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環境問題が深刻化するなか、世界的に注目されている「生分解性プラスチック」。言葉の通り、生分解性をもつプラスチックのことだが、まだまだ認知度は低い。本記事では、生分解性プラスチックの原料やつくり方、種類、使用例に触れながら、メリットやデメリット、問題点について解説していく。
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生分解性プラスチックとは、微生物の働きによって分子レベルまで分解されたのち、二酸化炭素と水になり、自然界へ循環していく性質を持つプラスチックのこと。
世界中で深刻化しているプラスチックによる環境問題において、注目されている素材のひとつだ。
「バイオプラスチック」という言葉を聞いたことはあるだろうか。簡単に言うと"環境にやさしいプラスチック"のことで、「生分解性プラスチック」と「バイオマスプラスチック」の2つが含まれる。
「バイオマスプラスチック」とは、植物などの再生可能な有機資源を原料としたプラスチックのことで、原料にはサトウキビやトウモロコシなどが使われる。原料が植物でできているため、育成過程で光合成によりCO2を吸収することから、カーボンニュートラルな面でも期待されている。なお、「バイオマスプラスチック」には生分解性があるものとないものが含まれる。
「生分解性プラスチック」は生分解されるもののみが対象であるが、その一方、原料には植物などの再生可能資源を使用するものと、石油資源を使用するものがある。
生分解性プラスチックは、原料がバイオマス由来、石油由来、バイオマスと石油の混合由来の大きく3つに分類される(※1)。ここからはそれぞれの原料と代表的なプラスチック名について紹介していこう。
再生可能資源を原料とするもので、トウモロコシなどのデンプンから合成される「ポリ乳酸(PLA)」や植物油などを原料としてバクテリアによる発酵により生成される「PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)」などがある。
「ポリ乳酸(PLA)」は、デンプンを酵素で加水分解して発酵させ、そこから得られるL-乳酸と呼ばれるものから化学的な重合反応で合成する。通常の環境下ではほとんど分解せず、土壌や水中でも分解速度は早くない。しかしコンポストのなかにおくことで、半年程度でほぼ分解される。低耐熱性や透明性の性質があり、冷凍食品の包装材やレジ袋、農業用シート、ハウス用フィルムに使用されている。
「PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)」は、さまざまな微生物が体内に蓄積する貯蔵物質を利用するもの。土壌内や海水中で早く分解されるが、もろいという特徴がある。化石燃料由来のプラスチックの置き換えとして期待されている。(※2)
石油由来でつくられる代表的な生分解性プラスチックには、「PBS(ポリブチレンサクシネート)」や「PCL(ポリカプロラクトン)」がある。
「PBS(ポリブチレンサクシネート)」は、ポリエチレンに近い優れた性質を持つ高分子化合物であり、現在はバイオ由来原料から製造する技術も開発されている。農業用マルチフィルムやごみ袋、食品包装材などに使用される。
「PCL(ポリカプロラクトン)」も石油由来の原料からつくられ、農業用マルチフィルムやコンポスト用袋、塗料や繊維としても使用されている。(※2)
バイオマス由来と石油由来の混合でつくられるものには、先述したPBS(ポリブチレンサクシネート)のバイオマス由来のものである「バイオPBS」や植物由来の澱粉とポリエステルによって製造する「澱粉ポリエステル」、木材繊維などのセルロースと酢酸によって製造する「酢酸セルロース」がある。
「澱粉ポリエステル」は、入手しやすい一方、力学的性能が低く、加工性や耐水性もよくないといった特徴を持つ澱粉にポリビニルアルコール(PVA)などを添加したもの。これにより、プラスチック原料としての力学的性質が改善されつつ、生分解性が維持できる。(※3)
「酢酸セルロース」は堆肥や土壌中、海水中で1〜3年程度で分解する。(※4)。
生分解性プラスチックは、その性質を活かしてさまざまな場面で使用されている。
たとえば、農業用マルチフィルムや移植用苗ポッド、釣り糸、漁網など、自然環境に万が一流出してしまっても環境負荷が抑えられるような、生分解という特徴を最大限に活かせるアイテムに使われている。
