「グレート・リセット」とは アフターコロナで変わりゆく世界の仕組みとダボス会議を解説

夕暮れのなか、浅瀬を歩く人

世界経済フォーラム(WEF)が開催するダボス会議。2021年のテーマは、「グレート・リセット」だった。ウィズコロナの時代だからこそ、アフターコロナに迎える変化を学んでいこう。グレート・リセットの基本的な考え方と、注目される背景、求められる変化について解説する。

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2022.09.06
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グレート・リセットの意味

誰もいない会議室に置かれた椅子とテーブル

Photo by Benjamin Child on Unsplash

グレート・リセット(Great Reset)とは、いまの社会全体を構成するさまざまなシステムを、いったんすべてリセットすることを示す。

いま、我々が生活する世界は、さまざまな金融システム、社会経済システムのもとに動いている。

こうしたシステムの多くは、第二次世界大戦以降につくられてきたものだ。我々の生き方や働き方の基本方針は、これらのシステムによって決定されていると言っても過言ではない。しかし、既存のシステムのすべてが完璧だったわけではなく、現代社会が抱える多くのひずみも生み出してきた。

さまざまな問題を解決するために、これまで当たり前であったシステムを白紙に戻し、まったく新しい仕組みを一からつくり出していくことこそが、グレート・リセットである。より公平で持続可能な社会を実現するため、世界経済フォーラム(WEF)が打ち出している。

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グレート・リセットが注目される理由・背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

グレート・リセットという言葉が初めて登場したのは、リーマンショック後の不況の中でのこと。アメリカの社会学者であるリチャード・フロリダ氏の、著書のタイトルとして注目された。

2020年から2021年にかけて注目される理由は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行にある。世界的な未曽有の危機の襲来に、これまでの社会や経済システムでは、対応してきれなくなっているのだ。

これからやってくるウィズコロナ・アフターコロナの時代。経済成長や公的債務、人々の雇用や働き方、格差の是正や幸福度の上昇を目指すためには、既存の仕組みから抜け出し、新たな仕組みをつくり出す必要があると言われている。

パンデミックによる格差

世界中に感染が広がった新型コロナウイルス感染症により、社会には格差が生まれた。不安定な経済状況から多くの人が職を失ったが、そのような境遇に立たされた人々は貧困層や女性など、社会的弱者層が多い。さらに新型コロナウイルス感染症のワクチンは、後進国にはなかなか行きわたらず、人々は感染の高いリスクにさらされている。

そのような社会的な格差が、新型コロナウイルスのパンデミックによって広がっていることも、グレート・リセットが注目されている一因だ。

気候変動

気候変動によって、世界各地で猛暑・洪水・干ばつ・森林火災などの被害が頻発している。地球温暖化をできる限り抑えていかなければ、このような気候変動による被害はますます増加し、多くの人々が巻き込まれる可能性が高い。そのため、再生可能エネルギーの推進をはじめとした二酸化炭素排出量の削減などが急務だ。

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エネルギー危機

2022年にはじまったロシアのウクライナ侵攻によって、世界で天然ガスの価格が高騰し、エネルギー危機に見舞われている。欧州を中心に、再生可能エネルギーへの移行が急スピードで進められているが、石油や天然ガスに依存した体制自体を見直す時期に来ていることは、間違いないだろう。

実現に向けた取り組み

グレート・リセットを実現させるためには、重要な取り組みは以下の3つだ。

・政府主導のステークホルダー経済の実現と公平なルールづくり
・新たな投資プログラムの活用
・第四次産業革命のイノベーションを活用した上での、健康と社会的課題への取り組み

各国政府が新しい仕組みとルールを積極的に取り入れ、新しい形で、社会経済を推進していくことが、グレート・リセット実現のための鍵だ。

またイノベーションと多様な才能の集まりが必要とされる、第四次産業革命。世界が一体となって、社会的・健康的な課題に取り組むことで、ウィズコロナ時代から早期に脱却できるだろう。

2021年「ダボス会議」のテーマに

ダボス会議で登壇する女性

Photo by Evangeline Shaw on Unsplash

グレート・リセットを耳にする機会が増えた理由は、世界経済フォーラム(WEF)にある。WEFは、2020年6月に開催された2021年の年次総会「ダボス会議」で、テーマを「グレート・リセット」に設定した。

WEFとは世界情勢の改善に取り組む国際機関であり、1971年に誕生した。政治・ビジネス・社会といった各分野のリーダーたちと連携し、官民両セクターの協力のもと、目標達成のために取り組むという特徴を持つ。特定の利害と結び付くことなく、グローバルな公益の実現を目的とした非営利団体だ(※1)。

WEFは毎年1月にダボスで行われる年次総会において、世界、地域、産業のアジェンダを形成している。2020年の年次総会は、新型コロナウイルス感染症の影響で、6月に開催を延期。2021年については、8月にシンガポールで開催される予定だったが、中止となった。

2021年に世界が立ち向かうべき大きな問題といえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、その蔓延による社会経済の失速だろう。ウィズコロナ・アフターコロナの社会をよりよいものにするために、WEFが重視しているのが、グレート・リセットというわけである。

コロナ以前から、我々の社会は数多くのひずみを抱えてきた。未知のウイルスの蔓延によって、社会全体の仕組みの変化を求められているが、新たな仕組みの構築を考える上では、これは大きなチャンスでもある。

