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日本はエネルギー資源の乏しい国である。そんな日本の近海からメタンハイドレートが発見されたことは、驚きと期待を持って受け止められた。エネルギー供給は今後どう変わるのだろうか。この記事では、メタンハイドレートとは何か、注目される理由、実用化への課題、開発の現状について解説する。
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メタンハイドレートとは、天然ガスの主成分であるメタンガスが水分子と結びついてできた氷状の物質だ。火に近づけると燃える性質があることから「燃える氷」とも呼ばれている。
1立方メートルのメタンハイドレートからは、約160立方メートルのメタンガスを取り出すことができる。取り出されたメタンガスは、燃料などに利用可能だ。メタンハイドレートは、少ない量から多くのエネルギーを生み出せるとして期待されている。(※1)
メタンハイドレートが存在する場所は、温度が低く圧力の高い環境である。こうした条件を備えているのは、深海や永久凍土だ。
メタンハイドレートが最初に発見されたのは、1930年代のシベリアの寒地である。その後、カナダの北西部の永久凍土やカスピ海、バイカル湖、アメリカの海底など、世界で広く見つかっている。
日本では、日本海側と太平洋側にメタンハイドレートがあることが確認されている。2013年には、愛知・三重県沖の海底にあるメタンハイドレートからガスを取り出すことに成功した。経済産業省資源エネルギー庁によると、海洋でのメタンハイドレートの生産成功は世界初。(※2)
メタンハイドレートの種類は2つある。砂層型(すなそうがた)と表層型(ひょうそうがた)だ。(※3)
砂層型(すなそうがた)は、水深500メートルより深い海底面から、さらに数百メートル下の砂質層内に砂と混じり合った状態で存在するメタンハイドレートだ。主に、東部南海トラフの海底下に存在している。その量は調査によって判明しているだけでも日本の天然ガス消費量の約10年分に相当する。(※4)
表層型(ひょうそうがた)は、水深500メートルよりも深い場所の海底面や比較的浅い深度の泥層内に塊状で存在するメタンハイドレートだ。主に、日本海側の海底の表面や真下に存在している。
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メタンハイドレートは、いくつかの特長を持つことにより大きく注目されている。その理由を3つ挙げてみよう。
メタンハイドレートは、日本の太平洋側の南海トラフや日本海側に大量に存在する。日本のエネルギーは、輸入に頼っているのが現状だ。自国で産出できれば、安定的な供給が可能になる。
日本のエネルギー自給率は12.6%(2022年度)と、主要国のなかでも低いのが実態だ。(※5)これを改善するための切り札として、自国で産出できるメタンハイドレートに期待が寄せられている。
メタンハイドレートの大きな特徴の1つに、燃焼時のCO2の発生が石炭や石油より約30%少ないことが挙げられる。温室効果ガスの排出を抑えられるため、環境保全に貢献できる。(※1)
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メタンハイドレートに注目しているのは、日本だけではない。世界各国が、実用化に向けて研究開発を進めている。しかし、実用化には課題があるのが現実だ。日本の3つの課題を確認していこう。
1つ目は、安定供給に向けた採掘技術の開発が必要なことである。日本の場合、海底以下に存在しているため、メタンハイドレートを取り出すための採掘が必要だ。大口径ドリルを用いた方法などが実施されているが、他の要素技術と組み合わせるなどして、もっとも優れた掘削方法を探っている状況だ。
2つ目は、環境破壊のリスクが伴うことだ。IPCC第5次評価報告書によると、メタンガスはCO2の28倍の温室効果がある。メタンハイドレートには、温度の上昇や圧力の減少などにより溶け出す性質がある。するとメタンを発生させて、環境を破壊する原因になる可能性がある。また、採掘に伴う地盤への影響も懸念されるポイントだ。
3つ目は、商業化にはコストダウンが必要なことである。メタンハイドレートは、陸上で天然ガスを採掘するのと比べてコストが高くつく。商業化には、周辺の環境への影響の調査なども必要だ。採掘技術の開発や効率化を進めることが実用化には求められる。
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海洋のメタンハイドレートの採掘技術開発に関しては世界のトップクラスにいる日本だが、現在どのような開発が進められているのだろうか。政府の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」に沿って解説していこう。
開発の基本的な柱は、生産技術の開発、海洋調査、環境影響評価、長期的取り組みから構成されている。
砂層型では、長期に生産できる技術の開発・改良や海洋産出試験の準備を行う。表層型は、掘削試験の結果を取りまとめている段階だ。今後、メタンハイドレートからメタンガスを分離する技術などの実験や解析を行う。
