ペットショップで売れ残った犬猫はどうなる? 日本の現状と動物福祉先進国の対応

店の前にいる犬

Photo by Peter Plashkin on Unsplash

規制する国が増えている一方、ペットショップでの購入がいまだ可能な日本。店頭に並ぶ犬猫たちのなかには、売れ残ってしまうものもいる。そういった犬猫たちは一体どうなるのか。売れ残りが起きる原因と対処法、動物福祉先進国の対応と私たちにできることを解説する。

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2024.06.25
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ペットショップで売れ残りが起きる理由

さびしい犬

Photo by Soyoung Han on Unsplash

日本には約5,000店のペット関連ショップがあり(※1)、そこでは日々、多くの犬猫が売買されている。一般社団法人ペットフード協会の調査によると、日本国内で2022年に新たに飼育された犬猫の数は、犬が426,000頭、猫が432,000頭だ(※2)。

多数の犬猫が家族の一員となり飼育される一方で、売れ残るものもいる。環境省が平成22年度に実施した調査によると、ペットショップで取り扱われている126,849頭の犬猫のうち、売れ残りは5,600頭いた(※3)。この数は決して少なくない。ではなぜ、ペットショップで売れ残りが発生してしまうのか。原因は次の2つが挙げられる。

需要と供給が一致しない

近年のペットブームにより、繁殖業者が大量に犬猫を繁殖しペットショップの店頭で大量に売るというビジネスモデルが確立されていった。その背景には、消費者の「かわいい」「ほしい」といった感情から生まれる需要の増加が存在する。

ペットショップで売れ残りが起きる理由のひとつが、需要と供給のバランスが一致しない点だ。ペットショップのなかには、人気の犬種や猫種を多く確保し、在庫切れを理由に売り逃さないようにしているケースがある。しかし購入希望者が現れないと、確保した動物を長期間抱えてしまうことになる。また月齢の低い子犬や子猫のほうが需要が高いため、ある程度成長した個体は売れ残ってしまう。

売れる時期が短い

前述したとおり、需要が高いのは月齢の低い犬猫だ。犬の場合、生後3か月以内が需要が高い傾向にある。動物愛護法により「生後56日を過ぎないと展示や販売ができない」と定められていることから、ペットショップで店頭に並び始める子犬はおよそ生後2〜3か月頃だ。需要が高いといわれる生後3か月にすぐ到達してしまい、売れるピークの時期が短いことも売れ残る理由のひとつである。

ペットショップで売れ残った犬猫はどうなる?

猫

Photo by Brian Wangenheim on Unsplash

ペットショップで売れ残った動物はその後どうなるのか、考えられるケースを解説する。

値下げや他店舗への転送

売れ残った動物は、ペットショップで引き続き販売される。このときに値下げされたり、複数店舗があるペットショップの場合は他店舗へ転送されたりし、できるだけ売り残さない努力がされる。

ブリーダーへの返還・譲渡・販売

多くのペットショップではブリーダーと契約をし、犬猫を仕入れている。そのため売れ残ってしまった場合は、仕入れ先のブリーダーに返還される、もしくは他のブリーダーに譲渡・販売される。環境省が平成22年度に実施した調査では、売れ残りのうち犬21.6%・猫11.7%がこちらに該当した。(※3)

ただし返還されることが多いのは、見た目がよい健康な動物やメスだ。ブリーダーに返還された動物は、繁殖用として生きていくことになる。

ペットショップでの飼育

お店の看板動物として飼育され続けることもある。また、自社生産用として飼育を続けるケースもあるようだ。環境省の平成22年の調査では、売れ残りのうち犬7.1%・猫4.0%が店のペットとして継続飼育され、犬23.3%・猫28.4%が自社内での生産用(繁殖用)に継続飼育された。(※3)

里親の募集や譲渡

ペットショップの店頭掲示物やホームページを活用して里親を募集したり、動物保護団体と連携して譲渡会に出したりするケースもある。環境省の平成22年の調査では、売れ残った犬の0.5%・猫の1.1%が動物愛護団体などに引き取られ、犬の13.1%・猫の12.1%が一般の人に無償譲渡された。(※3)

保健所に引き渡される?

