横浜市のSDGs達成に向けた取り組みとは? 具体的な事例も紹介

横浜のウォーターフロントエリア

2018年度にSDGs未来都市に選定された横浜市。いまでこそ多くの自治体がSDGsの取り組みを行っているが、横浜市は先駆けてスタートを切った都市として注目されている。本記事では、横浜市のSDGsの取り組みを事例を交えて紹介。SDGs未来都市や全国の自治体の現状についても解説する。

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2024.07.29
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自治体にも求められるSDGsへの取り組み

青空と広大な自然

Photo by Carmine Savarese on Unsplash

SDGs(Sustainable Development Goals)は、日本語で、持続可能な開発目標と訳される。2015年9月の国連サミットにおいて加盟国の全会一致で採択された、世界共通の目標だ。達成年限は2030年。さまざまな社会課題に紐づいた17のゴール・169のターゲットが設定されている。

国をあげてSDGsの達成に取り組むなかで、内閣府は地方創生SDGsを推進し、自治体にも独自の取り組みを求めている。SDGsを軸とした持続可能なまちづくりを行うことで、地方の課題を解決する狙いがある。(※1)

神奈川県横浜市は、地方創生SDGsに積極的に取り組んでいる自治体のひとつだ。2018年度にSDGs未来都市にも選定されている。横浜市は日本最大規模の基礎自治体として知られており、人口は約377万人、世帯数は約181万世帯(※2024年7月時点)。しかし、2021年をピークに人口減少社会へ突入した(※2)。担い手の減少や高齢化による社会基盤への影響を課題とし、よりよいまちづくりを行うために、SDGsの方針に則ったさまざまな取り組みを進めている。

美郷町だからできる自然と共生するサステナブルな暮らし

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SDGs未来都市とは

海辺で海を眺める人

Photo by Kazushi Saito on Unsplash

SDGs未来都市とは、SDGsの達成を積極的に推進しようとする都市や地域を国が選定する制度のこと。地方創生SDGsを推進するにあたり、2018年度から毎年選定されている。(※3)

また、SDGs未来都市のなかでも、先導的な取り組みを行っている事業は、自治体SDGsモデル事業として選定される。経済・社会・環境の三側面において統合的に取り組み、さまざまなステークホルダーと連携することで、その地域における好循環を生み出す事業のことを指す。

SDGs未来都市や自治体SDGsモデル事業が目指すところは、SDGsの達成だけに止まらない。これからも私たちが安心して暮らすためには、少子高齢化や地域経済の縮小などといった地域課題を解決し、生活の基盤を安定させることが必要だ。持続可能なまちづくりを進めるにあたっては、SDGsの視点が欠かせない。成功事例を展開することで、地域課題の解決やSDGs達成への取り組みすべてを加速化させることが期待されている。

神奈川県横浜市は、初年度である2018年度にSDGs未来都市、自治体SDGsモデル事業の両方に選定されている。SDGs未来都市としての提案テーマは「SDGs未来都市・横浜 〜“連携”による『大都市モデル』創出〜」、自治体SDGsモデル事業は「“連携”による横浜型『大都市モデル』創出事業」。選定委員には「横浜市らしいビジネスをベースとした取組」や「文化がテーマに含まれていること」などが評価された。(※4)

大前提として横浜市は、2011年に、環境問題や地域課題と向き合い、豊かな都市を目指す「環境未来都市」に選定されている。以来、環境負荷を抑えながらも発展し、市民の生活の質が向上するための取り組みを積極的に進めてきた背景がある。(※5)

SDGs未来都市とは 未来都市一覧および地方創生と融合したロードマップ

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横浜市のSDGsへの取り組み

横浜スタジアムの様子

Photo by Dave Kim on Unsplash

2018年、横浜市がSDGs未来都市に選定された当初に目指していたのは、ステークホルダー同士の交流を深め、連携を図ることで、市民力を最大限発揮する仕組みをつくることだった。(※6)

では現在、横浜市ではSDGs達成に向けて、どのような取り組みが行われているのだろうか。以下では、SDGs未来都市の3つの柱である経済・社会・環境分野における取り組みのほか、横浜市が「2030年のあるべき姿」として定めている9つの戦略(※7)ごとに、具体的な施策を交えながら紹介する。