そのほか、生鮮食品のトレイやインスタント食品の容器、紙オムツや生理用品などの衛生用品といった、製品使用後の回収や再利用がむずかしい分野にも役立てられている。
医薬品や農薬、肥料などの被覆材に使われることも。さらに、手術用縫合糸、骨折固定材など、幅広い分野、場面で使われている(※5)。
生分解性プラスチックに期待が集まる理由には、深刻なプラスチックごみ問題やマイクロプラスチック問題といった環境問題が背景にある。
これらの問題の現状を確認しながら、生分解性プラスチックに期待が集まる理由についてみていこう。
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一般のプラスチックは強度があり加工しやすいため扱いやすく、世界のプラスチック生産量は年々増加している。
回収されたプラスチックごみのうち、リサイクルされているのは10%弱といわれており、およそ80%が埋め立て、または自然界に投棄されているそうだ。このままでは2050年までに海洋中のプラスチックが魚の重量を上回るといわれているほど、環境汚染は深刻化している(※1)。
プラスチックごみは焼却して処理されることもあるが、その際にもCO2を多く排出するため、地球温暖化を進める原因にもなるのだ。
また、海に流出したプラスチックごみは海洋汚染につながる。さらに、紫外線や波によって直径5mm以下のマイクロプラスチックとなり、海洋生物がエサと間違えて食べてしまうことで内臓を傷つけたり窒息したり、体内に有害物質が残るなど生態系へも悪影響を与えているのだ。
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生分解性プラスチック1kgをコンポストした場合、排出するCO2は約0.6kgs。焼却して処理した場合は約1.6kgs。一般的なプラスチック1kgを焼却した場合のCO2排出量が約2.6kgsであることから、生分解性プラスチックを処理する際のCO2排出量は少なく、環境への負荷を抑えられることがわかるだろう(※6)。
また、生分解性プラスチックは、微生物の働きにより、最終的には二酸化炭素と水となって自然界へと循環していく。海洋での生分解性にたけたプラスチックもあり、それらを効果的に利用していくことで、海洋ごみを減らすこともできるのだ。
今後も、その便利さからプラスチック生産は続くと考えられ、プラスチックごみはもっと増えていくことが予想される。環境汚染問題を解決する切り札として、生分解性プラスチックが世界的に注目されているのだ。
ここからは、生分解性プラスチックの問題点と懸念点について解説していく。
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生分解性プラスチックは、研究開発や生産といったプロセスに手間がかかるため、現状
では通常のプラスチックよりも製造コストがかかる。
また、植物由来の原料を使用する場合は、原料費の高騰などの影響も受けてしまう。
生分解される条件が限定的であることも、問題点・懸念点のひとつだ。
たとえば、海洋プラスチック問題の解決に期待されるのは水環境で分解される種類のもの。生分解性プラスチックのなかでもPHBH(ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)などのごく一部に限られる。
また、生分解性プラスチックで有名なPLA(ポリ乳酸)は、コンポストでの高温多湿な環境では分解されるが、通常の土壌環境や水環境では分解されにくい。
コンポストと土壌環境と水環境では生息する微生物の種類や密度が異なるため、分解されやすいプラスチックの種類も異なり、生分解される条件が限定的になってしまうのだ(※7)。
生分解プラスチックの分解速度は、微生物の活動や周囲環境に大きく左右される。たとえば、通常レジ袋サイズで分解にかかる時間は、おおよそ3ヶ月から6ヶ月だそう。より大きな生分解プラスチックになれば、さらに長い時間がかかってしまう。
完全に分解されるまでに年月を要することや状況にも左右される点も、懸念点のひとつといえるだろう。
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生分解性プラスチックは、廃棄物を製品原料として再利用する「マテリアルリサイクル」が困難なことも問題点のひとつ。分解しやすい性質ゆえに、再生樹脂として再利用するには不向きなのだ。