また砂層型では、メタンハイドレートが集積した地域を選定し、資源量を評価する。一方の表層型は、試験地の絞り込みを行い技術検証を進めていく。
砂層型、表層型はそれぞれ別の開発工程をたどる。環境評価については、それぞれに合わせた調査を行い、経済性や商業化などを行う予定だ。
砂層型、表層型のいずれも、2030年度までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトを開始することになっている。2028年度ごろには環境影響評価を終え、海洋産出試験と総合的な検証を行う予定だ。
長期的な取り組みには、生産量の向上やコスト低減、環境保全など、商業化に必要な条件が引き続き検討される。
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メタンハイドレートの研究開発は、日本の他、アメリカや中国、インドなどでも活発に行われている。そのなかでも、アメリカと中国の進捗状況を確認しよう。
アメリカは、日本と協働でメタンハイドレートの開発を進めている。アメリカの国立エネルギー技術研究所と、日本の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構は、アラスカ州において長期陸上産出試験の準備を終え、2023年10月にガスの生産を開始した。(※6)
中国は、南シナ海にて海上試験を終え、国産の技術装備に向けて準備を進めているところだ。今後さらに研究開発を進め、試験掘削やプレ生産、実用化などの段階を経た上で実用化を目指す。2021年の時点では、2028〜2030年の間に実現する計画だ。(※7)
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日本は、石油や石炭、天然ガスの供給を輸入に依存しているため、自給の可能なメタンハイドレートに注目している。しかしメタンハイドレートは燃焼時にCO2を排出するため、これらの化石燃料の代用にしかならない。地球温暖化や気候変動への対策には、引き続き再生可能エネルギーの発展と移行が必要不可欠だ。そこで、今後に期待されるCO2を排出しないクリーンエネルギーについて紹介する。
水素発電は、水素を燃料とした発電方式である。水素は燃焼させても有害物質やCO2のような温室効果ガスが発生せず、排出されるのは水(H2O)だけ。そのため化石燃料を用いた火力発電に代わるクリーンエネルギーとして注目されている。
なお、燃料となる水素はさまざまな方法で製造することができ、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーによって水を電気分解し、水素と酸素に還元して生み出すことができるため、エネルギー自給率の向上にも寄与できる。
アンモニア発電は、アンモニアを燃料とした発電方式である。水素と比べて運搬が容易でコストも安い。既存の貯蔵施設を使えるため、インフラを新たに整備する必要がない。
洋上風力発電は、海上や湖面に翼を設置し、風のエネルギーを受けて電力に変える発電方式である。発電効率が高いほか、洋上に設置するため騒音による近隣への影響を軽減できる。
重力発電は、物が落下するときのエネルギーを利用した発電方式だ。設備の構造が単純であるため、点検と整備を定期的に行えば数十年にわたり使える。また低コストで運用でき、エネルギー効率も高い。
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メタンハイドレートは、日本に存在するエネルギー資源として注目されている。実用化されればエネルギーが自給できるほか、石油や石炭・天然ガスに比べて燃焼時のCO2の排出を抑えられるなどの利点もある。
一方で、CO2を排出しないクリーンエネルギーではないことも心にとめておくべきだろう。あくまでも化石燃料の代用として使用し、温室効果ガスの排出を低減することにメタンハイドレートの将来がある。
※1 知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~メタンハイドレートとは?|広報特集|資源エネルギー庁
※2 愛知沖でメタンハイドレート生産に成功、実用化には課題も|ロイター
※3 石油・天然ガス政策について|資源エネルギー庁
※4 メタンハイドレートの研究開発事業中間評価 補足説明資料|資源エネルギー庁
※5 令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)|経済産業省
※6 米国アラスカ州でメタンハイドレート層からのガス産出試験を開始~日本でのメタンハイドレート商業化に不可欠な長期生産挙動データ取得へ~ : ニュースリリース | 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]
※7 メタンハイドレート実用化まで、あとどれくらい?--人民網日本語版--人民日報
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