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WEFが重要視するステークホルダー資本主義

既存の仕組みが崩壊したいまだからこそ、これから先の未来を生きるための新たな仕組みを整備し、よりいい結末へ向かうべきというのが、WEFが打ち出した理念なのだ。リセットが必要な分野は、教育や社会契約、労働条件など多岐にわたるが、WEFがもっとも重視する分野が資本主義経済である。

従来型の資本主義は、株主資本主義であった。株主が企業に対してお金を出し、企業は株主の利益を最大化させるために、企業活動を行う。主にアメリカで主流となってきた資本主義のスタイルである。WEFは、この株主資本主義にも、グレート・リセットが必要と説いている。

WEFが提唱する新たな形は、ステークホルダー資本主義である。企業活動にはさまざまなステークホルダーが絡みあっている。株主だけではなく、顧客や従業員、地域社会など、そのすべてに貢献できるよう企業活動を行うのが望ましいというのが、ステークホルダー資本主義の、基本的な理念である。

ステークホルダー資本主義は、1973年の第1回「ダボス・マニフェスト」で提起された理念であるが、2020年のダボス会議の主題でもあった。2021年のグレート・リセットを機に、WEFは、より一層の推進を目指している。

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2022年のダボス会議でもステークホルダー資本主義が議題に

ちなみに2022年のダボス会議は1月に開催される予定だったが、新型コロナウイルスのオミクロン株による感染拡大によって延期。2022年5月22日から26日にスイスで開かれる予定だ。

2022年のテーマは「Working Together, Restoring Trust(信頼を取り戻すために一致協力を)」。ステークホルダー資本主義のほか、パンデミックからの景気回復や気候変動などが議題となる。

コロナ禍での気付きと求められる変化

ノートパソコンを前に会話をする二人

Photo by Headway on Unsplash

これまでにない新しいウイルスと、それによってもたらされる感染症は、我々の生活を一変させた。その影響は、我々の多くが想定していたよりも深刻で、長期化している。2021年を迎えたいまも、事態の収束は見えていない。今後も、ウイルスとともに生活し、被害を拡大させないための努力が求められ続けるのだろう。

コロナ禍における世界的な問題のひとつが、債務の増加である。感染拡大の封じ込め、経済活動の推進、そして人々の生活を保護するために、多くの費用が投じられた。国際金融協会(IIF)が発表したデータによると、2020年に世界が抱える債務は、24兆ドル増加し、281兆ドルとなった。2021年1~3月のデータでは、世界の債務は289兆ドルとなり、世界の国内総生産3.5倍以上の金額で過去最高水準に達しているのだ(※2)。

各国の財政状況が厳しくなれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する支援は縮小せざるを得ない。そうなれば、倒産する企業や失業者は、いまよりも大幅に増加し続けるだろう。格差はさらに広がり、持続可能な社会の実現は難しくなる。こうしたネガティブな変化は、すでに世界各国で起きつつあり、日本においても例外ではない。

このような状態だからこそ、これからの時代を生き抜くために必要とされるのは、ポジティブな方向への「変化」である。既存の仕組みが崩壊したいま、新たな仕組みを構築するチャンスの時期でもある。新たな基盤を早急に構築できれば、これからの時代に、これまでとは違った形で我々の生活を支えてくれるだろう。そのためには、世界で生きる我々の一人ひとりが、変化をより積極的に受け入れていく必要がある。

グレート・リセットと聞くと、「社会の仕組みががらりと変わってしまう、途方もないこと」のように思えるが、すでに変化は起きつつある。しかもそれは、一ヶ所のみではない。ステークホルダー資本主義の広がりも、そのひとつである。

理想社会の実現のため、ステークホルダー資本主義への変化が必要だと言われてはいたが、ビフォーコロナの時代、実際に行動に移す企業はそれほど多くはなかった。しかしいま、株主だけではなく、労働者や顧客、そして地域社会のために積極的に取り組む企業が増えてきている。コロナ禍を、社会全体で乗り切っていこうとする意識の表れであり、アフターコロナへの着実な一歩と言えるだろう。

グレート・リセットがもたらす世界に適応していくために

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の登場によって、急激に変化した現代社会。「望んでそうなった」というわけではなく、「そうせざるを得なかった」と感じている方がほとんどではないだろうか。いま、この流れに対応するのが精いっぱいで、「アフターコロナ」「グレート・リセット」と言われてもピンと来ない……と感じる方も多いのかもしれない。

しかし、グレート・リセットが実現される・されないにかかわらず、アフターコロナの時代はいつか必ず訪れる。そのときには、これまでの仕組みのままでは対応が難しい問題も多々見つかるだろう。新たな仕組みの構築は、これからの時代を生きる国・企業・個人にとって、不可避な課題である。グレート・リセットの考え方も取り入れて、ウィズコロナのいまから、新たな考え方を身につけてみてはいかがだろうか?

※1 ミッション|世界経済フォーラム(WEF)
https://jp.weforum.org/about/world-economic-forum
※2 Global Debt Monitor|国際金融協会(IIF)
https://www.iif.com/Research/Capital-Flows-and-Debt/Global-Debt-Monitor

※掲載している情報は、2022年9月6日時点のものです。

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