また、将来的に海洋中において微生物が生成する酵素の働きで分解される「海洋生分解性プラスチック」が普及した場合、非分解性プラスチックと混合されて回収されることにより、リサイクルシステムに影響を与える可能性も懸念されている。
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近年、"使い捨て"プラスチックがもたらす環境への負荷が広く認知され、世界的にも改善の動きが強まっている。繰り返し使えるカトラリーやコップ、バッグの持参などにより、ごみ自体を減らす生活へ転換している人も少なくないだろう。
そのようななかで、生分解性プラスチックが復旧し、「環境負荷が低いのだから、いくら使い捨てしても問題ないだろう」といった誤った認識が広まってしまうと、本末転倒だ。物はつくるときにもCO2を排出している。
生分解性プラスチックは、他の素材への代替が難しいもの、プラスチックであることが必要とされるものへの、最終手段としての代替だ。生分解性プラスチックが普及することで、“使い捨て”の意識が解消されない可能性があることは、懸念点のひとつといえるだろう。
「生分解性プラマーク」とは、生分解性と安全性が一定基準以上にあることが確認された材料だけから構成されるプラスチック製品につけることができるマークのこと。
生分解性プラマーク取得審査を受け、使用許可を得るには、認証団体である日本バイオプラスチック協会(JBPA)の会員になる必要がある(※8)。
同様に、海洋生分解性プラスチックの識別表示制度にて、海洋環境での生分解性と安全性が確認されたプラスチック製品につけることができる「海洋生分解性プラマーク」も存在している。
環境問題解決に向けて期待が寄せられているが、まだまだ普及段階にある生分解性プラスチック。今後のさらなる普及に向けて必要なポイントや課題は何なのだろうか。
まず普及に向けて求められるのは、問題点や懸念点を克服する、より高性能な生分解性プラスチックの開発だ。
先述した、生分解に時間がかかることや生分解の条件が限定的であることのほかに、実用化されている種類が少ないことなどを克服することで、より普及が加速すると予想される。さらに、普及することで量産化できれば、製造コストや価格の低下にもつながるだろう。
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生分解性プラスチックの一番の特徴は、微生物の働きによって分子レベルまで分解されたのち、二酸化炭素と水になり自然界へ循環していくところ。この特性を活かすにはコンポストのような、微生物の活動が活発化する湿度や温度が整った環境が必要となる。
生分解性プラスチックが普及し、生産量が増えると、処理するためのコンポストも必要になる。大型のコンポストの設置や管理など、設備の整備も欠かせない。
プラスチックにも種類があり、生分解できるプラスチックがあることを知っている人はまだまだ少ない。生分解性と知らずにリサイクルや焼却に出してしまうと、生分解性プラスチックの特性を活かすことができないのだ。
生分解性プラスチックはリサイクルに向かないことや、どのような特性、メリットがあるのか、何に使われているのかなど、消費者の認知を向上させていくことも、普及において重要なポイントとなるだろう。
環境問題解決に向けて、期待が高まる生分解性プラスチック。まずは、消費者である私たちが生分解性プラスチックについてしっかりと理解することが重要だ。
その上で、生分解性プラスチックをはじめとする環境にやさしいプラスチック製品を選択し、不要になったときには適切に処理していくことが求められる。
※1 生分解性プラスチック入門 – 日本バイオプラスチック協会
※2 生分解性プラスチックは環境に良い? 問題点やデメリットに迫る|DNP 大日本印刷
※3 澱粉ポリエステル(starch polyester)とは|樹脂プラスチック材料環境協会
※4 酢酸セルロースの生分解性について|ダイセル
※5 生分解性プラスチック|環境展望台
※6 BIODEGRADATION|PLANTS LABORATORY
※7 生分解性プラスチックの課題と将来展望 | 三菱総合研究所(MRI)
※8 生分解性プラ識別表示制度|日本バイオプラスチック協会
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