日本における犬殺処分の現状とは? その実態とゼロに向けた取り組みを解説

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日本では、年々犬の殺処分件数が減少傾向にあるものの、未だゼロにはなっていない。本記事では、日本における犬の殺処分の現状と各自治体や団体の取り組みを紹介しながら、解決に向けて私たち一人ひとりにできることを考える。

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2024.01.31
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日本の犬の殺処分の現状

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日本での犬の殺処分件数は年々減少傾向にあるものの、まだまだ多くの犬が殺処分されている現状がある。環境省のデータによると、2022年4月1〜2023年3月31日までの1年間で引き取り数22,392頭に対して、2,434頭が殺処分されている。年間で引き取り数の約1割が殺処分されており、これを1日に換算すると毎日6.6頭の犬が殺処分されていることになる。

犬 殺処分 現状のグラフ

Photo by 環境省自然環境局の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」

令和4年度 全国の犬・猫の殺処分数の推移

都道府県ごとにみる犬殺処分

犬の殺処分が多い県では、長崎県(297頭)と高知県を除く四国の3県、香川県(273頭)、愛媛県(224頭)、徳島県(342頭)が上位となっている。この理由として、収容されている犬の大半が野犬であり、攻撃性や健康上の問題により、譲渡が困難と判断されることがあげられる。

野犬が多い理由としては、比較的温暖な気候であることや、四国の3県においては、野犬のすみかになる雑木林や河川敷が多いこと、県域が狭く住宅街と野犬の棲家が近いことがあり、地域住民が野犬に餌を与えることが後を絶たないことも、野犬の増加に影響を与えていると考えられている。

殺処分数が多い5県

殺処分数殺処分率引き取り数
徳島県342頭44.9%761頭
長崎県297頭54.8%541頭
香川県273頭27.2%1001頭
愛媛県224頭62.5%358頭
愛知県159頭18.1%874頭
環境省 令和4年度「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(都道府県・指定都市・中核市)」を基に編集部で集計

殺処分数5位の愛知県は飼い主からの引き取りが約200頭と全国のなかでも多いのが特徴だ。しかし、返還数と譲渡数も多いため、殺処分率は5県の中では低くなっている。

一方で、殺処分率が低い県には、静岡県や山梨県、神奈川県など、以下5県が挙げられる。これには自治体や動物愛護団体が、保護活動や譲渡会を積極的に行っていることが背景にある。

殺処分率が低い県 上位5県

殺処分率引き取り数
静岡県0%161頭
山梨県1.2%310頭
神奈川県1.2%245頭
長野県1.3%286頭
三重県1.5%331頭
環境省 令和4年度「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(都道府県・指定都市・中核市)」を基に編集部で集計

なぜ殺処分されてしまうのか

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現在、犬の引き取り状況は、「飼い主からの引き取り」が全体の12%で、「所有者不明の引き取り」が残りの88%を占めている。前者は引越しや経済的理由により飼育が難しくなった場合が一般的であり、後者は迷子や負傷などにより飼い主が不明となったケースや野犬が該当する。

こういった犬たちは保健所に持ち込まれ、一定期間収容される。収容日数は各自治体の条例に基づいて定められているため、自治体によって異なる。短くて2・3日、長くても土日祝日を除く一週間程度だ。その後、「収容動物情報」として公示され、里親希望者へ譲渡、または飼い主へ返還される。

しかし、収容期間内に引き取り先が見つからない場合は、各都道府県にある動物愛護センターに移送され殺処分されてしまう。

四国3県にみる"譲渡することが適切ではない"犬の殺処分

収容期間終了後の殺処分を阻止するために、動物保護のボランティア団体が保健所から引き取って保護し、譲渡会などで里親を探す活動も、近年積極的に行われている。行政や動物保護団体の取り組みにより、殺処分される犬の数は年々減りつつあるのも事実だ。

