Photo by ©︎『森を織る。』実行委員会
蚕が命をまっとうすることで繭が生み出される。職人たちがその繭から糸をつくり、織り、生地を型取り、染めて一枚の服ができあがる。そんな“命の服”ができるまでを辿る旅をする映画『森を織る。』。そこには日本の里山文化を静かに継承し、命、環境、職を循環させた生活を送る人々がいた。

稲垣美穂子
Freelance Writer / Independent Document…
2006年より高レベル放射性廃棄物最終処分問題に関する取材を開始。現在、日本の原子力政策による犠牲としわ寄せに光を当てたドキュメンタリー映画"Dirty Lights"(仮題)を制作中。…
Photo by ©︎『森を織る。』製作実行委員会
始まって8分で「え!?」と思わず声が出て、終盤には職人の語りに泣きそうになっていた。映画『森を織る。』は、絹で服がどのようにできるのかを紐解く旅に出る映像作品だ。同時に、絹織物をつうじて、私たちの選択や現代的な生活が地球環境に及ぼす影響を示唆し、やさしく問いかける。
蚕を育てる人、糸を紡ぐ人、色を染める人‥‥‥。一時間という短い時間の中で、見たことのない景色とストーリーが、ゆっくりと私たちを絹織物の服づくりの世界へと誘う。長いこと生きてきたが、まるで知らない国の物語を観ているのではないかと錯覚を起こしてしまうほど、知らない世界が展開する。一着ができるまでに、実に多くの手がかかっている。
何より、ものすごく緻密で繊細な技術を継承している日本の希少な「職人」であるにも関わらず、穏やかで、生き方や自然に対してとても謙虚な姿勢がヒシヒシと伝わってきて驚くばかり。
風土や先人たちの仕事に対する敬意を感じる素朴で美しい映像と、オリジナリティ溢れながらも心地のいい旋律が、そうした姿をさらに引き立てる。
また、ファッションデザイナーで、本作のプロデュースを務めた株式会社森を織る代表取締役の小森優美さんの制作意図と思いを、一度観ただけで十分理解できる。小森さんは、2024年春から、日本の絹織物の服づくりで自然と人の生態系を育む共創プロジェクト“MORI WO ORU(森を織る)” を進めている。
国際的に応募数も多いと言われ、注目度の高いアムステルダム国際映画祭(ARFF)のドキュメンタリー映画大賞に、昨年11月にノミネートされていることも本作の価値を物語る。日本で制作されたドキュメンタリー作品が世界的に認知されたという意味でも、観客としてはうれしい。
Photo by ©︎『森を織る。』製作実行委員会
本作に登場する職人のなかには、アパレルに関わってきた人々も多い。京都川端商店を営む川端康夫さんは、石油系の合成染料を使わずに、自然界に存在するものを使用して発色させる「新万葉染め」という技法の開発者の一人だ。
川端さんは「合成染料にすごくお世話になって、それで食べて生きてきて、経済で潤ってきたのは確か」だと振り返った上で、「その結果、異常気象は確実に私たちの生活のリズムが原因だと思っているんですね。私が一番それに加担してきたんじゃないかと思っています」と明かす。
だから「僕が大人になってできることは、逆転させる。ちゃんと戻さなあかんですね。それは各地、経営者も含めて課題や思いますね」と自戒を込めながら、仕事に向き合っている。
Photo by ©︎『森を織る。』製作実行委員会
「海外の展示会で、日本のシルクを使わないこと、『日本のシルクが高いというのは誰が決めたの?』と指摘されたことが悔しかった。それが最初に国産に切り替えたキッカケ」と語るのは、創作工房糸あそびの代表を務める山本徹さんだ。10年ほど東京や名古屋で服地企画の修行を積んだのち、1998年に家業であるテキスタイル製造業を継承。現在、代表としてアパレルでの経験を活かして、新たな商品づくりに励んでいる。
山本さんは「何でもそうだと思うんですけど、織物屋さんだけあっても、糸をつくってくれるところがないと無理だし、糸屋さんだって、糸をつくる原料をつくる養蚕農家がないと無理だし。そういうところがあってつながっている。でも、いまのアパレル業界の現状はそれを度外視」だと近年の本末が転倒した状況を指摘。
「実際にはそこにいくまでの間にいろんな工程があって、その人たちが残っていかないと必ず商品ってでき上がってこないんで。だからやっぱりそこを残すことを考えていかないと今後、難しいかなと思っているんで、なるべく国産を使っている」として、実際に取引も増えていると言う。こうした発想と市場開発の取組みが継承者増加へとつながることに期待を寄せる。
実際に、「地元に残って織物業をしたいという高校生や、他の産地から織物をするために丹後に移住する子もチラホラいたりする。減るばかりではない」と笑顔を見せる。
Photo by ©︎映画『森を織る。』製作実行委員会
埼玉、長野、京都…。本作では、それぞれの地域で循環した生活に心地よさを覚える人や、関心を寄せる人を巻き込む取組みに注力している人も紹介されている。
前述のほかにも、株式会社ROOTSを運営する曽緋蘭(ツェン・フェイラン)さんは、京都北部の「京北」で、里山の地域資源や知恵を活かしたコミュニティづくりや地域デザインを手がけ、エコツーリズムやローカルビジネスデザインなどを国内外に提案・提供している。
作品を通じて、同じ日本という国に住みながら、自分の選択一つで見れる世界がこうも変わるのかと驚かされる。この記事で紹介した人々以外にも、びっくりするような絹織物職人に携わる人たちや地域循環に取組む人たちが登場するので、ぜひ観て出会ってほしい。本作を観れば行ってみたい、経験してみたい気持ちが湧いてくるはず。
門戸は開かれている。あとは私たちがどうしたいか。いつも私たちに委ねられている。
Photo by ©︎映画『森を織る。』製作実行委員会
映画『森を織る。』65分/日本/2025年/ドキュメンタリー/日本語
蚕が命をまっとうすることで繭が生み出される。その行為に深い敬意を払いながら、職人たちはその繭から糸をつくり、その糸を織って、織ってできた生地を型取って、染めて一枚の服ができあがる。“命の服”ができるまでを辿る旅に出る映画『森を織る。』。そこには日本の里山文化を静かに継承し、命、環境、職を循環させた暮らしをする人々がいた。
プロデューサー:小森優美
監督・出演:エバンズ亜莉沙
構成・台本:境野日人、小森優美、松田怜奈、エバンズ亜莉沙
映像:高嶋綾也
音楽:平井真美子
制作:森を織る。製作委員会
https://www.moriwooru-movie.com/
『森を織る。』は上映者も募集中
上映お申込み・詳細はこちら
https://www.cinemo.info/145j
執筆/稲垣美穂子 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
ELEMINIST Recommends