2013年に動物愛護法が改正され、保健所は売れ残りのペットの引き取りを拒否できるようになった。またペット販売業者には、販売が困難となった犬猫などの終生飼養の確保が義務づけられた。

このような法的措置などにより、日本における犬猫の引き取り数は年々減少している。具体的には、2022年4月1日~2023年3月31日の間に保健所に引き取られた犬・猫の数は、飼い主からが12,135頭、迷い犬や野良犬など所有者不明からが40,658頭の計52,793頭だった。動物愛護法の改正前の2012年では209,388頭、さらに遡って2004年時点では418,413頭にのぼっていたから、それぞれ約4分の1、8分の1の数に減少している。(※4)

2013年以降、これらの数のなかにペット販売業社が持ち込んだものは含まれていないという前提だが、悪質な業者が個人を装って持ち込んでいるケースがないとは言い切れない。

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悪質な引取り業者に持ち込まれるケースも

動物愛護法の改正により、ペット販売業者が保健所へ持ち込みができなくなったことにより、売れ残った犬猫を引き取り業者に有料で引き渡すケースも増えている。引き取り業者自体は違法ではないが、悪質な引き取り業者の存在が問題視されている。

そのような業者に持ち込まれると、販売や繁殖など用途によってより分け、どちらにも該当しない犬猫は飼育放棄し、衰弱や死亡に至らせることもある。(※5)悪質な引き取り業社が70匹を超える犬の死骸を山林や河川敷に投棄する事件も起きている。(※6)

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動物福祉の先進国はどう対応している?

犬の散歩

Photo by Milena Trifonova on Unsplash

欧米などの動物福祉の先進国では、殺処分を減らすために動物に関する厳しい法律が設けられている。ペットショップでの生体販売規制がある国を例に、どのような法律や規制があるのか解説する。

ペットショップでの生体販売を禁止・規制

動物福祉の先進国では、ペットショップで犬や猫の生体販売を禁止したり、厳しい基準を設けて規制していることがほとんどだ。国別に、動物に関する法律で規制されていることを紹介しよう。

イギリス
イングランド、ウェールズ、スコットランドでは、ペットショップで犬や猫を販売してはならない。また、生後6ヶ月未満の子犬の売買は、購入者がブリーダーの元へ足を運び、対面式で行う。ブリーダーは購入予定者に、子犬が生まれた場所、母犬と子犬を一緒に見せる必要がある。

フランス
フランスでは、犬や猫の店頭販売が禁止されている。また、購入者は飼育知識を証明する書類に署名しなければならない。

ドイツ
ドイツでは、法律によって、犬や猫が入れられるケージやサークルの大きさが詳細に定められている。これによって店頭販売は実質的に難しい。

オーストリア
オーストリアでは、ペットショップで犬や猫を販売することは禁止されている。ドーベルマンのしっぽを切ることや、サーカスに野生動物を出演させることも禁止されている。また狭いケージで鶏を飼うこと、牛をロープできつく縛ることもしてはならない。

スウェーデン
スウェーデンでは店頭販売が禁止されており、子犬が産まれると飼い主の電話番号などのデータが登録できるマイクロチップを埋め込まれるようになっている。また、飼っている犬から6時間以上目を離すことも禁止されている。

アメリカ
アメリカでは、カリフォルニア州・メリーランド州・イリノイ州・ニューヨーク州などでペットショップでの生体販売を規制している。また動物を傷つけた場合は「第二級動物虐待罪」が適用される。

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ペットを飼いたい人はどうしている?

動物福祉先進国では、ペットを飼いたい場合は動物を保護しているアニマルシェルターや保護団体、信頼できるブリーダーから直接迎え入れることが一般的となっている。

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日本でペットショップでの売れ残りを減らすには?