しかし、先述した四国の3県の例をはじめ、殺処分数がゼロにならない理由のひとつに"譲渡することが適切ではない"ケースが挙げられる。

環境省は殺処分に至ったケースを次の3つに分類している。
1.譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
2.愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼養できる動物の殺処分
3.引取り後の死亡


1のケースでは、重度の負傷や病気などによって苦痛が著しい場合や治療の継続が困難だと判断された場合、感染症により他の動物や人への蔓延が懸念される場合、人や他の動物に危害を加える攻撃性が認められる場合などが当てはまる。

3は病気や事故、衰弱などにより、引き取り後に死亡してしまったケース。

2は、適切な譲渡先が見つからないか、施設の収容制限などにより飼育が困難と判断された場合などに殺処分が行われたケースだ。

先述した殺処分数の多い四国3県のうち、徳島県と香川県の令和4年度の数字をみると、1と3のケースのみであり、2は0頭となっている。

殺処分の行われ方

殺処分では、主に炭酸ガスによる窒息死や麻酔薬の投与による安楽死といった方法が用いられる。現状では、ドリームボックスと呼ばれるガス室に入れられ、炭酸ガスによって窒息死させられる方法が多くとられており、決して安らかに息を引き取れるわけではない。

麻酔薬の注射や経口投与の方法も一部の自治体で行われているが、麻酔薬には安全確保が図りづらいこと、薬品によっては動物用として認められていないこと、獣医が行うため物理的に多くの執行が難しいことなど、問題点が多く残されている。

環境省が定める「動物の殺処分方法に関する指針」では、できる限り犬に苦痛を与えない方法で殺処分するよう求められている一方で、コストや時間的制約の観点から炭酸ガスを利用せざるを得ない自治体が多くあるのが現状だ。

犬殺処分数が減少している背景

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Photo by Mark Zamora on Unsplash

日本の犬殺処分件数が減少している背景には、保健所が飼い主による安易な引き取りの申し出を拒否できるなど、動物愛護管理法の度重なる改正と整備も寄与している。

そしてなにより、動物愛護団体や個人で保護活動を行っている人々の働きや、保健所や動物保護センターなどとの連携・協力が大きく影響していると考えられる。保健所に保護され、一定の保護期間を経て殺処分の対象となった犬を、動物愛護団体や個人が保護施設や自宅に引き取り救済する取り組みが、殺処分件数を減少させているのだ。

犬殺処分ゼロの自治体とその取り組み例

殺処分数の減少およびゼロを目指す自治体は多く、それぞれの対策を行なっている。ここでは殺処分数ゼロを達成している自治体の取り組み例をみてみよう。

神奈川県の取り組み

神奈川県では、2012年の動物愛護管理法改正以前から、動物取扱業者からの引取り拒否、飼い主への説得、動物保護センターへの直接持込推奨などを実施するなど、収容数自体を減少させる取り組みをこなっている。また、逃げてしまった犬を飼い主がより捜しやすいよう、情報提供と情報へのアクセスの充実と整備を図り、飼い主への返還数を上げている。

そのほか、「かながわペットのいのち基金」を活用し、神奈川県獣医師会と連携協力して、動物愛護センターに保護された犬や猫の病気やケガの治療や、人に馴れていない犬のしつけや訓練を実施。保護センターによるオンライン譲渡会のほか、ボランティア団体による保護や里親への譲渡活動が活発に行われていることが殺処分ゼロの達成につながった。

これらの取り組みによって、10年連続で犬殺処分ゼロを達成している。

岡山市の取り組み

岡山市保健所では、野犬を捕獲・保護するだけでなく、一般家庭で幸せに暮らせるよう訓練を実施する施設「ZOOねるパーク」を独自に運営している。

岡山市では2017年から殺処分ゼロを達成しているが、保健所は人手や設備が不足しており、愛護団体の協力と努力により成された結果だった。

野犬の保護から譲渡までを愛護団体に任せきりで、預かる団体側の負荷が課題となっていたため、保健所の取り組みで解決できる方法を模索。里親に安心して飼ってもらえる状態の犬を増やすことが譲渡率向上につながるとし、訓練を実施する専用施設を開設するに至った。