経済

横浜市の経済面の取り組みとしては、4つのSDGsの目標と紐づいたKPIを設け、施策を推進している。SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」と関連するものとして挙げられるのが、「ヨコハマ SDGs デザインセンター」による事業の推進だ。

ヨコハマ SDGs デザインセンターは、多様なステークホルダーのニーズとシーズをつなぐことを目的として、横浜市と民間事業者が共同で運営を行っている。SDGs達成に向けた主体のマッチングや実証実験の協力、コンサルティング業務などを通して、これまでもさまざまな事業を生み出してきた。(※8)

ほかにも、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」と紐づけた低炭素・循環型の都市づくりでは、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で50%削減することを掲げている。後ほど触れる、2050年「ZeroCarbonYokohama」の実現を見据えての取り組みだ。(※9)

目標8「働きがいも経済成長も」と関連する戦略的な企業誘致では、単なる誘致に止まらず、担い手の創出を課題としている。目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に関連しては、市内企業の持続的な成長として、オープンイノベーションを含めた経済成長が掲げられている。

社会

社会面の取り組みとしては、ヨコハマ SDGs デザインセンターの活用のほか、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に紐づけて、女性・シニア・若者の活躍支援が指標のひとつに設定されている。切れ目のない子ども・子育て支援では、保育所待機児童ゼロや子どもの放課後の居場所の充実などが挙げられる。また、生涯現役社会の実現として、シニアの地域貢献の仕組みづくりや就業支援などを強化していく方針だ。(※10)

目標3「すべての人に健康と福祉を」と関連して健康維持の仕組みづくりの強化、目標11「住み続けられるまちづくりを」と関連して郊外部のまちづくりの推進などにも力を入れている。

環境

環境分野においては、目標11「住み続けられるまちづくりを」と紐づけて、自然環境と暮らしの共存を掲げている。2027年には、横浜市で、花と緑のある暮らしや社会課題への貢献などを目的とした「国際園芸博覧会」が開催される。ガーデンシティ横浜としての取り組みを加速している。

目標12「つくる責任 つかう責任」と関連する指標としては、循環型社会の実現を目指している。脱プラ、食品ロス削減に関する取り組みを推進してきたなかで、さらなる持続可能な資源循環を追求していく。

目標13「気候変動に具体的な対策を」と関連し、エネルギー施策にも力を入れている。2030年に目指すのは、環境と経済の好循環の創出。横浜市臨海部におけるCO2の排出を削減すべく、脱炭素化に配慮した港湾機能を構築するカーボンニュートラルポート形成の取り組みを進めている。(※11)

すべての子どもたちの未来を創るまちづくり

「すべての子どもたちの未来を創るまちづくり」は、目標1「貧困をなくそう」や目標10「人や国の不平等をなくそう」を含む6つのSDGsの目標と関連している。

具体的な政策としては、妊娠期から学齢期に至るまでの「切れ目なく力強い子育て支援」がそのひとつ。「横浜市版子育て世代包括支援センター」を基盤に、子育てしやすい環境の整備が進められている。

貧困や引きこもりなど、さまざまな事情を抱える子どもや若者に対する支援にも力を入れている。家族と若者自立支援機関が連携し、社会体験をはじめとするサポートを行っている。(※12)

誰もがいきいきと生涯活躍できるまちづくり

「誰もがいきいきと生涯活躍できるまちづくり」は、目標3「すべての人に健康と福祉を」や目標5「ジェンダー平等を実現しよう」などの9つの目標と紐づいている。

「がん検診の精密検査受診率」に関しては、2025年度までにすべてのがん検診の受診率を90%にすることをKPIに掲げている。また、「管理職に占める女性の割合」では、市内企業課長級以上が2021年度に18.7%であるのに対し、2025年度には30%まで引き上げることを目標としている。

「よこはまシニアボランティアポイント事業」の取り組みも実施されている。高齢者がボランティアを行って貯めたポイントを寄付や換金できる仕組みであり、シニア世代の生きがいづくりや健康増進につなげる狙いだ。(※13)