猫

Photo by Manja Vitolic on Unsplash

動物福祉先進国の対応を参考に、日本においてペットショップの売れ残りを減らすにはどうしたらいいかを解説する。

犬猫の大量生産・大量消費のモデルを見直す

現状では、犬猫の大量生産・大量消費のモデルが一般化している。このモデルを如実に表すのが、ペットオークションと悪質なブリーダーだ。

ペットオークションとは、ブリーダーが子犬や子猫を大量に競りに出し、落札したペットショップに卸す方法である。1日に数百頭単位で取り引きがなされており、ペットショップで売られている犬猫の半数以上がオークションを経由しているといわれる。

このオークション制度の確立により、個々のブリーダーと関係を構築し直接仕入れるよりも簡単に消費者のニーズに合ったさまざまな犬種・猫種が仕入れられ、業者の参入障壁も下がった。これがブリーダーの大量生産、ペットショップの大量販売につながっている。

なお、ペットオークションでは、売りに出してはいけないとされている生後8週間以下の子犬・子猫が扱われていたり、多くの犬猫で生年月日の改ざんが行われていたりといった現状が、令和5年に環境省が実施した調査で明らかになっている。(※7)

悪質ブリーダーによる「パピーミル(子犬生産工場)」と呼ばれる大量生産方法も問題となっている。栄養も十分に与えられない劣悪な環境下で飼育された犬たちに、工場のように次々と子犬を産ませる方法だ。ここで生まれた子犬たちはペットオークションに出される。

こういった大量生産・大量消費のモデルが続く限り、売れ残る犬猫はなくならない。動物愛護法の改正で改善は見られるものの、さらなる法律の規制や取締りの強化がなされなければ、現状の改善は難しいだろう。

消費者がペットの受け入れ先を見直す

私たち消費者がペットの受け入れ先を見直すというのも効果的な方法だ。大量生産・大量消費の背景には、消費者の「ほしい」「買いたい」というニーズが存在する。売れるから、生産・販売するのだ。

ペットを飼いたいと思ったら、ペットショップから動物を購入するのではなく、保健所や動物保護団体、里親募集、譲渡会などから優先して探す。そういった動きをする消費者が増え、これまでのようにペットショップで購入する人が減れば、供給側もバランスを取る必要が生まれ、大量生産も見直されるだろう。

そもそもペットショップで生態販売を行わない

動物福祉先進国のように、そもそもペットショップでの生態販売を行わないという方法もある。しかしながら、生業にしている人もおり、業界全体への影響は多大なものだ。影響力の大きい法規制は導入への道のりが長い。動物福祉への意識の高まりから、日本でも規制は進んでいる。今後、ヨーロッパ各国やオーストラリアのように、店頭販売が禁止になる日が来るのか、動向に注目したい。

売れ残ったペットを救うためにできること

犬を愛する

Photo by Eric Ward on Unsplash

売れ残ったペットを救うために、私たちができることを解説する。

里親になる

里親募集や譲渡会、保健所などから動物を引き取ることで、売れ残った動物の命を救うことができる。ただし保護動物を迎え入れる場合には条件があるため、気軽に引き取れるわけではない。また動物を迎え入れるときには、環境を整える必要がある。それには費用がかかるため、慎重にことを運ばなくてはならない。

一時預かりボランティアとして協力する

一時預かりボランティアとは、限られた期間、保護動物を預かり世話するボランティアだ。預かる期間は、新しい家族が決まるまでのケースや、1か月から2か月、半年間から1年などさまざまである。一時預かりボランティアになる場合も、動物保護団体によって応募条件が設定されているため、確認したうえで応募するようにしよう。

募金や寄付活動に参加する

動物保護団体へ募金や寄付をすることは、間接的に売れ残った動物たちを守ることにつながる。これらの活動は、だれでもすぐにできる取り組みだ。募金や寄付をする場合は、団体の活動を慎重に調べ、信用できる団体を選ぶことが大切だ。

動物福祉について考えていこう

犬は家族

Photo by CDC on Unsplash

ペットショップで売れ残りが起きる大きな理由は、需要と供給のバランスが一致しないことだ。またブリーダーの大量生産、ペットショップの大量消費という問題もある。動物の命を救うために、いまいる動物と幸せに暮らすために、動物福祉について考えていく必要がある。

※掲載している情報は、2024年6月25日時点のものです。

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