殺処分を防ぐ動物愛護団体の存在と取り組み

ピースワンコ・ジャパンの活動例

日本では、自治体の保健所や動物愛護センターに代わり、動物愛護団体が犬の保護・訓練・一般家庭への譲渡を行い、殺処分減少の一役を担っているケースが多い。

殺処分ゼロの実現を目指す「ピースワンコ・ジャパン」もそのひとつ。全国に9つのシェルターと譲渡センターを持ち、これまでに4000頭以上の犬を里親の元に送り出してきた(※1)

愛護センターで殺処分の対象となった犬を引き取り、獣医師のもとで診察・治療し、散歩や人慣れのトレーニングを行い、譲渡会で里親に送り出す。災害救助犬やセラピー犬などとして訓練を受け、被災地などで活動する犬もいる。

保護される犬は野犬が多く、臆病な犬や攻撃的な犬、障害のある犬や持病のある犬、飼育放棄された老犬など、一般家庭では受け入れづらい犬が一定数いる。「ピースワンコ・ジャパン」では、このような犬たちにトレーニングを重ね人間に慣れさせ、シェルター内の診療所や提携する動物病院で治療を受けさせ、里親が見つかるよう手を尽くす。譲渡先が見つからない犬も、「ピースワンコ・ジャパン」で最期まで犬生を全うさせる。

拠点となる収容施設は広さ7万平方メートル以上もの土地を持ち、広い庭付きの犬舎やドッグランを完備。餌を多めに与え、夜間も自由に庭に出られるようにするなど、犬たちがストレスなく、自由に遊び、走り回れる環境を提供している。そのほか、老犬用施設や診療所などを完備し、保護したすべての犬が安全に暮らせるよう、医療体制や人員体制を整えている。

こういった活動には多くの費用が必要になる。犬1頭につき、ワクチンや治療行為、人件費や施設維持費、年間の餌代などを含めて約42万円がかかる。これらはふるさと納税や継続的な寄付によって支えられている。

年々減少の犬殺処分 それでも残る課題

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動物愛護の気運の高まりと行政や愛護団体の働きによって、日本における犬殺処分件数は年々減少している。しかし、その数字は未だゼロではないし、課題も残されている。

病気やケガ、衛生上の問題などの理由によって人間への譲渡が適切ではないと判断される野良犬や野犬が多く存在していることも殺処分がゼロにならない理由のひとつだ。

また、殺処分対象となった犬を保健所や動物愛護センターから引き取る愛護団体側の負担も軽視できない。自治体によっては殺処分数を減らすという目的の達成のために、愛護団体になかば押し付けたり、プレッシャーをかけてしまうケースもある。動物愛護団体にも収容数や費用面での限界はある。つまるところ、引き取りの頭数自体を減少させることが目指される。

悪質なペットショップやブリーダーによる不正な取り扱いも課題として残る。営利目的の大量繁殖が元凶になり、売れ残った犬の処分先に動物愛護団体が利用されるという問題点もある。店頭展示販売による衝動買いも、飼育放棄につながっている

これらの問題の解決に向けて、動物愛護管理法の改正もたびたびなされている。2019年の改正では、販売業者に販売する犬猫へのマイクロチップ登録が義務化された。従業員1人当たりの飼育頭数の上限規制も設けられる。過去には保健所が安易な理由による引き取りを拒否できるといった内容が加わり、引き取り数および殺処分数減少に寄与している。

今後も適切な制度やルールの整備、動物愛護に関する正しい知識の普及などが不可欠であり、それらが犬の殺処分ゼロに向けた具体的な改善策となるだろう。

殺処分を減らすために私たちにできること

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Photo by Chewy on Unsplash

最後まで責任をもって飼えるかしっかり考える

ペットの引き取りや飼育放棄の背景には、飼育環境の変化(飼い主の転居や入院など)、経済的困窮や飼い犬の治療費の負担増、動物アレルギー、介護や育児との両立の難しさ、高齢による飼育の困難、飼い主の死亡などがあげられる。