Zero Carbon Yokohamaの実現

横浜市は、2050年までに脱炭素化を実現する「Zero Carbon Yokohama」を宣言している。市域のエネルギー消費量の50%削減のほか、消費電力の100%を再生可能エネルギー由来のものに転換すべく、さまざまな取り組みを行っている。まずは市が率先して行動することで、市民や事業者への協力を要請する形だ。(※14)

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や、目標13「気候変動に具体的な対策を」などの多くのターゲットと紐づいている。

未来を切り拓く経済成長と国際都市・横浜の実現

「未来を切り拓く経済成長と国際都市・横浜の実現」では、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や、目標11「住み続けられるまちづくりを」などに紐づけて、観光消費額の増大や新規プロジェクト件数、商店街の活性化を含めた小規模事業者の経営基盤強化などをKPIに設定している。外国人材を含む多様なプレーヤーの力を活かし、横浜経済を発展させるための戦略だ。(※15)

新たな価値を創造し続ける郊外部のまちづくり

「新たな価値を創造し続ける郊外部のまちづくり」では、暮らしやすい環境整備や地域交通の実現を具体的な政策とし、取り組みを進めている。

例えば、高齢者の外出をサポートするために、収入状況に応じた負担金でバスに乗車できる「敬老パス」を発行している。(※16)これは、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に紐づいている。

成長と活力を生み出す都心・臨海部のまちづくり

「成長と活力を生み出す都心・臨海部のまちづくり」では、人や企業が活躍できるための環境整備を進めている。既存施設の強化や回遊性の向上などが課題とされている。KPIのひとつとして挙げられているのは、「都心部の駅の1日当たり平均乗降客数」だ。魅力的なまちであるために、文化芸術創造都市施策にも力を入れている。(※17)

花・緑・農・水の豊かな魅力あふれるガーデンシティ横浜の実現

「花・緑・農・水の豊かな魅力あふれるガーデンシティ横浜の実現」では、自然豊かな都市環境の充実や、都市農業の展開を政策に掲げている。

環境分野の取り組みと重複するが、2027年に開催を控えた「国際園芸博覧会」を成功させることも重要視されている。SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」と大いにつながる取り組みだ。

災害に強い安全・安心な都市づくり/市民生活と経済活動を支える都市づくり

「災害に強い安全・安心な都市づくり」と「市民生活と経済活動を支える都市づくり」では、主に防災関連の政策が多く掲げられている。下水道管の耐震化率向上や沿道建築物の耐震化などをはじめとする地震に強い都市づくりを中心に、港湾づくりや公共施設の保全更新などを進め、都市機能を強化していく。

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自治体のSDGsの現状

水辺に位置する自然豊かなまち

Photo by Daniel Frank on Unsplash

2018年度から2024年度までに、SDGs未来都市としては206都市(207自治体)、自治体SDGsモデル事業としては70都市が選定されており、一覧を見ると全国に散らばっていることがわかる。(※18)

SDGs自治体アンケートによると、現在、SDGsに向けた取り組みを推進している地方公共団体は65%。国全体としての目標は達成しているのが現状だ。自治体ごとの課題を計画に落とし込んだり、地域資源を活用したユニークな施策を行ったりと、各自治体がそれぞれの取り組みを行っている。

今後は、近隣自治体のみならず、課題を同じくする自治体同士の連携により、SDGsの取り組みが加速し、小規模自治体を含めた日本全国にSDGsが浸透することが期待されている。(※19)

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横浜市のSDGsの取り組みをヒントに 個人で実践できることも

SDGs未来都市とSDGsモデル事業の両方に選定され、自治体ベースの取り組みをリードする横浜市。多くの具体的な政策や指標を掲げているが、それらを自治体の努力だけで達成することは難しく、企業や事業所、地域住民の協力が欠かせない。

また、横浜市のSDGsの取り組みのなかには、ほかの場所、ほかの形で応用できるものもあるだろう。SDGs達成に向けて、いま自分にできることは何だろう?横浜市の取り組みをヒントにして、できることを探してみては。

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※掲載している情報は、2024年7月29日時点のものです。

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