNDER R」と、ジュエリーの専門ショップ「Ron Herman JEWELRY」の新業態をオープン予定。

写真提供/Ron Herman、根岸由香里 取材・執筆/村田理江 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2024年8月26日時点のものです。

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