これらの理由で無責任に飼育放棄してしまうことがないよう、飼う前にしっかり検討し、未来のことを想像し、やむを得ない場合には代わりに飼ってくれる身内や友人、譲渡先を決めておくことが重要だ。"かわいい""飼いたい"という感情に流される前に、現実的に飼育可能か、一度立ち止まって考える必要がある。

悪質なショップやブリーダーから買わない

ペットショップで購入を検討するとき、その子犬がどういったところから来たのかも考えよう。日本のペットショップでは競り市のほか、パピーミル(子犬の工場)と呼ばれる大量繁殖する施設から仕入れるルートがあり、動物愛護の観点からかけ離れた非道な繁殖を行なっている悪質なブリーダーや繁殖業者が関わっているケースがあるからだ。売れ残った犬や繁殖に適さない犬への処遇も、いいものではないことは想像に難くない。

狭いケージや衛生面に問題がある環境での飼育、犬の負担を考えずに繁殖を行うなど、非道な方法で利益だけを追求している業者も存在する。そういった業者やペットショップから買うという行為は、そのような行為に加担しているようなもの。"購買は投票"という表現があるように、購入しないことで"NO"を突きつけよう。

保護犬の里親になる

動物愛護団体や保健所から保護犬を譲り受ける方法もひとつ。インターネットで里親募集のサイトをチェックし面会を申し込む方法、動物愛護団体が開催する譲渡会に参加して直接面談する方法、保健所や動物愛護センターの講習会などに出席し譲渡を申し込む方法がある。

施設や団体によって条件はさまざまだが、里親になるにはクリアしなければならない点が複数ある。例えば、18歳以上で経済能力がある、飼育困難になった時の預け先が確保できる、飼育できる環境に居住している、定期健診や獣医療の必要性をしっかりと理解できる、飼育について家族の同意が得られている、など。

年齢や家族構成、生活リズムなどがチェックされ、ときには厳しい条件が設定されていることも。これは、受け入れてくれる里親にやっと巡り合えた保護犬が、最後まで大切に育ててもらうため、再び飼育放棄などで悲しい思いをしないためにも必要なこと。

ボランティアに参加する

動物愛護団体や保護センターなどのボランティアに参加することも私たちができることのひとつ。シェルターで犬の世話をするボランティアをはじめ、譲渡会のサポート、子犬の一時預かりなど、さまざまな形が存在する。まずは自分ができそうなものから関わってみて。

寄付などの金銭的な援助をする

動物愛護団体に寄付をすることも、貢献の一つだ。ネットから簡単に申し込みができるので、ボランティアに参加できない人などは資金面での支援を行うのもいいだろう。

例えば、「ピースワンコ・ジャパン」では、1日約30円(月1,000円)からできる寄付プログラムがある。集まったお金は、新しい家族が見つかるまでの飼育費(食事代、医療費など)や保護施設の拡充、譲渡センターの新規開設、災害救助犬などの育成、動物福祉の意識を広めるための啓発活動などに使用される。

犬殺処分ゼロの社会の実現に向けて

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Photo by Bruce Warrington on Unsplash

犬の殺処分数は年々減少しているが、最後まで面倒を見られず途中で飼育をやめてしまう人は後を絶たない。責任と覚悟を持って犬を迎え入れることはもちろん、一緒に暮らす際には、適切な知識を身につけ、適切な飼育を行うことが重要だ。

殺処分問題に対する知識や理解を深めること、寄付、ボランティアへの参加など、私たちにできるアクションは多く存在する。大切な命を守るためにも、責任と覚悟を持って犬と向き合うという飼い主の意識を広め向上させること、小さなアクションを重ねていくことが、犬殺処分ゼロの社会の実現に向けて大きな一歩となるだろう。

※掲載している情報は、2024年1月31日時点のものです。

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